死者の書 (古代エジプト)

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死者の書の一例

死者の書』 (ししゃのしょ、: Totenbuch) は、古代エジプトで冥福を祈り死者とともに埋葬された葬祭文書。パピルスなどに、主に絵とヒエログリフで、死者の霊魂が肉体を離れてから死後の楽園アアルに入るまでの過程・道しるべを描いた書。

名称

書名をラテン文字化すると『Rw Nw Prt M Hrw』で、『ル・ヌ・ペレト・エム・ヘル』もしくは『ペレト・エム・ヘルゥ』と読むことが多い。日本語に直訳すると「日下出現の書」となる。『死者の書』という名称は、1842年プロイセン王国エジプト学者、カール・リヒャルト・レプシウス(en) がパピルス文書を "Ägyptisches Totenbuch"(『エジプト人の死者の書』)と名付けて出版したことで、英訳の "Book of the Dead" などと知られるようになった。「日のもとに出現するための呪文」と呼ばれることもある[1]

形態

パピルスの巻き物、またはコフィンテキスト(コフィンとは棺の意で、すなわち棺に書かれた死者の書)としても存在する。主に絵とヒエログリフで構成されており、荘厳な雰囲気をもとめられる文書にはくずし字タイプのヒエログリフで書かれている場合がある。

世界最長の死者の書として、全長37mの「グリーンフィールド・パピルス」 (Greenfield Papyrus) が知られる。2012年に東京・福岡で開催された「大英博物館 古代エジプト展」で日本初公開された[2][3]

内容

死者の霊魂が肉体を離れてから死後の楽園アアルに入るまでの過程・道しるべを描いた書。冥界へ降る魂に死後の世界およびそこで受ける裁きについて、死者の裁判官、ウンネフェル(永遠に朽ちないという意)なるオシリスに会った時に語るべきことなどが記されている。

心臓(イブ)を天秤にかける死者の裁判の章は有名である。真理の女神マアトの羽根(真実の羽根)と死者の心臓がそれぞれ秤に乗っており、魂が罪で重いと傾くようになっている。秤の目盛りを見つめるのは冥界神アヌービスで、死者が真実を語れば死人はオシリスの治める死後の楽園アアルへ、嘘偽りであれば魂を喰らう幻獣アメミットに喰われ二度と転生できなくなる、とされる。

テーベで発見されたアニのパピルス英語版からは、古代エジプト人の死のとらえ方を垣間見ることができる。

イシスの息子ホルスは言う。ウンネフェル(オシリス)よ、私はオシリス・アニを連れて参りました。彼の心臓(心?)は良く、秤にかけましたが、神あるいは女神に対する罪は見あたりませんでした。トト(文字と知識の神)が神々の定めに従い心臓(心)の計量を行ったところ、それは誠実で正しいことがわかりました。どうか彼に食べ物と飲み物を授け、オシリス神の御前に姿を現すことを許可し、永遠の余生をホルスの従者のひとりに加えてください。
アニは言う。「オシリス・アニは申し上げます。私は死者の国の君の御前におります。私のからだは罪に穢れておりません。私は不実な言葉を口にしたことはなく、偽りの霊をもって行動したことは一度もありません。どうか私が御君の仲間に加えられた人々のようになることをお許しください。そうすれば私は、美しい神の御前でひとりのオシリスとなってふたつの地の主の愛を得ることができます。私こと、ファラオの書記なるアニは、御君を愛し、御前オシリスに捧げる言葉は常に真実であります。」

注釈

  1. ^ 古代エジプトへの扉: 菊川コレクションを通して 大城道則、菊川匡 ISBN 978-4835584614 p109
  2. ^ NHKプロモーション 大英博物館 古代エジプト展
  3. ^ インターネットミュージアム 大英博物館 古代エジプト展

関連項目