一息ごとに一時間

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『一息ごとに一時間』 - 8人の奏者のためのコンチェルト- (:Concerto per 8 soli)作品3[1]は、日本作曲家八村義夫による室内楽曲(協奏曲)である。

1960年6月18日から作曲が開始され、初演と改訂を経て、1961年1月に完成した。

1962年に、この作品はローマ国際作曲コンクールに入選した。また、1963年には「音楽之友社懸賞」の入選作品となった。

作曲の経緯[編集]

フランス詩人、マルク・アランの「一息ごとに一時間、永遠の機会を待つために息をつめるべきだ…」に始まる詩に触発されて、1960年6月1日から、1961年1月にかけて作曲された。作曲者は、編成にサクソフォーンを加えた理由として、当時モダンジャズ界において話題となっていた、オーネット・コールマンの『ロンリー・ウーマン』という曲のサクソフォーンの音色に魅了されたからであると述べている[2]。また、当時作曲者を包んでいた、表現主義音楽の暗い呪縛から脱することが出来たとも述べている[3]

ピエール・ブーレーズの作品『ル・マルトー・サン・メートル』の影響が顕著であると言われている[4]

初演[編集]

1960年11月25日ヤマハホールにて開催された演奏会「近、田中、佐藤、八村の会」において、作曲者指揮により行なわれた[3]

なお、初演後の1961年1月に改訂版が完成し、その後の録音等は全て改訂版で行なわれているが、現在出版されている楽譜は改訂前のものである。

編成[編集]

フルート1、変ロ調クラリネット1、テナー・サックス1、ヴァイオリン1、ソプラノ独唱、ヴィブラフォン1、打楽器奏者2名(打楽器奏者1:トライアングルクラベスカウベルウッドブロックシンバルタムタム。打楽器奏者2:マラカス小太鼓トムトムシンバル

ソプラノ独唱は、器楽の一員として扱われており、歌詞を伴わないヴォカリーズの形で歌う。また、小編成ではあるが、過去に行なわれた演奏では、初演時を含め、指揮者をつけて演奏を行なっている。

作品の概要[編集]

楽譜上では、4つの部分(楽章)に区分されている[5]が、各部分は大きな切れ目なく続けて演奏される。また、具体的なテンポの指示のない、「Senza Tempo」の表示が多用されている。演奏時間約12分。

第1楽章[編集]

アレグロ。次々に楽器が歌い出す、せわしない開始を経て、ソプラノにはっきりとした旋律が現れる。ヴィブラフォンの伴奏で盛り上がったのち、この旋律が静まると、ヴィブラヴォンに第2の旋律が現れる。この旋律も盛り上がりをみせるが、動きは突如停止する。フルートにうねるような旋律が現れると、第1の旋律が変形されてソプラノに再現され、第2の旋律も変形されてヴィブラフォンに再現される。テンポのない部分を経て、静まってゆくかと思いきや、ヴィブラフォンの強い打撃で終結する。複数の旋律を、変形しつつ再現していることから、ソナタ形式的な発想が読み取れる。なお、この楽章ではクラリネットは休んでいる。

第2楽章[編集]

プレスト。クラリネットとヴィブラフォンがせわしなく絡み合う、スケルツォ風の音楽。ソプラノ独唱、打楽器とヴァイオリン、クラリネットの順に消えてゆき、ヴィブラフォンのみが残る。

第3楽章[編集]

アンダンテ。打楽器奏者同士の掛け合いが静かに響く中、サクソフォーンが息の長い旋律を吹く。この旋律が盛り上がると、フルートに、H、D、E音を繰り返す素朴な音形が現れ、音楽は断ち切られる。続いて、ヴァイオリンのピッチカートによる長いカデンツァに入る。フルート、ソプラノなどと絡み合いながら発展してゆき、最後は冒頭の打楽器の掛け合いが再現される中、静かに消えてゆく。

第4楽章[編集]

モデラート。ヴィブラフォンのソロで開始される。テンポ表示のないセンツァ・テンポ部分が頻繁に現れるため、緩やかな印象の楽章である。ヴィブラフォンのカデンツァを経て、シンバルとタムタムが静かに打たれて曲を閉じる。

録音[編集]

  • 『星振譜/八村義夫Ⅰ』(カメラータ・トウキョウ、CMCD-50035)に、小松一彦指揮、篠崎功子村井祐児、中川昌三、武藤賢一郎、菅原淳、吉原すみれ、山口恭範による演奏が収録されている。

参考文献[編集]

  • 『ラ・フォリア』八村義夫著、草思社。1986年
  • 『8人の奏者のためのコンチェルト』フルスコア、音楽之友社1966年[6]

外部リンク[編集]

脚注[編集]

  1. ^ 八村本人は、この楽曲を『一息ごとに一時間』と呼んでおり、『8人の奏者のためのコンチェルト』は副題として扱っているが、音楽之友社から出版された楽譜においては、『一息ごとに一時間』の表記はまったく見られず、『8人の奏者のためのコンチェルト』と表記されているのみである。この表記は、作曲者本人の意向に反したものであるという。
  2. ^ 『ラ・フォリア』303ページ。
  3. ^ a b 『ラ・フォリア』316ページ。
  4. ^ 丘山万里子『作曲家・八村義夫論/4』より
  5. ^ 出版譜においては、複縦線で楽章がはっきり区分されており、楽章毎にローマ数字で番号表記がつけられているが、第4楽章のみローマ数字が抜け落ちている。
  6. ^ 前述のとおり、『一息ごとに一時間』というタイトルでは出版されなかった。2012年現在、ソニックアーツ社から八村作品の出版が行なわれているが、『一息ごとに一時間』はまだ刊行されていない。