日本の救急車

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救急車 > 日本の救急車

日本における救急車とは消防車パトカーと同様緊急自動車の一つで、車内に傷病者を収容し緊急走行病院などの医療機関まで搬送する車両の事を指す。
ドクターカーも、救急車の中の一種である。 消防法施行令上の正式名称は救急自動車(きゅうきゅうじどうしゃ)。

この項目では、日本の救急車について説明する。

概要

  • 救急車には、
  1. 消防本部およびごく一部(消防本部のない)の自治体が保有するもの
  2. 病院などの医療機関が保有するもの
  3. 自衛隊が保有するもの
  4. 空港の検疫所が保有するもの
などがあり、同じ「救急車」と呼ばれる医療用緊急車両であっても、どの組織に所属している車両かによって、配備の目的や車内の装備、管轄省庁などが異なっている。

このため、総務省消防庁が出した「通達[1]などの効力が、他省庁管轄の救急車には全く及ばない、ということも一般的によくあることである。 

  • 119番通報により出動するものは自治体消防の救急車 であり、普段 町なかを走っているのを見かける大部分のものは、これである。 消防庁が管轄しており、他省庁管轄の救急車と比べて、出動件数は最も多い。医療機関の救急車 は、病院間の転院搬送の為などに主として出動し、ドクターカーなどと同じく、厚生労働省が管轄している。
    自衛隊の救急車 は、武力攻撃事態など有事の際や大規模災害などの際に自治体等からの要請を受けて「災害派遣」として出動し、防衛省が管轄している。空港(検疫所)の救急車 は、海外からの入国者・帰国者等が危険な感染症に罹っていた場合などに出動し、厚生労働省が管轄している (各詳細は後述)。
  • 大企業の工場や火力発電所、石油コンビナートなどの大規模事業所や、一部のテーマパークの医務室などが所有する車両は「救急車」ではなく、正しくは「患者搬送車」などと呼ばれる福祉車両である。
  • 消防の救急車は、救急隊員3人以上及び傷病者2名以上を収容[2]できる。法令で構造や設備が細かく定められている。
  • 日本で救急業務が消防の任務とされた1963年(昭和38年)以降、救急車の出動件数はほぼ例外なく増加の一途をたどっている[3]。入院加療を要しない軽症が過半数を占めている[3]ことが大きな要因とされる(詳細は後述)。
  • 119番通報で出動する消防の救急車の利用料は、利用者の人種、国籍、納税の有無 を問わず無料である。
  • 緊急走行時には、90dB以上のサイレン音の吹鳴が義務づけられている。これを「緊急出動時」に鳴らし続けない場合に道路交通法違反となるのは日本の救急車の特異点である。

歴史

納入に至るまで

日本の地方自治体が救急車を購入する場合、一般的には競争入札で購入する。納入までの主な手順は次の通り。

  1. 救急自動車を購入する際は更新および増隊の必要の有無に基づいて決定され、消防本部を運営する地方自治体の議会(以下、議会)が新年度計画を発表する。
  2. その後、各消防本部が運営する地方自治体の入札業者名簿に登録されている販売業者に対し、入札の公告を告示をする。販売業者は期間内に仕様や金額を書いた各種用紙一式をまとめた封筒を各消防本部の指定先に届ける。
  3. 開札が行われた後、一番安い価格を提示した業者が落札し仮契約を結ぶ。その後、議会で審議・可決された後、契約が成立する。
  4. その後販売業者は自動車メーカーに発注し、自動車メーカーから指示を受けた艤装メーカーが車輌を生産する。
  5. 生産完了後、販売業者の元に車両が届けられる。なお、救急自動車は型式を取得していても指定自動車でないため国土交通省直轄の運輸局にて持ち込み検査を行い、登録完了後各本部に納入される。
  • 逆に随意契約になることもある。例として、入札を締め切った後入札業者名簿に登録されている業者が1社しかない場合や指示内容や諸事情(生産中止など)により納入が不可能になったりした場合である。
  • 入札で救急自動車が納入されるだけでなく企業や法人[7]、一般の個人などから寄贈されることもある。この場合は車体に寄贈者名や「助成車両」のネームやマークが入る。交付金で購入した場合も車体に交付金名が入る。類似したケースでは日本赤十字社の新潟県支部などが消防本部に救急車を貸与している。この車両には赤十字マーク[8]が付けられている。

搭載されている主な医療用資器材

高規格救急車車内に
搭載されている医療用資器材
高規格救急車
  • 観察用資器材 - 聴診器血圧計(自動式・タイコス式)、検眼用ペンライト、患者監視装置(心電図・脈波・血圧・血中酸素飽和度)等- 傷病者のバイタルサインなどを測定するために使用する。
  • 人工呼吸器 - バックバルブマスク・デマンドバルブ・自動式人工呼吸器等
  • 自動式体外除細動器 - 電気ショックを与える医療器具。心室細動や無脈性心室頻拍の、致死的不整脈を治療するために使用する。法改正により一般市民でも使用できるようになったAEDと救急車に積載されるものと異なる点は、隊員自らが心電図モニターにより除細動の適応を判断し解析を行い除細動適応であれば通電する点である[9]
  • 気道管理セット - 吸引器、喉頭鏡、マギル鉗子、開口器、経口経鼻エアウェイ等
  • 搬送器材各種 - ストレッチャー(メイン、サブ、スクープ型など)・布担架等
  • 毛布
  • 感染予防用具 - プラスチックグローブ、マスク、防護衣類、ゴーグル等
  • 脊柱固定用具 -バックボード、頸椎固定カラー、ストラップ。交通事故などの高エネルギー外傷で脊椎損傷の可能性がある患者に対し全身固定を目的として使用する。
  • 外傷キット - 滅菌ガーゼ・タオル包帯・三角巾・空気膨張型副木等
  • 分娩セット
  • 救出用具 - サイドウィンドウを割る為のハンマーシートベルトカッター、バール、トップマン鳶等。これらで対応出来ない事案の場合には特別救助隊の支援を求める(通報で状況を聞き取った際に同時出動する事が多い)
  • 医療用酸素 - 10リットルボンベ×2~3本
  • 特定行為セット - ラリンゲアルマスク、食道閉鎖式エアウェイ、気管チューブ、静脈留置針、輸液セット、
    アドレナリン。(気管チューブとアドレナリンは医師の具体的指示を受けた「認定救急救命士」が使用できる。)

法令関係・デザインなど

スター・オブ・ライフ(生命の星)

車体の色は道路運送車両法に基づき白色のみと定められ、赤色または青色[10]の付いたテープ状の帯が入るのが一般的であるが、色帯のデザインや形状は本部ごとに異なる。例えば、札幌市消防局の場合は色帯を「Sapporo」の頭文字である「S」をモチーフに変形させたものや大阪市消防局[11]を含む一部の消防本部のように全体に色帯が無いものもある。上部に赤色回転灯(前方側方以外には発光の必要がないため近年は高輝度LEDなどを用いた閃光灯も採用されている)を備え、追突事故防止に後面に、進入車との鉢合わせ衝突防止に前面に、赤色の点滅または回転灯(前方集中型警光灯)、また後部に指示方向点滅灯(以上の灯器は一部装着していない車両もある)、スピーカー、消防無線機などを備えている。 救急車のサイレンは、1970年(昭和45年)に現在の「ピーポー」音電子サイレンに切り替える際、運輸省(現国土交通省)に道路運送車両の保安基準への適合について照会しており、法令上正式なサイレンである[5][12]。近年では補助警告音としてイエルプ音付サイレンアンプを装備する車両も増えてきている。日本でイエルプ音は正式なサイレンと認められていない為、イエルプ音吹鳴時には正規の「ピーポー」音電子サイレンが消えないようになっている[13]

救急車のマーキングは所属・隊名の他に、スター・オブ・ライフや消防本部または市町村章のマークやオリジナルキャラクターを貼り付けたもの、火災予防や救命講習の呼びかけなど消防本部からの告知を目的としたものなど多種多様である。車両前部に“救急”の表示を左右反転させ鏡文字にしている車両があるが、これは走行中の一般車両が後方から接近する救急車をバックミラーで認識しやすいようにするためで、ヨーロッパ[14]などでは一般的である。

なお、空港近くの救急隊に所属する救急車の場合、空港構内へ進入して航空機のすぐ近くへ接近するために、空港構内登録用の橙色のナンバープレートを前後に付けている車両も存在する。

消防法施行令第44条によると救急車は「救急自動車」と表記されており、特種用途自動車の緊急自動車の形状例示では「救急車」と表記されている。また、道路交通法施行令第13条では緊急自動車の指定を受けることができる自動車として「国、都道府県、市町村、関西国際空港株式会社、成田国際空港株式会社又は医療機関が傷病者の緊急搬送のために使用する救急用自動車のうち、傷病者の緊急搬送のために必要な特別の構造又は装置を有するもの」を挙げている。

種別

高規格救急車
従来型や外国製などを参考に1980年代から基本研究・開発がスタートし、1991年の医師法改正により規格化された車両で、日本の消防で現在主力の救急車両である。
救急救命士が乗務し運用されている。
総務省消防庁により、車両室内の寸法や装備品等の基準[15]が定られている。
2B型救急車
2B型救急車
JR札幌病院
2(ツー)ベッド型の略。高規格救急車に対して 「標準救急車」、「普通救急車」 等と呼ばれている。自治体消防で救急車として運用が始まった1960年代では、消防車と同じ音のサイレンを装備し、主にトラックをベースにした車両だったが、1970年代からはステーションワゴンをベースにした車両に変わり、サイレンも救急車専用の「ピーポー音」電子サイレンになった。1980年代からは商用ワンボックスカーをベースにした車両になり現在に至る。
一部の消防本部で2B型救急車と共に「準高規格救急車[16]」と呼ばれる救急車があるが、「準高規格救急車」という名称・規格は総務省消防庁が正式に定めた規格ではないため、種別は2B型救急車に属する。
ちなみに、一般的な病院の救急車[17]や 陸・海・空の自衛隊駐屯地・基地で見られる救急車[18]は、この2B型救急車である。 高規格救急車の購入補助充実とJA等からの寄贈車が高規格救急車に一本化されたことにともない、消防機関での新規導入は特殊な事情(高規格救急車が入りにくい狭隘路が多いなど) がない限り、きわめて少なくなっている。
3B型救急車
3(スリー)ベッド型の略で、日産・シビリアンなどマイクロバスをベースにした救急車。1970年代から1990年代前半にかけて普及していた[19]
2003年6月の消防組織法上に緊急消防援助隊が正式に位置づけられ、緊急消防援助隊車両に対する補助金が義務的補助金として優先的に扱われるようになったが、補助金の支給対象は救急車が高規格救急車、人員搬送用は2007年に規格化された消防車両の支援車III型となっており、3B型救急車は補助金支給の対象外であるため新たな需要はなく、製造メーカーからもカタログ落ちしているため近年新たに導入された3B型救急車は確認されていない。
大型救急車
大型救急車
ドクターカータイプ)
地方独立行政法人
堺市立総合医療センター
マイクロバスをベースにした車両で、日産・シビリアントヨタ・コースターがベース車両として主に使われている。用途別に架装タイプが概ね4種類あり、高度な医療用機器を積載し三次救急医療機関で使用されるドクターカータイプ、新生児患者を搬送するため大型保育器などの医療用機器を積載している新生児用救急車(ドクターカー)タイプ、多くのベッド(担架)を積載又は20名程度の座席を装備し、事故や災害で複数の負傷者が発生した時に使用する多数負傷者搬送用[20]タイプ、東京消防庁に配備されている一類・二類感染症患者搬送タイプがある。新生児搬送用大型救急車は、総合周産期母子医療センターに指定されている総合病院等に、多数負傷者搬送用の大型救急車は空港高速道路を管轄する自治体[21]等に配備されている。
軽救急車
軽救急車
姫路市消防局
規模の小さい離島や高規格救急車、2B型救急車が進入できないような狭隘道路地域などで使用される。
ワゴン車をベースに救急車へ改造した車両で、狭隘道路地域における「高機動性」と、傷病者の「救急搬送」の2点に特化した救急車である。
高規格救急車と比較すれば車内は狭く、救急資器材は2B型救急車並みの装備であるが、車内の作業スペースや収納空間、家族等の同乗スペースを削ぎ落とすことと引き換えに、従来の高規格救急車ではとても進入が困難であった救急隊泣かせの狭隘道路地域において、およそ比較にならない程の優れた高機動性と、これに伴う迅速な現場到着・患者収容が可能となった。
2011年4月に総務省消防庁が軽救急車の規格基準を改訂し、大幅な基準緩和がされて以降、軽救急車の普及が各地で進んだ。
運用例として宮崎県高千穂町の役場救急隊[22]鹿児島県三島村の診療所救急[23]があるほか、2011年には兵庫県姫路市消防局家島本島坊勢島に予備車を含めて各2台ずつ配備し運用している[24]
また、東日本大震災の後からは、被災地の医療機関からのニーズに基づき、患者モニタや 超音波エコーなど8種類の高度な医療機器を搭載した軽救急車を日本医科大学多摩永山病院救急救命センターが監修した。この軽救急車版ドクターカーといえる車両[25]が2011年10月以降、被災地の宮城・岩手・福島の3県で計11台が運用を開始している[26]
2012年には高知県南国市で市北部山間地域の狭隘道路に対応させるため導入され、同県土佐市消防本部でも2013年1月に導入され、運用されている[27][28]
その他特殊な車両
京都市消防局では、市街地から遠く離れた一部の出張所に、患者搬送を目的とした「器材搬送車」と消救車を配備している。器材搬送車のベース車両としてセレナデリカスペースギア等のミニバンが用いられており、車内は前述の軽救急車と同様に狭く、搭載資器材は限られている。これらの車両は京都市消防局では「救急車」ではなく「消防車」の扱いになるため、車体塗色は朱色に白が入ったものとなっている。


医療機関の救急車 (病院救急車)

医療機関の所有する救急車は、主として 患者容体の急変や専門外の治療などにより、他の病院へ転院搬送が必要となった患者を救急搬送するために使用される車両である。なお、「病院救急車」 という呼称は通称であり正式なものではなく、法令上の正式名称は 消防と同じく「救急自動車」である。 

  • 管轄省庁は ドクターカーなどと同じく 厚生労働省であり、このため総務省消防庁が発出した「救急業務実施基準(昭和39年3月3日自消甲教発第6号)」などの通達の効力は、医療機関の救急車には一切及ばない。 また、ドクターカーも、医療機関の救急車の中の一種である (詳細はドクターカーの項を参照)。
  • 基本的に救急車内には、搬送される患者と共に 医療機関の看護師や、付き添いの家族が同乗している。 容体によっては、主治医も同乗する。
    産婦人科を有する医療機関において母体搬送する場合、医師とともに 助産師が同乗することもある。 
  • 病院によっては、救急科だけでなく 他の診療科でも救急車を使用する場合があるため、どの診療科でも使えるように、汎用性の高い 2B型救急車 を所有するところが一般的である。
    医療機関によっては、ステーションワゴンミニバン、軽ワゴン車などを改造して救急車にしているところもあり 車種や外装などは、実にバリエーションに富んでいる。
  • 割と古い年式の車両がいまだに現役で数多く活躍しているのも、医療機関の救急車の大きな特徴のひとつである。 これは、出動件数や走行距離が比較的少ないため、そのぶん車体の損耗が少なく、車両更新のスパンが長いためである。
  • 通常時(待機時)の車内の装備は、基本的に ストレッチャー、酸素ボンベ一式、点滴フック、救急蘇生セット一式、程度と比較的簡素である。 高齢者が多い医療機関では、吸引器や車イスを乗せるリフトを装備しているところもある。
    医療機関では 各診療科によって、患者に必要となる医療機器が異なるため、患者モニターや補助人工心肺、人工呼吸器、精密輸液ポンプ、超音波エコー、など 普段車内に積載していない機器が必要な場合には、各診療科の外来や 病棟で使用している医療機器を 必要に応じて一時的に搭載するといった、患者に合わせた拡張性の高い運用が行われている。
  • 医療機関の救急車は、医療法に定めるところの病院だけに限らず、診療所(有床診療所や医院・クリニック、また被災地の仮設診療所など)でも所有することが出来る。また地元の公安委員会から緊急車両の指定を受けられれば、施設あたりの台数制限などは特にないため、地方によっては診療所が複数の救急車を所有しているケースもある。
  • 救急車を所有していない医療機関などにおいて転院搬送が必要となった場合は、地元消防の救急車に出動を依頼する。その際に消防本部によっては、送り手側の医療機関に対し主治医の署名・押印が入った 「転院搬送依頼書」など所定の書類提出を要求するところもある。 なお、転院搬送の際には 「診療情報提供書」(いわゆる 紹介状 や 各種検査データ、看護サマリー などの書類一式)が送り側医療機関から受入れ側医療機関に渡され、患者と共に引き継がれる。
医療機関の救急車に搭載されている主な医療用資器材
赤十字 長崎原爆病院 の
救急車内部
  • 医療機関や 各診療科によって、車内で使用する医療機器や薬剤、搬送される患者の症状や程度は 大きく異なるため、搭載する器材などは 消防のように画一化、規格化は されていない。
    通常時(待機時)、車内にはストレッチャーや酸素ボンベ一式、救急蘇生セットなど、最低限の医療機器のみを搭載しており、実際の搬送時には、患者の容態に応じて 外来や病棟で使用している医療機器を一時的に搭載するといった、弾力的な運用を行っている。
  • 大学病院などや、一部の病院の救急車の中には、超音波エコー装置や精密輸液ポンプ、気管切開、体腔穿刺(胸腔・心嚢・腹腔穿刺やドレナージなどを含む)用の器材一式、骨内注射用機器一式、など車内での簡易な救急処置・外科手術セットを搭載しているものも見られる。
  • 産婦人科やNICU(小児集中治療室) 、 GCU(回復治療室) などを有する医療機関の救急車の中には、車内に未熟児用の保育器や補助人工心肺 などの医療機器が搭載されているものもある。
  • 自治体消防の救急車と異なり、赤色灯やサイレンを消して走行すれば 一般車両の患者搬送車としての運用が可能であるため、転院搬送のために 車イスを 車内に搭載しているものもある。


  • 一部の地方自治体病院では、同じ自治体の消防本部で更新により不要になった旧型の高規格救急車を廃車にせず、整備し転属させ、自治体病院の2B型救急車として再利用するケースがある。 消防本部の管理下から離れて病院に転属する際には、車内の消防無線機や 搭載していた医療機器は すべて取り外される。 (民間の医療機関に払い下げられる場合も同じ)
  • 「送り搬送」 や 「迎え搬送」 、「三角搬送」 、「下り(くだり)搬送」 などは、医療機関の救急車に特徴的な 搬送方式である。
    緊急を要しない転院搬送の場合には、基本的には赤色灯やサイレンが装備されていない 「患者搬送車」での搬送となるが、下り搬送などの場合には、医療機関の救急車がサイレンを消して患者を搬送することもある。
  • 医療機関の一般的な救急車の場合、利用する者は基本的に当院に入院中の患者か外来受診中の患者に限られる。従って、救急車に乗せる前の段階で 医師による診察、検査、応急処置を院内である程度 行うことが出来るため、搬送に耐えられる程度まで 患者の状態が安定しているケースを主として想定している。 生命に危険が生じているなどの重篤患者の場合は、消防の高規格救急車を呼ぶか、ドクターカーを所有している三次医療機関に搬送(迎え搬送)を依頼する場合もある(ドクターカーも、医療機関の救急車の一種である)。

 

  • 医療機関の救急車の運転は、基本的に病院の事務職員が行っている[29](医師や看護師が直接運転することは基本的にないが、ドクターカーでは運転しているケースもある)。
    また、救急車の運転には、一般的な自動車の「普通運転免許」以外に 何か特別な資格は不要である。
  • 大規模災害時や武力攻撃事態、テロ発生など有事の際に、医療機関の救急車が傷病者の搬送に協力する場合があるが、これは国民保護法災害対策基本法に基づき、あらかじめ指定された一部の指定医療機関(主に赤十字病院など)や、災害拠点病院の救急車であり、大部分の医療機関の救急車は基本的に出動しない。
  • 車内には消火器を積載しているが、これは救急車内で高濃度の医療用酸素ガスを取り扱うためである(車内禁煙であるのも同様の理由)。
  • 消防や自衛隊の救急車が行っているような「朝夕点検」は、基本的に行われていない。


空港の救急車 (感染症患者専用緊急搬送車)

成田空港の救急車と同型外装の
救急車 (内装は異なる)

空港の救急車は、海外から我が国に入ってくる感染症(伝染病)患者からの病原体拡散や2次感染の拡大を防止するため、患者を収容・緊急搬送することを第一の目的としている。(空港内で感染症以外の負傷者などが発生した場合には、普通に地元消防や、空港に併設された消防署の分駐署の救急車が搬送する。)

  • 危険性の高い感染症患者(疑い例を含む)は、空港検疫所などから事前に感染症法で定める次のいずれかの指定医療機関(厚労大臣指定の特定感染症指定医療機関、都道府県知事指定の第1種・第2種感染症指定医療機関)に受け入れ要請の連絡(ホットライン)をした上で緊急搬送される。
  • 成田空港の場合、厚生労働省成田空港検疫所が担当する、感染症患者専用の救急車が 空港地下駐車場に停めてある。(検疫所内では、空港併設の消防の救急車と混同するのを防ぐため、空港の救急車を「感染症患者専用緊急搬送車」と呼び分けて区別している。)
車体は医療機関の救急車などと同じ E24 日産キャラバン 3000 SuperAmbulanceで、屋根の上にはシンプルな円柱型の赤色回転灯とサイレンが付いている。また、運転席にはカーナビ、車体正面には空港進入用の青色ナンバーが付いている。
  • 空港の救急車には、2次感染を防ぐための工夫として大きく3つの特徴がある[30]
    1. 運転手など係官は全員防護服を着用するが、さらに前方の運転席側と後方の患者収容部とは、車内の金属製仕切り壁によって完全に遮断されている。
    2. 患者収容部の中でも、天井のカーテンレールから床まで伸びたビニールカーテンにより、ストレッチャー周囲を区切られるようになっている。
    3. ビニールカーテンで区切られたストレッチャー側の天井には排気口が設置されており、車内でも常に患者側が陰圧になるように気流が工夫されている。天井の排気口から吸引された車内の汚染空気は、ウイルスを通さないフィルターによって病原体を除去してから車外に排気されるようになっている。
  • 車内仕切り壁の後方側(患者収容部側)の面には、ビニールカバーの付いたスチール棚が設置してあり、棚の中にはストレッチャーの上に敷く防護シーツや消毒剤、ポリ袋、予備の手袋・・・など最小限の消耗品などが入っている。
  • 空港の救急車では、搬送中の2次感染事故や病原体汚染を防ぐため、応急手当も含め車内での医療行為は一切行わない事、となっている。
  • 空港や保健所によっては、「アイソレーター」という、ストレッチャーの上に寝た患者をカプセル型のカバーで覆う隔離器具や、空気中のウイルスなどの病原体に対して殺菌効果があるとされる、オゾンの発生装置、または 紫外線殺菌灯 などを搭載している車もある。
  • 患者収容部は搬送により病原体で汚染されることを最初から前提としている。このため、使用後の病原体の除染を容易かつ迅速に実施するため、車内には患者モニタや酸素ボンベ、防振機能付きの架台は最初から装備されていない。このため、患者の乗り心地はあまり良いとは言えないが、車内の消毒しやすさを最優先とし、あえて簡素な造りとなっている。
  • 空港の救急車も無く、保健所の患者搬送車も無い自治体で伝染性の強い感染症患者が発生した場合には、仕方がないので病原体に対してほぼ丸腰の救急車で消防が搬送を担当するしか他にない。
空港の救急車に搭載されている主な医療用資器材
  • 基本的に車内での医療行為は、職員等への2次感染の危険性を増大させるため一切行わない事 となっているため、搭載している医療資器材は、ストレッチャーをはじめ、感染防御用具やアイソレーターなどの隔離器具、車内の空中を浮遊・飛散する病原体に効果があると言われるオゾン発生器や紫外線殺菌灯、希釈した塩素系消毒剤などが中心となっている。


自衛隊の救急車

自衛隊の車両は陸上自衛隊海上自衛隊OD色航空自衛隊は紺色だが、現在は白色の車両も導入されている[31]
なお、陸上自衛隊衛生科では、手術車・手術準備車・滅菌車・衛生補給車の4台で構成される野外手術システムを所有している。

自衛隊の救急車に搭載されている主な医療用資器材
陸上自衛隊 衛生科の
1トン半救急車の内部
  • 1トン半救急車は、自治体消防の救急車と搭載している器材に大きな差はないが、一度に最大で5名(通常は4名)の担架搬送患者を収容可能な設備(2段ベッド)を有しているなどの特徴がある。
  • 脚に車輪が付いた一般的なストレッチャーは搭載しておらず、その代わりに路面状況が悪くても傷病者の搬送が可能な 布担架を4~5本(通常時は4本)と、スクープ型ストレッチャーを搭載している。
  • 脊柱固定用具なども装備しているが、色が目立たないように、オリーブドラブ(OD)色に塗装されている。
  • 分娩セットは搭載されていない。
  • 医療用酸素ボンベを砲弾と誤認されないよう、ボンベに赤十字標章が明示されている。


車両

国産高規格救急自動車一覧

現行モデル

トヨタ自動車製高規格救急車
トヨタ・ハイメディック
鎌ケ谷市消防本部
日産自動車製高規格救急車
日産・パラメディック
札幌市消防局
札幌ボデー工業製高規格救急車
札幌ボデー・トライハート
帯広市消防本部
トヨタ・ハイメディック(HIMEDIC、1992年 - )
トヨタ自動車製。トヨタ・ハイエースをベースに架装。
日産・パラメディック(PARAMEDIC、1992年 - )
日産自動車製。日産・エルグランドをベースに架装。
札幌ボデー・トライハート(Tri-Heart、1992年 - )
札幌ボデー工業製。三菱ふそう・キャンターいすゞ・エルフをベースに架装。

製造中止モデル

スーパーメディック
いすゞ・スーパーメディック(SUPERMEDIC、1995年 - 2002年)
いすゞ自動車製。いすゞ・エルフベース。
救急車で初めてエアサスペンションを設定し、傾斜した坂道にも対応した防振架台が装備された。初代はエルフをベースとしていたが、2代目は商用車の相互OEM関係のある日産自動車より日産・パラメディックが供給され、いすゞ・スーパーメディックとして販売されていた。2002年(平成14年)に製造終了。2008年(平成20年)8月9日に横浜市金沢区の車両架装会社・シエナ・テクノ・クラフツが新型の開発を発表したが、発売前に倒産してしまったため詳細は不明。
いすゞ・スーパーメディックⅡ(SUPERMEDICⅡ、1998年 - 製造終了年不明)
いすゞ自動車製。いすゞ・ファーゴベース。
日産パラメディックⅡの供給で販売された。横浜市消防局、静岡市消防局等全国に10数台のみ配備となった。
三菱ふそう・ディアメディック(DIAMEDIC、1997年 - 2002年)
三菱自動車工業(現・三菱ふそうトラック・バス)製。三菱ふそう・キャンターベース。
1997年(平成9年)7月7日に発売された。ボディサイズが小型で最小回転半径が4.9mというのが特徴である。前期後期の2種が存在。2002年(平成14年)のキャンターフルモデルチェンジに伴い製造終了。
後期型オプティマ
三菱ふそう・オプティマ(OPTIMA、製造時期不明)
架装は帝国繊維三菱ふそう・キャンターがベース。
ワイドキャブと標準キャブの2ボディで構成されており、前期・中期・後期の3種が存在。西日本で多く導入されていた。

この他には日野自動車の中型トラック日野・レンジャーベースの高規格救急車が北海道網走郡大空町東藻琴にある網走地区消防組合東藻琴分署と千葉県市川市消防局に導入されていたが、既に廃車となっている。

外国産高規格救急自動車一覧

1991年(平成3年)の医師法改正により救急救命士が誕生し「応急処置」の範囲を超える高度な処置が出来るようになった。しかし、当時の国産救急車規格では隊員の活動が制限されたり、新しく増える医療器具や処置器材を置くスペースがないなどの問題が発生する事がわかった。そこで救急救命士が車内で迅速に救命処置ができ、なおかつ医療器具などを無理なく搭載できる高規格な救急車、「高規格救急車」を規格化することになった。

フォード・モーター製

フォード・スーパーデューティーF-250救急車
架装はジェイカブ・インダストリーズ。
高規格救急車が導入される以前、オーストラリア仕様が東京消防庁や川崎市消防局などに導入された記録がある。この車両はディーラーの近鉄モータースオーストラリア仕様を輸入したため、右ハンドル仕様だった[32]
フォード・EシリーズE-350高規格救急車
架装はウィールドコーチ(WHEELEDCOACH )。
高規格救急車の導入に合わせ、東京消防庁京都市消防局名古屋市消防局など大都市圏に配備された。大都市以外には大垣地区消防組合がある。また数台が民間の病院や患者搬送サービス業者等にも納入された。

メルセデス・ベンツ製

307D型救急車
架装はクリスチャン・ミーセンC.Miesen )またはビンツ(BINZ )。
1987年(昭和62年)頃に東京消防庁横浜市消防局名古屋市消防局に従来の2B型救急車として配備された。
当時の自治省消防庁が、後に施行される救急救命士法の検討段階において、従来のキャブオーバー型救急車に代わる新しいタイプの救急車の検討・比較材料として輸入車ディーラーであるウエスタン自動車[33]を通じ東京消防庁に2台試験的に導入、運用させた。横浜市消防局にはウエスタン自動車が寄贈したという話である。
車体が大きく資器材の収容能力等が高いので、車内で行う処置を拡大した場合のシミュレーションや、搬送時患者に与える振動を軽減する防振機能付架台などのテストを行い、新しいタイプの救急車の検討・比較材料として多くのデータを得ることができた。この事から後の国産高規格救急車規格の基礎とも言える車両だが、エンジンパワーが不足していると言われていた後継車両の310D型(約100馬力)と比べてもエンジン出力が約70馬力と更に小さく、動力性能が明らかに国産車より劣っていた為、実際には予備車的扱いであまり現場では運用されていなかったようである。
メルセデス・ベンツ310D型
310D型高規格救急車
架装はクリスチャン・ミーセンC.Miesen )社またはビンツ(BINZ)社。
救急救命士法施行に伴い全国に初めて配備された高規格救急車の代表車両。メルセデス・ベンツ社製で、前述の307D型の後継車両である。車両のサイズや車内の広さなどバランスがとれており、現在の高規格救急車の手本になった。また、ベンツの救急車として当時雑誌やテレビで紹介され話題になった。この車両は1991年(平成3年)頃より導入され始め、1995年(平成7年)まで政令指定都市やその周辺都市に配備され、自治体以外にも3次医療機関ドクターカーとして導入されていた。
当時メルセデス・ベンツの商用車両を販売していた三菱ふそう系列のSTBが、ドイツでミーセン社によってぎ装されたモデルを輸入後、同じく三菱自動車系列の三菱自動車テクノサービスで日本の仕様に追加ぎ装したものを「メルセデス・ベンツ救急車」として多数販売した。国内の310D救急車のほとんどはミーセン社のぎ装によるものである。なお、一部ではあるが、帝国繊維もビンツ社でぎ装された車両を輸入し、帝国繊維鹿沼工場で日本仕様に追加ぎ装し、「テイセン F-5型」として販売していた。

中型・大型トラックベースなど

東京消防庁に配備されている京成自動車工業の「特殊救急車:スーパーアンビュランス」に代表される救急車のことである。このほかにも日本赤十字社岡山県支部は多目的救急車(仕様は日野・レンジャー)を、熊本県支部は片側だけが拡張するタイプ(仕様はいすゞ・ギガ)で4床の集中治療室と同等の機能を有した「特殊医療救護車両:ディザスターレスキュー」を保有している[34]。“救急車”ではなく、移動医務・処置室として使用する。また、2015年度に京都市消防局いすゞ・ギガベースの東京消防庁のスーパーアンビュランスと同型の車両「高度救急救護車:ハイパーアンビュランス」を導入し2015年6月より運用を開始した[35]

東京消防庁の特殊救急車

スーパーアンビュランス (2台目) 拡張時
スーパーアンビュランス
(2台目)
拡張時
スーパーアンビュランス (3台目) 拡張時
スーパーアンビュランス
(3台目)
拡張時
スーパーアンビュランス
ボディを左右に拡張することが可能であり大規模災害や多数傷病者が発生した災害時に8床のベッドを有する救護所として活躍する車両を保有している[36]
1台目
1994年(平成6年)10月、三菱ふそう・ザ・グレートをベースにしたモデルが千代田区丸の内消防署に配備される。
1996年(平成8年)12月、東京消防庁第二消防方面本部消防救助機動部隊(通称ハイパーレスキュー)(大田区)発足のため、同隊に配転となる。
2004年(平成16年)、第二消防方面本部消防救助機動部隊のスーパーアンビュランス更新に伴い東京消防庁第八消防方面本部消防救助機動部隊(立川市)に配転となる。
2006年(平成18年)、引退。この間、地下鉄サリン事件営団日比谷線脱線衝突事故歌舞伎町ビル火災等に出動した。
2台目
2004年(平成16年)、三菱ふそう・スーパーグレートをベースにしたモデルが第二消防方面本部消防救助機動部隊に配備される。1台目に比べ、患者室のドアやドアステップの構造が改善されている。最近では秋葉原通り魔事件等に出動した他にTBS系ドラマオルトロスの犬Dr.DMAT〜瓦礫の下のヒポクラテス〜の劇中にも登場した。2007年より始まった東京マラソンでは毎年、ゴール地点の東京ビッグサイトで待機している。
3台目
2006年(平成18年)、いすゞ・ギガをベースにしたモデルが第八消防方面本部消防救助機動部隊に配備される。渋谷温泉施設爆発事故等で出動している。
矢口消防署の特殊救急車
第三方面本部の特殊救急車
NBC災害対応部隊である東京消防庁第三消防方面本部消防救助機動部隊(渋谷区)にはマイクロバストヨタ・コースターベースであり感染症患者搬送用カプセル型ストレッチャー(アイソレータ)を積載や運転室と傷病者室の間を隔壁により完全分離して感染症対策をしてある特殊救急車が配備されている。なお、この車両は26年度に日産・シビリアンベースの車両に更新された。
感染症対策 特殊救急車Ⅲ型
エボラ出血熱MERSウイルスなどの発生に備えて札幌ボデー・トライハートをベースに車内から外へ有害物質の拡散を防ぐ陰圧構造やウイルスの不活性化のために車内にオゾンガス発生装置を備えた特殊救急車Ⅲ型の導入を決定した。
スーパーアンビュランス以前の特殊救急車
大田区東京消防庁矢口消防署には、かつて矢口特殊救急隊が配置されており、スーパーアンビュランスの前身と言える特殊救急車が配備されていた。

   この車両は現場救護所として活躍する車両で、救急資機材等を運ぶ車両でもあった。

1989年(平成元年)いすゞ・ジャーニーQベースにしたモデルが大田区矢口消防署に配備される。
1996年(平成8年)12月、東京消防庁第八消防方面本部消防救助機動部隊(立川市)発足のため、同隊に配転となる。 
2004年(平成16年)第二消防方面本部消防救助機動部隊のスーパーアンビュランス更新に伴い初代スーパーアンビュランスが、東京消防庁第八消防方面本部消防救助機動部隊(立川市)に配転になり同時に引退。 この間、地下鉄サリン事件等に出動した。
この車両以前には、いすゞDBRをベースとした特殊救急車が配備されていた。 移動救護所と呼ばれる車両で、6人同時に酸素吸入が行える酸素吸入器などの設備を備えていた。

消救車等

消救車
松戸市消防局

消救車(しょうきゅうしゃ、正式名称:消防救急自動車)は、消防車の出動頻度に比べて、よく駆り出される救急車の運用効率化を図り、消火と救急の両方の機能を持つ車を配備することを目指して作られた車である。2台買うよりは若干安いが、両方の機能を持つ車両は法令上も想定外だったこともあり、効率的に運用できるかどうかはこれからの課題である。配備されている消防機関はまだ少なく、2004年(平成16年)12月にモリタが開発・製造した日野・デュトロベースの車両が、千葉県松戸市消防局六実消防署に第1号として導入された。2007年(平成19年)4月には京都市消防局北消防署中川消防出張所に全国第2号として消救車が導入されたが、消防車部分は京都市消防局特注モデルのため小型動力ポンプしか搭載していない。また、救急車部分でも防振ベッドや生体情報モニターなどを備えるが、高規格救急車と比べると設備は劣るため、救急車としては準高規格救急車と同レベルであるといえる。 2008年(平成20年)4月には青森県むつ市大畑町の大畑消防団本部付分団に全国3号目の消救車が配備された。同分団の消防団がポンプ車として使い救急車としては、同分団に隣接する下北地域広域行政事務組合消防本部大畑消防署が運用する。 2015年度には福井県の嶺北消防組合にも配備された。

患者収容スペースを活かした指揮車仕様のタイプが2007年(平成19年)4月現在福岡市消防局北九州市消防局に配備されている。

救急出動に救急隊員の資格を持ったポンプ隊員が乗車している消防車を先行で出場させ、現場整理と先行処置に当たらせている消防機関も増えている。「PA連携」などと呼ばれる(Pump(ポンプ車) and Ambulance(救急車)の意)。なお愛媛県高知県では公安委員会から「消防車の本務は消防活動であり目的外使用、道交法違反の疑い」と指摘があり、2005年からは活用されていない[37]

車内での救命処置

人工呼吸心臓マッサージなどの他に、現在では救急救命士の免許取得後一定の講習を修了した「気管挿管(きかんそうかん)認定救急救命士」によって、気管挿管で呼吸の確保が行えるようになっている、また自動体外式除細動器(AED)の発達により電気的除細動を医師の指示なしに行うことも可能になっている。2006年(平成18年)4月からはやはり講習修了済みの「薬剤投与認定救急救命士」によって、アドレナリンの投与が可能になった。

心肺停止の時間をできるだけ短くするため、救急車の現場到着の時点で、救命処置が開始されることが望ましい。このため、医師が現場へ臨場したり、医師の指示の元で救命処置が行われるのが理想である。

要員

多くの場合、救急隊長、機関員(運転手)、救急隊員(救急救命士資格者の場合もある)の3名で構成され、午前9時から翌日午前9時までの24時間勤務である。従って、1台の救急車を維持するためには3交代とする必要上3個隊9名が必要であり[38]、救急の専属でなく、消防隊(ポンプ・梯子)・救助隊との兼任で隊員資格を取得させ要員を確保している救急隊もある。3名のうち最低1名は救急救命士資格者である事が望ましいとされている。

運用状況

民間の患者搬送車

消防庁によると近年救急車の出場回数は増え続けており、2007年(平成19年)には529万件にも及んだ[3]。要請の過半数が入院加療を必要としない軽症であり[3]、「虫歯が痛む」「深爪した」「病院まで歩くのが苦痛」などの、救急車を出動させる必要のない不適切な要件(いわゆるタクシーのような利用)を含む軽症事案を事実上拒否できないことが大きな要因とされる。そのために本当に救急車が必要な症状のケガ人や病人を搬送するための救急車が足りない、サイレンが騒音公害になる(詳細は後述)など多くの問題が発生している。そのため、消防庁では救急車出動を有料化する検討をしており、これについて国民の間では40%が有料化に賛成、50%が反対している[39][40]。また一定の条件の下で民間の患者搬送車に緊急自動車認定をおろすことも検討されている。また、自治体によっては使用の基準の広報活動や緊急性の薄い患者は民間患者搬送車への紹介等を行っている。また、悪質な患者と判断できるケースの場合偽計業務妨害罪が成立することもあり過料他罰則を設定する自治体もある。

サイレンの騒音公害としての側面

救急車の出動回数が増えているのは前述の通りで、本来非常時にのみ運用されるべきはずであった緊急走行が現在では慢性的に行われ、サイレンが市民生活に与える影響もそれに伴い増大している。サイレンが人々に負担を与えるものであることが住民意識調査により示されている[41]。救急車がうるさいという事象は、歌謡曲の歌詞にもなるなど[42]、現代社会の歪みの象徴の一つとして定着している。一方、消防庁の見解によると、出動増加は利用者側に責任があるとし、サイレン騒音が市民生活に弊害をもたらしている事実については具体性に欠けるとして認めておらず、消防庁側には責任がなく新たに騒音対策を検討する予定はないとしている。そのため、騒音を巡る住民とのトラブルも増加し、2014年8月21日には川崎市において搬送中の救急車に自転車が投げつけられるなど深刻な事件に至るケースも少なくない。(救急車のサイレンを含む騒音問題一般については騒音を参照)。

脚注

  1. ^ 具体例としては、総務省消防庁が出した「救急業務実施基準(昭和39年3月3日自消甲教発第6号)」など
  2. ^ 「救急業務実施基準(昭和39年3月3日自消甲教発第6号)」 消防庁、1964年(昭和39年)3月3日
  3. ^ a b c d 「[ 平成20年版救急・救助の現状]」 消防庁
  4. ^ 当時、消防警察の一部だった。分離されたのは戦後である。
  5. ^ a b 「救急自動車に備えるサイレンについて(照会)(昭和45年3月17日消防防第187号)」 消防庁
  6. ^ 「救急自動車に備えるサイレンの音色の変更について(昭和45年6月10日消防防第337号)」 消防庁
  7. ^ 非営利法人ではJA共済連日本損害保険協会日本自動車工業会日本宝くじ協会など。営利法人では安田生命(現明治安田生命)や山之内製薬(現アステラス製薬)などが有名である。
  8. ^ 日本において赤十字マークは赤十字の標章及び名称等の使用の制限に関する法律に基づき、日本赤十字社とその許可を受けた者(“軍隊”。自衛隊所属車両)のみに許されるマークである。
  9. ^ 一般市民仕様のAEDを救急隊装備として使用するケースもある。
  10. ^ 救急車に青色の帯が入っているのは静岡県の熱海市消防や、福井県の鯖江・丹生消防組合など、沿岸部の消防本部に多い。海あるいは水の色をイメージしている。また、清潔感の協調のために青帯にしている自治体もある。
  11. ^ 赤帯がない理由として、「あかん(助からない)」に繋がり、縁起が良くないと忌まれていたが、認識性の向上を目的に2004年(平成16年)から配備された高規格救急車のリアのテールゲートのハンドル付近に赤帯が入った。
  12. ^ 「緊急自動車に備えるサイレンについて(昭和45年3月24日自車第323号)」 運輸省
  13. ^ 「サイレンの適正な運用について(平成19年3月13日消防消第36号)」 消防庁
  14. ^ “AMBULANCE”を左右反転させ鏡文字にしている。
  15. ^ 例えば室内の高さが185cm以上確保されている、手洗い器、防振機能付架台などが装備されているか等
  16. ^ 車両本体価格が高規格救急車より安い2B型救急車に高規格救急車と同程度の設備と医療機器を設置・積載した車両。
  17. ^ ドクターカーなど一部を除く。
  18. ^ 1トン半救急車などを除く。
  19. ^ 2B型救急車より車内が広いため、管轄する地域が広域の自治体(北海道・東北地方や九州地方など)では負傷者が複数発生している現場にも(他の地域から応援を呼んでも現場到着までかなりの時間がかかる為)一隊で複数人同時搬送できる車両として配備されていた。
  20. ^ 平常時には人員輸送車として使用されている場合もある。
  21. ^ 成田国際空港や、泉州南消防組合関西国際空港直近)、糸魚川市消防本部等。
  22. ^ 軽救急車 - 高千穂町役場消防防災課
  23. ^ 三島村巡回診療 - 鹿児島県地域医学研究会
  24. ^ 「救急車:軽自動車改造、道路狭い2島で活躍」 毎日新聞2011年8月3日付
  25. ^ 小型ドクターカー・軽救急車」 国際ホスピタルショー2012
  26. ^ 軽救急車」 安心をのせて、走れ -被災地で活躍する軽救急車(動画)
  27. ^ 「軽救急車:狭い道幅もOK 南国市、県内初導入へ/高知」 毎日新聞2012年9月20日付
  28. ^ 「県内初の軽救急車 南国で導入」 読売新聞2012年12月23日付
  29. ^ 事務職員以外では用務員が運転していたり、運転業務自体をタクシー会社など外部に委託している病院もある。
  30. ^ 感染症の患者の移送について 厚生労働省保健医療局
  31. ^ SUPECIAL FEATURE 013 4300人の命は預かる!」航空自衛隊入間基地
  32. ^ 外務省がODA物資として海外に輸出しようと購入したが、納入先が右ハンドル車が使用不可の地域だったため、止むを得ず納入を取りやめ、余剰分を国内に割り当てたとする説もある。
  33. ^ のちにヤナセに吸収された。
  34. ^ 特殊医療救護車両 熊本赤十字病院
  35. ^ 新消防指令センター及び高度救急救護車の本格運用開始!(京都市消防局HP)
  36. ^ 特殊救急車(東京消防庁HP)
  37. ^ PA連携:ポンプ車の救命出動 一部公安委が「待った」 毎日新聞2011年10月31日
  38. ^ 本部により1分署に2個隊6名の場合もあり、このような分署では隔日2交代勤務となる。
  39. ^ 消防・救急に関する世論調査」 内閣府、2003年(平成15年)8月
  40. ^ 国政モニター お答えします・救急車の有料化について
  41. ^ 救急車の警告音に関する住民の意識調査」 社団法人日本音響学会
  42. ^ 石崎ひゅーい - 夜間飛行

関連項目

外部リンク

  • 特殊救急車(京成自動車工業株式会社)- スーパーアンビュランスについての解説。