再審
この記事は特に記述がない限り、日本国内の法令について解説しています。また最新の法令改正を反映していない場合があります。 |
再審(さいしん)とは、確定した判決について、一定の要件を満たす重大な理由がある場合に、再審理を行なうこと。
日本において、民事訴訟の場合には判決に不服がある側が再審の訴えや不服申立ができるが(民訴法338・342-2・349条項)、刑事訴訟の場合には有罪判決を受けた者の利益のためにしか行うことができない。また、日本の裁判所においては再審請求が認められる事件は年平均わずか2~3件程度と極めて稀であり、日本の再審制度は俗に「開かずの扉」と批判されている[1][2]。
日本法上で再審の請求ができる理由
再審の請求ができる理由は、刑事訴訟法および民事訴訟法にそれぞれ定められている。
刑事訴訟の場合
刑事訴訟法第435条に定められている。有罪判決を受けた者の利益になる場合だけである[3]。具体的には以下の通り。
- 証拠となった証言・証拠書類などが、虚偽であったり偽造・変造されたものであったことが証明されたとき。
- 有罪判決を受けた者を誣告した罪が確定判決により証明されたとき。
- 判決の証拠となった裁判が、確定裁判によって変更されたとき。
- 特許権、実用新案権、意匠権、商標権侵害で有罪となった場合、その権利が無効となったとき。
- 有罪判決を受けた者の利益となる、新たな証拠が発見されたとき。
- 証拠書類の作成に関与した司法官憲が、その事件について職務上の罪を犯したことが確定判決によって証明されたとき。
刑事訴訟法第448条では再審開始をした場合は刑の執行を停止することができると規定されている。また死刑判決に対する再審開始時には刑の執行停止も同時に下される(ただし、原審破棄判決がされないまま再審が終われば、刑の執行停止は解除される。また、2014年3月、静岡地裁は袴田事件の再審開始決定の際に、死刑のみならず、裁量により死刑囚の拘置の停止をすることもできるとの判断を示した)。
死刑判決に対する再審請求中は法務省は死刑執行を避ける傾向がある。そのため、2013年12月時点で確定死刑囚の約3分の2が再審請求をしている(確定死刑囚132人に対して再審請求中が84人)[4]。再審請求をする際に延命の意図を明確に述べる弁護士もいる[5]
しかし、再審の請求における死刑執行停止はあくまで慣例であり、再審請求中に死刑執行しても法律上は問題はなく、過去には再審請求中に死刑執行された例がある[6]。
民事訴訟の場合
民事訴訟法第338条に定められている。概要は以下の通り。
- 裁判所・裁判官の構成に法律違反があったとき。
- 判決に関与した裁判官が、当該事件について職務上の罪を犯したとき。
- 証拠となった証言・証拠書類などが、虚偽であったり偽造・変造されたものであったとき。
- 判決の基礎となった民事もしくは刑事の判決又は後の前審により行政処分が変更されたとき。
- 脅迫・暴行などの犯罪行為によって、自白が強制されたり、証拠などの提出の妨害を受けたとき。
- 重要な事項について判断の遺脱(誤り)があったとき。
- 前に確定した判決に抵触するとき。
日本における有名な再審に関する事件
全て刑事事件に関するものである。
- 再審が開始された事件(再審開始決定がされた事件を含む)
- 1913年 - 吉田岩窟王事件:発生から50年後、再審による無罪判決。
- 1915年 - 加藤老事件:発生から62年後、再審による無罪判決。
- 1941年 - 金森事件:発生から29年後、再審による無罪判決。
- 1942年 - 横浜事件:検挙から63年後、再審が開始されるも、免訴判決。その後刑事補償金の支払いが認められた。
- 1946年 - 榎井村事件:発生から47年後、再審による無罪判決。
- 1948年 - 免田事件:発生から34年後、再審による無罪判決。
- 1949年 - 弘前大学教授夫人殺人事件:服役終了後に真犯人が自白し、発生から28年後、再審による無罪判決。
- 1950年 - 財田川事件:発生から34年後、再審による無罪判決。
- 1950年 - 梅田事件:発生から36年後、再審による無罪判決。
- 1952年 - 米谷事件:発生から25年後、再審による無罪判決。
- 1953年 - 徳島ラジオ商殺し事件:発生から32年後、日本初の死後再審無罪判決。
- 1954年 - 島田事件:発生から35年後、再審による無罪判決。
- 1954年 - 松尾事件:発生から35年後、日本で2件目の死後再審無罪判決。
- 1955年 - 松山事件:発生から29年後、再審による無罪判決。
- 1966年 - 袴田事件:発生から48年目に再審開始決定。
- 1967年 - 布川事件:発生から42年後、再審による無罪判決。
- 1979年 - 貝塚ビニールハウス殺人事件:事件に関与したとされ服役していた少年1名が、発生から10年後に大阪地方裁判所堺支部にて再審による無罪判決。
- 1981年 - 暴力団組長覚醒剤密輸偽証冤罪事件:発生から20年後、再審による無罪判決。
- 1990年 - 足利事件:発生から20年後、再審による無罪判決。
- 1995年 - 東住吉事件:発生から17年目に再審開始決定。
- 1997年 - 東電OL殺人事件:発生から15年後、再審による無罪判決。
- 再審開始決定をするも検察の異議申し立てで再審開始が取り消された事件
- 1961年 - 名張毒ぶどう酒事件:発生から44年目の2005年に高裁が再審開始決定するも、2006年12月に高裁の別の部が再審開始を取り消した。申立人が最高裁判所に特別抗告し2010年4月最高裁は高裁に審理を差し戻したが、2012年5月に高裁は再び再審開始を取り消した。最高裁の特別抗告も棄却される。
- 1967年 - 日産サニー事件:発生から25年目の1992年に地裁が再審開始決定をするも、1995年に高裁が再審開始を取り消し、1999年に最高裁も再審開始取り消しを認めた。
- 1979年 - 大崎事件:発生から23年目の2002年に地裁が再審開始決定するも、2004年に高裁が再審開始を取り消し、2006年に最高裁も再審開始取り消しを認めた。
- 1986年 - 福井女子中学生殺人事件:発生から25年目の2011年11月30日、名古屋高等裁判所金沢支部にて、本件の再審を開始する決定が行われたが検察は異議申し立てを行い、異議審理の結果、2013年3月6日に名古屋高等裁判所本庁が再審開始取り消しの決定を言い渡し、2014年に最高裁も再審開始取り消しを認めた。
その他
いずれも無罪を主張している事件にのみ適用されているが量刑不当(主に死刑囚)で再審請求を出すことも可能である。 ただし量刑不当で再審が認められたことは今までにない。
脚注
- ^ 庶民の弁護士 伊東良徳のサイト「再審請求の話(民事裁判)」
- ^ 困り事よろず相談処 再審
- ^ 「有罪判決を受けた者の利益になる場合だけ」とは、あくまで刑事裁判の判決の効力に関する場合だけである。そのため、有罪判決確定者への再審の判決理由において、有罪確定者とは無関係な別の人物について犯人性を認める内容が出ることもある(例:米谷事件)。
- ^ http://mainichi.jp/select/news/20131212k0000e040183000c.html
- ^ [1] (リンク切れ。富山・長野連続女性誘拐殺人事件の第二次再審請求時のコメント)
- ^ 長崎雨宿り殺人事件の第7次及び第8次再審請求中における1999年12月17日の死刑執行の例がある。