出汁
だし・出しは、コンブや鰹節等の食品を煮て出した汁。出し汁、にだしともいう。[1]
概要
料理に甘・酸・苦・鹹の味覚のほか、肉や野菜、キノコや海藻から抽出したうま味を加えるために用いられる。うま味成分である呈味性のアミノ酸や核酸、栄養を含み、また香りも与える。
食文化によって各種存在するが、だしの材料としてグルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸などを含む食材が利用されている。またこれらを粉末等にした製品もある。洋食や中華料理の汁物やスープに使われる湯やブイヨンなども洋風だしや中華だしなどと呼ばれることがあり、これらに対して特に日本料理のだしを呼ぶときは和風だしと呼ばれる。
日本料理においてだしは味の基礎となっている。代表的なものは、鰹節とコンブである。他にシイタケや野菜、魚の粗や煮干しなど様々なだしがある。 [2]
日本料理
1643年に発行された『料理物語』に「だしはかつお」、1777年『倭訓栞』(谷川士清)には「垂汁または煮出」と「タレ」と「ダシ」が書かれている。現在は出汁と書いてだしと読む表記もみられる。
グルタミン酸のコンブと、イノシン酸の削り節などの魚介類やグアニル酸の椎茸など組み合わせを使用し、煮たり乾物を水に浸して成分を抽出する方法が用いられる。鶏肉やスッポン、ウミガメが使われることもある。精進料理においては、コンブ、椎茸の他に、大豆、モヤシ、六条豆腐(塩蔵した乾燥豆腐)なども用いられる。
だしは麺類や、おでんなどの鍋料理や煮物など様々に用いられる。また、和え物の味付けに利用したり、酢などを割って二杯酢など別の調味料としたり、一夜漬けなどの調味に使用する事がある。西日本において「だし」と表記する場合は、うどん用のつゆそのものを指すことがある。また讃岐うどんで知られる香川県ではつゆの作成のためにだしを醤油に抽出させただし醤油が置かれる。
だしを取ったあとのだしがらも、醤油等で味を付けふりかけなどに利用される。
日本国外においても、日本風のだしを素材の持ち味を引き出す隠し味として西洋料理に応用する試みが行われている[3]。
日本料理では吸物に用いる一番だしや、下味を付けたり汁物に用いる二番だしなど用途によってだしを使い分ける。[2]
だしには以下のようなものがある。
- あわせだし - 複数の食品からとっただし。特に昆布と鰹節のあわせだしが使われる。
- 精進だし - 肉を禁じた、精進料理に使われるだし。コンブ・干し椎茸・かんぴょう・大豆・小豆などを水につけたり煮たりして取る。
- 八方だし - だしに塩で味をつけたもの。醤油とみりんで味を付けるばあいもある。下味を付けたり煮炊きに用いる。[2][1]
また地域や用途によって以下のようなものがある
- 関東風そばつゆのだし - 主に関東での蕎麦で使うだし。沸騰した湯のなかに、鰹節やソウダガツオの削り節などを入れてそのまま1時間ほど煮出してから絞り漉す。このだしに、醤油と砂糖のみりんのかえしを入れて、つゆとなる。[4]
- 関西風うどんつゆのだし - 主に関西でのうどんで使うだし。コンブを煮てしばらく沸騰してから取り出す。鰹節にサバ、ウルメイワシの削り節のブレンドを加えてれて煮出してから漉し絞る。このだしに、醤油と砂糖とみりんを入れて、つゆとなる。[4]
- 沖縄料理のだし - 沖縄料理では、鰹だしと昆布だしの他、豚のばら肉の茹で汁を濾したものを豚だしとして用いる。
- ラーメン汁のだし - ラーメンの汁は、鶏肋や豚骨、野菜やコンブ、煮干しなど様々である。
各国のだし
中華料理
中華料理では、鶏肉、鶏ガラ・鶏骨、豚肉、中国ハム、貝柱、海老などが材料として使われる。
韓国料理・朝鮮料理
韓国料理・朝鮮料理においては、牛肉、鶏肉などが材料としてよく使われる他、貝のだしも用いられる。肉のゆで汁をだしとして用いる場合も多く、牛肉のだしをユッス(肉水、육수)という。
西洋料理
西洋料理においては、牛・鶏・魚および野菜(タマネギ、ニンジン、セロリなど)・香草類などを素材として作る。肉のほか、すじ肉や骨も使い、オーブンでこげ目をつけた上で長時間煮込む。においを取るためにブーケガルニと呼ばれる香草類のセットを用いる(パセリ、タイム、ローリエ等)。エビやロブスターの料理では、むいた殻でだしをとることもある。
ストック(英語版説明)も参照。フランス料理では、子牛を素材として使ったものはフォン・ド・ヴォー、仔羊のものはフォン・ダニョー、シカ、イノシシ、ウサギやウズラなど野鳥獣のものはフォン・ド・ジビエ、鶏のものはフォン・ド・ヴォライユ、魚のものはフュメ・ド・ポアソンと呼ばれる。イタリア料理ではブロードと呼ばれる。
フランス料理
フランス料理では、だしを用途によって使い分ける。大きくは、コンソメやポタージュなどのスープに用いるブイヨンと、ソースに用いるフォンとに大別される。 フランス料理ではソースの種類によって様々なだしがある。
- 茶色い仔牛のフォン - フォン・ド・ヴォーと呼ばれる。
- 鶏のだし汁 - フォン・ド・ヴォライユと呼ばれる。鶏肋はもつジブレッツを取り除き、水で煮る。ニンジン、タマネギ、セロリなどと、ブーケガルニやコショウ、塩を加え煮て漉す。[5]
- 魚料理のだし - フュメ・ド・ポワソンと呼ばれる。魚料理へのソースや、魚スープのベースとする。白身魚の粗とタマネギ、セロリ、エシャロットなどを薄切りにしてバターで炒め、白ワイン、水、レモンの薄切り、ブーケガルニ、コショウを加えて煮出して漉したもの。[6]
- スープのだし - ブイヨンとよばれる。牛肉のすね、牛骨、鶏肉と鶏肋はもつジブレッツを取り除き、水から煮る。野菜のニンジン、タマネギ、セロリ、ブーケガルニやコショウ、塩を加えて、灰汁を取り除きながら、6時間ほど煮て漉す。[6][5]
- クールブイヨン - 主に魚介類をゆでるためのだし。クールは短時間。野菜のニンジン、タマネギ、セロリ、ブーケガルニやレモン、ライム、コショウ、塩を、水と白ワイン、ワインビネガーで短時間煮て作る。[6]
加工品
風味調味料などとも呼ばれる。原材料は、風味原料とよばれる動物性や植物性のエキス分等に、アミノ酸等のうま味調味料、塩や醤油、砂糖などの調味料など、および香辛料、デンプンなど様々である。液体や粉末・ペースト状などの加工品がある。風味によって、カツオ風、コンブ風、鶏ガラ風、コンソメ風など様々な種類がある。
表現等
自分の目的や利益のために、他の人やものを利用する・方便にすることを「だしにする」と表現することがあり、食品を用いた慣用句の一つである。
東日本では、「だし」と言えば、「昆布や鰹節や煮干しなどの下味」を指す。高齢者になるとラーメンの「豚骨や魚介や鳥の下味」は「だし」とは表現せず「でじる」や「しる」になる。そのため、西日本出身者が「だしがカラい(つゆがしょっぱい)」などと表現すると「つゆが(唐辛子のように)辛い」と思われてしまうため、西日本出身者は注意が必要である。
西日本では、「だし」と言えば、汁物やスープなどの「つゆ」を指す。これは特に関西地方で使われ、うどんの汁をだしを効かせて色を薄くする事がほとんどであるのが理由であり、関西人が「東京はうどんが辛い(濃い、しょっぱい)、大阪はうどんが薄味」と表現する事が多いのはその事が由来している。(しかし実際は大阪で使用される薄口醤油は濃口醤油よりも塩分が微妙に高いため、正確には大阪のうどんの方がしょっぱい事になる。)
脚注
- ^ a b 広辞苑第5版
- ^ a b c d e 四季日本の料理 冬』講談社 ISBN 4-06-267454-8
- ^ (英語) Harris Salat "The Secret's Out as Japanese Stock Gains Fans", ニューヨーク・タイムズ, October 14, 2008 .
- ^ a b 『四季日本の料理 秋』講談社 ISBN 4-06-267453-X
- ^ a b 『フランス料理の本 野菜・卵料理』辻静雄 講談社 ISBN 4-0620292403
- ^ a b c 『旬の食材 秋の魚』講談社 ISBN 4-06-270133-2