介錯

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切腹の様子 後方で刀を振り上げているのが介錯人

介錯(かいしゃく)とは、切腹に際して腹を切った者の苦しむ時間を短縮するために、対象者の首を刀で刎ねて死に至らしめる行為。

概要

自殺の方法としての切腹は、実際には確実な方法ではない。ただ腹を切っただけでは人間は簡単に死ぬことができない。中国・代の安金蔵のように、割腹して自ら内臓を引き出した場合においても、医師により縫合手術を受け、無事生き延びている例もある。従って確実に死ぬためには、割腹の後、喉を突いたり、心臓を刺したりするのが普通であった。むしろ無念のあまり行う「無念腹」のように、簡単に死ねない事を逆手にとって、自分の内臓を引き出して凄惨ぶりを披露する事すらあった。

後に単なる割腹自殺でなく、刑罰や作法としての切腹が定着すると、切腹を行う者の負担を軽減するために他人が首を斬るという、介錯の作法が成立した。

首を刀で斬り落とすのには首の骨の関節を切ること、身分地域により皮を残し切り落とすなどいくつかの作法が存在した。江戸時代中期以降になると切腹の儀礼化がさらに進み、いわゆる「扇子腹」の形式で行われるようになり、切腹人が小刀・脇差に見立てた扇子に手を伸ばそうとした瞬間に介錯することがほとんどであった。

剣術の未熟な者は手許を誤って何度も斬り損ねたり、刀を損傷してしまうことも多々あり、これらは非常な恥とされたため、介錯人には特に剣の腕の立つ者が選ばれた。三島由紀夫の自害の際に介錯人となった森田必勝は2度斬り損ねたうえに、刀を曲げてしまったといわれている。

介錯には切腹に限らず世話をするという広い意味もある。舞台芸能では世話をすることを介錯と称する。例えば、文楽などの古典芸能では小道具の受け渡しを介錯と呼ぶ。現代の演劇では、幕の開閉や役者の動作の補助などを介錯と呼ぶ。照明などの角度を変更するための介錯棒という道具もある。

伝承

介錯は、現代でも無双直伝英信流無雙神傳英信流夢想神伝流)に並流された大森流の居合の業として伝承されている。 縁起が悪いため公の場での演舞ではあまり抜かないことになっているが、前記の各流派の中で伝承が続いている。 夢想神伝流では順刀とも呼ばれる。

関連項目