制作進行

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制作進行(せいさくしんこう)は、映像作品の制作において制作管理に携わる人のことを指す。制作進行は、あくまでプロデューサーの一種ではなく、ADとプロデューサー間の仲介役としての中間職である。実写映画では、進行主任などとも呼ばれるが、プロダクション·マネージャーではなく、アシスタントの一種である。アニメやテレビでは制作進行と呼称される[1]

会社によっては若干名称が異なる場合があり、例えば、東映東映アニメーション(東映動画)では製作進行京都アニメーションでは制作マネージャーと呼称されている。

実写作品の制作進行

実写作品において制作進行とは、制作部の助手のことを意味する。

制作部は、プロデューサー、ラインプロデューサー、制作担当、制作主任、制作進行からなる。

プロデューサーは企画からの作品全ての管理、ラインプロデューサーは現場の予算管理、制作担当・制作主任は主にロケ地を探すロケハンを担当しその交渉に当たる[2] が、制作進行は主に上司に当たる制作担当・制作主任の助手として働き、ロケ地までの地図の作成、スタッフへの連絡、弁当の発注、現場で使用する制作備品(キャストの椅子、テープ類やタオル、雑巾、雨具、車止めのパイロン、赤色灯、虫除け救急セット、お茶セットなど)の購入、管理などを行う。

制作車を通常運転し、現場に一番初めに入り、撮影機材置き場の確保、衣裳メイク場所・キャスト控え室・お茶セットのセッティング、現場を傷つけないように緩衝材をひくといった現場のセッティングを行い、後から来るスタッフの誘導を行う。現場が終われば、その逆の動きをして撤収する。

朝食、昼食、夕食の弁当を手配・セッティングし、ゴミの分別・処理を行う。

必要であれば現場の車止めを行い、録音の為に工事現場などの音止め交渉を行う。

毎朝スタッフ・キャストの為のお茶を沸かさなければならないため早朝4時起床、制作車の運転、食事の発注とセッティング、車止め、音止め、ゴミの処理、撮影終了後の清掃を行う等の為、現場が始まると睡眠時間は3~4時間となる日もある。

制作部は車の運転をしなければならないため、運転免許証は必須である。

アニメーション作品の制作進行

「制作」「進行」と略称されることもある。主にテレビアニメにおいて、中心となるスタッフを補佐及び全工程における各部署の橋渡し役である。

アニメの制作工程のおおむね全てについて実際に見聞することが出来、また演出家など制作の中心スタッフとも直に接することで勉強になるため、ここを出発点にプロデューサー、演出家になる者も多い。

概要

作画・背景美術・仕上・撮影・現像・編集といったアニメ制作の工程は、分業化され外注プロダクションの作業に支えられている例が多い。制作進行は、そのテレビアニメの担当話数の演出家(各話演出)の指示の下、制作スタジオ同士を素材を運んで回る。原画が完成したら動画へ、動画が完成したら仕上げへ、といった具合である。

ある素材について現在どの部署が受け持っているか、変化する最新の状況を常に把握する。納品日へ向けての残り日数と必要な作業量との兼ね合いを、確認して調整する。演出家だけでなく作画監督などそれぞれの部署のチーフをはじめとするスタッフと、スケジュール管理のために折衝を行ない、トラブルが起こればその解決に走り回る。絵コンテなど複数の人間が共有する必要のある資料のコピー取りや、時にはスタッフの自宅からスタジオまでの送迎もある。仕事の内容は多岐にわたり、また多くの人々とも触れ合う。

地味で目立たない仕事ではあるが、制作進行がいなければアニメの制作は成り立たない。移動に公共交通機関を使うことは、ほとんどない。素材を詰めたカット袋を運ぶため、車の運転免許証は制作進行にとって必須となっている。

アニメのスタッフの生活リズムが規則正しいとは限らない。素材が出来上がるまでは待つしかなく、また出来上がったらすぐさま次の工程へと素材を運ばなければならない。しわ寄せを受けて勤務時間が不規則かつ長時間になり、制作進行は常に過重労働の状態にあると言ってよい。肉体的な疲労のみならず、常に逼迫したスケジュールは、精神的にも厳しい仕事である。拘束時間が長く厳しい仕事にもかかわらず、待遇は決して高給とは言えない[注釈 1]。過酷な業務のため短期間で辞める者も多く、年に数回募集をかける会社もある。

こうした事情から制作進行は、アニメ業界に入るには間口の広い役職の一つとなっている。いくつかの例外を除き、アニメ制作会社がいきなり新人の演出家を募集して養成することは無く、制作進行の激務に耐え、経験を積んで生き残った人材が結果的に演出家や制作プロデューサーとなることが多い。

セル画で制作されていた時代は演出助手を兼ねる[注釈 2] 場合もあり、演出の横で「撮影出し」(必要な素材を組み合わせて揃える、撮影準備)の作業をすることもあった。

また、外回りだけでなくデスクワークも存在する。進行表の作成や制作日誌(作品による)を担うことが多い。ここでは、全体のスケジュールから、各工程のアップ予定を立てて、各スタッフに周知・実行させるなど、先を見通した立案能力、コミュニケーション能力、管理能力が求められる。

3DCGを多く取り入れたアニメでは3DCG制作における制作進行(「3D進行」など呼称は様々)が置かれる場合もある。

制作デスク

制作進行が昇進すると制作デスクとなる。2000年代からほとんどの作品でこの役職がクレジットされている。別名で「制作担当」、東映アニメーションでは「製作担当」と呼ばれる。

トムス・エンタテインメントには似たような役職に、脚本の制作管理を行う「文芸担当」という役職を置いている。

テレビアニメを制作する場合、各話によって制作進行担当者が異なり、数名でスケジュールを組んで交代しながら担当する。その番組についた数人の制作進行を統括する役職のことを言い、予算とスケジュールを管理する。

設定制作

アニメ作品内に出てくるキャラクター・建物・小物などの新たな設定を描き起こして貰うため、デザイナー(キャラクターデザイナー・アニメーター・イラストレーターなど)に発注したり、出来上がった設定資料の管理を行うのが主な仕事である。加えて、設定資料が既定通りに正しく運用されているかどうかを各工程でチェックし、作品のクオリティコントロールの一端を担う。あまりスタッフロールにクレジットされていなかった役職だが、2000年代頃からこの役職が多くの作品でクレジットされるようになっている。

京都アニメーションでは「設定マネージャー」と呼ばれており、他にも「設定管理」と呼ばれる場合もある。

サンライズ、またその系列に当たる会社では、プロデューサーでなく演出志望の制作はデスクでなくこの役職に就く事が多い(ただし設定制作が必ずしも演出志望というわけではない。また進行から直接演出助手になるパターンもある)。

ラインプロデューサー

制作デスクがさらに昇進するとラインプロデューサーとなり、制作面でのプロデューサーとなる。別名で「制作プロデューサー」と呼ばれる。

デジタル化とオンライン化

1990年代以降に日本のアニメ業界ではデジタル化が進められ、仕上げ・撮影の作業はコンピュータで処理されるようになった。

制作進行を題材にしたアニメ

脚注

出典

  1. ^ 今野 晴貴著『ブラック企業2 「虐待型管理」の真相』、文藝春秋、ISBN 978-4166610037、2015年、164-167頁参照。
  2. ^ 『日活スタッフインタビュー』vol.10 「プロデューサー和田倉和利さん」”. スタッフインタビュー. 日活. 2009年8月17日 24:38閲覧。

注釈

  1. ^ ただし、制作部を持つ企業は大手および準大手であることが多いため、正社員、或いは契約社員として採用されることが多い。このため、企業側からの滞納さえ無ければ少なくとも歩合制の新人アニメーターよりは安定した収入が得られる
  2. ^ 東映アニメーションでは演出助手・製作進行兼任時は「演助進行」という役職でクレジットされることがある。

関連項目