大富豪
大富豪(だいふごう)、もしくは大貧民(だいひんみん)は、トランプを使ったゲームの1つ。
概要
カードをプレイヤーにすべて配り、手持ちのカードを順番に場に出して早く手札を無くすことを競うゲームである。一般的に4-6人程度でプレイするのに適しているが、7人以上や3人でもプレイ自体は可能である。2人では特殊な2人用ルールを用いることで遊ぶことが可能である。1人ではゲームが成立しない。1ゲームでの順位が次ゲーム開始時の有利不利に影響する点が特徴で、勝者をより有利にするゲーム性から「大富豪」という名称が付いた。ローカルルール(地方ルール、独自にアレンジされたルール)が数多く存在することも大きな特徴である。ローカルルールにはゲームに変化を付けたり、カード交換を行うといったゲームの性格上から上位のプレイヤーが勝ち続けることを抑制したりする効果がある。
日本以外の国でも基本ルールが大富豪と類似したカードゲームは、「ビッグツー」、「アスホール」、「グレートダルムチ」、「アーシュロッホ」、「斗地主」など各国に存在する。
様々な呼称
このゲームはローカルルール(後述)が数多くあるのと同様に、ゲーム自体にも様々な呼称が存在する。主に大富豪、大貧民、ド貧民などと称されるが、まれに階級闘争や人生ゲームとされることもある。関東は「大貧民」、関西では「大富豪」と呼ぶ傾向が見られる[1]。
「階級闘争」という呼び名について、全共闘運動が下火になった頃、運動を離れた学生の間で本ゲームが流行したが、1ゲームでの順位(階級)が高いほど後のゲーム展開において優位に立つことができ、階級が固定化されるという特性が、現実の資本主義社会と類似しているとされ、マルクスの提唱した階級闘争の名があてられた[2]。
本項における各用語の呼称
上記のようにこのゲームは、ゲーム自体にも様々な呼称があり、同様にあらゆる用語について地方毎に異なる場合がある。本項では特に必要でない限り便宜上代表的な一つの呼称に統一して記述している。
- 本ゲーム名 - 大富豪
- 階級 - 最高階級から順に大富豪、富豪、平民、貧民、大貧民(地方毎の様々な階級は階級を参照)。
またローカルルールを解説する各節は、タイトルによっては便宜上代表的な1つの呼称のみを載せているものもあるが、決してそれが正式名称というわけではなく、本文中に複数記載しているので参照のこと。
基本ルール
以下に記述するものはあくまで基本ルールであり、公式ルールではない[3]。「8切り」や「革命」などかなり一般に知られているローカルルールもあるが、ここでは単純にゲームの進め方のみ記述する。
- 1組全てのカードをプレイヤー全員に均等に配る。ジョーカーを含めてプレイすることもある。カードは特に人数が比較的多い場合など、2組(あるいはそれ以上)を同時に使うこともある。
- ゲームは親から始める。最初の親が手札から最初のカードを出し、以降順番に次のプレイヤーがカードを出し重ねていく。
- カードには強さがあり、弱い順に3,4,5,6,7,8,9,10,J,Q,K,A,2とされる(革命時除く)。ジョーカーは革命の影響を受けず、通常時は2よりも、革命時は3よりも強いカードとして用いることができる。
- 次のプレイヤーは、場にある現在のカードよりも強いカードしか出すことができない(例:場には9が出ている→10以上の強さのカードしか出せない)。
- 出せるカードがない時、もしくは戦略上出したくない時(例:手札にある強いカードはゲーム後半まで温存しておきたい、など)にはパスが許される。
- 他のプレイヤー全員がパスし、再び場にあるカードを出したプレイヤーまで順番が回ってきたらそのプレイヤーは親になる。場にあるカードは流され(横にのけられ)親は手札から好きなカードが出せる。
- 親は複数枚の同じ数字のカードを合わせて出すことができる(例: 、 など)。複数枚カードが出ている場合、プレイヤーはその数字より強いカードを場と同数枚組みにして出さなければならない。例えば5が2枚出ている場合には6以上の強さのカードをペアで2枚出す必要がある。ジョーカーを用いる場合には組み合わせて(例:「7を1枚とジョーカーを1枚」を「7を2枚」の代わりとして)出すこともできる(ただし、その場合ジョーカーは出したもう片方の数字と同じカードとして扱われる為、最強のカードではなくなる)。
- 以上を繰り返し、一番早く手札が無くなった(上がった)プレイヤーが大富豪となり、以降上がった順に富豪、平民、貧民、大貧民と階級がつく。参加人数に応じて階級の種類は増減する。詳しくは「階級」を参照。
- 第2ゲーム以降は、カードが全て配られゲームが開始する前に、大貧民と大富豪、貧民と富豪のプレイヤーがそれぞれ手札の中で最も強いカード(大貧民は2枚、貧民は1枚)と好きな(必要のない)カード(大富豪は2枚、富豪は1枚)を交換する(これを税金、献上、搾取などとも呼ぶ)。
- 最も低い階級の人を親として次のゲームを始める。
2人でプレイする場合、上記のルールをそのまま適用し1組全てのカードを配ると、自分のカードから相手プレイヤーのカードを把握でき戦略性に欠けることとなるため、特殊なルールが使用される。一例としては3・4・5・J・Q・K・A・2各4枚とジョーカー1枚の計33枚のみを使用し、プレイヤーには13枚ずつを配り、残り7枚は伏せて場に置くことで手持ちのカードから相手のカードを類推することを難しくするというものがある[4]。
階級
2ゲーム目以降にプレイヤーに与えられる階級である。大富豪、平民、大貧民などを使うのが一般的である。またパロディ版として会社やヤクザ、警察、軍隊、病院などにおける序列になぞらえてプレイされることもある。その場合には最下位の者(通常の大貧民にあたる)は他の下位に比べ、かなり屈辱的な称号にされることが多い。
4人、または5人
- 最上位 - 大富豪など
- 2位 - 富豪
- 3位 - 平民
- 4位 - 貧民
- 5位 - 大貧民(ど貧民)など
6人以上
ただし特殊な階級を使わず、6人以上増えた人数の分だけ、間の平民を増やす場合もある。
9人の場合の例として
神、皇帝、大富豪、富豪、平民、貧民、大貧民、奴隷、家畜
ローカルルール
このゲームは比較的歴史が浅いためか、地方によって多数のアレンジされたルールが存在する。一般にこれをローカルルール、地方ルールと呼ぶ。ローカルルールとは言っても、かなり広い地域に広まり一般化してきているルールもある。ただしトランプゲームの遊び方を解説した書籍では紙面の都合などからローカルルールに関して細かく扱われることはほとんどない。
どのローカルルールを採用するかによって戦略も大きく左右される。出身地方が違う者が集まってこのゲームを行う場合や、ルールの好き嫌いがある場合は、お互い最初にルールを認識し合う必要がある。
ローカルルールの中には同時に採用することができないものや、別のローカルルールを採用していることが前提となっているものもある。また異なるルールが同じ名称で呼ばれることもあるため、その点にも留意する必要がある。例として次のようなものがある。
- 階段
- 「縛り」の一種である「数字縛り」を指す場合と、カードの出し方としての「シークエンス」を指す場合。
- 激縛り・完縛り
- 「数字縛り」と「マーク縛り」両方が発生している状態を指す場合と、2枚以上のカードについて「マーク縛り」が発生している状態を指す場合。
ローカルルール追加前に:ここでは、Wikipediaの検証可能性の方針に基づき、次のいずれかに該当するものを例示する。
|
ゲームの進行方法に関するもの
基本ルールで述べた部分のみでも例えば次のような点でルールの解釈において細かい部分に差異が生じる可能性がある。ローカルルールの細かい運用まで踏み込むとさらに複雑になる。
- 最初の親の決め方 - ランク付けされていない第1戦において最初の親をディーラーの左隣の者とするのか、じゃんけんなどでランダムに決めるのか、特定のカードを持っている者( 、 、 など)とするのか[5][6]
- 2回目以降の親の決め方 - 大貧民から始めるのか、最初の親の決め方同様にするか
- 配る枚数に端数が出た場合の扱い
- ジョーカーの枚数(0-3枚)および効果、およびカード交換時の対象外とするか
- 戦術上出せるカードがあってもパスし、再度ターンが回ってきた場合にカードを出すことを許可するかどうか
- 上がった後に札を流すか、そのまま場のカードとして残してゲームを続けるか
また2(マーク問わず、革命中は3)やジョーカー、[5]。反則を犯した場合は次のゲームで大貧民となる場合がある[7]。
など強力な効果を持ち得るカードや最も弱い3(マーク問わず、革命中は2)を含めて上がることを反則として禁止するルールもあるその他には次のようなルールが採用されることもある。
- 都落ち
- 大富豪が次のゲームでトップで上がることができなかった場合、その次のゲームでは無条件で大貧民(ビリ)に転落する[8]。大富豪はゲームを継続するかどうか(参加を無意味とするかどうか)に関しても解釈が異なる可能性がある。ただし前述の上がりに関する反則のローカルルールを採用している場合、反則を犯して上がったプレイヤーが大貧民となり、大富豪は貧民となる。
- 大革命(階級革命)
- 大貧民がトップで上がった時点でそのゲームは終了し、全員の階級が逆になる[8]。秋本治の漫画『こちら葛飾区亀有公園前派出所』105巻では単に「革命」となっていた[9]が、秋本は一般的な(カードの強弱が逆になる)「革命」を当該話執筆時点では知らなかったと思しきことが同作品で再び大富豪をはじめとしたトランプゲームが扱われた際の記述から分かる[10]。当該話がテレビアニメ化された際には「下剋上」として紹介された。
- 天変地異
- カードを配られた時点で大貧民の手札が10以下のカードのみで構成されていた場合、大富豪とカードを全て交換する[8]。
革命
ローカルルールの中では「8切り」とともに最も広く知られたものであり[5]、同じ数字のカードを4枚以上(場合によっては5枚以上)出すことでジョーカーを除くカードの強さが逆になり3が最も強く、2が最も弱くなる。再び革命(反革命、革命返し)が起きれば元に戻る。革命状態になる条件を満たしたカードを出した場合、そのプレイヤーが革命状態にするか革命状態にしないかを自由に選択できるというルールもある。
後述のシークエンスで出すことを認めている場合、同スートの連階級のカード4枚以上を同時に出すと革命状態となる「階段革命」が採用されることもある[5]。
9を3枚出すことで革命を起こせる「クーデター」[5]が採用されることもあり、この場合さらに6を3枚で革命を返すことができるとすることもある[8]。さらに亜種として次のようなものがある。
- 6を3枚での「オーメン」(以降革命が起こせなくなる、8切りその他の特殊効果や縛りが無効になる付帯効果あり)[6]
- Kを4枚での「宗教革命」(以降ジョーカーを除くカードの強さがQが最強となり、Aが最弱となる。さらに偶数の時は偶数、奇数の時は奇数しか出せなくなる付帯効果あり)[6]
- 7を3枚での「ナナサン革命」[3]
- ジョーカー2枚で起こせる「ジョーカー革命」[3]
革命が起きた後、どのタイミングで革命が発効するかに関しても細かいルールの相違がある。例えば10が4枚で革命が起こされた場合、革命を無効にする「革命返し」を(場が流れるまでは革命は有効でないとして)J以上の同じカード4枚で可能とするのか、(直ちに有効であるとして)9以下の4枚で可能とするのか解釈の差異が存在する。ただし革命が起きると無条件に場が流れるとするルールもある。
カードの出し方に関するもの
- シークエンス(階段、連番)
- 同じマークで数字が3枚以上続いているカードをまとめて出すことができる[5]。2枚以上でも出せるとするルールもある[11]。例えば5,6,7の3枚を出した場合、次に6,7,8を出せるか、あるいは8,9,10以上でないと出せないかに関しては解釈に違いがある。階段が生じた場合、次のプレイヤーは同じマークの階段でないと出せないのか、階段であれば違うマークでもいいのかといった差異もある。
- エンペラー
- 連続した4つの数字で、かつマークが全て異なる組み合わせのカードをまとめて出せる[6]。
- 砂嵐(33返し)
- 3を3枚同時に出すことで、場札を流すことができる[8]。
- ジョーカー返し
- ジョーカーを出した後に更に相手がジョーカーを出すことができる[8]。
- ダウンナンバー(下げ)
- 場に出ているカードと同じマークで1つ弱いカード(例:[12]。後述の縛りが同時に起こる場合、「逆縛」(ぎゃくしば)と呼ばれる。 なら )を出すことができる
特定のカードに効果を持たせるもの
- 8切り(「はちぎり」または「やぎり」)、8切れ、8流し
- 出している札に8が含まれていれば、その場で場札を流すことができる[5]。シークエンスに8を含む場合も流せるというルールと、8のみを出した場合のみ可能とするルールがある[13]。8ではなく4や6、10、Qにこの役割を持たせることや、別の8や同じマークの10などを出すことで流す権利を取ることができる場合もある[8][3][4]。
- スペ3(スペード3返し)
- ジョーカーが1枚で場に出ている時、[5]。 を出せば流すことができる。「3を3枚まとめ出し」で同じ効果になることもある。
- 11バック(イレブンバック、Jバック、バックジャック、Jリターン、Jターン、小革命、イレブンジャック、ジャックダウン)
- Jを場に出すと、場札が流されるまでカードの強さが一時的に革命が起きた時と同じ状態になる。革命状態の時は一時的に革命が起きていない(2が最も強く、3が最も弱い)状態になる。場が流れると元に戻る[5]。
- 5飛び(5スキ(スキップ))
- UNOに類似したルールで、5を出すと次のプレイヤーの順番を飛ばすことができる。6や10、Kにこの役割を持たせることや、出した枚数分だけ飛ばすことができることもある[8]。
- 9リバース
- これもUNO類似のルールで、9を出すと枚数、マークに関係なく9のカードを出すとターンの順番が逆になる。[8]。7や10やQにこの役割を持たせることもある[8]。
- 7渡し
- 7を出した枚数だけ次のプレイヤーに不要なカードを渡すことができる。ゲーム進行に伴い通常は手札は減っていく一方だが、このルールを採用すると増える場面も出てくることになる。5や10にこの役割を持たせる場合もある[8]。
- 10捨て
- 10を出した枚数だけ場に捨てることができる。10の代わりに7若しくはQにこの役割を持たせた「7捨て」、「Q捨て(俗にQボンバー)」が採用される場合もある[8]。
縛り
前の人が出したカードと同じマークであればカードが流されるまでそのマークしか出せない縛り(しばり、しとみ、ロックスート、ロック、カタメ)が採用されることもある[5]。2枚連続で縛りになるルールと、3枚連続で縛りになるルールがある。この「マーク縛り」以外にも縛りには次のような数々のバリエーションがある[3]。
- 数字縛り(階段縛り、階段)
- 1つ上の(革命時には下の)カードしか出せなくなる。例えば5が出ている場合には次に出せるのは6のみで、その次は7のみとなる。
- 激縛り(げきしば、激し、激しば、完縛り、完縛)
- マーク縛りと数字縛りが同時に起こったもので、例えば[1]。 → と出された場合、次は しか出せなくなる。ただし2枚以上のカードについてマーク縛りが発生しており、全てのマークを一致させる必要があるルールのことを「激しば」と呼ぶこともある
- 色縛り
- 黒縛りの場合、(通常のトランプで)マークが黒のカード(スペードとクラブ)しか出せなくなる。赤縛りは赤のカード(ハートとダイヤ)しか出せなくなる。
脚注
- ^ a b ウィふり調査団 (2003年4月15日). “『大貧民?大富豪?』大調査”. ウィふり. freeml. 2010年9月27日閲覧。
- ^ 三田誠広『マルクスの逆襲』集英社〈集英社新書〉、2009年5月、23-24ページ頁。ISBN 978-4087204940。
- ^ a b c d e トレンドGyao編集部 (2008年12月4日). “トランプゲーム”大富豪(大貧民)”のローカルルール あなたはどこまで使ってる?”. amebaニュース. 2010年3月8日閲覧。
- ^ a b mixiアプリ「対戦大富豪Lite」および携帯電話アプリ「激アツ!挑戦大富豪」、G-mode
- ^ a b c d e f g h i j 朝井麻由美; プレスラボ (2009年9月17日). “こんなにある! トランプの「大貧民」「大富豪」のローカルルール(前)”. COBS ONLINE エンタメCOBS. exciteニュース. 2009年12月11日閲覧。
- ^ a b c d ERPING (2010年9月15日). “カードゲーム「大富豪」地方ルールの数々”. コラム. ハチヨンイズム. 2010年9月27日閲覧。
- ^ オンラインゲームコミュニティ「ハンゲーム」 ハンゲーム内の大富豪ルール解説ページ
- ^ a b c d e f g h i j k l 朝井麻由美; プレスラボ (2009年9月17日). “こんなにある! トランプの「大貧民」「大富豪」のローカルルール(後)”. COBS ONLINE エンタメCOBS. exciteニュース. 2009年12月11日閲覧。
- ^ 秋本治「「大貧民」バトル!!の巻」『こちら葛飾区亀有公園前派出所』 第105巻4話、集英社、1997年12月、78ページ5-6コマ目頁。ISBN 978-4-08-852860-1。
- ^ 秋本治「トランプバトル再び!!の巻」『こちら葛飾区亀有公園前派出所』 第106巻1話、集英社、1998年2月、6-10ページ頁。ISBN 978-4-08-872514-7。
- ^ “大富豪の遊び方”. ニコッとタウン. 2010年3月13日閲覧。
- ^ iPhone/iPod touchおよびAndroidアプリ『大富豪しよっ!』(iSWAN)
- ^ “ゲーム説明”. DORUBAKO 大富豪. 2009年12月18日閲覧。