凍りのくじら

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凍りのくじら』(こおりのくじら)は、辻村深月による日本の小説。

2005年講談社ノベルスより発行された。第27回吉川英治文学新人賞候補作。

あらすじ

「あなたの描く光はどうしてそんなに強く美しいんでしょう」

そう訊かれたとき、私はいつもこう答えることにしている、「暗い海の底や、遠い空の彼方の宇宙を照らし出す必要があるからだ」と。

ドラえもん」の作者藤子・F・不二雄を深く敬愛する写真家の父。彼の名を継いだ新進フォトグラファー、芦沢理帆子の高校時代を追う。

学校と、飲み友達と、元彼氏と、病床の母と、行方不明の父と。どんな相手にも合わせてしまう、合わせられてしまう理帆子は、自分を取り巻く個性に名前を与えていく。例えばあの子は「少し・不安」。あの子は「少し・不満」。そして私は、「少し・不在」。藤子先生の創るSFの世界、「少し・不思議」から取り、それぞれの個性にふさわしい名を付ける遊び、「スコシ・ナントカ」。私はどこへでも行ける。誰にでも合わせられる。それが許される。「どこでもドア」みたいに。

でも、一人でいると息苦しい。誰かといても息苦しい。自分の意志など、とうに摩滅してしまっているのかもしれない。私の「少し・不在」は最近いよいよ深刻だ。

ドラえもんへのオマージュが目一杯詰まった、「少し不思議」な物語。

ひみつ道具

章題

各章のタイトルはドラえもんのひみつ道具から採られている。自身の体験を振り返り、家族の幸せの象徴は何かと考えた結果こうなった。主人公・理帆子の人柄から、負のイメージの強い道具ばかりなので、次に機会があれば明るいイメージの道具で構築されたものを書きたいと語っている[1]

その他

登場人物

芦沢 理帆子(あしざわ りほこ)
県内一の名門進学校F高校の2年生。子どもの頃から本を読むのが大好き。大の「ドラえもん」好きで、父が藤子・F・不二雄を「藤子先生」と呼び尊敬していたのと同じように理帆子自身もそのように呼ぶ。彼が遺した「ぼくにとっての『SF』は、サイエンス・フィクションではなくて、『少し不思議な物語』のSFなのです」という言葉に共感し、それ以来読書以外の場面で、人の個性や物事の性質に「スコシ・ナントカ」の言葉を使うようになる。例えば自分は、どこにいても自分の居場所だと思えず、「少し・不在」。
写真家だった父・芦沢光は、理帆子が小学6年生の頃に、癌の闘病に苦しむ姿を家族に見せたくなくて失踪してしまった。後に、理帆子自身が「二代目・芦沢光」としてその名を継ぐ。
芦沢 汐子(あしざわ しおこ)
理帆子の母親。S市の共立病院に入院している。悪性卵巣腫瘍転移もしており、余命は2年ほどと告知されている。病魔に身体を蝕まれている今、夫が失踪した過去など「少し・不幸」。
別所 あきら(べっしょ あきら)
F高校3年生。新聞部所属。色白で華奢な腕に血管が透けて見える様子が「少し・不健康」。理帆子に写真のモデルになって欲しいと頼む。ニュートラルで人に取り込まれない「少し・フラット」な性格。
若尾 大紀(わかお だいき)
理帆子の元彼。私大の法学部を卒業した司法浪人。弁護士を目指している。大きな夢と崇高な精神を持つピュアな彼は、窮屈な社会では不自由だろうと「少し・不自由」と名付けていたが、次第に「少し・腐敗」へと変わっていく。
松永 純也(まつなが じゅんや)
世界的に有名な指揮者。理帆子の父親とは幼なじみで親友。妻は日本を代表する楽器メーカーの創始者の曾孫で、娘が1人いる。男手のない芦沢家の面倒を見てくれ、金銭面での援助を買って出てくれている。人格者で欠点がなく、理帆子には逆に人間味が欠けているように感じ「少し・不完全」と思っている。
カオリ
理帆子の友人。チェーンスモーカー。より良い男を求めて飲み会を渡る「少し・ファインディング」。
美也(みや)
県内の商業高校の2年生。カオリを通じて知り合った。何かの制約を受けている気がしないため「少し・フリー」。
加世(かよ)
理帆子のクラスメイト。F高校初の女子生徒会長。反骨精神をモチベーションに、怒りを向けることのできる対象を見つけるのが大好き。「少し・憤慨」。
立川(たちかわ)
理帆子のクラスメイト。地味な自分を変えようとしている様子。友達がいないことを不安に感じる「少し・不安」な女の子。新聞部に所属しており、部長に片思いをしている。
宮原(みやはら)
J2サッカーチームの選手。カオリの紹介で理帆子と知り合う。健全でそつがなく、「少し・普通」。
飯沼(いいぬま)
大手出版社稀譚(きたん)社[2]の社員。芦沢光の写真集を出版させて欲しいと依頼に来る。
松永 郁也(まつなが いくや)
小学校4年生。松永純也の息子。私生児で認知はされているが、4歳の時に母を亡くし、家政婦と2人暮らし。口が聞けず「少し・不足」な男の子。
久島 多恵(ひさじま たえ)
郁也の家政婦。歯切れのいい口調でポンポンと喋る、「少し・フレッシュ」な女性。
ふみちゃん
ある事件で強いショックを受け、声が出せなくなり、郁也と同じ「話し方教室」に通っている女の子。小学4年生。分厚い眼鏡をかけている。

関連作品

関連項目


脚注

  1. ^ 野性時代』2009年8月号 全作品解説 p.40『凍りのくじら』
  2. ^ 綾辻行人推理小説館シリーズ」や京極夏彦の「百鬼夜行シリーズ」に登場する出版社と同名。