屋根

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ドイツマイセンの屋根
萱葺き屋根(白川郷・五箇山の合掌造り集落
入母屋の屋根(粟津天満神社。兵庫県加古川市
造作中の民家の屋根。垂木構造がよく分かる。

屋根(やね、: roof )は、主に建物の上部を覆う構造物である。

外の天候の変化、たとえば強風太陽の強い日差し、気温の変化、工場ばい煙大気中の粉塵を防ぐなどの役割を行う。

屋根のデザインは、その土地の風土によって、積雪で家屋が押しつぶされるのを防ぐ尖がったもの(: pitched )や緩やかな曲線を描くもの(: low slope )、平らなもの(: flat )などがある。

屋根を覆うことを「葺(ふ)く」(: roofing )といい、屋根に使われる素材(茅葺トタンレンガスレートコンクリートなど)により「○○葺」と形容される。建物の構造はそのままに、屋根だけを交換することを「葺き替え」という。

使用される素材はその土地や時代文化圏で利用しやすいものが使われることが多いため、家々の屋根は集合してその土地の風景や景観を醸しだす。

また、個人の家屋の他、商店市役所教会といった公的な建物の屋根はまた時代と共に、あるいはそれぞれの文化圏ごとにさまざまなバリエーションがある。

なお、屋根は一般の建物以外にも公共施設の通路や停留所などにも取り付けられることがある。

屋根の機能

屋根は建築物の上部を覆うという役割から、さまざまな機能が求められている。以下に簡単な分類を試みる。

建築物の一要素として基本的に求められる機能

  • 防水性 - 雨水を室内に浸透させない。また、屋根面からスムーズに流排出させる。
  • 耐風性 - 室内への風の吹込みを防ぐ。強風によって屋根材が剥離・離散しない。あるいは、変形や緩みを生じない。
  • 耐衝撃性 - 石などの飛来物によって、容易に損傷しない。また、運搬・施工時の加重や衝撃で容易に損傷しない。

屋根の寿命と関連して求められる機能

  • 耐候性 - 太陽光(特に紫外線)、雨水、気温変化、大気中の汚染物質などによる、劣化や損傷がない。
  • 耐食性 - 大気中の海水微粒子、腐食性ガス、酸性雨などによる腐食がない。
  • 耐寒性 - 雪や雨の凍結・融解による損傷がない。積雪による荷重、吹き込み、すがもれ、滑雪に耐える。
  • 耐熱性 - 日射などによる熱変動に耐える。熱による収縮・応力による破損がない。
  • 防露性 - 温度湿度変動による屋根下面や下地金具の結露を防ぐ。

その他の付加価値的機能

  • 防火/耐火性 - 火災時に着火・引火しない。熱による強度低下・破壊がない。
  • 吸遮音性 - 建築物内外の音を伝えない。雨音の発生の防止。
  • 防汚性 - 汚れがつきにくい。付着した汚れを容易に除去できる。
  • 遮熱性 - 特に日射による熱上昇を、屋内に伝えない。
  • 耐震性 - 地震で容易に損傷しない。また、一般に屋根が軽い建築物の方が地震に強いとされる。

施工(経済性)に関する機能(性能)

  • 施工能率性 - 短期間に、容易な方法で施工ができる(工事コストが安価)。
  • 加工性 - 素材として、さまざまな形状の屋根に容易に加工できる。
  • 接着性 - シーリングなどが容易かつ確実に行える。
  • 補修性 - 劣化部の手入れや補修が容易。また、葺き替えが容易。
  • 廃材処理の容易さ - 材料に有害物質が含まれない。

最近では太陽エネルギー(太陽光・太陽熱)利用機材のプラットフォームに代表される、環境面における役割も増大している(一般に金属屋根の方がこれらの機材取り付けが容易)。また、建築物の一部として意匠性が重視される。

こうした性能を全て満足できる、単独の屋根材は存在しない。屋根材によってそれぞれ一長一短があるので、重視したい性能とコストを勘案しながら屋根材を選択することになる。また、屋根表面を葺く材料だけでなくそれを支える下地構造とが一体となって、屋根としての性能を発揮していることに留意する必要がある。

形状による分類

神結酒造工場の鋸屋根(兵庫県加東市下滝野)

構造

煉瓦造家屋の小屋組(チェコ

中東など降水量の少ない地域では、古くから木の枝に土をかぶせただけの簡易な陸屋根が用いられた。一方で、降雨の頻繁な地域では排水に有利な傾斜を持つ屋根が利用された。その形状の主流は切妻と寄棟であり、日本を含む東アジアではそれを組み合わせた入母屋が最も高い格式を持つとされた。

傾斜を持つ屋根は、木造の柱と横架材で小屋組を構成して作られる。西洋では、耐火などの理由で外壁が煉瓦造や石造である場合でも、屋根の小屋組は木造で組まれることが一般的である。一方で、ゴシック建築に見られる壮大な教会堂や宮殿などでは大広間などの空間を実現するために、アーチ構造を組み合わせたドームやヴォールトが利用された。西洋の上級建築においては重厚感あふれる石造が好まれたが、組積造のみで屋根を構築する場合はアーチの利用は不可欠である。

現代建築において、鉄筋コンクリート造ラーメン構造では柱と梁で屋根スラブを支えて陸屋根を構築する。

材料

植物由来

鉱物由来・窯業製品

  • 石を板状に加工した材料(スレート):天然スレート葺き(雄勝石大谷石笏谷石など)
  • (粘土瓦とセメント瓦に大別される):瓦葺き
  • 石綿の混合物を成型した材料:石綿スレート葺きなど
  • 化粧スレート - セメント・ケイ酸質原料などの混合物を成型・着色した材料:化粧スレート葺き

金属材料

金属で葺いた屋根を、特に金属屋根として区分することがある

その他の材料

  • アスファルトシングル - グラスウールなどにスレートアスファルトを含漬させ、その表面に着色した砂を吹き付けたもの
  • 膜構造 - 東京ドームなど
  • FRP

防水屋根(工法)

葺くというよりは塗る、あるいは貼るという方が適当


各文化圏にみられる特徴

日本の伝統的な形状

入母屋造

日本の伝統的建築は、その殆どが勾配屋根である。それは雨の多い気候風土によるものである。勾配は屋根材により異なるが一般的に瓦で4.5-5寸程度が普通勾配と呼ばれている。形状には以下のようなものがある。

  • 切妻造 - 伝統的に西日本に多く見られ古代「真屋」と呼ばれ、西日本ではスタンダードな形状とされた。
  • 寄棟造 - 伝統的に東日本に多く見られ古代「東屋」と呼ばれ、東日本ではスタンダードな形状だったようである。古代中国でも、格式のある形状とみなされた。
  • しころ入母屋造 - 中世以降はこの形状がわりと格式あるものとみなされたようである。
  • 宝形造 - 宝形造は寺社建築に見られる。

などがある。

屋根の曲面形状は、その凹凸によって「そり(反り)」と「むくり (起り)」に分類される。「そり」は下方に凸となったもの、「むくり」は上方に凸となったものである。そりに比べてむくりは使われることが少ないが、数奇屋建築にはむくり屋根が好んで使われ、桂離宮などはその好例である。

開閉式屋根

スタジアムには開閉式屋根を持つものもある。蛇腹式[1]、立面円弧状など。左右をつなぐ梁がある場合もある[2]

脚注

  1. ^ 「豊スタ」屋根、開けっ放しに 中日新聞女性向けサイト:オピ・リーナ、2014年12月16日
  2. ^ 新国立競技場の可動屋根 - i+i 設計事務所

関連項目

外部リンク