亜硝酸エステル

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亜硝酸エステルの構造式(anti体)

亜硝酸エステル(あしょうさんエステル、: Alkyl nitrites‎)は亜硝酸エステルで、RON=Oの一般式を持つ有機化合物の総称である。トランス型に似たanti体と、シス型に似たsyn体の幾何異性体がある。

性質

常温で気体である亜硝酸メチル以外は、無色ないし淡黄色の液体である。その多くが果実に似た香りを持ち、有機溶剤によく溶けるが、水には溶けにくい性質を持つ。N=O部の伸縮振動による特徴的な赤外吸収は、構造決定に有用である[1]

用途

安価に合成できることから、医薬品試薬ロケット燃料に配合されるなど、用途は広い。

冠血管を拡張し、平滑筋を弛緩する作用があることから、狭心症心筋梗塞に対し即効性のあるアンプル剤として使用される。吸入による血圧低下は亜硝酸イソアミルが比較的高く、ヘキシル、ヘプチル、オクチルの順に、炭素鎖が長くなると減少する。医薬品としての利用は、1879年にイギリスのW.Murrellが使用したのが始まりである[2]シアン中毒解毒剤としても重要であり、注射を必要とせず吸入により投与できる亜硝酸アミルを中心に用いられる。

亜硝酸イソブチルや亜硝酸イソプロピルを含む脱法ドラッグ芳香剤などの名目で一部で販売されているが[3]、乱用による急性メトヘモグロビン血症による死亡例がある[2]。動物実験による半数致死濃度(LC50。ラット、4時間吸入)は亜硝酸エチル160ppm、亜硝酸メチル176ppm、亜硝酸プロピル300ppm、亜硝酸イソブチル777ppmなどのデータがある[2]

合成

主に下記の合成法が採られる[4]

2ROH + N2O3 → 2RONO + H2O
ROH + NOCl → RONO + HCl
RX + AgNO2 → RONO + RNO2 + AgX
ROH + NaNO2 + H2SO4 → RONO + NaHSO4 + H2O

主な亜硝酸エステル

化合物名 読み 英名 化学式 分子量 CAS登録番号 融点 沸点 密度 比重 備考
亜硝酸メチル あしょうさんめちる methyl nitrite CH3ONO 61.04 624-91-9   -12℃   0.991  
亜硝酸エチル あしょうさんえちる ethyl nitrite CH3CH2ONO 75.07 109-95-5   17℃   0.90  
亜硝酸イソアミル あしょうさんいそあみる 3-methylbutyl nitrite (CH3)2CHCH2CH2ONO 117.15 110-46-3   97-99℃   0.875 異性体混合物は亜硝酸アミルと呼ばれる
亜硝酸イソブチル あしょうさんいそぶちる 2-methylpropyl nitrite (CH3)2CHCH2ONO 130.18 542-56-3   67℃   0.870  
亜硝酸イソプロピル あしょうさんいそぷろぴる 2-propyl nitrite (CH3)2CHONO 130.18 541-42-4   39-39.5℃   0.844  
亜硝酸 t-ブチル あしょうさんたーしゃりーぶちる 1,1-dimetylethyl nitrite (CH3)3CONO 103.12 540-80-7   63℃   0.8671 ジェット燃料
亜硝酸 n-ブチル あしょうさんのるまるぶちる butyl nitrite CH3(CH2)2CH2ONO 103.12 544-16-1   78.2℃   0.9114  
亜硝酸 n-プロピル あしょうさんのるまるぷろぴる propyl nitrite CH3CH2CH3ONO 89.09 543-67-9   46-48℃   0.8864 ジェット燃料

関連項目

脚注

  1. ^ 『窒素酸化物の事典』p190
  2. ^ a b c 『窒素酸化物の事典』p194-195
  3. ^ ラッシュ系ドラッグの薬物確認法 (PDF) (東京都健康安全研究センター 研究年報第57号(2006年))
  4. ^ 『窒素酸化物の事典』p191

参考文献

  • 鈴木仁美『窒素酸化物の事典』丸善、2008年。ISBN 978-4-621-08048-1