師部

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

これはこのページの過去の版です。117.55.65.141 (会話) による 2012年4月9日 (月) 11:23個人設定で未設定ならUTC)時点の版 (→‎栄養利用)であり、現在の版とは大きく異なる場合があります。

師部(しぶ(代用字)。本来の用字は「篩部」。本文中の「管」・「壁」も同様。: phloem)は、維管束植物において、特にスクロースを含む有機性栄養素を、植物全体の需要のある部分に輸送する生体組織である。英語名の"phloem"は樹皮を意味するギリシア語"phloios"に由来する。木において、師部は樹皮のすぐ内側に位置し、樹皮と区別しにくいことによる。師部の役割は、主として光合成産物の植物体内における輸送である。

構造

師部は、あまり特化してない有核柔細胞や、師管細胞、伴細胞(他にもタンパク細胞,繊維,厚膜細胞)から構成される。

師管細胞は核を欠失し、ほとんど小胞を持たないが、リボソームなどの他の細胞小器官を有する。小胞体は外側壁に集中する。各部の師部を構成する細胞は、それぞれの端と端とが結合し、栄養性物質を体中に誘導する管を形成する。これら細胞の端壁は微細孔があるため篩板(しばん)と呼ばれ、拡大した原形質連絡を持つ。

師管の細胞の生命活動は伴細胞との密接な関連によって維持される。すべての師管要素の細胞機能は、はるかに小型の伴細胞によりもたらされる。伴細胞以外の典型植物細胞は通例、より多数のリボソームミトコンドリアを持つ。このため、伴細胞は他の"典型"植物細胞より代謝が活発なのである。伴細胞の細胞質は、原形質連絡を介して師管細胞要素とつながっている。

機能

主に死んだ細胞から構成される木部と異なり、師部は樹液を輸送する生細胞からなる。この樹液は水主成分溶液だが、光合成を行う部位によって合成される糖を豊富に含む。これら糖は根のような光合成性のない部位や、塊茎や球根のような貯蔵構造に輸送される。

圧流説1930年Ernst Munchにより提案された仮説で、師部における物質輸送のメカニズムを説明するためのものである。それによると、葉のような糖源にある師部の細胞内の有機物質の高濃度化によって、水を細胞内に導く拡散勾配が生じるのがその輸送の原動力である。師部内樹液は糖源から膨圧を用いて糖受け側に移動する。

糖を生産し放出する糖源は植物のあらゆる部位であり得る。植物の成長の初期期間(通常は春)は根などの貯蔵器官が糖源であり、成長部位が糖受け側である。生長期間の後は、光合成が行われる葉が源で貯蔵器官が受け側であり、貯蔵物質が蓄積される。果実のように、そこに種子生じる器官は常に受け側である。

木部における物質輸送が一方向の上向きに固定されているのに対して、上記のように師部内における移動は双方向性である。この多方向の流れのために、樹液は容易に近接する師管間を移動できない上に、隣接した師管において樹液が逆方向に流れることは珍しくはない。

木部内の水とミネラルの移動が大抵の場合陰圧(張力)によって動かされるのに対し、師部内の移動は陽の静水圧によって動かされる。これは転流と呼ばれ、師部ローディングとアンローディングという過程により完成する。糖源にある細胞は積極的に溶質分子を中に輸送することで師管要素を取り込む(ロード)。これにより浸透作用のため水が師管要素内へ移動し、樹液を管内下方へ押す圧力が生じる。糖の受け側では、細胞は積極的に溶質を師管外に輸送し、これとは正反対の効果を生む。

糖、アミノ酸、いくつかのホルモン、更にメッセンジャーRNAのような有機分子は、師管要素を通って師部内を輸送される。

由来

師管は維管束形成層の分裂組織細胞に由来し、そこから外側に成長する。段階的に生産され、一次師部は頂端分裂組織のそばに位置する。二次師部は維管束形成層から作られ、既存の師部の内側に作られる。

栄養利用

マツの師部は、フィンランドでは飢饉の際の代替食糧として使われてきた。特に北東部では、普通の年にも利用されており、1860年代の大飢饉の初期のころからいくらか飢餓を食い止めるものとして師部の供給が役立った。これらの地域では師部は乾燥して粉に挽き(フィンランド語でpettu)、あるいはそれをライ麦に混ぜ、固い皮のパンを作るのに使われた。日本でも古く救荒食または兵糧攻めの際の非常食として松皮餅が作られた。

動物においても、たとえば東北地方のニホンザルニホンジカは冬季にエサがなくなると樹皮を食べるが、これは内樹皮と呼ばれる樹皮内層部分で、師部や形成層などを含む部分である。

環状除皮

ほとんどの植物では師部は木部の外側に位置するため、木やそれ以外の植物は幹や茎の皮を輪状に剥ぐことで簡単に枯死させることができる。師部が壊れ、栄養が根に届かなくなるためである。ビーバーのような動物のすむ区域にある樹木は、ビーバーが一定な高さでその幹をかじり取るために損傷を受けやすい。このように輪状に剥ぐ過程を環状除皮と呼び、俗に巻き枯らしとも言う。

農業においては、これとは異なった目的で使われる例もある。例えば、定期市や祭りで見られる果実や野菜は環状除皮を経て生産させる。太い茎の根元に環状除皮を施し、その茎から一つを残して果実や野菜を取り除く。こうすれば、その茎上の葉で作られた全ての糖は他に受け側がないため、残された果実や野菜は標準サイズの何倍も肥大するのである。

関連事項

Template:Link FA