学習塾

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学習塾(がくしゅうじゅく)は、主に小学校中学校放課の後に、有償で学力の補強や学習の補助などをする教育施設である。一般的には、単に(じゅく)と呼ぶことが多い。また特に受験対策を行う塾を進学塾(しんがくじゅく)ともいう。

平成21年経済センサス(2009年)によると、日本国内に5万1千箇所あまりの事業所があるとされる[1]

学習塾で教える教科

多くの塾は主要5教科(国語社会算数 / 数学理科物理化学)、英語)の学習に特化しているが、保護者生徒の希望が英語・数学(算数)・国語に集中することから、個人塾には英語のみ、英・数(算)・国のみなど科目を限定しているところも多い。学校が総合的な人格形成を目指しているのに対して、学習塾は主要教科に関しての弱点補強や高度な学習入試対策などに力を入れている。保護者の要望に答え、通常の学習よりも中学入試高校入試での合格を主な目的とする大手進学塾も多くその合格実績を競っている。また、ごく一部には定期テスト前に中学副教科(保健体育音楽技術家庭美術)の記述学習に対応するところもあるほか、理科実験など実技的なものを学ばせ注目度をあげる塾も存在する。学習塾の数だけでいえば個人塾が圧倒的に多く、それぞれ個性的な指導で実績を上げているところも多い。

多くの塾は模擬試験を実施しており、個人の学力レベルをある程度正確に知ることもできる。大手の塾では塾生が多いため塾内模試を、中小の塾では模擬試験専門会社の模試や教材会社が主催する模試、塾団体が設立運営する模試を採用している。

学習塾の分類

学力別

難関校進学クラスを持つ塾と持たない塾に分かれるが、大手進学塾では学力に応じてクラス分けしていることが多い。中小の大半の塾では人数の都合上クラス分けをしていない。個別指導塾や自習式の塾は個人の実力に応じて対応できるためこのようなクラス分けがない。

難関校進学クラスを持つ塾
難関の学校に進学希望する生徒に、学校の授業より難しい内容を加え指導するクラスを持つ塾。入塾試験でクラス分けするところがほとんど。難関校を目指す生徒のみの塾はほとんどなく、ほとんどが学力別クラスを作った形を取っている。
一般の塾
学力別のクラスを持たない塾。中程度の学力レベルに合わせ、学校の授業より先行して授業を行ったり補習授業を行うもの。中小の学習塾の多くがこれに属する。

人数別

  • 集団授業の塾
1クラス概ね10人以上のクラス構成の塾。大手塾では、社員扱いの講師が高度な内容のクラスを担当し、大学生などのアルバイト講師がそれ以外のほとんどのクラスを担当することが多い。社員と大学生アルバイトなどの見分けが付かないので、習う側からは講師の質の判断が難しい。社員扱いの講師が担当するクラスは、1クラスの人数が多くなり授業料も高額になる。規模の拡大に伴い、主に下位クラスで講師の質が落ちている場合もあるという[2]
中堅塾では集団授業塾でも全てアルバイト講師というところも多く、この場合は授業料が比較的安価であることが多い。
  • 自習形式の塾
クラスはなく広い部屋に異学年の小中学生を集め、様々な科目を自習形式で同時に学習する。解説の書いた専用のプリントと問題用紙をもらい自学自習する。採点者は採点に追われるので、ほとんど指導ができない。人数の多いところでは、アルバイト講師が巡回指導することもある。ほとんどがフランチャイズ形式で、家庭の主婦が指導者として行っているところが多い。公文式学研教室がこれに当たる。
  • 少人数制授業の塾
1クラス概ね5〜10名のクラス構成で個人経営の塾にこのタイプが多い。集団授業と違い個人指導もある程度できる。
1人の講師が概ね1〜4名の生徒を指導する。個人指導ができるが、講師1人に対する生徒が少ない分、授業料が高額。時間単価で比較すると、集団授業の塾の3〜6倍となる。苦手科目のフォローとして補修程度に使うのが無難だという声もある[2]

※ここで言う社員とは、塾を専業として働き社会保険厚生年金健康保険雇用保険)に加入した一般的な正社員を言う。アルバイト講師は、主に学生主婦、他に仕事を持っている者や1年以内の短期契約又は短期契約の雇用期間自動更新などの契約社員を示す。社員とアルバイトの違いが明確でないため、1〜2年で講師が入れ替わる実質アルバイトのような就労実態であっても正社員(常勤講師)などと表現している塾も多い。元塾生が大学生アルバイト講師から始め、社員を目指し教室管理者となることもある。

学習塾の発展と弊害

昭和40年代より急激にその数を伸ばし、現在ではなくてはならない存在になっており、学校側も大手学習塾の指導法に注目している[3]。かつて文部省(現: 文部科学省)は学習塾を好ましくない存在としていたが、文部大臣の諮問機関である生涯学習審議会1999年平成11年)に行った提言以来、学校教育と学習塾を共存させる方針に転換した(学習塾は文部科学省の所管だと思われがちだが、学習塾は利潤を第一に運営されるサービス産業の一業種なので経済産業省の所管である)。

塾が流行っている一因に、公立学校のゆとり教育への不安感がある。このゆとり教育の結果、塾へ行かない子供との学力の格差がますます広がることを危惧する見解がある[誰?]。また、学習塾が「総合的な学習の時間」を提供する動きもある(詳細は、公立学校#日本の公立学校を巡る議論を参照)。ただし、「塾へ行っても学力低下は防ぎきれない」[4]、「難問ばかりを教え、逆に基礎学力が伸び悩む生徒もいる」[5]といった指摘がある。小中高生の多数が学校と塾・予備校を掛け持ちしており、心身に悪影響を与えるのではないかという指摘もある[6]

海外でも海外在住日本人子女の間で学習塾に通う子供が増加している。背景には、現地での学習では、帰国後日本の学校への入学・編入に求められる学習内容やレベルに合わせられないことが問題として挙げられる。

1984年昭和59年)、香山健一は、中曽根康弘内閣の臨時教育審議会で、学習塾を学校として認知するよう主張した。

近年の塾の傾向

学習塾を取り巻く環境として、少子化中高一貫校の増加により対象となる生徒が減少しているが、一方で通塾者の低年齢化、家計から学習塾への出費額の上昇による市場の拡大傾向が見られる[2]

企業の買収

大手塾の買収が増加していて、「中小規模の塾は生き残れないのではないか」とまで言われることもある。同業者同士の買収(例えば、東進ハイスクールによる四谷大塚の買収)もあるが、それ以上に異業種の参入が新しい動きとして出てきている。特に通信教育最大手のベネッセは、この会社の販売する進研ゼミが補習教材であるため、既存塾業者とは段違いの資本力で塾を買収し、受験勉強時期の学生を取り込もうとしている。事実、ベネッセは2007年平成19年)6月東京個別指導学院を連結子会社化し、2007年平成19年)12月3日には鉄緑会の買収を発表した。参考書や学習雑誌を販売する学研は、学校授業の予習復習を行う学研教室を持っているが、この生徒が受験勉強時期に退会するのを防ぐため、塾ビジネスに乗り出している[2]

少人数制授業へのシフト

少子化傾向に対応し、個別指導や概ね10人以下の少人数制授業の塾が多くなっている。集団授業の塾は大手塾で教室数を拡大する傾向にあるが、姉妹校として個別指導の塾を併設したり、塾内に個別指導ブースを併設する場合もある。もっとも、個別指導といっても家庭教師のように1対1で教えるとは限らない。1人の講師が学年や科目の違う生徒3〜4人程度に対し、同時に巡回指導するものも個別指導という。つまり「個別授業」ではなく「個別指導」なのである。当然1人の講師に対して生徒の人数が少ない分授業料はかなり高額になる。それでも学力が中程度かそれ以下の生徒には、従来の集団授業に比べると行き届いた指導ができる。

個別指導の場合、巡回しながら学年や科目の違う指導に同時に対応できる能力と要領が求められる。一人の講師が全ての学年や科目を担当すると思われがちだが、講師の指導できる科目や学年のみを担当するので、講師が不得意な科目を教えることはほとんどない。しかし、これらの塾では「学習内容」の指導だけでなく「勉強の方法」の指導も行うことが多く、全体の流れを熟知し担当する生徒に応じたペース配分ができるようになるまで、少人数に対する指導とはいえ講師にかかる負荷は大きい。

塾のフランチャイズ化

塾のフランチャイズ化というものは過去には少なかったが、最近では独自のノウハウを提供し全国に拡大している。塾のフランチャイズは、経営者自身が指導する必要がないため誰でも塾を開くことができるが、生徒の指導は生徒の増減に応じ採用できるアルバイト講師まかせになる。一部の大手フランチャイズ塾本部は、加盟金やロイヤルティーを集めることを目的として、加盟者に大きな利益が出るよう見せかけて教室数を拡大するケースがあり、加盟者はほとんど利益が出ず多額の加盟金等の資金がなかなか回収できないことから裁判沙汰になるケースもある。

不景気の長期化と学習塾の過当競争と問題点

学習塾に対しては賛否両論があるが、近年の少子化や、長引く不景気などにより,全国的には市場規模は縮小傾向にあるとも言われる。近年では大都市圏などの駅前に多くの塾が乱立して、過当競争により閉鎖に追い込まれている塾もある。また、教員免許のない講師や大学生などによる指導、行き過ぎた偏差値教育、学校の先生を差し置いて塾の先生が進路指導をするといった様々な矛盾をはらんでいる。また、業界再編により、提携塾間で合格者を合算して、本当の合格者数よりも多く水増しして広告などに合格実績を載せる学習塾なども見られ、社会問題化している。2011年4月には大手進学塾が、水増し合格の表示をしたことに対して、消費者庁行政処分を下した事件も起こった。また、一部の学習塾において、使用する教材を、出版社の許諾を得ないまま教科書から無断引用したり複製したりすることで作成し、著作権侵害を指摘される事例が散見される[7][8]

統計

学習塾に関連する統計を、以下に記す。

(単位: %)
学年 通塾率
小学校5年生 35.6
中学校3年生 62.5
高校2年生 12.7

都市と地方では、都市の方が高い傾向にある[9]

区分 学習塾へ費用を払っている
生徒の割合(%)
支出者の年平均額(千円)
幼稚園 公立 16.3 65
私立 19.9 101
小学校 公立 43.3 142
私立 68.2 287
中学校 公立 71.6 246
私立 53.6 221
高校(全日制) 公立 35.3 224
私立 42.9 337

関連項目

脚注

  1. ^ 総務省統計局『平成21年経済センサス』(基礎調査 > 事業所に関する集計 > 全国結果)、表番号33-2 「823 学習塾」より。2009年7月1日現在。
  2. ^ a b c d 『週刊東洋経済』「激戦!塾ビジネス」2007年6月30日号
  3. ^ 『朝日新聞』2006年3月1日付
  4. ^ 苅谷剛彦・清水睦美・志水宏吉・諸田裕子『「学力低下」の実態』2002年、ISBN 978-4000092784
  5. ^ 産経iza「私立人気の影で(2)塾頼みの学力格差是正」2008年平成20年)1月17日
  6. ^ 『児童生徒の学習塾通いの問題』1992年、教育白書(文部省(現: 文部科学省))
  7. ^ 塾教材で教科書無断使用 「著作権違反、認識なし」 産経新聞、2012年4月3日
  8. ^ 進学塾「浜学園」、無許可で教科書コピー・使用 読売新聞、2012年4月7日
  9. ^ a b 「完全学校週5日制の下での地域の教育力の充実に向けた実態・意識調査」文部科学省、2003年平成15年)4月
  10. ^ 「平成18年度 子どもの学習費調査」文部科学省