公共貸与権

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公共貸与権(こうきょうたいよけん、Public Lending Right)は、図書館における資料の貸し出しに対する補償を著者に対して実施する制度である。公貸権(こうたいけん)と略されることが多い。公共貸出権とも呼ばれる。

日本では訳語のイメージから著作権における支分権の一種と解釈されることが多いが、著作権法上の権利とせず別の法律を根拠法とする国もあり、また情報アクセスの機会保証という図書館の社会的意義から貸与を禁止する権利は含まれないことが原則とされるため、著作権法上の権利とは言い難い側面もある。

沿革

1946年デンマークが世界で初めて導入した。1979年にはイギリスで20年間にわたる議論の末、法律が制定・公布された。以後、カナダフィンランドスウェーデンノルウェードイツオランダベルギーオーストリアイスラエル豪州ニュージーランド等で導入されており、欧州委員会(EC)では1992年に全加盟国での導入を義務付ける内容の「貸与権及び貸出権並びに知的所有権分野における著作権に関係する権利に関する1992年11月19日の欧州理事会指令」が成立。イタリア図書館協会は導入に反対を表明しているが、こうした動きに対しECがイタリアやルクセンブルク政府を指令違反により欧州裁判所へ提訴する事態となっている[1]

また、国際図書館連盟(IFLA)では2004年ブエノスアイレス総会においてスペイン代表から「図書館における公衆への貸出しの防御に関する決議」が発議されたことを受け、2005年4月に制度が一般市民の情報アクセス機会を阻害する要因となるものであってはならないとする旨の声明[2]を公表している。

日本においては、著作権法第38条第5項において映画の著作物に限り図書館等で貸与に供する場合は著作権者に対して補償金を支払わなければならない旨が規定されており、限定的範囲で公貸権が導入されている。出版物の著作者に対し図書館が補償金を支払う制度は存在しない。

制度の概要

公共図書館は一般市民の情報アクセスの機会保証という設置目的から、そのサービスを有料化することは原則として不可能とされる[3]

図書館の貸出制度は、単に資料を提供するだけにとどまらず、経済的な理由で資料を入手できない人に対し資料の情報を平等に提供する“情報の再配分”という福祉的目的を含む。そのため、著作者への経済的援助を図書館に負担させる制度は、結果的に“貧乏人を支援する金で金持ちの利益を増やす制度”となる可能性を含むため、公共貸与権という概念の立法化には懐疑論が少なくない。


脚注

  1. ^ CA1579 - 動向レビュー:公共貸与権をめぐる国際動向 / 南亮一
  2. ^ Committee on Copyright and other Legal Matters(IFLA)
  3. ^ 日本においては図書館法第17条で利用者からの入館・貸与に係る対価の徴収が禁止されている。

外部リンク