拒絶反応

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拒絶反応(きょぜつはんのう)とは、移植を行った後に起こる一連の生体反応である。2010年現在の移植医療は、拒絶反応をどれだけコントロールできるかに注目されている。ES細胞iPS細胞といった再生医療の発達によって将来、これらのマネージメントは大きく変わる可能性がある。

固形臓器移植における拒絶反応

ドナーの固形臓器をレシピエント(ドナーから臓器を受け取る者)に移植すると拒絶反応が起こる。拒絶反応には超急性拒絶急性拒絶慢性拒絶の3つに分かれる。これらは異なるメカニズムで起こると考えられ、そのマネジメントも大きく異なる。移植に関しては移植 (医療)に詳しい。免疫抑制剤は急性拒絶の予防に用いられる。

超急性拒絶
超急性拒絶はレシピエントの既存抗HLA抗体を始めとした種特異的自然抗体による液性免疫によると考えられている。移植後24時間以内に発症し、血栓形成などが起こり、臓器虚血に至る。この過程は既存の液性免疫によるものであるため、免疫抑制剤で抑制を行うことができない。血液型の適合で可能な限り予防を行う。超急性拒絶が起こった場合は速やかに移植臓器を摘出する。
急性拒絶
移植後1週間より3ヶ月位で起きる拒絶反応である。液性免疫、細胞性免疫の両方が存在するが、主に問題となるのは細胞性免疫である。ドナー臓器の主要組織適合遺伝子複合体(MHC) classII抗原による抗原提示によって細胞性免疫が駆動される。これを防止する目的で移植後は免疫抑制剤の投与を行う。腎移植では、この反応が起こると腎腫大が起こるのが目安となる。予防できなかった場合は免疫抑制剤の増量を行う。免疫抑制が十分でない場合は急性液性拒絶が起こるといわれている。
慢性拒絶
移植後3ヶ月後以降に起こってくる。体液性免疫の影響と考えられているが、病態は不明である。一般的な免疫抑制剤は無効であり、発症した場合は再移植が検討される。腎移植の場合は、腎萎縮が起こることが目安とされている。副刺激の除去といった新しい免疫抑制剤は、慢性拒絶の治療を目標としている。

GVHD

移植片対宿主病 (GVHD) とは、平たく言えば、造血幹細胞における拒絶反応である。GVHDとはドナー由来の免疫細胞が宿主を異物とみなす病態である。一般的な移植後の拒絶は、宿主の免疫細胞が移植片を異物とみなすという点で異なる。具体的な症状、マネジメントも下記に示すように異なる。

急性GVHD
移植後100日以内に発症するGVHDである。骨髄破壊的な移植を行った場合は移植後2 - 3週間後に好発し、60日以内の発症の場合が多いが、骨髄非破壊的なミニ移植の場合は60日以降の発症も珍しくない。皮膚症状が初発となることが多いが、主な障害臓器は皮膚消化管肝臓である。重症度は皮疹の広がり、下痢の量、ビリルビン値の上昇により、重症度は決定される。少なくとも1つの臓器障害が48時間以上持続し、他の原因疾患が否定されたとき、急性GVHDと診断をすることができる。重要な鑑別として血栓性微小血管症 (TMA) が挙げられる。予防のため、免疫抑制剤の投与を通常は受けているが、それでも一定の確率で発症する。通常、骨髄移植ではヒト白血球型抗原 (HLA) のマッチングが行われているため、マイナーなHLA不適合によって起こると考えられている。治療はステロイドの投与である。
慢性GVHD
移植後100日以降に発症したGVHDを慢性GVHDという。発症時期によって区別されているが、急性GVHDとは異なる病態が考えられている。急性GVHDと比較してより多くの臓器を障害を受けること、しばしば自己免疫疾患に類似した病態となるのが特徴である。急性GVHDは移植片中の成熟T細胞が関与するのに対して、慢性GVHDは移植された造血幹細胞から分化、成熟したT細胞が関与すると考えられている。限局した軽い症状のみの慢性GVHDはステロイド外用などの局所療法で対応可能であるが、多くの臓器に障害が生じている場合や、単一臓器でも重篤な障害を有する場合は、全身的免疫抑制療法の適応となる。