マルシュアース

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ホセ・デ・リベーラ作『アポロンとマルシュアス』(1637年) ベルギー王立美術館所蔵

マルシュアース古希: Μαρσύας, Marsyās)は、ギリシア神話アポローンと音楽を競い敗北したサテュロスである。

日本語では長母音を省略してマルシュアスとも呼ぶ。

神話

マルシュアースはアウロスというダブルリード、二本管の木管楽器(→オーボエコールアングレ)の名手だった。その楽器はアテーナーが作ったものだったが、吹くときに頬が膨れるのを他の神がはやしたてたせいで拾った者に災いが降りかかるように呪いをかけて地面に投げ捨てたのを、マルシュアースが拾ったのだった。

アウロスを得たマルシュアースはこの楽器に熟達し、アポローンキタラー竪琴の一種)にも勝るとの声望を得るに至った。これがアポローンの耳に入って怒りを買い、マルシュアースはアポローンと音楽合戦をする羽目に追い込まれた。

アポローンとマルシュアースの音楽合戦では、勝者は敗者の側に何をしても良いことになっていた。アポローンに主宰されるムーサが審判だったために、勝敗は自ずと定まり、マルシュアースは負けた。神に挑戦するとは思い上がった太い奴だということで、プリュギアカレーネーの洞窟で生きたまま皮剥ぎの目に遭った(傲慢の罪ヒューブリス)。その時の血は河となりそれがマルシュアース河である。

この音楽合戦にはいくつかのヴァージョンがある。中には、マルシュアースが勝利者として去ろうとした所、アポローンは竪琴を上下反対に調弦し、同じように演奏してみせた。これは笛では真似しようがなかったというものがある。また中には一旦はマルシュアースが優勢だったが、アポローンが弾き語りを始めた所で勝敗がついた(これも笛吹きには真似できない)というものもある。マルシュアースは楽器の演奏合戦だったはずで歌まで評価に加えるのは反則だと抗議したが、アポローンは笛を吹奏するのも歌と似たようなものではないかと反論した。ムーサはアポローンの主張をもっともだとして、アポローンに軍配をあげた。

後年のヨーロッパの芸術作品では、マルシュアースはしばしば古代ギリシアのアウロスではなく、フルートパンパイプ、さらにはバグパイプを持っている。同様にアポローンが持っている楽器は古代ギリシアのキタラー、リュラーに類する竪琴だったり、ハープだったりヴィオルだったり他の絃楽器だったりする。

この音楽合戦に用いられた楽器の性格は、アウロスが熱狂的なディオニューソス的性格の楽器、キタラーが理性的なアポローン的性格の楽器とされており、またマルシュアースがそのひとりであるサテュロスという精霊は、ディオニューソスの眷属であることを考慮すると、ニーチェが論じたように、人性のアポローン的側面とディオニューソス的側面の永遠の相剋を象徴しているかに見える。

神話の解釈、当時のギリシアにおけるアウロスの音楽的位相についてはアウロス#神話の解釈も参照のこと。

関連項目