喫煙
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喫煙(きつえん)とは、一般的にナス科の植物「タバコ」の葉に含まれる精神作用のある依存性薬物であるニコチンを摂取する手段または行為を指す。一般的には、タバコの葉に含まれるニコチンを摂取しやすくするために、タバコの葉を乾燥・発酵などの工程を経て加工した物に火をつけて、くすぶるように燃焼させ、その煙を吸引する行為を喫煙と呼ぶ。
概要
喫煙は、タバコの葉に含まれるニコチンを摂取する手段、または行為を指すが、広義には大麻タバコの吸引を含むことがある。近年は、取り扱いしやすい紙巻きタバコ商品の他、噛みタバコ、葉巻、嗅ぎタバコなどの商品もある。また特殊な紙巻タバコとして薬用タバコなども存在する。
タバコ喫煙の起源は紀元前10世紀の頃・地域はマヤ文明とされ、古くからアメリカ先住民の間に喫煙の習慣が広まっていた。大航海時代の到来と共にヨーロッパに伝播し、様々な薬効があると信じられたことにより、15世紀から16世紀にかけて、100年間という当時としては短い期間で急速に世界へ広まった。そのため、世界で「tobacco」、「tabaco」などとほぼ同じ名前がついている。ヨーロッパ・アジア地域においても、大麻などの喫煙習慣があったとされるが、起源は明らかでない。葉巻、パイプなど様々な喫煙方法が考案され普及しており、今日世界的にもっともポピュラーな喫煙方法は安価で手軽な紙巻きタバコ(シガレット)である。
なお、タバコを喫煙する際には動詞として一般的に「吸う」が用いられることが多いが、本来は「喫む(のむ)」である。
喫煙の歴史
タバコの喫煙は、ヨーロッパの探検家が到達する前から、アメリカ先住民によって行われており、1500年前のマヤ文明における美術作品にも喫煙が描かれている。マヤ人たちはタバコを生贄を捧げる儀式、占い、魔除けといった宗教的な用途で用いていた。また、北米のインディアンは、現在も宗教的な儀式にタバコの葉を用いている。インディアンたちの喫煙法は、地面に浅い穴を掘り、枝や土でドームを作り、中でタバコの葉を燻した煙を、何箇所か開けた穴から跪いて吸うというものだった。また、粘土で作ったパイプも使われており、あまり首の曲がっていない、直管型のものだった。このクレイパイプは、数千年前のインディアンの遺跡からも出土している。
1492年10月12日、クリストファー・コロンブスは乾燥したタバコの葉をアラワク族から与えられたが、興味を示さず廃棄してしまった。その後ロドリゴ・デ・ヘレス (Rodrigo de Jerez) とルイス・デ・トレス (Luis de Torres) が喫煙を目撃した最初のヨーロッパ人となり、ヘレスがアメリカ州の外で喫煙した最初の人物として記録されている。16世紀には喫煙の習慣は主に船乗りの間で一般的なものであった。1560年代にジョン・ホーキンス (John Hawkins) の船員によってイングランドにもたらされたが、1580年代に至るまで大きな影響を与えることはなかった。イングランドでは1820年代後期から広く浸透し始めた。1828年、スペインで紙巻きタバコ(シガレット)が登場し、一定の商業的な拡張をもたらしたが、20世紀初頭に安価な機械製造法が普遍化されると、その依存性により爆発的に喫煙人口が増加した。
第一次世界大戦の間、タバコ製品は典型的な軍事補給物資の一つであった。以降、紙巻きタバコを用いた喫煙は、魅力的で気楽な生活様式の一部としてタバコ会社により宣伝され、女性の喫煙も社会の中に浸透し始めた。
日本における歴史
日本では室町時代末期から安土桃山時代にポルトガルの宣教師たちによって持ち込まれた。煙管(キセル)による喫煙が主であり、江戸時代初期には全国に普及したが、非常に高価な薬品として普及しており、喫煙できるのは裕福な武士か商人のみであった。
江戸幕府は火災予防や奢侈禁止の観点からしばしば煙草禁止令を出しているが、幕府や藩の専売とすることで次第に許可されていく。江戸中期には煙草の値下がりと共に庶民への喫煙習慣も広まって行くことになる。宝暦年間には、庶民用の煙草10匁(約38グラム)が8文程度であった記録が残されている。また、この時期に煙管、煙草盆、煙草入れなどの工芸品が発達した。
明治時代になってから、それまでのキセルによる喫煙に代わり紙巻タバコが庶民の間に普及した。当初日本には2社のタバコ会社が存在していたが、日清戦争開始後に財政難に陥った国により、葉たばこ専売法が1898年(明治31年)に制定され、タバコは専売制になった。当時、タバコによる税収は国税において大きな割合を占めており(1945年(昭和20年)には、タバコによる税収は塩の税収などと合わせて予算の20%を計画し[1][2]、実際の歳入はタバコが4.1%[3]、塩は赤字[3])、日清・日露戦争などの戦費調達のための財源とされた[4][5]。
第二次大戦後も、1985年(昭和60年)まで日本専売公社によるタバコの専売が続いた。1980年(昭和55年)時点では、輸入タバコには90%の関税がかけられ、国内市場における輸入タバコのシェアは1.5%未満に過ぎず、日本国外のタバコ企業が日本国内でテレビ・雑誌・看板などの宣伝活動や市場調査を行ったり販売網を築いたりすることはできなかった。しかし、1980年(昭和55年)のアメリカ合衆国・フィリップ・モリス社の5か年計画において、日本に対し市場を開放するよう圧力をかけることが計画され[6]、1982年(昭和57年)に米国通商代表部(USTR)は日本政府に対し、関税の90%から20%への引き下げ、海外企業の宣伝活動や市場調査の許可を求め交渉した(経済制裁の脅しも持ち出されたという[7])。1985年(昭和60年)、日本専売公社は日本たばこ産業に民営化され、1987年(昭和62年)には米国タバコへの関税は撤廃された。結果として、米国からのタバコ輸入本数は1986年(昭和61年)に99億本、2002年(平成14年)には780億本へと増加し、米国のタバコ輸出の61%を占めるまでになった[8]。また、日本たばこ産業は民営化されたとはいえ、日本たばこ産業株式会社法により財務省が過半数の株を保有している。
喫煙の有害性に関する歴史
1900年、生命統計学者らが肺癌の増加を指摘(喫煙と疾患の関連を示唆した最初とされる)。その後さまざまな研究が行われ、タバコやタバコ煙の成分が分析され始めた。やがて臨床的・病理学的・疫学的に、タバコの人体への影響の研究が進み、1930年には肺や循環器疾患の発症率や死亡率の上昇が指摘された。その後もさまざまな国・研究機関でタバコの研究は増えていき、ドイツではナチス統治下で、またアメリカ合衆国では1938年ごろ生物学者レイモンド・パール (Raymond Pearl) が、タバコは健康に悪影響を及ぼすと発表している。
1939年から1963年の間に、肺癌に関してだけで29の逆向き研究が行われ、1952-1956の疫学研究の発表以降、喫煙と肺癌の関係が特に注目されるようになり、1950年代から1960年代の間に医学界や各国政府[9]のコンセンサス「喫煙は、特に肺癌や心臓血管疾患に関して健康を脅かす」が発表された。リーダーズ・ダイジェスト誌も、喫煙がいかに公衆衛生に害を及ぼすかを示すことによって喫煙率を減らすキャンペーンを始めた。
1954年初頭、タバコ産業の代表者らは、喫煙と健康の問題研究を後押しする目的で、「たばこ産業研究会」(Tobacco lndustry Research Committee/TIRC)を設立し、研究に積極的に資金提供・情報収集を行い、喫煙が健康を害するとの科学的な証拠はないと示した。
以前と比べると禁煙活動が進んだが、世界保健機構 (WHO) は2008年時点で、世界各国で喫煙による死の予防が不十分であると表明している[10]。
原材料と煙の成分
タバコはナス科 Nicotiana 属の一年草で、亜熱帯性の植物である。タバコの煙に含まれる化学物質は4,000種ほどで、そのうち約200種は致死性有害化学物質とされ、動物に癌を作るものはベンゾピレン(ベンツピレン)をはじめとする60種類。天然のタバコ葉由来の成分の他、紙巻タバコ工場では600種類の有害化学物質を添加。[要出典]
主なタバコ煙の成分:
主な発癌物質:
- アクロレイン、カドミウム化合物、クマリン、シアン化水素、ダイオキシン、ビニールクロライド、ベンゾピレン、ホルムアルデヒド、ジメチルニトロソアミン、メチルエチルニトロソアミン、ジエチルニトロソアミン、N-ニトロソノルニコチン、ニトロソピロリジン、4-(N-メチル-N-ニトロソアミン)-1-(3-ピリジル)-1-ブタノン、キノリン、メチルキノリン類、ヒドラジン、2-ナフチルアミン、4-アミノビフェニル、o-トルイジン、ポロニウム210
喫煙方法と種類
「葉巻きタバコ」と「刻みタバコ」の2種に大別される。葉巻きタバコはタバコの葉を刻まずに丸めて吸うもので、刻みタバコをタバコの葉で巻いたものも存在する。刻みタバコはその形態によって、さらにいくつかに分類される。
葉巻タバコ
葉巻きタバコはもっとも原始的なタバコの形態であり、乾燥し発酵させたタバコの葉を巻いて作られている、発祥はメソ・アメリカ文明からと言われ、元々は先住民族間の交流(回し呑み)や、土地の精霊への祖霊祭などに用いられたものを、16世紀からの大航海時代において大陸上陸した貿易商人により古くから貿易品として利用されてきた。
種類は大きく分けて、湿度管理の必要なプレミアムシガーと管理の必要のないドライシガーがある。フィラーは一枚葉を束ねたものを使用する「ロングフィラー」が主流だが、最近は刻みタバコ状にした「ショートフィラー」も出回っている。
刻みタバコ
刻んだタバコを、紙に巻くか、器具に詰めて吸う。
紙巻きタバコ
一般にタバコという場合、これを指す。シガレットとも呼ばれる。パイプ等の喫煙用具を必要とせず着火すればそのまま吸えるので、喫煙者に広く普及している。手軽な反面、必ずフィルター部分を中心に一定量の廃棄部分が発生するためポイ捨てされることも多い。1本あたりの平均的な燃焼時間は3–5分程度で、概ね半分から2/3程度吸ったら火を消して、吸殻として捨てる。火のついた先端は非常に高温で800度近くにもなるので、扱いには注意を要する。紙巻き煙草の税率が高いEUでは、あらかじめ長い煙草を作り、自分で切ってさや紙に詰める製品もある(ドイツのStax Trio Zigaretten等)。
手巻きタバコ
紙巻きタバコに対し高額な税金が課されている欧州などの国では、刻みタバコとシガレットペーパーを別々に購入し、自分で手巻きして喫煙する方法も行われる。手巻き方法は、シガレットペーパーを一枚取りだし、折り目に刻みタバコを摘んで並べる。舌でシガレットペーパーの糊付け部分を湿らせて筒状に丸める。人によってはフィルターを吸引口に装着したり、添加物を加えることもある。
パイプ
ブライヤ、トウモロコシの軸、セピオライト(海泡石=メシャム)などを加工したものに樹脂製の吸い口を取り付け作られる。主にアメリカやヨーロッパ等で使われる喫煙具。香料を加えて作られた専用の刻みタバコ(香料不使用のものもあり)をボウルに詰めて着火し吸う。欧州では19世紀ごろまでは、労働者等の大衆の喫煙方法とされていた。紙巻きに比べタバコを味わうのに向いている。火が消えやすく、快適に喫煙するにはタバコ葉の詰め方も含めて技術を要する。葉の分量はおおむね2~3グラム(紙巻きタバコ2~4本程度)。紙巻きタバコと違って、吸った煙は肺に入れず、ふかすようにして口腔粘膜からニコチンを摂取する。時間当たりのタバコ葉消費量(燃焼量)は紙巻きの数分の一になるが、フィルターを使わないことが多く、そのぶん濃くなるので紙巻よりも弱くゆっくり吸うためである。パイプを1時間程度かけて一服することにより、紙巻きタバコ10本程度をチェーンスモーキングする程の充足感が得られるとも言われる。場合によっては非常に経済的な喫煙方法であるが、喫煙具自体が高価なことが多く、数千円からハンドメイドのものは数十万円するものもある。各種のデザインのものが売られておりコレクションをする人も多く、趣味性の高い喫煙方法と言える。
水タバコ
水パイプ、水キセル、シーシャとも呼ばれ、タバコ煙を水にくぐらせた後、極めて長い煙路を経て吸引する。タール分や一酸化炭素を主に、多くの煙に含まれる成分が水に溶けて省かれ、また煙温も低下するので、煙に一定の成分変化があるとされている。トルコなどの中東方面で用いられる大型のものから、中国などアジアで見られる小型のものまでさまざまあり、日本でも吹きガラス製の水パイプなどが存在している。この喫煙に使った後の廃水は非常に有害である。また、吸い口が直接本体に付いているものは梵具(ぼんぐ)と呼ばれる。こちらは煙路は短い。どちらも実験器具の洗気瓶と同じ構造である。
煙管
煙管(キセル)は日本、朝鮮、中国で見られる喫煙具。パイプをまねて作られた。雁首、羅宇(らお)、吸口から構成され、雁首の火皿に刻みタバコを詰め、着火する。本来、一息で吸いつくすもので、燻らせるものではない。日本では江戸時代の喫煙は大半がキセルによるものだった。一般的に紙巻きやパイプタバコよりも、葉の刻み方が細かい。一服あたりの平均燃焼時間は2–3分程度だが、使うタバコの葉の量は紙巻タバコの1/4程度に相当で、人によっては(本来の喫煙法ではないが)、紙巻きタバコの吸殻(俗にシケモクと呼ばれる)をこれに詰めて吸う人もいる。しかし2000年代以降、日本国内での愛用者は大幅に減少し続けている。
その他
喫煙の他に、タバコを原材料とする製品によるニコチンの摂取方法として、噛みタバコ、嗅ぎタバコなどの方法が知られている。これらはタバコ葉を燃焼させず、口や鼻の粘膜から直接ニコチンを摂取する。
健康への影響
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健康増進法では受動喫煙防止の施設管理の必要な措置を『努力義務』としている。対象となる施設、防止措置方は厚生労働省・受動喫煙防止対策について により示している。
日本口腔衛生学会、日本口腔外科学会、日本公衆衛生学会、日本呼吸器学会、日本産科婦人科学会、日本循環器学会、日本小児科学会、日本心臓病学会、日本肺癌学会の9学会では、喫煙によるニコチン中毒者は喫煙病(依存症+喫煙関連疾患)として、患者と呼ばれている。
WHOによると、世界で喫煙による死亡者は年間490万人おり[11]、全世界で、今日喫煙をしている人々の半数である6億5千万人は、喫煙が最終的に原因で死亡するとし[12]、受動喫煙ががんなどの深刻な健康被害を引き起こすことに疑問の余地はないと主張している[13]。 また世界医師会は、非喫煙者は受動喫煙によって、毎年数十万人が死亡しており[12]、職場の受動喫煙によって死亡する労働者は毎年およそ20万人いるとの声明を発表し、「喫煙をはじめとしたタバコ使用は、すべての臓器を侵し、ガン・心臓病・脳卒中・慢性閉塞性肺疾患・胎児への傷害などの主要な原因となっている。」とし、また「4000種以上の化学物質、50種以上の発ガン物質などの有害物質を含むタバコ煙にさらされる非喫煙者は、肺ガンや心臓病などの病気で命を脅かされている。」と主張した[14]。
喫煙が健康に有害であることを前提とし、たばこ規制に取り組む国際組織は、世界医師会(World Medical Association)、国際薬学連合(International Pharmaceutical Federation)、国際歯科連盟(World Dental Federation)、世界医療従事者協会(World Health Professional Alliance)、世界理学療法連盟(World Confederation for Physical Therapy)がある[15]。
大麻は毒性も依存性もタバコなどより低く、そのためタバコの喫煙リスクを「自己責任」で認めるなら、同じ理由で大麻も合法化すべきであると、池田信夫は、大麻の合法性と喫煙リスクの自己責任について語っている[16]。
喫煙の有害性を主張する識者
嫌煙権訴訟を扱った弁護士の伊佐山芳郎によれば、世界各国のたばこと健康に関わる分野の専門家は、喫煙病(喫煙、肺がん、喉頭がん、肺気腫)などの因果関係を疑問の余地なく肯定している[17]。また、伊佐山は「喫煙か健康か世界会議」や「国際消費者機構」といった国際会議では、世界各国から権威ある医師・医学者、また医療現場の技術者等が集まるが、喫煙とたばこ関連疾患との因果関係はまだ明らかでないといった議論は皆無である、としている[17]。
喫煙の有害性に疑問を投げかける識者
一方、喫煙での健康の有害性についてによる根強い異論もある。日本では養老孟司や小谷野敦、室井尚、三石巌、名取春彦、上杉正幸などが過度な禁煙運動に異論を唱えている。三石は分子生物学の観点から、「医学常識は科学の非常識」と述べ[18]、室井は「喫煙の有害性」が科学的に証明されたことは無い、と断言している[19]。また、嫌煙団体が持ち出した「喫煙を続けると肺が真っ黒になる」ことは新陳代謝上有り得ず、むしろ嫌煙団体が自分達の主義主張で禁煙を推し進める為に、写真を捏造したと指摘している[19]。そして、最初に「喫煙=悪」ありきで、自分達の都合の良いデータだけを収集し、それをドグマとしている、と主張している。
たばこ関連疾患
ニコチン依存症
- ニコチンは、神経伝達物質であるアセチルコリンに分子構造が類似し、ニコチン性アセチルコリン受容体(レセプターともいう)に作用することで、中枢神経のドパミン神経系、特に脳内報酬系を活性化する。そのため、摂取後に一時的に快の感覚や覚醒作用を得られる。動物実験などの知見からもニコチンは明らかな依存性を持つ。このような報酬系を介した薬理作用は、覚醒剤など依存性を有する他の薬物と共通である。
- また、ニコチンを過剰摂取した場合、嘔吐、下痢、縮瞳などの末梢神経症状や、赤ちゃんの誤飲は死亡することもある。
がん
- 喫煙はがんの原因になる[20]。喫煙が「がん」を引き起こすメカニズムは、たばこ煙に含まれる発がん物質が、細胞内のDNAを傷つけるためである。例えば、たばこ煙に含まれる発がん物質のベンツピレンは体内で代謝される時に、ベンツピレンジオールエポキシドに変わり、これは「究極発がん物質」と呼ばれる。ベンツピレンジオールエポキシドは細胞のDNAと結合した「付加体」となり、これが一般に「DNAの損傷」といわれる。
- 厚生労働省の健康日本21は、タバコが、肺がん、喉頭がん、口腔・咽頭がん、食道がん、胃がん、膀胱がん、腎盂・尿管がん、膵がんなど多くのがんの危険因子であるとしている[21]。
- 喫煙は誰でもがんに罹りやすくするが、特定の遺伝的素因を持つ人は特に罹りやすい[22]。喫煙は肺がんリスクの高い遺伝子を持った人が喫煙を続けると肺がんリスクがより大きいとして、注意喚起が行われている。
- 千葉大学大学院医学研究院准教授の廣島健三による肺がんに関する遺伝子異常の研究によると、喫煙者の気道上皮には、癌になる前に既に、喫煙がもたらす遺伝子異常が起きており、多くの遺伝子異常が蓄積されて癌が発生する[23]。この研究では、「肺癌による死亡率を減少させるためには、厳重な禁煙が重要である」としている。
- 東京大学名誉教授で医師・解剖学者の養老孟司は文藝春秋2007年10月号にて、「『肺がんの原因がたばこである』と医学的に証明出来たらノーベル賞もの」と述べており、がんは根本的には遺伝的な病気であり、医学論文は意図的に数字を選んで結論を導き出すものだから、絶対的な信用はおけないと医者は嫌というほど分かっている、と述べている[24]。同年9月13日、日本禁煙学会はこの発言について、養老孟司及び山崎正和に公開質問状を送った。質問状では、肺ガンの主な原因が喫煙ではないという根拠は何か、受動喫煙には害がないという根拠は何か、等について訊いている。しかし養老と山崎から返事はなく、日本禁煙学会は同年10月30日に催促状を送った[25]。一方の養老の所属事務所によれば「これまでも反対される方へ、反論のコメントを出すということはなく、質問状が手元に届いても見ずに捨ててしまうだろう」とのことだった[26]。
- 2008年6月2 日、「タバコは肺ガンの原因ではない」という記事が、『日経ビジネス』に掲載された。執筆者は脳研究者の池谷裕二である。この記事によれば、タバコが肺 がんの原因ではない可能性があるという。肺がんに関し世界の3つの研究グループがそれぞれ独自に調査を行い、すべてのグループともに第15染色体上の同じ 遺伝子による影響が大きいことを発表している。実験データによれば、この遺伝子が人によってわずかに違い、どのタイプの遺伝子を持つかは親から譲り受ける ことで決定されニコチン受容体を持った人は肺ガンになりやすいと結論づけている。deCODEジェネティス社のステファンソン博士らは「危険遺伝子を持っ ている人は、ニコチン耽溺に陥りやすく、タバコを常用し肺ガンになる」としている。一方残りの2つの研究グループは、この結論に反対し「タバコと肺ガンは無関係だ」 としている。国際癌研究機関のブレナン博士らのデータによれば、タバコを吸わない人でも危険遺伝子を持っている人がお り、非喫煙者についても遺伝子を大規模に調べたところ、「タバコを吸わなくても、危険遺伝子を持ってさえいれば、肺ガン発生率が高い」と結論づけていると いう[27]。『日経ビジネス』の記事よりおよそ二ヶ月前、4月3日に、Natureには喫煙とガンの関係についての記事が二つ同時に掲載されていた。『日経ビジネス』の記事で言及されたアイスランドのdeCODEジェネティス社のステファンソン博士らの研究結果の記事A variant associated with nicotine dependence, lung cancer and peripheral arterial disease[28]と、国際がん研究機関のブレナン博士らの研究結果の記事A susceptibility locus for lung cancer maps to nicotinic acetylcholine receptor subunit genes on 15q25[29]である。
呼吸器疾患
- 喫煙により慢性気管支炎、肺気腫など2つの疾患のことを纏めて慢性閉塞性肺疾患(COPD)ともいう。軽度のものを含めると、習慣的喫煙者のほぼ100%に気腫性変化が生じている。一方で非喫煙者にはほとんど見られない。ヒトの肺は、数億個の直径約0.1mmの肺胞で構成され、その総面積は約50~60m2であり、この肺胞を介して血液と空気中の二酸化炭素、酸素などのガス交換を行っている。肺胞がタバコの煙に曝露されることで肺胞壁の炎症、破壊が生じ、結果的にガス交換可能な面積が減少してしまう。これが肺気腫の状態である。通常の空気を呼吸するだけでは充分なガス交換を行えず、また肺胞の破壊によって生じた肺の空洞によって胸郭の動きが制限され、呼吸困難となる。重症になると運動制限や酸素吸入を要する状態になる。喫煙は気管支喘息も悪化させることが知られている。
循環器疾患
- タバコの煙に含まれる活性酸素は、血管内皮細胞を障害する。そのため、動脈硬化が促進され、狭心症、心筋梗塞、脳血栓 、脳塞栓、動脈硬化、動脈瘤、閉塞性血栓性血管炎(バージャー病)などのリスクが増加することが統計的に示されている。高血圧症治療に用いられる、β遮断薬の降圧効果を減じる作用がある[30]。
妊娠中の喫煙による影響
- 喫煙は、妊娠を脅かす最大の防ぎうる危険因子である[31]。周産期死亡の10%・低出生体重児の35%・早産の15%が喫煙に起因するという研究[32]がある。妊娠中に能動喫煙あるいは受動喫煙すると、流産、早産の危険性が上昇し、出生後の 乳幼児突然死症候群(SIDS)、中耳炎、呼吸器感染症や行動障害などの罹患率が増加する。また、口蓋裂、口唇裂[33][34]などの先天異常の危険性も高まる。
- 禁煙などによる精神的ストレスは喫煙ほど児に多大な影響を及ぼさないことを、英国の疫学研究[35]が示している。日本では母子手帳に「喫煙を直ちにやめる」よう記載されている。
免疫低下・感染症
- 小児において、喫煙環境と中耳炎の因果関係が明らかであるとする意見がある[36]。また喫煙は、インフルエンザへの感染リスクも数倍高く、感染症のリスクを増加させる。喫煙者は呼吸器を傷害するなどのメカニズムにより肺結核の危険も高い[37]。
歯科疾患
- 喫煙は歯肉の血管を収縮させ歯肉の炎症後の血管新生を遅らせる。炎症自体を起こしにくくさせることなどから、喫煙者では歯周病有病割合が高く、歯の喪失本数も多いことが統計的にも示されている。歯周病は、口腔のみならず全身の動脈硬化を促進することから、心筋梗塞や早産のリスクを高め、動脈硬化のリスクを相乗的に高める可能性がある。日本国外では、タバコの容器には、進行した歯周病の写真と「タバコは歯周病を起こす」というメッセージが表示されている国もある。
精神
- 喫煙する人ほど自殺願望を抱きやすいとする研究が、ドイツの青年層を対象としたインタビュー調査でなされている[38]。
その他の疾患
- 糖尿病:2007年に発表されたメタ分析[39](対象論文25、調査人数1200万人)によれば、現役喫煙者は非喫煙者よりも2型糖尿病の罹患率が1.6倍高いという。
- 勃起不全(ED):現役喫煙者は非喫煙者よりも2倍以上勃起不全の罹患率が高いという[40]。
平山論文
国立がんセンター長の平山雄は1966年(昭和41年)から1981年(昭和56年)にわたって、40歳以上の健康な妻91,540人の中から発生した200人の肺がん患者を疫学調査し、夫が喫煙する家庭では、非喫煙者の妻が肺がんにかかって死亡する危険性があるとした[41]。この平山論文は受動喫煙が持つリスクを世界で初めて指摘したものだが、調査手法の不備について批判も受けている[42]。 1985年2月12日、フランスのリヨンでWHOの機関である国際がん研究機関の医学専門家が50人集まり、たばこ煙はヒトへの発がん性があるか否かについて最終的な結論をだす会議が開かれ、平山も参加した。化学的、生物学的、疫学的に検討され、受動喫煙についても日本を含む各国の研究内容の一つ一つについて詳しい検討、批判、議論を行った。会議最終日には満場一致で「たばこの煙(主流煙、副流煙)のヒトへの発がん性の証拠は十分」であると結論された[43]。
受動喫煙者への影響
非喫煙者が喫煙者のたばこ煙を吸う受動喫煙により、肺がんや虚血性心疾患、呼吸器疾患、乳幼児突然死症候群などの危険因子になっている[21]とされる。受動喫煙者の死亡率は10万人に5000人、すなわち20人に1人であると言われている。[44]。
受動喫煙を及ぼすたばこ煙を環境たばこ煙と呼ぶこともあるが、1997年2月にカリフォルニア州環境保護庁(Ca-EPA)が発表した「環境たばこ煙曝露による健康影響」(Health Effect of Exposure to Environmental Tobacco Smoke)では、環境たばこ煙は、肺がん、副鼻腔がん、心臓病、冠状動脈疾患、乳幼児突然死症候群、低体重児、未熟児、気管支喘息、慢性呼吸疾患などの原因になると言われている。また伊佐山芳郎は、アメリカでの受動喫煙が原因の肺がん死亡率は10万人中700~1000人であり、心筋梗塞死は10万人中3000人が死亡すると推定されると主張した。[45]。
日本医師会によると、(空間による希釈を考えなければ)副流煙に含まれる有害物質は、(喫煙者が吸う)主流煙の数倍から数十倍多いとされている[46]。
一方、養老孟司は、受動喫煙の危険性は問題外であり、低温で不完全燃焼するタバコから発生するので有害というのは科学的根拠はないと批判した[47]。
また室井尚は、受動喫煙の害は全くエビデンスに基づいておらず、喫煙団体が提示している各種写真や統計は捏造であるとし、WHOの喫煙キャンペーンとIWCの反捕鯨キャンペーンに共通する恣意性を指摘している[19]。
弁護士の伊佐山芳郎は、受動喫煙は「非喫煙者の健康権、人格権に関わる現代最大の人権問題の一つと言わなければならない」と述べている[48]。 ジャーナリストの落合一郎は、野外・屋内構わず進む禁煙区域の急速な拡大によって、むしろ喫煙者の人権が蔑ろにされており、上手く共存出来ないものなのかと苦言を呈している。[49]
喫煙の効用
元癌研究会附属病院の頭頸科に勤めていた医師の名取春彦は、テレビや新聞はタバコ有害論しか言わないが、たばこの喫煙には下記の効用があるとしている[50]。
- 覚醒作用
- リラックス作用
- 発想の転換を促す
- 気付け作用
- 痴呆病の予防になる可能性が大
- 喫煙所は自由人達の社交場
1960年から2004年の研究を調べた2007年のメタアナリシスでは、性別・年齢にかかわらずニコチンがパーキンソン病の防御因子になると報告されている[51]。
嫌煙権・喫煙権
かつては、職場、家庭、航空機や電車・バスなど公共の場などにおける喫煙が許容されていたが、1980年代中頃から、「アメリカでは自己管理が出来ない肥満者や喫煙者は出世できない」と言う噂を元に職場での禁煙や分煙(喫煙所の設置)を導入する企業が現れ始め、これに端を発して徐々に国民的な禁煙活動が広まり、喫煙者から非喫煙者が健康被害や臭いの付着等の迷惑を被らないようにする嫌煙活動へと発展して嫌煙権が定着した。
嫌煙権が定着する事による喫煙者への圧力に伴い、喫煙者からは喫煙権が主張される様になった。これは法的になんら問題なく、また憲法で保障された自由権の行使であり嫌煙者に非難されるべきものでは無いと言う主張に基づき、また1980年4月7日に起こされた嫌煙権訴訟にて嫌煙権に否定的な判決が下された判例もそれを後押しした。2009年11月に鳩山政権がタバコ税の引き上げを検討した際に、共産党の市田忠義書記局長は健康問題と税問題を絡める事を批判し「禁煙権と同時に喫煙権もあり、国民的な議論が必要だ」と主張した。[52]
嫌煙者は煙や悪臭による不快感や健康への悪影響などを強いられる事に大きな苦痛を感じている反面、喫煙者はこれらに無配慮で有ったり、又は逆に嫌煙者の苦情や禁煙活動により苦痛を感じており、その認識には大きな隔たりがあることから、当事者間においてしばしば感情的な対立を招くケースが見られる。このような感情的な対立がエスカレートとした事例としては、1999年に営団地下鉄の車内において喫煙していた者に車内での喫煙をやめるよう注意したところ、アイスピックで左胸を数カ所刺されるといった事件が発生している[53]。
たばこ産業側の動き
アメリカたばこ会社による説明
- 1995年、カリフォルニア大学医学部の5名の研究チームは、ブリティッシュ・アメリカン・タバコ社(BAT社)とブラウン・アンド・ウィリアムソン社(B&W社)[註釈 1]の1962年から1984年にわたる内部文書を入手し、内容を暴露した。それによると、両社はニコチンの薬理学的な研究を進める過程で、たばこの嗜癖性をもたらすニコチンの作用を、早い時期からはっきり認識していた[54]。それにも関わらず、1994年に同社を含む7大タバコ会社の最高責任者たちは、「ニコチンに嗜癖性はない」と主張していた。それらの嘘に対してタバコ会社は1996年、全米各州に約2460億ドルもの巨額の賠償金を支払うことになった[註釈 2]。その一方で、世界で初めて受動喫煙のリスクを指摘した平山論文に対し、数百万ドルを投じて批判キャンペーンも行った。
たばこ産業による資金提供
- カリフォルニア大学のBarnesらは、受動喫煙の健康への影響について1980年から1995年の間に発表された106編の論文を調査したところ、67編(63%)の論文では受動喫煙は有害であるとしていたが、39編(37%)の論文では受動喫煙の有害性が否定されていた。この39編の論文のうち、29編がたばこ産業から資金提供を受けていた。統計的には、ある論文が受動喫煙が健康に害を与えないという結論を出すことと有意に関連した因子は、さまざまな因子のうち"たばこ産業からの資金提供を受けていたこと"のみであった(しかもオッズ比88.4倍と、非常に強く関連していた)[55]。
- 2003年、エンストロームとカバットが「受動喫煙と虚血性疾患・肺癌との関連性は、一般に考えられているより小さいかもしれない」と結論する研究を、たばこ産業の資金援助の下で行い、発表した。これは後に、「大衆を欺く目的で科学に操作を加えた詐欺行為の証拠」とされた。詳細は「エンストローム論文」を参照
- 英国の哲学者であるロジャー・スクルートンは、過去にたばこを擁護する内容の記事を新聞や雑誌に投稿していたが、日本たばこ産業(JT)から資金援助を受けていたことが2002年に暴露された。スクルートンは他に、「マクドナルドの製品の方が健康に悪いと印象づけるべきだ」「WHOの信頼性を疑わせるような記事をメディアに載せるべきだ」などの助言をJTに対して与えていた。詳細は「ロジャー・スクルートン」を参照
禁止除草剤混入事件
1987年に米国内で販売が禁止されている基準値0.5ppm以上のダイカンバ(除草剤)に汚染されたタバコが国内に輸入され、141万本が日本国内に出回る事件が起きた。この事件については同年6月5日の参議院決算委員会において、旧大蔵省及び外務省が5月20日の段階でこの情報を知りながら、回収を行わないまま調査結果を内密にするよう米政府に要請していたことについての質疑が行われている[56]。
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統計
喫煙率
ジャパニーズ・パラドックス
1965年(昭和40年)には、日本人成人男性の喫煙率は82.3%と他国よりも圧倒的に喫煙者が多かったにもかかわらず、2011年(平成23年)現在では老人と呼ばれる人々が長寿でいる。しかも日本は世界一の長寿国であると、2011年(平成23年)5月13日、世界保健機関(WHO)の「2011年版世界保健統計」で発表している[57][58]。これを「ジャパニーズ・パラドックス」と呼ぶ。「喫煙が寿命に関わる唯一の要因である」という命題は、「喫煙率が高い」ことと「寿命が短い」こととの間に必ずしも関係性があるとはいえないことから「偽」であり、パラドックスが生じている[59]。この命題は、世界各国と日本との比較であり、日本人同士では、喫煙する日本人の寿命は喫煙しない日本人の寿命より短い[60]。
喫煙率以外の統計
年度 | 販売数量(億本) | 販売代金(億円) | 代金/数量(円/本) |
---|---|---|---|
1990 | 3,220 | 35,951 | 11.16 |
1995 | 3,347 | 38,327 | 11.45 |
2000 | 3,245 | 41,681 | 12.84 |
2005 | 2,852 | 39,694 | 13.92 |
2006 | 2,700 | 39,820 | 14.75 |
2007 | 2,585 | 39,820 | 15.14 |
2008 | 2,458 | 37,270 | 15.16 |
2009 | 2,339 | 35,460 | 15.16 |
2010 | 2,102 | 36,163 | 17.20 |
年度 | 農家数(千戸) | 面積(千ha) | 一人あたりの面積(a/戸) |
---|---|---|---|
1990 | 42.2 | 30.3 | 72 |
1995 | 30.4 | 26.2 | 85 |
2000 | 23.1 | 24.2 | 105 |
2005 | 15.0 | 19.2 | 128 |
2006 | 14.5 | 18.6 | 128 |
2007 | 13.8 | 17.9 | 129 |
2008 | 13.1 | 16.9 | 129 |
2009 | 12.3 | 15.9 | 129 |
2010 | 11.5 | 15.1 | 130 |
年度 | 生産量(t) | 販売代金(億円) | 代金/生産量(万円/t) |
---|---|---|---|
1990 | 80,544 | 1,493 | 185.3 |
1995 | 70,391 | 1,554 | 220.8 |
2000 | 60,803 | 1,171 | 192.6 |
2005 | 46,828 | 843 | 180.1 |
2006 | 37,739 | 686 | 181.8 |
2007 | 37,803 | 693 | 183.3 |
2008 | 38,484 | 694 | 180.3 |
2009 | 36,601 | 681 | 185.9 |
2010 | 29,297 | 542 | 184.9 |
喫煙と社会経済
- 税収源としてのタバコ
日本においてタバコは喫煙によって直接的ないし波及的に発生する社会的な問題がある一方、たばこ税の税収としての一面もあり、2007年(平成19年)の税収は2兆2,703億円である[61]。
- 喫煙による経済的損失
世界銀行は喫煙の全経済効果を分析し、タバコを経済活動から締め出した場合、現役喫煙者がタバコに費やす金銭は他の商品・サービスに用いられて新たに雇用と経済活動が生まれ、大半の国ではたばこ産業で失われた雇用を穴埋めできると試算している[62]。
アメリカ合衆国の場合、たばこ消費を無くしたならば13万人以上の雇用増加が見込めるという試算がある[63]。また保健社会福祉省は、喫煙が毎年1670億ドル(喫煙者一人当たり約3650ドル、現役喫煙者がたばこ購買に使う810億ドル[64]の倍以上)の経済損失になっていると試算している[65]。
日本の場合、厚生労働省が健康日本21の中で、喫煙によって国民医療費の5%が超過医療費としてかさむことや、煙草関連疾患による労働力損失を含め[註釈 3]、「社会全体では少なくとも4兆円以上の損失がある」と試算している[66]。 また、喫煙による社会損失は年間7兆円余りという2001年度の試算があり[67]、その内訳は直接超過医療費12,900億円、受動喫煙による超過医療費146億円、喫煙関連疾患による労働力損失58,000億円、火災による損失が2,200億円としている[68]。
- 喫煙と貧困
喫煙は、世界の貧困問題と不可分である。世界的に、学歴が低く、低所得、失業中などの人において喫煙率が高いことを示す統計研究がある[69]。 世界銀行は、2020年までには喫煙で死亡する10人のうち7人は低〜中所得諸国が占めるようになると予測している[62]。
- 喫煙による死亡数
喫煙は、世界で最大の予防可能な死因であるとされる[註釈 4]。しかし、これには異論もあり、煙草による健康被害は疫学上の推測であり、科学的に証明されたものではないため、死亡に至る他の因子があっても、それが現役喫煙者である場合、喫煙を原因としてカウントする場合があるなど、必ずしも煙草が死亡原因とは言い切れない。
日本では厚生労働省は、健康日本21の中で、「最新の疫学データに基づく推計では、たばこによる超過死亡数は、1995年(平成7年)には日本では9万5000人であり、全死亡数の12%を占めている」と試算してる。
- ごみとしての紙巻きタバコ
- 世界中で海岸ゴミを拾っている国際海岸クリーンアップキャンペーンによれば、上位十傑のプラスチックゴミ(2007年現在)を除くと、海岸ゴミの中では紙巻きタバコ関係が最も多く、残りの約三分の一を占める。
- 札幌市では、紙巻きタバコの吸殻の投げ捨てに対して罰金1000円を課す「ポイ捨て等防止条例」を導入したところ、歩き煙草をする人が9割近く減ったことが市の追跡調査でわかり、過料が紙巻きタバコのポイ捨て防止に効果のあることが明らかになった[70]。
なお、路面、側溝、水路等へのごみの投棄はもとより軽犯罪法で禁じられている。
- 悪臭源としてのタバコ
たばこの煙にはアセトアルデヒドやアンモニアやスカトールをはじめとする臭いの元となる成分が200種類以上含まれており、消臭剤・芳香剤市場では主な悪臭源のひとつに「たばこの臭い」が挙げられているが、喫煙者は嗅覚疲労により感じにくくなる。アンモニア、スカトールは糞尿の悪臭成分で、それらを燃焼させることでより強い悪臭となる。また煙にはタールが含まれているため、衣服やエアコンのフィルターなどに吸着した臭いは取れにくい。
- 火災とタバコ
2003年版消防白書によると、建物火災の10.6%、林野火災の14.7%がタバコが原因であり、放火に次ぐ主な出火原因となっている。タバコ火災のうち57.8%が紙巻きタバコの投げ捨て、18.7%が火源の転倒、落下(寝タバコなど)によるものである。
- 歩行喫煙
歩行喫煙は、周囲に煙を浴びせることで生理的嫌悪感を与え、また、非喫煙者にとって目や喉に肉体的な苦痛を与える。とくに、喉の弱い人(喘息や気管支炎の人)は、希望しない煙の吸引により病気を負うことが少なくない。また、歩行喫煙の紙巻きタバコの火が、他の歩行者等の人体、衣服等を焦がす等の問題も指摘されている。紙巻きタバコでの歩行喫煙は、小さな子供等の顔面近くの高さで前後に振られながら移動しており、これが子供に傷害を負わせることがある[71]。こうした問題に対して日本たばこ産業では、喫煙のマナー向上の広告をタバコ自動販売機や電車の中吊り広告等に掲示している。
- 電子機器に対しての喫煙の害
マイクロソフト社はハードウェアの問題を最小限に抑える方法のひとつとして、コンピュータの周囲で喫煙しないことを薦めている。各金属接点に付着することにより接触不良を起こす原因となる。また空気の通り道にタールが付着することによりそこへゴミが張り付き、温度上昇やトラブルの原因となる。タバコの煙は、かつて汎用機などで使われた半密閉型ハードディスクドライブ等に対し特に悪影響があり、その寿命を縮めるといわれた。これは精密機器である磁気記録ディスクの表面にある磁性体の溝が、タバコの煙の粒子より当時は大きく(溝が小さいから不安定というのは誤解)、この溝に煙がかかることで読み書きが安定しないからである。
- 禁煙利権
昨今、禁煙を推進するための多くの制度設計が成された事により禁煙利権が生まれ、問題の指摘が成されている。厚生労働省が受動喫煙を防止するためさらなる法案成立を目指し、その裏にはある利権があることが指摘されている。厚労省関係者主導により2011年には職場での受動喫煙防止に関する法的義務付けにより40億円程度の予算が見込まれている。このことは「一旦通ってしまえば将来的には自動的に大きく膨れあがっていく、こんなことだから予算規模はドンドン大きくなって行く」との別省からの批判の声も挙がっている。[72]
日本のたばこ行政
日本では、たばこ事業を管轄しているのは厚生労働省ではなく、財務省である。日本国外では、タバコは人体に影響を与える「薬品」であるとして衛生医薬品を管理する省庁が管理している。また財務省は、日本唯一のたばこ製造メーカーである日本たばこ産業(JT)の筆頭株主たることが「日本たばこ産業株式会社法」によって義務付けられている[註釈 5]。これはタバコが課税物資(たばこ税によっての税収元)と捉えられている為、たばこ特別税による『旧国鉄で生じた国鉄清算事業団の債務返還』に充てがわれている面もある。更にたばこ事業法のように、たばこ税収の規模を鑑みてのたばこ産業の発展を目的(同法第1条)とした法律も残っている。健康面においては、従来の未成年者喫煙禁止法などに加え、健康増進法第25条や路上喫煙禁止条例・受動喫煙防止条例のような禁煙に関する立法及び行政活動が行われている。また警告表示の管理にあたっているのも財務省である。諸外国と比べ、日本の警告表示には写真等が一切含まれず、文面も穏やかである。
各国の喫煙規制・喫煙対策
日本
世界的にみると、公共の場所・交通機関等では全面禁煙が進んでいる。日本は先進諸国の中で最も喫煙率が高かったが、健康増進法が施行された21世紀初頭から禁煙に関する運動が活発化し、喫煙率は先進国の平均的レベルまで低下してきている。また、喫煙による周囲への影響や防災上の理由もあり、企業内での禁煙化・分煙化も進んでいる。病院、商店街、公共施設などでは施設内は全面禁煙が原則であるが、例外として別に設けた喫煙所を提供したり、または空調によって喫煙場所からの煙が他に流れないようにするなどの工夫も見られる。ただし、飲食店では一部[どこ?]を除いて禁煙化が遅れている店[どこ?]が多い。
また、企業の火気取扱設備、危険物取扱設備、製造ライン、倉庫、制御室、研究所等は、防火上や品質、機器のメンテナンス(特にOA設備やFA設備が煙を嫌う。)上の理由で当初から全面禁煙である。2005年の朝日新聞による報道によると、一部の企業では社内を全面禁煙にし現役喫煙者を採用選考の対象にしない場合もある[73]。
公共交通機関と病院、クリニック(1970年代に全面禁煙)は最も早く禁煙が進んだ施設の一つである。JRの特急、新幹線は旧国鉄時代の慢性的な赤字の一部をタバコの税収(たばこ特別税)で補填された経緯もあり、喫煙者に対する一定の配慮を行っているが、2005年頃から急速に禁煙化が進んだ。2010年JT発売嗅ぎタバコの機内利用は、吐く息のニコチンが換気が充分にはできない狭い機内の空気環境を悪化させるとして全日空は全面禁止であるが、日本航空は許可としている。
その他の施設ではライブスタジオ内は全面禁煙となっており、ドーム内などでも分煙化が実施され、ナゴヤドームではすでに全面禁煙が実施されている(同時に喫煙エリア、喫煙ルーム、喫煙関連の商品の販売も廃止)。2011年以降は東京ドームとその周辺でも同様に全面禁煙として喫煙エリア、喫煙ルーム、喫煙関連の商品の販売も廃止する方針である。
中央官庁庁舎は官庁・役所の中で最も禁煙化が遅れているが、厚生労働省は2006年4月より庁舎を全面禁煙化した。
2010年2月25日、厚生労働省は健康増進法に基づき、全国の自治体に、学校、体育館、病院、百貨店、飲食店などの公共的な施設を原則的に全面禁煙とするように求める「健発0225第2号」通知を出した[74]。「分煙」では、たばこ煙の漏洩によって受動喫煙は防げないという理由による。ただし罰則規定はない。また、全面禁煙がきわめて困難な場合には、将来的な全面禁煙を前提にした暫定的な分煙を実施するよう求めた[75]。
北中米・カリブ海
- 米国 - 州や都市によって異なるが、飲食店内や公共の空間では全面禁煙であることが通常である。タバコメーカーに対する喫煙被害に関する訴訟は広く知られている。
- カナダ - 喫煙室を除く屋内の公共空間、交通機関が禁煙。
- キューバ - 葉巻が特産物だったキューバでも大規模な禁煙政策が実施されている。1986年、カストロ議長(当時)が自身の健康のためと国民に禁煙の重要さをアピールするため、自ら禁煙宣言を行った。
ヨーロッパ
紙巻きタバコに関しては、概して非常に高額なたばこ税が課されている(但し、原価や利益率等が高い場合や、物価自体が高い場合もあり、そういった場合は、相対的に安く感じるため、一概には言えない)。ただし、手巻き煙草やパイプ煙草等はそこまで高くない場合が多い。
- フランスの喫煙 - 2007年2月に空港や病院、学校、駅(プラットフォームを除く)などの公共空間における禁煙が定められ、違反者に対する罰金も設定された。2008年1月からは公共の場所、及び飲食店での喫煙が全面禁止となった。
- イタリア - 2005年1月10日から「禁煙法」が施行され、それまでの公共施設・機関のみならず、全ての屋内及び公共の場での喫煙が禁止されている。違反者には27.2~275ユーロの罰金が課せられ、周囲に子どもや妊婦がいた際には罰金がさらに倍額となる。[76]
- 英国 - 2007年から、全飲食店、職場、交通機関を含む屋内の公共空間の喫煙が一律禁止。喫煙室などの設置は禁止(例外として刑務所、ホテルの客室、精神病院、介護施設、海上油田掘削基地、潜水艦内は分煙が許される)。また同年10月より、18歳未満の者へタバコを販売することは如何なる理由であっても違法となった。
アジア
- 中国 - 2005年にたばこ規制枠組み条約を批准した。2008年の北京オリンピックや2010年の上海万博などを控え、禁煙の法整備が進んでいる[77]。
- 韓国の喫煙 - 鉄道各線、地下鉄、バス、飛行機(国内線)はすべて禁煙で、高速列車「KTX」にも喫煙席の設定はない。駅についてはホームは全面禁煙。駅舎は喫煙室以外では全面禁煙。
- 北朝鮮 - 2004年、国の最高指導者である金正日総書記が20年間かけて禁煙に成功したことにより政府は「禁煙統制法」を発令した。官公庁の施設からの灰皿の撤去、禁煙地域での喫煙に対する罰金化、現役喫煙者の大学入学資格取り消しなどの規制がされた。禁煙に成功した金正日は「タバコは心臓をねらう銃のようなもの」とコメントした。
- タイ - 空調の効いた公共的な建物(空港、駅、バスターミナル、レストラン、ショッピングセンター等)は喫煙室以外すべて禁煙。鉄道、バスの車内も全面禁煙。
- ベトナム - 空港は喫煙所以外禁煙。しかし、たばこに関する法律が曖昧で、喫煙は18歳以上は許される。たばこに関しては寛容。但し、テレビコマーシャルでの宣伝は禁止されている。また、ベトナム国民での若い女性の喫煙はタブー視されている。しかし、ベトナム国民での女性老人に対してはその限りではない(ベトナムでは年長者を尊重する為)。DUNHILLやMarlboroも1カートン200,000VND程度。たばこのパッケージには健康に関する警告文や写真もない(2007年現在)
- ブータン - 国内全面禁煙を目指しており、2004年よりブータン国内におけるタバコ販売が一切禁止された。ブータン国民以外の観光客のタバコ持ち込みは可能だが、ブータン国民が個人輸入・持ち込みをした場合は100%の関税が課される。
- シンガポール - レストラン、ホテルなど屋内のほとんどが禁煙。吸殻に限らずいわゆるポイ捨てをすると高額の罰金(場合によっては鞭打ち刑)を課される。
交通機関の喫煙規制
広告
F1では、以前多くのたばこ会社が車体に広告を出していたが、2006年度以降ヨーロッパをはじめ世界中でタバコ広告が禁止されるようになったことで、たばこ会社はフィリップ・モリスを除き全社がF1のスポンサーから撤退した。現時点で、2005年度以降F1全レースにおいてタバコ広告は存在しておらず、タバコ広告を禁止する法律がないバーレーンでも、フィリップ・モリス(フェラーリのスポンサー)は車体に広告を載せておらず、今後国を問わず全レースで車体に広告を載せない方針であることからF1からタバコ広告が消えることになった[78]。 日本では、以前タバコのコマーシャル(広告)が放送、新聞、雑誌などのメディアで頻繁に行われていたが、青少年の喫煙を促すとともに健康への悪影響を懸念する意見が多くなったことから、段階を追ってコマーシャルを自主規制する動きが出ている[79]。
たばこの警告表示
ファシズムと喫煙
20世紀のファシズム、ナチス・ドイツと大日本帝国において喫煙の政策は対照的であった。ナチス政権はさまざまな反タバコ運動を展開した。大日本帝国には、未成年者喫煙禁止法等の法令による喫煙禁止政策は存在したが、タバコは専売制が敷かれ、戦費調達等を目的とした国家のための戦略的収入源であった[4]。大日本帝国終焉後の日本で専売制が廃止され、現代の日本における禁煙志向は高まっている。大日本帝国による統治から解放後の朝鮮半島では、2006年に北朝鮮でたばこ統制法が成立し[80]、2012年現在の韓国で官民ともに本格的な禁煙の取り組みが見られるようになり[81]、同年にタバコの有害性に関する違憲訴訟が発生している。かつてナチス・ドイツに支配されたフランスは、タバコの制限に関するヴェイユ法(Loi Veil、1976年)、エヴァン法(Loi Évin、1991年)等を制定し、フランスにおける喫煙はその後さらに強力な規制がなされている。
現代において、愛煙家などが禁煙運動の論評・批評として批判的に捉えて形容する「禁煙ファシズム」という言葉がある。タバコは日本及び全世界でも認められている合法的な品目であり、嗜好品として捉えることができる。しかし、WHOや先進国を中心に、「禁煙を強要」する風潮が激しくなってきている。これに対し、喫煙を擁護する言論や表現が封殺されている、という主張である。
註釈
- ^ それぞれイギリス、アメリカのたばこ会社。BAT社はB&W社の親会社にあたる。
- ^ この経緯は映画『インサイダー』に詳しい。
- ^ 喫煙による経済的損失とは以下の事項を含む。
- ^ WHOは、タバコを世界で2番目に多い死因で、10人に1人がタバコが原因で死亡(毎年540万人)し、現在喫煙している者のおよそ半数(約6億5千万人)が最終的にはタバコが原因で死亡するという。世界銀行の出版物Jha P, Chaloupka FJ. Curbing the Epidemic: Governments and the Economics of Tobacco Control. Washington, DC: The World Bank; 1999.では、2030年までに、6人に1人(年間約1000万人)が喫煙によって死亡すると予測されている
- ^ 同様に、酒類関連の製造・販売事業も、日本では財務省(国税庁)の所轄である
脚注
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- ^ 現役喫煙者採りません 強まる社内禁煙 asahi.com 2004年4月19日
- ^ 厚生労働省健康局長 受動喫煙防止対策について (PDF)
- ^ 公共的施設の全面禁煙要請を全国自治体に通知 厚労省 MSN産経ニュース
- ^ イタリアツアー Q&Aのイタリア禁煙法について アリタリア航空
- ^ 北京の公共施設で禁煙スタート 5月から サーチナ 2008/04/30(水)
- ^ フェラーリのマシンから“Marlboro”ロゴ消滅 RACING-LIVE 17/04/08 04:33
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関連項目
- ブレンダー (職業) (タバコの葉の調合師)
外部リンク
- たばこの歴史 - 日本たばこ産業(JT)
- たばこの歴史と文化 - たばこと塩の博物館
- 厚生労働省 ~たばこと健康に関する情報ページ~