ロシア連邦軍参謀本部情報総局

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ロシア連邦軍参謀本部情報総局
GRU Generalnogo Shtaba
Glavnoje Razvedyvatel'noje Upravlenije
Главное Разведывательное Управление
ソ連時代からの連邦軍参謀本部情報総局の紋章
組織の概要
設立年月日1918年
管轄ロシア連邦政府
行政官

ロシア連邦軍参謀本部情報総局(ロシアれんぽうぐんさんぼうほんぶじょうほうそうきょく、ロシア語: Главное разведывательное управление, ラテン文字転写: Glavnoye Razvedyvatelnoye Upravleniye: Main Intelligence Directorate of the General Staff)は、ロシア連邦軍における情報機関。略してGRU(発音は英語でグルー、ロシア語の場合はゲーエルウー、ロシア語での略称はГРУ)と呼ばれる。ソ連時代から存続している組織である。

概要[編集]

組織上は、他国と同様に参謀本部の一部署に過ぎないが、参謀系統を通した情報の収集のほか、スパイ活動、SIGINT偵察衛星特殊部隊スペツナズ)の運用も管轄しており、旧KGBや現在のSVRなどと並ぶ強力な情報機関である。第二次世界大戦中のスパイ、リヒャルト・ゾルゲはGRUの管理下にあった。

GRUの総局長は参謀総長及び国防相に従属し、ロシア対外情報庁 (SVR)とは異なり、大統領に直接報告することはない。GRUの本部庁舎はモスクワの旧ホドゥンキ地区、ホロシェフスコエ通りに位置するガラス張りの9階建ての建物である。GRU職員からはステクリャーシュカ(Стекляшкаガラスビル)と呼ばれているが、一般にはアクワリウム(Аквариум水族館)として知られている。

組織[編集]

ロシア連邦軍参謀本部情報総局の現在の紋章

以下の機構はドミトリー・プロホロフ著の"Империя ГРУ"(GRU帝国、2000年)を参照した。ただし、同書もヴィクトル・スヴォーロフの著書(1970年代の情報)を参考にしている。

中央機構[編集]

GRU総局長は上級大将で、参謀次長を兼任する。局長は中将、副局長や課長は少将。副課長、班長及び副班長は大佐。一般班員は、先任作戦将校と作戦将校職から成り、先任作戦将校は大佐、作戦将校は中佐

  • GRU総局長/参謀次長
    • GRU指揮所
    • 特別重要エージェント及びイリーガル・グループ
  • 第一副総局長 - 全情報収集(エージェント諜報)部門を管掌
  • 副総局長/第6局長
    • 第6局 - 電子偵察局。SIGINT。特殊部隊OSNAZが存在する。
  • 副総局長/情報部長 - 情報の処理・分析部門を管掌
    • 第7局 - NATO担当。6課を有する。
    • 第8局 - 特別指定国に関する業務
    • 第9局 - 軍事技術
    • 第10局 - 軍事経済、軍事生産及び売却、経済保安
    • 第11局 - 戦略核戦力
    • 第12局 - 不明(情報戦?)
  • 副総局長/艦隊情報部長 - 各艦隊本部の情報局を管掌
  • 副総局長/宇宙偵察局長
  • 支援部署

教育施設としては、軍事外交アカデミーが存在し、スパイ駐在武官、情報参謀が教育を受ける。スペツナズは、2万5千人・24個大隊相当が存在する。各国のロシア大使館にはGRUの支局が存在し、駐在武官もGRUの所属である。キューバのルールデスには無線傍受センターが維持されている。

部隊の情報機関[編集]

部隊レベルの作戦・戦術情報は、GRU第5局の統制を受ける。

軍管区レベルでは、以下の主要5科から成る軍管区本部第2局(情報局)が担当する。

  • 第1科:管区配属の軍級その他の部隊の情報科の業務を指導
  • 第2科:管区担当地域のエージェント諜報
  • 第3科:管区の偵察・破壊工作部隊の活動を指導
  • 第4科:諜報情報の処理
  • 第5科:電波偵察

軍級レベルでは、5班から成る軍本部第2科(情報科)が担当する。

名称の変遷[編集]

GRUは、軍政又は軍令機関の一部署であるため、その名称は目まぐるしく変わっている。

  • 参謀本部総局第2補給総監課(1917年11月~1918年5月)
  • 最高司令官本営附属革命野戦本部扇動・情報課(1917年11月~1918年3月)
  • 最高軍事会議作戦局情報班(1918年3月~1918年9月)
  • 軍事問題人民委員部作戦課情報班、全ロシア参謀本部作戦局軍事統計課(1918年5月~1918年9月)
  • ロシア革命軍事会議本部情報課(1918年9月~10月)
  • ロシア革命軍事会議野戦本部登録局、ロシア革命軍事会議野戦本部作戦局情報班(1918年11月~1920年)
  • ロシア革命軍事会議野戦本部作戦局第1課情報班、労農赤軍本部作戦局情報部隊、労農赤軍本部情報課(1919年~1920年)
  • 労農赤軍情報局(1922年~1924年)
  • 労農赤軍本部第4局(1926年~1934年8月)
  • 労農赤軍情報・統計局(1934年8月~11月)
  • 労農赤軍情報局(1934年11月~1939年5月)
  • 国防人民委員部第5局(1939年5月~1940年6月)
  • 赤軍参謀本部情報局(1940年6月~1942年2月)
  • 赤軍参謀本部情報総局(1942年2月~9月)
  • 赤軍参謀本部部隊情報局(1942年9月~1943年2月)
  • 赤軍参謀本部情報局、赤軍情報総局(国防人民委員部情報総局)(1943年2月~1945年6月)
  • 赤軍参謀本部情報総局(1945年6月~1946年)
  • 軍参謀本部情報総局(1946年~1947年)
  • ソ連閣僚会議附属情報委員会(1947年~1949年)
  • 軍参謀本部情報総局(1949年~1950年)
  • ソビエト軍参謀本部情報総局(1950年~1955年)
  • ソ連軍参謀本部情報総局(1955年~1991年)
  • ロシア連邦軍参謀本部情報総局(1991年~)

歴代軍情報部長[編集]

軍情報部長
職名 氏名 階級 在任期間 出身校 前職
登録局長 セミョーン・アラロフ 1918.11-1919.6 ロシア帝国軍の将校 軍事委員
セルゲイ・グセフ 1919.6-1919.12 共産党員 共和国革命軍事会議議員
ゲオルギー・ピャタコフ 1920.1-1920.2
登録局長 ウラジーミル・アウセム 1920.2-1920.6 共産党 登録局副局長
登録局長 ヤン・レンツマン 1920.6-1921 共産党員 第15軍革命軍事会議議員
情報局長 アルヴィド・ゼイボト 1921-1924 共産党員 登録局長代行
情報局長 ヤン・ベルジン 1924.3-1935.4 共産党員 情報局副局長
情報局長 セミョーン・ウリツキー 1935.4-1937.6 共産党員 自動車装甲戦車局副局長
情報局長 ヤン・ベルジン 1937.7-1937.11 共産党員 スペイン共和国軍主任軍事顧問
情報局長 セミョーン・ゲンディン 国家保安上級少佐 1937.11-1938.10 モスクワ指揮砲兵課程 情報局長代行
情報局長 A.オルロフ 1938.10-1939
第5局長 イワン・プロスクロフ 1939-1940.6
情報局長 フィリップ・ゴリコフ 中将 1940.6-1941.10 共産党員 第6軍司令官
情報局長 アレクセイ・パンフィーロフ 中将 1941.10-1942.8 共産党員 情報局副局長
情報総局長 イワン・イリイチェフ 中将 1942.8-1945.7 共産党員 情報局政治課長
情報総局長 フョードル・クズネツォフ 中将 1945.7-1947.9 共産党員 戦線情報局長
N.トルソフ 1947-1949
情報総局長 マトヴェイ・ザハロフ 1949-1952 ペトログラード砲兵指揮官課程 参謀本部軍事アカデミー校長
情報総局長 M.シャリン 大将 1952-1956
情報総局長 セルゲイ・シュテメンコ 大将 1956-1957 セヴァストポリ軍事砲兵学校
情報総局長 M.シャリン 1957-1958.12
情報総局長 イワン・セーロフ 1958.12-1963.1 共産党員 KGB議長
情報総局長 ピョートル・イワシュチン 上級大将 1963.1-1987.7 軍事飛行士学校 KGB第一副議長
情報総局長 V.ミハイロフ 大将 1987.7-1991
情報総局長 エフゲニー・チモーヒン 大将 1991-1992.8
情報総局長 フョードル・ラドゥイギン 大将 1992.9-1997.5 ハリコフ空軍学校 条約・法務局長
情報総局長 ワレンチン・コラベリニコフ 上級大将 1997.5-2009.4 ミンスク高等技術高射ミサイル学校 情報総局副総局長
情報総局長 アレクサンドル・シュリャフトゥロフ 中将 2009.4-2011.12 情報総局第一副総局長
情報総局長 イーゴリ・セルグン 上級大将 2011.12-2016.1
情報総局長 イーゴリ・コロボフ 上級大将 2016.2-2018.11

現状[編集]

  • 2006年4月、参謀総長ユーリー・バルエフスキー上級大将は、軍情報機関の改編について表明した。国防省筋によれば、地上軍海軍空軍の軍種情報局が廃止され、各軍種情報局の機能は参謀本部情報総局に移管される。各軍種には情報局に基づき、大佐を長とする佐官6人から成る情報課が創設される(情報局時代は定数20人未満、局長は中将)。
  • チェコ政府は2021年、同国で2014年に発生したヴルビェティツェ弾薬庫爆発事件にGRUメンバー2人が関与したとして国際指名手配するとともに、チェコ駐在のロシア外交官18人の追放を発表した。この2人は2018年にイギリスで起きた元GRU大佐父娘毒殺未遂事件と同名だと報道されている[6]
  • 2022年2月18日、ニューバーガー米国家安全保障担当副補佐官(サイバー・先端技術担当)は、2月15日に発生したウクライナ国防省や銀行などを標的とした「DDoS攻撃」と呼ばれるサイバー攻撃について、攻撃に使われたIPアドレスを分析した結果、GRUに結びつく情報を確認したことを明らかにし、そのサイバー攻撃の背後にロシア軍の情報機関当局が関係しているとして、ロシア政府の責任を追及する声明を出した[7]。英外務省も、ロシア軍の情報機関であるロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)がウクライナに対するサイバー攻撃に関与していたことはほぼ確実という認識を示した[8]。2月15日のネット被害は、サーバーに大量のデータを送りつける「DDoS攻撃」によるもので、ウクライナの国防省と軍のサイトは10時間以上も機能が停止し、銀行でも数時間、オンライン取引が利用できなくなった[9]

所属したことがある人物[編集]

脚注[編集]

  1. ^ 点検トランプ政権(4)火種「ロシアゲート」『読売新聞』朝刊2017年5月3日
  2. ^ ジョージアを狙ったサイバー攻撃、ロシア軍の情報機関GRUが関与と米英が断定”. ITmedia エンタープライズ. 2022年12月18日閲覧。
  3. ^ a b ロシアがサイバー攻撃、東京五輪など標的 英政府発表”. AFP通信 (2020年10月20日). 2020年11月7日閲覧。
  4. ^ a b “東京五輪の妨害狙い、ロシアがサイバー攻撃 英政府が発表”. BBC NEWS. (2020年10月20日). https://www.bbc.com/japanese/54610569 2020年11月7日閲覧。 
  5. ^ 日経ビジネス電子版. “東京五輪でサイバー攻撃謀ったロシアに何も言えない日本”. 日経ビジネス電子版. 2022年12月18日閲覧。
  6. ^ 「露情報員 欧州で暗躍?英・毒殺未遂容疑の2人 チェコ爆発でも関与疑い」毎日新聞』朝刊2021年4月26日(国際面)同日閲覧
  7. ^ ロシア軍情報機関、ウクライナへのサイバー攻撃に関与 米英指摘」『Reuters』、2022年2月18日。2022年12月18日閲覧。
  8. ^ ロシア軍情報機関、ウクライナへのサイバー攻撃に関与 米英指摘」『Reuters』、2022年2月18日。2022年12月18日閲覧。
  9. ^ ウクライナへのサイバー攻撃、ロシア軍情報機関が実行…米英政府が分析”. 読売新聞オンライン (2022年2月19日). 2022年12月18日閲覧。

関連項目[編集]

旧ソ連構成国におけるGRUの後継機関

外部リンク[編集]