世界の駄っ作機

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世界の駄っ作機』(せかいのだっさくき、InFamous Airplanes of The World)は岡部いさく(執筆名義は“岡部ださく”)の著作物。モデルグラフィックス誌に連載されているコラムまたはそれを単行本化したもの。

概要[編集]

2020年現在で9巻まで刊行されている他、特別編として駄作名作関係なくイギリス機全般を取り扱った『世界の駄っ作機 番外編―蛇の目の花園』(せかいのだっさくき ばんがいへん じゃのめのはなぞの、The Special Issue of InFamous Airplanes of The World "JANOME GARDENS")が、モデルグラフィックス誌の姉妹誌である『スケールアヴィエーション』に連載されており[1]、こちらは単行本が3巻まで刊行されている。

内容[編集]

この『世界の駄っ作機』なるタイトルは、文林堂より刊行され、岡部も執筆及び製作協力として関わっている『世界の傑作機』(Famous Airplanes of The World)シリーズのパロディであり、単行本のカバーイラストも『世界の傑作機』と同様に佐竹政夫が担当している。

様々な要因により開発に失敗してしまった、または実戦に投入されたものの大した成果を挙げることができなかった、あるいはセールスの面で全く成功しなかった、等で航空史の闇に埋もれていった、しかし欠陥機や失敗作とも言い切れない航空機たち、すなわち「駄作機」について書かれているもので、ユーモア溢れる筆致で愛情を込めながら斬っているのが特徴である[2]

しかし、駄作機の基準はいろいろと理由を述べているがあくまでも岡部個人の主観によるものだということに注意する必要がある[3]

なおFw191[4] まで、第二次大戦期のドイツ機は一機も登場していなかった。その理由について第一巻の後書きに「世間には優れたドイツ機研究者がたくさんいるので、付け焼き刃程度の知識しか持ってない私が語るのは恐れ多い」と述べられている。また、日本機の場合は「存命中の関係者がいる」事や「駄作になった理由を突き詰めていくと暗くなってしまう」からという理由で当初(単行本1〜2巻収録分)では登場しなかったが、のち(3巻以降)からは少しずつ登場している。

なお、本文中では「駄作機」「駄っ作機」よりは「駄目飛行機」「ダメ飛行機」という言い回しの方が多用されている。

紹介されている主な“駄作”の要因[編集]

複座戦闘機(銃座付き戦闘機)
翼や機首に装備する固定機銃ではなく、操縦手の他に銃手を搭乗させ、胴体後部に搭載した銃座で戦闘機を攻撃する戦闘機。第一次世界大戦では有効であったが、飛行機の高速化が進むにつれて銃座では戦闘機を捉えきることができず、逆に銃座の重量の分運動性や速度が低下してしまい、通常の戦闘機の容易な標的になってしまうケースが続出し、戦闘機のジャンルとしては廃れた。
F-4F-14MiG-31は操縦手の他にRIO(Radar Intercept Officer)と呼ばれる乗員が搭乗する複座機であるが、これは開発当時の電子技術ではパイロットが機体の操縦と高度なレーダーの操作を両立させることが難しかったためで、これらの銃座付き戦闘機とは別物である。
高高度戦闘機
B-17のような高高度を高速飛行することが可能な高性能の爆撃機が実用化されるようになると、通常の戦闘機では届かない高度からの爆撃を恐れて、高高度飛行性能の高い迎撃戦闘機が開発された。しかし、そのどれもが満足する性能を出せなかった。また、主に開発した国の側は高高度爆撃機による戦略爆撃に晒されなかったため、必要とされる状況が訪れなかった。
双発戦闘機
エンジンを2基装備した戦闘機のこと。本書中では特に、レシプロエンジン式のそれを指す[注 1]。エンジン数を倍にすれば馬力も倍となり、単発(エンジンを1基のみ装備した機体)に比べて高い性能を示す、と各国で期待された。しかし、双発機は必然的に大型の機体となるため運動性その他で単発機には劣り、戦闘機としては単発機に優るものとはならなかった。
制式化され実戦配備された機体も多いが、失敗作に終わるか、成功したとしても搭載量の多さや航続性能の高さを生かして夜間戦闘機や軽爆撃機など対戦闘機戦以外の任務で重用され、見込みとは違ったところで活躍する結果になってしまった。
大口径砲搭載戦闘機
大口径の機関砲で爆撃機や戦車の防御火器の範囲外から攻撃するとともに、大威力の弾頭により1発の命中で致命的な損傷を与えることを狙って、大口径砲を搭載した戦闘機が試作されることになる。しかし、大型で重い大口径砲を搭載することは機体の大型化と重量化、そして低速化を招き、更に、大きな反動に安定して耐えられる機体を開発することは難しかった。さらに大口径砲そのものにも飛行中の振動や航空機動の加速度、高空の低温や低気圧などによる悪影響で作動不良が発生し、また飛行中の動揺と発砲時の反動による命中率低下[注 2]も深刻な問題となった。大型で鈍重な上に武装が命中しなければ無意味どころか敵の対空砲火の餌食となってしまう為、大半の機体は試作のみに終わった(その後、大口径砲はより扱いが簡単なロケット弾、そしてミサイルに取って代わられた)。
高速水上機
飛行機が実用化された当初は、滑走距離を長く取れ、翼面荷重を高くすることができる飛行艇/水上機形式の飛行機の方が速度性能に勝っていた[注 3]
しかし飛行場の整備が進み、エンジンの出力強化やフラップなどの技術が進歩するとともに、離着水を可能にしなければならない必要上から設計に制限があり、フロートや水密艇体構造といった飛行時には不必要な死重になるものを備えなくてはいけない水上機が陸上機よりも速く飛ぶことは不可能になった。それでも「大型化が比較的容易である」「航空母艦でなくても運用できる」といった利点があるとされ、高速化を目指した水上機が開発研究されたが、どれもが失敗に終わることになる。
推進式
エンジンとプロペラを機体後方に配置した形式のこと。空気抵抗の大きいプロペラが機首になく、機体自身によってプロペラの巻き起こす空気の流れを阻害することがないため速度性能に優れることや、プロペラと射撃軸線の干渉を考慮する必要が無くなるので機首に武装を集中できる[注 4]、等の利点があるが、エンジンの冷却の問題や重量バランスが後方に偏ること、着陸脚が長くなる[注 5]ので滑走時の安定に問題が出る、等の問題点も多かった。駄作機にもこの形式を採用して失敗したケースが多い。
素材
第二次世界大戦の中盤頃から航空機の素材には軽量なジュラルミンを使用することが一般的になるが、希少なものであったことから各国とも代替する素材を模索することになる。よく使われたのは木材で、モスキートという傑作もあるが駄作も多い。
また、ジュラルミンの節約のために鋼鉄を使用するケースもあったが、重量が過大になり、耐久性がないことや軽く仕上げようとするためのコストが高くなること、更には錆びることから例外無しの駄作に終わっている。
エンジン
24気筒エンジンなど当時の技術力では手に余るエンジンを装備しようとして失敗に終わるケース、エンジンと機体の相性が合わなかったケース、あるいは高出力エンジンの開発が間に合わなくて代わりに低出力のエンジンを搭載したばかりに要求を満たせなかったケース等。
ネイピア セイバーロールス・ロイス ヴァルチュア中島 誉など、エンジンそのものに問題があった、という例も多い。
セールス・ニーズ
主に民間機の失敗要因。機体性能そのものに問題はなかったが、価格が高すぎたり市場のニーズを読み違えて売れなかったケース、あるいは開発時期が長すぎて販売が遅れ、先行販売された他社の機体に市場を独占されてしまったケース、などがある。また、軍用機でも開発中に戦局や運用構想が変化して、ニーズがなくなってしまったケースがある。
性能・欠陥
より単純に、機体に何らかの欠陥があって要求性能を満たせなかった、故障や振動がひどすぎて使い物にならなかった、事故を起こしたなどのケース。中には離陸さえできなかったケースもあった。

登場する航空機[編集]

※表記はすべて当書籍のものである。

第1巻[編集]

雑誌連載時「過去10回の連載で架空の機体はどれか?」という特別企画に出題された機体。双発双胴でなおかつ、中央のコクピットブロックの前後に動力銃座がついているという異例のスタイルであったが、設計がまずかった上に動力銃座が重すぎたため爆撃機よりも運動性能が落ちる事から試作段階で終わったという設定。仮に設計的に優秀だったとしても複座戦闘機なので何の役には立たないという二重のトラップが仕掛けられている。

第2巻[編集]

第3巻[編集]

シリーズ初の日本機。
モデルグラフィックス誌においてアニメーション作品『超時空要塞マクロス』シリーズに登場する架空の兵器である「バルキリー」に関する特集がなされた号において、特別コラムとして掲載されたもの。

第4巻[編集]

イラストつきで紹介された機体は以下の通り。

第5巻[編集]

シリーズ初のドイツ機。

第6巻[編集]

開発年度面では最後の駄作機(1977年)。

第7巻[編集]

1927年8月に開催されたオークランド〜ホノルル間のエアレース。だが、事故や遭難が続出し、レースを完走できたのは参加15機中わずか2機のみであった。

第8巻[編集]

蛇の目の花園[編集]

※『蛇の目の花園』では「駄作機」以外の機体も扱われている。

蛇の目の花園2[編集]

蛇の目の花園3[編集]

序文や巻末に登場する人物[編集]

単行本[編集]

*いずれも大日本絵画より刊行

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 現代のジェット戦闘機ではF-4やF-5、F-14、F-15F/A-18ラファールトーネード IDS/ADVユーロファイター タイフーンMiG-29Su-27、MiG-31など双発機は珍しくない
  2. ^ 戦車などにも言えることであるが、砲弾の口径が大きくなるほど砲弾自体も大きく重くなるため、むやみな大口径化は搭載弾薬数の減少に繋がり、命中率を弾幕で補うことも難しくなる。
  3. ^ WW1前~戦間期に開催されたシュナイダー杯はその代表例である。
  4. ^ 機首部分にエンジンとプロペラを配置した牽引式の機体でも、プロペラ同調装置英語版モーターカノンなどの代替手段はあるが、前者は同調装置が故障した際に銃弾がプロペラを破壊する危険があり、後者は星型エンジンでは搭載不可能であるなどの問題点がある。いずれにしてもエンジンを搭載するスペースとの兼ね合いで、機首部分にはあまり多数の弾薬(特に大口径の機関砲弾)は搭載できない。
  5. ^ 脚が短いと、離着陸時の機首上げの際にプロペラが滑走路に接触して破損する危険があるため。このため推進式の機体の降着装置はWW2当時に一般的だった尾輪式が使えず、前輪式にする必要があった。

出典[編集]

  1. ^ 当初は『とっても蛇の目なコイだから』のタイトルで連載されていたが、単行本化にあたり改題され、後に雑誌連載のタイトルもそれに倣って改名された。
  2. ^ ただし、3巻では特別編として駄作機ではないXB-70について書かれている。
  3. ^ 日本のF-2支援戦闘機について、雑誌連載当時は色々と不具合が生じていたが、単行本刊行時には不具合が改修されていたにもかかわらず駄作視するような事を書いてしまったため、読者に指摘されて後の巻で謝罪訂正をするようなこともあった
  4. ^ 連載No.175。モデルグラフィックス誌2010年1月号に掲載

関連項目[編集]