主食

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主食(しゅしょく)とは、食事の中心として主要なエネルギー供給源になる食物のこと。栄養素として炭水化物が豊富なコムギオオムギトウモロコシなどの穀物や、ジャガイモサツマイモタロイモキャッサバなどの芋類が主食として主に食べられている。また、炭水化物を多く含む食材のほか肉類豆類などタンパク質の多い食材も主食となる場合もある。

概要

主食は、その地域に生活する人々が活動に必要なエネルギーを取るために食べているものだが、どのような作物が主食として選ばれるかは、それぞれの国や地方の食文化によるところが大きい。基本的には、日々一定量の供給が必要な好気呼吸の材料となるものが、食事成分としては量的に重要である。

これは炭水化物、特にデンプン質として取り入れる例が多く、デンプンを主体とした種子(穀物)や根菜など、あるいはその加工品である例が多い。また、全般的に主食には淡白でかすかに甘みのある味の食物が用いられることが多い。その一方では、マメ類を主食としている地域は殊のほか少なく、「主に食べられている作物」ではあっても、主食として呼び得るかが微妙な傾向も見られる。

ただ、栄養学的な見地から見て、そのいずれもが語義どおりに「主食」たりえるかについては、議論の余地がある。たとえば、エスキモーなど狩猟民族ではが主食と見なされているが、日本や欧米諸国で通常行われる調理方法で食べているわけではない。彼等は古来より肉や魚をもっぱら生食する習慣があるため、人間の生命維持のために必要不可欠な栄養素の不足が生じないよう、その経験から巧みに回避してきた。

ただし、実際の食生活においては、栄養学的観念よりも、むしろ食事スタイルによって主食が決定される場合が多い。すなわち、味の無い米飯を、味の濃い副食と組み合わせて食するという、日本をはじめ米を主食とする地域で広く行われている食事スタイルである。麺類は一般に主食と考えられるが、時には米飯のおかずとされ副食扱いされるのは、このためである。また日本では、貧しい層は米が食べられなかった時代、あるいは飢饉や戦争時に、雑穀の飯やサツマイモすいとんを主食とした時代があるが、副食と組み合わせて食べる雑穀の飯は主食扱いされたのに対して、単独で食する事ができるサツマイモやすいとんは「代用食」と呼ばれ正規の主食扱いされなかった。

従って欧米においては、主食という概念があまり存在しない。例えばイギリスの食文化では、日本人の視点からすればイギリス人が大量に食するチップス(フライドポテト)やベイクドポテト、もしくは、料理と区別して出されるパンを主食にしているように見えるが、イギリス人自身の認識からすればチップスなどのジャガイモ料理はあくまで主菜の付け合わせという位置づけである。パンにしても、ジャムやバターを塗って食するなど、日本のように味のついた副食と一緒に食べるということをしない。しかし例えば、味の無いパンや、茹でただけのジャガイモを味付けしたスープと一緒に食するというスタイル(かつての一般庶民は、長年にわたってこのような食事スタイルであった)など、日本の米飯と副食の組み合わせと類似する場合もある。

日本では酒席や焼き肉料理店などでは、終盤に米飯など主食となる料理を「締め」として別に食べることが一般的である。ほぼ満腹になっていても、主食が出ないと「食事」とならないと考える人が多い事を示している。これは韓国などの近隣諸国にも見られる。しかしこの場合の米飯などは、焼き肉などを副食として主食を食べている訳ではない事になる。こういった食べ方は、ある意味、主食の概念が薄い欧米におけるパンの食べ方と類似すると言える。例えば日本では、鍋料理を食べた場合、最後に鍋の残りに米飯を入れておじやとして食する例が多いが、欧米でも料理を食べた後に残ったソースを、最後にパンでぬぐって食べて「締め」とする例が多い。

本稿では、これらの国の状況を説明するにあたり、主要なエネルギー源を賄う食物を指す語として「主食」の語を用いる。

主食と農業・農政

主食は、活動エネルギーを得る上で主要な役割を果たしている。このため農業の分野ではこういった作物は集中的に栽培され、またこれら主食は年間を通して同じ物が求められることから、雨季/乾季や春夏秋冬など季節の別なく栽培できるものか、または乾燥させることで長期間保存できるものが求められる傾向が見られる。

ただ単一の農作物に対する依存度が増大すると、その作物に固有の病気が発生し易くなる連作障害といった問題もあり、歴史に見るところではジャガイモ飢饉のように大勢の犠牲者を出した例もあれば、天候不順で主食作物の栽培に支障が出た際に社会的混乱が発生する傾向もある(→飢饉)。近年に於いても日本で1993年に発生した「米騒動」のように、他の米生産国市場を巻き込んだ問題に発展したケースもある。こういった主食作物は穀倉地帯といった農業生産地域に集中する傾向もあり、こと単一作物でもあることから、ある特定の原因により一律に問題を被り易い。

また日本人米飯に強い愛着心を持つことにも絡むが、主食作物の栽培を手厚く保護した政策を行っていた場合には、これに絡む国際問題に発展した例も見られる(→食糧管理制度)。

各国の主食

  • 日本: 近世から近代にかけては、多くの家庭で炊きあげた白米ジャポニカ米)だけの炊飯が主食となっている。パンやと併用して主食とすることもよくある。古い時代は上級武士や貴族でも玄米、あるいはそれらに雑穀を混ぜたが主食であり、庶民階層では雑穀、芋類、豆類、根菜等、あるいはそれと精白していない米を混ぜた米飯(かて飯)やを常食にしていた。江戸時代頃から、大都市で白米を常食する習慣が広まったが、これは都市中心部では調理のための燃料を調達するにも不便があり、それを節約するという事情もあった。明治以降徐々に、食味の良さから地方でも白米食の習慣が一般化した。ただ、給食病院食などでは栄養学的な見地から麦飯(麦入り炊き込み御飯)で出される場合がある。粥も現在は主食として食されることが少なくなり、茶粥を食する習慣がある一部の地方を除き病人食として見なされることが多い。芋類については現代では通常主食にはなっていない(北海道では新じゃがの収穫時期にこれを主食とし、バターやいかの塩辛めふんなどのおかずとともに食べることがある)。一般的に日本食には主食が付くが、近年ダイエットなどを理由に主食のないおかずのみの食事をとる人もいる。近代日本社会における白米に対する思い入れはレーション(行軍用携帯食料)でも発揮され、戦闘糧食 I型II型は世界的にも珍しい米飯を主体としたメニュー構成である。また、ラーメンうどんのようなスープ・汁に入れる麺類は、主食扱いされることもあるが、時には米飯のおかずとして副食扱いされる場合もある。現代では、食生活の再多様化により、パンやパスタ、ラーメンやうどんもよく食べられ、白米=主食、という意識は薄れつつある。
  • 韓国北朝鮮:韓国(北朝鮮)では主食は日本と同様、米(ジャポニカ米)である。現在は白米だけの炊飯で食されるが、過去には日本と同様に、玄米の状態の炊飯や雑穀の入った炊き込みご飯を食べていた。朝鮮半島の北部は、日本の北部同様、耐寒性稲が普及するまで稲作に不向きとされていた寒冷地が多く、庶民は米が全く食べられなかった時代が長い。韓国の料理にはビビンパクッパなど飯をおかずと混ぜて食べるものも多く、飯は食卓にかかせないものである。しかしここでも、現在では食生活の再多様化により、主食もパンや麺など多様化している。一方北朝鮮は、食糧難もあり、米や麦ではなく、より食料の確保がたやすいトウモロコシやジャガイモを主食にしている国民が多いと推定されている。
  • 中国:米が主食と考えられがちであるが、実際は日本・韓国と違い、それほど重要視されるものではない。西方からの小麦の導入後、華北やそれ以北では小麦、長江以南では米を主食として重視する状態が長く続いた。数十年前までは、華北・東北地方では小麦粉で作った饅頭が主食になる事がもっとも多く、米は白米であっても副食の一種としてとらえられており、それを引き継いだ北方の中華料理においては、米は少量か、またない場合もある。米は日本・韓国のように炊いて食べることもあるが、炒めたり、粥にして食べることも多い。ジャポニカ米、インディカ米両方食され地域によって異なる。麺も同様に主食であり、日常的に食べられている。また、日本では主食として認識されにくいが、餃子、春巻き、シューマイなどの小麦粉の皮に餡が入った食品の多くは主食とされる。コーリャン、粟なども地域、時代によっては主食であった。
  • アメリカカナダフランスなど:上述の通り、現代の日本で使われる「主食」の概念に近いものが薄い。あえて、「主食」なる食物を探すとすれば、米国においてはヨーロッパがルーツの人々が 約70%を占めるため、肉もしくはパン。ヨーロッパのスーパーには、日本とは比べ物にならないほど、パンの種類が充実している。一方、ステーキなどの肉料理メニューの食事においては、肉自体が主食的扱いで、パンなどは付け合わせとして副食扱いになる場合も多い。ハンバーガーのようなサンドイッチ類は、パンを主食としてとらえるのであれば、主食たるパンの間に副食をはさんだものという位置づけであるが、実際はパンもはさむ具材も両方をあわせて主食的なものである。朝食にはシリアル食品オートミールを主食にする家庭もあるし、パスタ類を主食とする家庭も多く存在する。
  • イギリス:「主食」の概念は希薄であるが、「主食」なる食物を探すとすれば、パンジャガイモが「主食」に近い。ジャガイモは茹でたり、焼いたり、短冊状に切って揚げたり(チップス)とシンプルに調理して食べられ、分量的には主食に近い量を占めているものの、主菜の付け合わせに出てくることが多く、イギリスでは野菜の一種と考えられている。米国同様に、肉料理メニューで肉が主食的位置づけになる場合もあり、ローストビーフとつけあわせのヨークシャープディングの組み合わせは、その代表例である。もっとも、以前の貧しい家庭において、つけあわせであるはずのヨークシャープディングを増やして腹を満たす場合もあり、この場合は実質的に主食と副食が逆転している。シリアル食品やパスタ、米もよく食べられている。
  • アイルランド:基本的にジャガイモが主食。ジャガイモ料理のバリエーションも豊富で、一度に何種類ものジャガイモ料理が食卓に上がることがある。「ソーダブレッド」と呼ばれるアイルランド特有のパンもよく食べられているが、主食としてはジャガイモの比重が高い。
  • スペイン:基本的に米が主食である。しかし、日本・韓国などとは異なり、インディカ米を使用し、何かしら調理された米を食べる(例:バターライスガーリックライスなど)。また、米と一緒に魚介類を調理したパエリアなどが有名。パンももちろん主食としてよく食べられる。
  • イタリア:イタリアでは、第一皿の前菜、第二皿のグラタンラザニアスパゲッティなどのパスタ料理やリゾットなどの米料理またはスープの後で、肉料理や魚料理などの主菜を摂り、パンや野菜料理を食べるという食生活を送っている。パスタ料理や米料理、肉料理・魚料理、またはピザだけで軽い食事とすることもある。北部の一部地方ではトウモロコシの粉で作ったポレンタを食べる地域もある。
  • ドイツロシアポーランドなど:イギリスなどと同様主食という概念はないが、パンとジャガイモが主食に準ずるもので均等に食べ分けられている(例:朝食→パン 昼食→ジャガイモ 夕食→パン)。パンは小麦、ライ麦などでつくられた様々な種類のものが用意される。ドイツではパスタを食べることもよくある。米・英・仏などの国と違い、これらの主食は必ず用意される。
  • トルコ:完全にパン食の国。米、ジャガイモ(主食として)、麺が家庭の食卓に出ることはまずない。また 99 % がイスラム教徒であることから、豚肉を基本的に食べないため、海外の料理に比較的排他的な部分がある。
  • 西アフリカ地方セネガルガーナなど):3食全て米(インディカ米)を食べる国が多い。白米である他、サフランなどで炒めて色づけしてある場合も多い。トウモロコシの場合もあるが、麺を食べる文化はない。
  • メキシコトルティーヤはメキシコ人の主食である。北部では小麦粉のトルティーヤが作られることが多いが、それ以南ではトウモロコシのマサ(生地)で作ったトルティーヤが一般的である。トルティーヤは多くの軽食のベースにもなる。
  • インドインディカ米かまたは小麦粉やトウモロコシ粉を加工したパンのようなもの(チャパティナンなど)を主食とする。これらのバランスは地域によって大きく異なり、南インドではもっぱら米やそれを加工した粉ものを食べる。副食としてスープ類が多いため、主食が出ないことはあまりない。

関連項目