医療大麻
医療大麻(いりょうたいま、Medical Cannabis)または医療マリファナとは、大麻(マリファナ)に含有される天然のTHCやその他のカンナビノイド成分や、それらに類似した構造を持つ合成カンナビノイドを利用した生薬療法である。アメリカ合衆国では2014年7月時点で23州[1][2]、他にカナダ、イスラエル、ベルギー、オーストリア、オランダ、イギリス、スペイン、ドイツ、フィンランド、オーストラリアなどで使われている。通常、大麻の使用には処方箋が必要になり、地域的な法によって販売(配給)の方法が異なる。
医療大麻には数多くの銘柄があり、含有されるカンナビノイドの配合比率が多様であるため、効能や薬理作用が異なり、したがって異なった多くの症状に特化して処方されている。アメリカ合衆国では、腰痛、消耗症候群、慢性痛、末期エイズ患者の食欲増進、ガンの化学療法に伴う吐き気の緩和などのために処方されている[3]。多くの場合、乾燥大麻として処方され、摂取方法としては喫煙であり、嗜好品としての大麻と同様にパイプにつめてから燃焼させて成分を吸引する。
合成カンナビノイドのドロナビノール(英: Dronabinol)は、合成テトラヒドロカンナビノール(合成THC)であり、マリノール(英: Marinol)という商品名で医薬品として管理され販売されている。合成カンナビノイドの、ナビロンはセサメットの商品名で欧米で販売されている。大麻抽出成分を含有するナビキシモルスは、サティベックスという商品名でカナダ[4]やイギリスにて医薬品として処方されている。これらの合成カンナビノイドや大麻抽出成分医薬品は、法律において大麻とは異なる規制管理下に置かれている。
大麻の医療利用について多くの研究がなされ、現在も研究が進められている[5][6][7][8]。
しかし日本においては、大麻草は大麻取締法の規制により、大麻に含有されるカンナビノイド類の化学成分(THC)は麻薬及び向精神薬取締法[9]の規制により、医療目的であっても使用、輸入ならびに所持は禁止されている。
2013年ごろから日本で規制されていない、茎や樹脂からとれたCBDを含むオイルがアメリカから輸入されるようになっている。CBDオイルはTHC(いわゆるハイになる物質)を一切含んでおらず合法的に輸入代行業者から購入できるため、必要な患者から期待が寄せられている[要出典]。
薬効成分
大麻は窒素を含まない、炭素、水素、酸素のみからなるカンナビノイド(CB)と呼ばれる特有の成分を61種含んでいる(窒素を含まないため、植物に広く含有されるアルカロイド成分ではない)。
テトラヒドロカンナビノール
テトラヒドロカンナビノールは、THCの略称で知られている大麻の精神作用活性成分である。ハーバード大学の試験管及びマウスを使った研究で、THCが一般的な肺癌腫瘍の成長を半減させ、転移拡大する能力を抑えることが示されている[10]。ドイツの臨床研究ではTHCの経口投与で線維筋痛症の痛みに対して顕著な緩和効果が見られている[11]。
カナビジオール
カナビジオールは、CBDとして知られている。医療大麻の主成分であり、大麻草からおよそ40%のCBDが抽出可能である[12]。CBDには痙攣、不安神経症、炎症、嘔吐などの緩和と癌細胞の成長の抑制に作用する[13]。さらに近年の研究により統合失調症に対する非定型抗精神病薬としての効果があることが示されている[14]。2007年11月に公表された研究報告ではCBDが試験管内で乳癌の悪性癌細胞を減らし、浸襲性を軽減することが明らかになった。これは毒性のない外因性の要因で攻撃的な腫瘍の活性低下に繋がる事を意味する[15][16]。また、CBDは神経保護作用のある抗酸化物質である[17]。
2-アラキドノイルグリセロール
2-アラキドノイルグリセロール(2-AG)は、体内に自然に存在する内因性カンナビノイドであり、神経の過剰な興奮を防ぐことに有用であるとされている[18]。また、慢性疼痛、不安や抑うつ、肥満の治療に有用であるとされている[19][20]。
用法用量
医療大麻は、乾燥大麻、ハシシ(大麻樹脂)、チンキ、合成THC、抽出大麻成分、鎮痛・消炎パッチ、クリーム、調理大麻など様々な形態で用いられる。
乾燥大麻・大麻樹脂
大麻の品種ごとに含まれる大麻成分が異なり、得られる医療効果が違うため、疾患ごとに適した大麻を使用することが可能である。傾向としてはサティバ種にはCBDが多く含まれており、インディカ種にはCBDが少なく、THCが多く含まれている。
- 喫煙パイプ及びジョイント
- 喫煙パイプやジョイント(大麻を煙草状にしたもの)などで乾燥大麻を燃やして煙を吸う方法である。
- 即効性があり、効率良く効果が得られるため、医療効果が極めて大きい。欠点として有害なタールが発生するため、呼吸器官への損傷が懸念されるが、大麻の抗癌物質が作用して発癌リスクは低いとされている[21]。
- ヴェポライザー
- ヴェポライザーと呼ばれる器具を使って、乾燥大麻から大麻成分を気化させることによってタールを発生させることなく摂取する方法である。また即効性があり、効率良く効果が得られ、医療効果もジョイントとほぼ同等である。病院で用いられることが多い[22]。
- 調理大麻
- 大麻をクッキーやチョコレートなどにして経口摂取する方法である。
- 即効性が無い分、長く持続する。服用後1時間以上かかる。摂取量の調整が難しい[22]。
- 得られる医療効果は大きい。
大麻製剤
合成大麻成分や抽出大麻成分の錠剤・カプセルまたはスプレーなどの医薬品。
- ドロナビノール(合成THC)
- ドロナビノールは、アメリカ合衆国ではマリノールという製品名で販売されているTHCを化学合成したピル(丸薬、錠剤)である。
- 即効性はなく、服用後1時間以上かかる。また得られる医療効果も弱い。
- 目眩、過度の多幸感、パラノイド反応、眠気、思考異常などの副作用が出ることがある[22]。
- ナビキシモルス
- ナビキシモルスは、サティベックスの商品名で販売される、大麻の全成分を抽出した液体状の医薬品である。スプレーの携帯で使用される。
- 即効性は少々遅いがドロナビノールと比べると早い。得られる医療効果は乾燥大麻と比べると劣っている[22]。
- ナビロン
- ナビロンは、欧米でセサメットの商品名で販売されている。
セキュリティ[23] (10) |
安全性[24] (5) |
使い易さ[25] (10) |
医療効果[26] (25) |
総合評価 (50) | |
---|---|---|---|---|---|
ドロナビノール | 10 | 5 | 5 | 2 | 22 |
クッキー及びチョコ | 8 | 5 | 5 | 11 | 29 |
サティベックス | 10 | 5 | 10 | 15 | 40 |
パイプ及びボング | 7 | 3 | 8 | 23 | 41 |
ヴェポライザー | 7 | 5 | 6 | 24 | 42 |
ジョイント | 6 | 3 | 10 | 24 | 43 |
効能
大麻には鎮痛作用、沈静作用、催眠作用、食欲増進作用、抗癌作用、眼圧の緩和、嘔吐の抑制などがあり、アメリカ合衆国では慢性痛患者の8.9%が自己治療で大麻を使用している[27]。また、モルヒネなどのオピオイド系鎮痛薬やイブプロフェンのような非ステロイド系抗炎症剤に十分な効果が見られない疼痛に対して大麻が有効である[28][29][30][31]。ほかに、神経保護作用や、脳細胞の新生を促す作用が存在するらしいことが示唆されている[32]。
大麻はHIV[33]、アルツハイマー[34]、うつ病[35]、強迫性障害[36]、不眠症[37]、てんかん、気管支喘息、帯状疱疹、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、クローン病、パーキンソン病など、約250種類の疾患に効果があるとされている[38]。
利点として大麻が医療用途に注目される理由には
- 身体的害(副作用)が少なく、第一選択薬として望ましい。
- 法的規制の問題を除けば、本質的には製造・入手が容易かつ安価。
- 嗜好植物としての大麻には多くの品種が存在しており、薬効成分(THC、CBDなど)のバランスが多様なため、患者の個人差・病状の差に適合した品種を見つけることができる(一種のテーラーメイド医療と言える)。
- 既存の治療薬の効果が薄かったり、副作用が強い患者に対して別の選択肢となりうる。(代替医療)
- いまだ有効な治療薬が存在しない疾患、難病に対して効果が認められることがある。
緑内障
幾つかの研究により、大麻の摂取が眼圧の低下をもたらすことが示されている。緑内障の原因として眼圧の上昇による視神経の損傷が挙げられており、これらの研究発表により多くの人が大麻摂取を用いた眼圧の低下が緑内障の治療法になると考えた。1970年代にアメリカ合衆国で行われた研究は、大麻の喫煙時に眼圧が低下することを示した[41]。大麻から抽出された薬物が緑内障治療としての効果を持つか否かを解明する試みの一環として、1978年から1984年にかけてアメリカ国立眼科研究所は調査研究を助成した。それらの研究において経口的もしくは経静脈的に投与された時、もしくは喫煙をした時に、大麻の派生物は眼圧を低下させることが証明された[42]。しかし、目への局部投与ではそれは証明されず、また、市場で流通するその他の治療薬に比べて安全にかつ有効的に眼圧を低下させるかについても証明されなかった。2003年、アメリカ眼科学会(American Academy of Ophthalmology)は「現在利用でき得る薬物に比べて、緑内障治療の為に大麻使用することによる軽減されるリスク、及び、増大する恩恵の証明を科学的な証拠は示さなかった」と見解している[41]。
薬物依存症
THCや2-AGがモルヒネ禁断を抑制するため、依存性薬物による依存症のアゴニスト療法としての治療薬の可能性がある[43]。
コカイン、ヘロイン、覚醒剤、アルコールなどの依存症から脱却するための治療薬として、自己治療や、一部の医師やカウンセラーの指導の下で大麻が用いられている。エビデンスが確立してはいないが、高い効果が認められることがある。
適応疾患
下記は文献や診察を元にして、大麻を用いる事で何らかの治療効果が得られた疾患の表である[38]。疾患名は国際疾病分類第9版(ICD-9)に準拠する。
- 性器ヘルペス
- ペニスのヘルペス感染
- エイズ関連疾患
- 西部ウマ脳炎後遺症
- 化学療法回復
- 帯状疱疹
- 放射線治療
- 慢性ウイルス性B型肝炎
- 慢性ウイルス性C型肝炎
- 節足動物媒介疾患
- ライム病
- ライター症候群
- ポリオ後症候群
- 悪性黒色腫
- その他の皮膚癌
- 前立腺癌
- 精巣癌
- 副腎皮質癌
- 悪性脳腫瘍
- 多形神経膠芽腫
- 癌全般
- リンパ節細網癌
- 骨髄性白血病
- 子宮癌
- リンパ腫
- グレーブス病
- 後天性甲状腺機能低下症
- 甲状腺炎
- 成人糖尿病
- インスリン依存型糖尿病
- 偶発性成人糖尿病
- 糖尿病性腎症
- 糖尿病性眼科疾患
- 糖尿病性神経障害
- 糖尿病性末梢血管病
- 低血糖症
- 脂肪腫症
- 関節障害、痛風
- ムコ多糖症
- ポルフィリン症
- アミロイド症
- 外因性肥満症
- 病的肥満
- 自己免疫疾患
- 血友病A
- ヘノッホ・シェーンライン紫斑病
- 老年痴呆
- 振戦せん妄
- 統合失調症
- 統合失調感情障害
- 躁病
- 突発性大うつ病
- 反復性大うつ病
- 双極性障害
- 自閉症、アスペルガー症候群
- 不安障害
- パニック障害
- 広場恐怖症
- 強迫性障害
- 気分変調性障害
- 神経衰弱症
- 書痙
- 心因性インポテンツ
- アルコール依存症
- オピエート依存症
- 鎮静薬依存症
- コカイン依存症
- アンフェタミン依存症
- アルコール乱用
- タバコ依存症
- 心因性多汗症
- 心因性幽門痙攣
- 心因性排尿障害
- 歯ぎしり
- 吃音
- 神経性食欲不振症
- 非特異的チック障害
- トゥレット症候群
- 持続型不眠症
- 悪夢
- 過食症
- 緊張性頭痛
- 心因性疼痛
- 外傷後ストレス障害(PTSD)
- 器質性精神障害
- 脳振盪後症候群
- 非精神器質性脳症候群
- 頭部外傷
- 間欠性爆発性障害
- 抜毛癖
- 非多動性注意欠陥障害
- 注意欠陥・多動性障害
- その他の注意欠陥障害
- その他の心因性疾患
- パーキンソン病
- ハンチントン病
- むずむず脚症候群
- フリードライヒ失調症
- 小脳性運動失調症
- 脊髄性筋萎縮症(II型)
- 筋萎縮性側索硬化症
- その他の脊髄性疾患
- 脊髄空洞症
- 反射性交感神経性ジストロフィー(RSD)
- 多発性硬化症
- その他の中枢神経系脱髄性疾患
- 半身麻痺
- 脳性麻痺
- 四肢麻痺
- 対麻痺
- 非特定運動麻痺
- てんかん
- 大発作てんかん性疾患
- 辺縁系激怒症候群
- ジャクソン型てんかん
- 片頭痛
- 古典的片頭痛
- 群発性頭痛
- 脳圧迫症
- 有痛性チック障害
- ベル麻痺
- 胸郭出口症候群
- 手根管症候群
- 下肢単発神経炎
- シャルコー・マリー・トゥース病
- 神経障害
- 筋ジストロフィー症
- 黄斑変性症
- 緑内障
- 弱視失読症
- 色覚異常
- 結膜炎
- 視神経の集晶
- 視神経炎
- 斜視、両眼視
- 先天性眼振
- メニエール病
- 耳鳴症
- 高血圧症
- 虚血性心疾患
- 狭心症
- 動脈硬化性心疾患
- 心伝導障害
- 発作性心房頻拍
- 開心術後症候群
- レイノー病
- 閉塞性血栓血管炎
- 結節性多発動脈炎
- 急性副鼻腔炎
- 慢性副鼻腔炎
- 慢性肺障害
- 肺気腫
- 喘息
- 自発性気胸症
- 肺線維症
- 嚢胞性線維症
- 歯顎顔面異常痛症
- 顎関節症候群
- 胃食道逆流症
- 急性胃炎
- 胃炎
- 消化性潰瘍疾患、胃腸障害
- 潰瘍性大腸炎
- クローン病
- 幽門痙攣性逆流症
- 限局性腸炎、
- 大腸炎
- 大腸憩室症
- 便秘症
- 過敏性腸症候群
- 術後ダンピング症候群
- 腹膜痛
- 非ウイルス性肝炎
- 膵臓炎
- 腎炎、腎障害
- 尿管結石痙攣
- 尿道炎、膀胱炎
- 前立腺炎
- 精巣上体炎
- 精巣回転症
- 骨盤内炎症性疾患(PID)
- 子宮内膜症
- 月経前緊張症
- 腟痛
- 更年期障害
- スタージ・ウェーバー症候群
- 湿疹
- 天疱瘡
- 表皮水疱症
- 多形性紅斑
- 酒さ
- 乾癬性関節炎
- 乾癬
- そう痒症
- 白色萎縮症
- 脱毛症
- ループス
- 強皮症
- 皮膚筋炎
- 好酸球増多筋痛症候群
- 関節リウマチ
- フェルティ症候群
- 変形性関節症
- 外傷後関節炎
- 変形性関節障害
- 膝蓋軟骨軟化症
- 強直症
- 多発性関節痛障害
- 椎間板ヘルニア
- 腰部椎間板疾患
- 頚部脊髄症
- 頚部椎間板障害
- 頚腕症候群
- 腰仙後部障害
- 脊柱管狭窄症
- 腰痛症
- 末梢腱付着部症
- 腱鞘炎
- デュプイトラン拘縮
- 筋痙縮
- 線維筋痛症、結合組織炎
- オスグッド・シュラッター病
- ティーツェ症候群
- メロレオストーシス
- 脊椎すべり症
- 脳動脈瘤
- 脊柱側弯症
- 潜在性二分脊椎
- 骨形成不全症
- エーラス・ダンロス症候群
- 爪膝蓋骨症候群
- ポイツ・ジェガース症候群
- 肥満細胞症
- ダリエー病
- マルファン症候群
- スタージ・ウエーバー症候群
- 不眠症
- 睡眠時無呼吸症候群
- 慢性疲労症候群
- 振戦、不随意運動
- 筋筋膜性疼痛症候群
- 食欲不振症(拒食症)
- 過換気症
- 咳
- しゃっくり
- 嘔吐
- 吐き気
- 下痢
- 尿管痛
- 悪液質
- 椎骨脱臼
- むち打ち症
- ぎっくり腰
- 肩部傷害
- 前腕、手首、手部傷害
- 臀部傷害
- 膝、踵、足の傷害
- 乗り物酔い
- リウマチ
- うつ病
- アナフィラキシー様症状
副作用
通常の摂取では目の充血、頻脈、喉の渇きなどがある。長期使用は精子の濃度が低くなることが観測されているが、短期間の大麻や大麻成分の医療使用が生殖機能を妨げるといった深刻な懸念を指摘しているものは見られない[39]。また、トリップしてしまう閾値以下の用量に抑えることが、むしろ医療効果を最大に引き出すとされており、副作用は総じて問題になりにくい。
大麻の医療使用では深刻な副作用が起こらないことが確認されており[44]、煙による害を除けば、大麻使用による副作用は他の医薬品で許容されている副作用の範囲内にある[39]。
大麻は依存性が低く、耐性もカフェイン程度に低いため [45] [46]、適正使用では依存症に陥ったり、摂取量が増えたりすることはない。また、大麻が直接の原因(1次的死亡原因)による死亡例は無い[47][48]。
WHOの依頼により2015年に作成された「大麻とその医療使用についての最新版」[49]は、「現在の予想では、毎日の大麻ユーザーの25-50%が大麻 中毒になるということである。 現在の情報、特に慢性使用(中毒、認識及び行動支配の危殆化)の否定的な作用からみれば、大麻 が長期の限定のない自由な使用のための医学的監督の下で、問題なく使用されることができると確信することができません。」と述べる。
分類 | 1次的死亡原因 | 2次的死亡原因 |
---|---|---|
大麻 | 0 | 279 |
制吐剤[50] | 196 | 429 |
抗痙攣剤[51] | 118 | 56 |
抗精神病剤[52] | 1,593 | 702 |
その他[53] | 8,101 | 492 |
合計 | ||
大麻 | 0 | 279 |
FDA承認薬(17種) | 10,008 | 1,679 |
各国の法律と医療大麻の状況
日本
日本では大麻取締法第四条第一項第二号と第三号の規定により、大麻から製造された医薬品の施用は出来ない。そのため医療目的での所持も取締りの対象となり、7年以下または10年以下の懲役刑となる。また、大学などの研究機関で主にカンナビノイド受容体作動薬を使った研究が少ないながらも行われているが、臨床試験は行われていない。
アメリカ合衆国
アメリカ合衆国の州法では、医療目的の大麻の使用が認められている州が、2014年7月時点で23州あり、アラスカ州、カリフォルニア州、コロラド州、ハワイ州、メイン州、メリーランド州、ミシガン州、モンタナ州、ネバダ州、ニューメキシコ州、オレゴン州、ロードアイランド州、バーモント州、ワシントン州、ほかである[1][2]。しかし、アメリカ合衆国連邦法である規制物質法の元では、大麻はスケジュールIに分類され厳しく管理されており、医療使用も認められていない。マリノールは規制物質法の基スケジュールIIIに分類され、医師による処方が許容されている。また、食品医薬品局(FDA)[54]と麻薬取締局(DEA)[55]は「大麻には医療価値はない」との見解を示している。 アメリカ精神医学会も、マリファナが精神障害の治療のために多少なりとも有益であるという現在の科学的な証拠がないとする[56]。
医療大麻法が執行されている州では、医師による処方箋と医療大麻のライセンスを発行してもらうことで、ディスペンサリーや医療大麻クラブなどで大麻を処方できる。しかし州法によって合法的に医療用大麻を販売・所持していても、連邦法では違法であるため、連邦捜査機関のDEAやFBIによって逮捕されるといった問題[57]がある。そのため、2000年にエイズ治療に大麻を所持・使用していた、作家のピーター・マクウイリアムズが逮捕され、大麻を使用するための裁判を強要されたが、嘔吐による窒息で死亡するといった事態が起きている(医療大麻は制吐作用も含む)。そうした状態が、ジョージ・W・ブッシュ政権終了まで続いたが、バラク・オバマ政権において、2009年2月にホワイトハウス広報担当官は、医療大麻関連の施設へのDEAによる強制捜査を終了することを発表して[58]、DEAのミシェル・レオンハート局長とエリック・ホルダーアメリカ合衆国司法省長官は、医療大麻に対する強制捜査を終結したことを宣言した[59]。
アメリカにおける医療大麻法は、1996年にカリフォルニア州の住民投票によって成立したのが始まりである。1998年にはアラスカ州、オレゴン州、ワシントン州で住民投票により成立した。アリゾナ州は住民投票で法案が通過しているが、州憲法によって執行不能である。ワシントンDCでも、住民投票で法案が通過しているが、連邦議会に執行を阻止される。2007年のコネチカット州では法案が議会を通過したが、知事による拒否権発動で不成立に至っている[60]。2014年に、大麻販売がコロラド州で許可され、ワシントン州でも許可される予定である。
2011年ワシントン州最高裁は「連邦法の下ではワシントン州の患者であっても合法的に大麻を使用する権利を持っているわけではない」[61]とし、2015年コロラド州の最高裁判所は、「被雇用者は州法によって医療用マリファナの使用は認められている。しかし、連邦法の下では違法であり、州法は被雇用者を擁護しない」[62]として、いずれも雇用主は医療用マリファナ使用の被雇用者を解雇できると判決した。2008年カリフォルニア州最高裁[63]、2010年オレゴン州最高裁[64]も同様の判決をしている。
カナダ
カナダ保健省大麻医療利用課は多発性硬化症、脊髄損傷、脊髄疾患、癌、HIV/エイズ、重度の関節炎、てんかんの患者を対象にして医療大麻のライセンスの発行をしている。しかし、運営がうまく機能していないため、ライセンス取得者数が少なく、ライセンス発行の遅延や品質の良い大麻が提供されていないなどの欠点がある。そのため、医療目的での大麻使用者の大半が法的には違法に大麻をディスペンサリーや医療大麻クラブなどから購入して所持・使用している。
オランダ
オランダは1976年より寛容裁策を行い、コーヒーショップで処方箋やライセンスに関係なく大麻を購入できるようになっている。2003年にすべての薬局で処方箋による大麻の取扱いを行ったが、高価で品質が良くなかったために売れ行き不振で2005年に取扱い中止に至っている。が、2006年にグローニンゲンで成分構成の違う160種類以上の効力の強い大麻を専門の薬局にて安価で販売が再開されている[65]。政府が提供する大麻にはガンマ線照射が義務づけられており、細菌のコロニー数がコーヒーショップで売られている大麻よりも圧倒的に少ない。
オーストリア
2008年7月9日、オーストリア議会は医療目的と研究のための大麻栽培を認可した[66]。
イスラエル
テルアビブの医療クリニックで保健省の許可を得て、癌やエイズ患者の痛み緩和のために合法的に使用されている。保健省からライセンスを受けられるのは癌、エイズ、クローン病、その他の病気による慢性的な疼痛、治療の副作用で苦しんでいる患者に限定されている[67]。
スペイン
スペインでは1990年代後半から2000年代前半にかけて医療大麻の非犯罪化と合法化運動が行われ、2001年にカターニャの議会は全会一致で医療大麻が合法化された。それに次いでアラゴンとバレアレス諸島の議会でも合法化された。スペインの刑法では大麻の販売が禁止されているが、使用は禁止されていない。2000年前半まで刑法では大麻の医療使用とリクリエーション使用とが区別されていなかった。しかし次第に、いくつかの判例では使用目的によって判決に変化が見られるようになった。2006年からは大麻種子の販売が合法化され、公共の場での所持・使用は禁止されたが、プライベートでの所持・使用は認可された。さらに個人の土地で大麻の栽培が認可された。
いくつかの研究では癌、エイズ、多発性硬化症、発作、喘息などの患者に治癒効果があることが報告されている。これらの研究は様々なスペインの機関が指揮を執り、マドリード・コンプルテンセ大学のエマニエル・グスマン教授を筆頭にラ・ラグーナ病院のルイス・ゴンザレス・フェリア神経科医またはバルセロナ大学によって行われた。
法律制定後、いくつかの大麻クラブがバスク国とカタルーニャ州で設立された。これらのクラブは欧州内でも初めての非営利団体で会員は大麻の栽培費用を負担する形式になっている。2006年にはクラブの会員は裁判で大麻の所持と販売を放免された。
フランス
薬物政策に対しては欧州内でも保守的な立場だったが、2013年6月に保健省は従来の政策を転換し、大麻の活性成分の医療目的利用を認める方針を発表した。さらに、2014年1月に同省は大麻由来の医薬品の処方を解禁すると発表した。フランス医薬品・保険製品安全庁(ANSM)による初の販売許可を受けた措置である。 [68] [69] [70]
ドイツ
医療大麻は薬局で慢性痛、多発性硬化症、トゥレット症候群などで保健省から大麻の使用を認可された患者を対象にして販売している。販売されている大麻はオランダから輸入したTHC含有量18%の大麻で15ユーロ(約1800円)とオランダの薬局で売られている大麻の2倍の値段である[71]。
スリランカ
伝統療法のアーユルヴェーダには大麻を使った調剤が多くあり、現在でも使われている。しかし大麻禁止措置がとられているため、医療目的の大麻の栽培は行われていない。そのため現在はその大部分が違法栽培で押収された大麻が使われている。が、品質と量が安定しないなどの問題点がある[72]。
オーストラリア
2016年2月、オーストラリア議会は麻薬法を改正し、医療大麻が合法化された。この改正によって、医療目的と科学的研究目的の栽培が認められるようになった。[73]
合法化運動
欧米では医療大麻の合法化運動などの活動が長年の間行われている。2009年1月にはバラク・オバマ陣営が大統領就任前に立ち上げた「市民の提言集」[74]では"大麻規制の終了"が投票によって1位にランクインされている。また、政権への提案を募ったChange.orgでも、"大麻合法化"提案が約20000票を獲得して2位に4500票の差で1位にランクインした[75]。
大麻合法化の活動団体であるマリファナ・ポリシー・プロジェクト(MPP)は2010年の住民投票において、オハイオ、マサチューセッツ、アリゾナの3州で医療大麻法の成立を目標に掲げている。また議会による医療大麻法の制定に向けてイリノイ、ミネソタ、ニューハンプシャー、ニューヨーク、デラウエア、アイオワ、ノースカロライナ、ペンシルベニア、バージニアの9州でロビー活動を展開している[76]。
医療大麻合法化の著名な支持者は、ノーベル賞受賞者のミルトン・フリードマンやハーバード大学医学部のL・グリンスプーン準教授といった学者、ウィリー・ネルソン、スヌープ・ドッグなどのアーティスト、ロン・ポール共和党議員[77]など多岐にわたる。中には過去に大麻規制派に属していた支持者もおり、"麻薬のないアメリカ財団(Drug Free America Foundation)"の副理事長だったデイビッド・クラールや1996年のワシントンDCでバー修正法によって医療大麻法の執行を阻止したボブ・バー元下院議員などが医療大麻のためのロビー活動に合意している[78][79]。
医療大麻を支持する団体としてはアメリカ内科医師会、アメリカ医師会医学生部会、アメリカ家庭医学会、アメリカ公衆衛生協会など[80]の約300の医療機関が支持している。また、アメリカ精神医学会が総会で全会一致で医療大麻の支持を採択した[81]。
ただしアメリカ内科医師会は2015年5月、内科医に対しマリファナ使用による精神疾患に注意すべきであるとする文書を掲載している[56]。アメリカ家庭医学会は、若干の州が医療大麻の使用を合法化したことを支持しないとする[82]。アメリカ精神医学会は、2013年の文書で、医療大麻研究の推進を支持するものの、マリファナと精神障害の関係を警告し、副作用についての十分な臨床所見が得られるまでは、現在の方針と施策は変えられてはならないとする。[83]
日本でも小規模ながらも合法化運動や医療大麻に関する裁判[84]が行われている。
脚注
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- ^ 逮捕され刑罰を受けるなどの社会的リスクが低いかどうかの評価。
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