国立大学

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国立大学(こくりつだいがく、: National university)とは、政府教育省)によって運営又は設立されている大学国立学校である大学のことである。

日本

概要

2020年(令和2年)4月1日時点で86校(うち大学院大学 4校)が存在している。

日本における国立大学は現在、国立大学法人の設置する大学として存在している。以前は文部科学省に置かれる施設等機関であり、1949年(昭和24年)に制定された国立学校設置法(昭和24年法律第150号、国立大学法人法等の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成15年法律第117号)の施行により廃止)に基づいて日本国が設置していた。2003年(平成15年)に制定された国立大学法人法(平成15年法律第112号)の規定により、2004年(平成16年)4月1日に国立大学は国立大学法人の設置する大学に移行した。

このうち「世界最高水準の教育研究活動の展開が相当程度見込まれる国立大学法人」が文科省により「指定国立大学法人」に指定されている。2020年10月時点で9校ある(東北大学東京大学東京医科歯科大学東京工業大学一橋大学筑波大学名古屋大学京都大学大阪大学)。

日本では国立大学の収入は、国の支出(すなわち税金)に拠る部分が大きい。財務省は、平成25年度ベースの場合、附属病院収入を除くと、約68%が運営費交付金や補助金などの国からの支出、自己収入は全体で33%(内訳は寄附金収入が4.3%、授業料等収入が14.7%、産学連携等研究収入が10.8%)と試算しており、「国からの補助金が概ね1割である私立大学と比べると、その違いは顕著なものとなっている」と指摘している[1]。国立大学の運営に多額の税金が投入されている点について、文部科学省は「国立大学経営力戦略」において「運営費交付金依存体質からの脱却」を提唱した[2]。また、国公立大学の競争力や生産性に見合っているかという批判[3][4]や私立大学で実現可能な分野にも関わらず、税金を投入して授業料を安く設定するのは民業圧迫という批判[5]が存在する。

ほとんどの国立大学が自治権を持って運営している。学生数は、全大学生のうち2割程[6]

なお、国立の短期大学については2017年(平成29年)現在全て廃止されている。

国立大学の入学試験

国立大学の一般入試は、通例「大学入試共通テスト」(2020年までは「大学入試センター試験」)(以下、共通テスト)の受験が必須で、5教科7科目(理系英語数学①②・国語理科×2・地理歴史公民×1、文系は英語・数学①②・国語・理科×1・地理歴史公民×2)という広範囲を選択することになっており、また、それに加えて大学別の個別試験(2次試験)も受験しなければならない為、共通テスト(主にマーク形式)・2次試験(主に記述形式)を合わせると、私立大学に比して試験科目数が非常に多く、オールラウンドな学力が要求されている(但し、中には、試験科目数を軽減している国立大学も存在している)。また、記述形式が中心の2次試験では、解答のみを答える私立大学や共通テストのマーク形式と異なり、解答のみならず、その解答に至るまでの正確な過程や考察も答える問題が非常に多く、より高度な学力が要求されている。また、試験日程は、前期・後期のみであることが基本である為、日程さえ異なれば幾つでも併願可能な私立大学に比べ、受験可能数が最大2回と非常に限られている。このような入試形態から、有名進学校では国立大学志願者が比較的多い。

一部の大学では共通テストの配点を小さくする措置をとる特徴がある。また、京都大学理学部、東京工業大学のようにセンター試験を一次選抜のみに用い(俗に言う足切り)、最終的な合格者選抜には二次試験の得点のみを用いる形式もある。

また、推薦入試AO入試制度を設けている国立大学もあり、入学する際に必要とされるのは推薦入試用の個別試験のみで、共通テストを受験する必要が無い場合もある。一部の医学部医学科、看護科、教員養成系学部では、卒業後一定期間地元の医療機関・学校に勤務することを条件とする地域枠推薦入学者選抜、地域枠編入学者選抜を行っている。

また、日本の大学の内、国立大学は1/8程度であり、私立大学に比べて数が非常に少なく、また学生数も少ないのも特徴である。

特例入試等

各種の事情で多くの受験生が入学試験を受験できない場合には、特例入試や追試験が実施される場合がある。1995年(平成7年)の阪神・淡路大震災による特例入試と、2009年(平成21年)から2010年(平成22年)の新型インフルエンザ流行による追試験は、国立大学協会の主導のもと、全国的に行われている。

阪神・淡路大震災が発生したのは1995年(平成7年)の大学入試センター試験直後に当たる1月17日で、国立大学への入学願書の提出が迫っていたため、震災が提出に影響すると考えられた。国立大学協会は、2月3日に「阪神大震災で被災した受験生を対象とする特例入試の実施について」という文書を各国立大学へ送り、被災受験生の負担を軽減するために可能な手段を講じるように要請した。受験資格は、被災市町村に住居か在学校があり、3月27日の時点でいずれの国公立大学にも合格していない受験生で、一大学に限って受験が可能である。試験が行われたのは3月28日以降(D日程入試)で、最終的に国立大95校、公立大48校の全校が特例入試を行うことになった[7]。選抜方法としては、面接や調査書など、学力検査以外の方法で行う例も少なくなかった。文部省の発表によると、阪神大震災特例入試を志願した受験生は全国の合計で1,479人で、うち1,440人が実際に試験を受け、347人が合格している[8]

新型インフルエンザは、2009年平成21年)5月に国内感染者の発生が確認され、冬季に行われる大学入試への影響が懸念された。文部科学省は、10月8日に国公私立大学へ「平成22年度大学入学者選抜に係る新型インフルエンザ対応方針」として、大学入試センター試験の追試験を、例年の方式(1週間後に東京関西の2ヶ所で行う)から、2週間後に各都道府県で行うように変更することと、各大学で追試験等を実施することが望ましいことを通知した。これを受け、国立大学協会は、前期日程と後期日程の概ね1週間後に追試験を行うという方針を10月26日に決定し、公表した。合格者は、本試験と追試験をあわせて行うので、各大学は、本試験と難易度が同一の追試験を作成する必要がある。なお、大学の事情によっては、独自の方法で対処を行うことも許される。

国立大学・大学院の配置と名称

47都道府県全てに最低一つの国立大学が(ほぼ県都に)設置されている。旧帝国大学以外の各校が「駅弁大学」と呼ばれる所以でもある。

ほぼ全ての国立大学の大学名は所在地名を由来とする。都道府県名が多いが、令制国名など(信州大学琉球大学)、都市名(弘前大学金沢大学など)、地域ブロック名(東北大学や九州大学)といった例もある[9]宮城大学及び長野大学は都道府県名の公立大学、青森大学神奈川大学は都道府県名を冠した私立大学である。横浜国立大学は校名に唯一「国立」の語を入れている。

地名に由来しない国立大学は電気通信大学、そして大学院大学である総合研究大学院大学政策研究大学院大学の3校のみである。かつては図書館情報大学(現在は筑波大学と統合)もそうであった。一橋大学(東京都国立市)の名称は、前身の東京商科大学が千代田区一ツ橋にあったことに由来する。お茶の水女子大学(東京都文京区)の名称は、前身の東京女子高等師範学校御茶ノ水(厳密には文京区湯島)にあったことに由来する。

国立大学の教員

国立大学の教員のほとんどが、国立大学出身者で占められている。文部科学省の調査によれば、国立大学教員における国公立大学出身者の割合は約95%にのぼり、国公立大学教員のほとんどが国公立大学出身者である[10]。他方、私立大学の教員における国公立大学出身者の割合は約5割である[10]

かつては国家公務員の身分であったが、現在はみなし公務員である[11]。近年、非常勤の身分の教員も増えており、その金銭的待遇は私立大学より劣るとされる[12]。2004年の国立大学法人化以降、待遇面の格差ゆえに国立大学から私立大学・海外大学への教員流出が起こっており[13][14][15]、トップクラスの国立大学から中堅レベルの私立大学への流出に歯止めがかからないと言われる[14][15]。教員の再就職について、松野弘は「元東大教授という肩書の人物がいれば、私立大学は喜んで招聘してくれるという「東大神話」の時代は終焉を迎えつつある」と指摘している[16]

国立大学と賞

日本においてはノーベル賞受賞者の全てが国立大学出身者(学士時点)で占められている[17]。このうち、13人が帝国大学出身者であり、6人がその他国立大学出身である。学問領域ごとに設けられている国際的賞であるフィールズ賞ガウス賞ウルフ賞に至っては、日本人受賞者全員が旧帝大出身者である。

アメリカ合衆国

アメリカ合衆国州が一国同等で、州立大学はあるが連邦政府立の大学はない[18]。ただし、国立の高等教育機関が全くないわけではなく、軍学校陸軍士官学校海軍兵学校空軍士官学校などがAcademy(アカデミー)として存在し、アメリカンフットボールなどのスポーツでは他の大学と対戦することもある[18]

脚注

  1. ^ 国立大学の収入構造”. 財務省. 2020年2月8日閲覧。
  2. ^ 国立大学経営力戦略:文部科学省”. 文部科学省ホームページ. 2020年2月8日閲覧。
  3. ^ 異見交論44(上)国立大学は納税者への責務を果たせ 神田眞人氏(財務省主計局次長)”. 読売新聞教育ネットワーク. 2020年2月8日閲覧。
  4. ^ 異見交論43 国立大への税金投下に「正当性なし」冨山和彦氏(経営共創基盤 代表取締役CEO)”. 読売新聞教育ネットワーク. 2020年2月8日閲覧。
  5. ^ asahi.com :シンポジウム”. www.asahi.com. 2020年2月19日閲覧。
  6. ^ 短大生含む。文部科学省ホームページ,「私立大学」,http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shiritsu/ ,2016年7月6日閲覧
  7. ^ 朝日新聞、1995年2月18日
  8. ^ 朝日新聞、1995年4月18日
  9. ^ 地元の国立大学名と重複しなければ、私立大学や公立大学が県名+大学を名乗っている例もある(青森大学福岡大学など)。
  10. ^ a b 中央教育審議会 大学分科会 制度部会(第22回(第3期第7回))議事録・配付資料 [資料2-1] 設置者別 大学教員の出身大学(平成13年(2001年)調査)-文部科学省”. www.mext.go.jp. 2019年11月3日閲覧。
  11. ^ 教職員のみなさんへ”. 東京大学. 2020年6月18日閲覧。
  12. ^ Journal, Business. “働き詰めでも年収3百万台…下層化する大学講師、過酷労働&インテリ貧乏の実態(Business Journal)|dメニューニュース”. topics.smt.docomo.ne.jp. 2020年6月18日閲覧。
  13. ^ 剛, 長野. “「給料格差ツイート、狙ってやった」 日本捨てる若手学者の危機感”. withnews.jp. 2020年6月18日閲覧。
  14. ^ a b 【独占手記】私が京都大学の給与明細を公開したホントの理由” (jp). オピニオンサイト「iRONNA(いろんな)」. 2020年6月18日閲覧。
  15. ^ a b 私が一橋大学の教員を辞めた理由〜国立大に翻弄された苦しい日々(河野 真太郎) @gendai_biz”. 現代ビジネス. 2020年6月18日閲覧。
  16. ^ 東大教授は要りません──東大ブランドの凋落はなぜ起きたか”. Newsweek日本版 (2018年9月29日). 2020年6月18日閲覧。
  17. ^ 埼玉大学山梨大学、京都大学、名古屋大学、徳島大学、東京工業大学、神戸大学、東京大学、長崎大学、東北大学、北海道大学。
  18. ^ a b 古村治彦『ハーヴァード大学の秘密』PHP研究所、2014年、154-158頁

関連項目

外部リンク