マツダ・ルーチェロータリークーペ

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マツダ・ルーチェロータリークーペ
概要
製造国 日本国
ボディ
乗車定員 5名
ボディタイプ 2ドア ハードトップ
駆動方式 FF
パワートレイン
エンジン 水冷2ローター・655×2cc
最高出力 126PS/6,000rpm
最大トルク 17.5kgf·m/3,500rpm
変速機 4速MTフロア
前:独立・ウィッシュボーン・トーションラバー
後:独立・セミトレーリングアーム・コイル
前:独立・ウィッシュボーン・トーションラバー
後:独立・セミトレーリングアーム・コイル
車両寸法
ホイールベース 2,580mm
全長 4,585mm
全幅 1,635mm
全高 1,385mm
車両重量 1,255kg
その他
最高速度  190km/h
生産台数  976台
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ルーチェロータリークーペLuce Rotary Coupe )は、東洋工業(現マツダ)が1969年から1972年まで製造・発売した前輪駆動の2ドア・クーペ。開発コードはRX87

概要

3度に及んだ参考出品

1967年

1967年10月26日から開催された第14回東京モーターショーのマツダブースに、「ファミリアロータリークーペ」のプロトタイプ・「RX85」とともに、初代ルーチェをベースとした「RX87」が出品され、この年発売開始となったマツダ・コスモスポーツに次ぐ第二・第三のロータリーエンジン搭載乗用車の発売が秒読み段階に入っていることが示され、大きなセンセーションを巻き起こした。

RX87は4ドアセダンライトバンのみであった生産型ルーチェには存在しない2ドアのハードトップクーペで、低く長い独特のプロポーションを持っていた。なお、後の生産型とは異なり、この年のプロトタイプではラジエーター部の格子がヘッドライトに伸び、三角窓も残されていた。タイヤサイズもセダンと同じ14インチで、セダンと同じホイールとホイールキャップを装着していた。

機構的にはマツダとしては初の前輪駆動の採用が注目された[1]。そして前輪駆動のシャシーに縦置きするためにエンジンを長を短く(薄く)する目的で、ロータリーエンジンもコスモやファミリアの10A型よりもローター外径とローターハウジング内径を大きくした専用設計の13A型[2]が搭載されていた[3]

1968年

「RX85」は1968年6月にファミリアロータリークーペとして市販開始され、たちまち人気車種となったが、RX87は翌1968年10月の第15回東京モーターショー会場のマツダブースに再び、最終試作型が展示されることとなった。ボディスタイルではヘッドライトが露出した新しい形状のフロントグリル、日本初となる三角窓のないハードトップボディ[4]、コスモスポーツ(後期型)と同じ165HR15のラジアルタイヤ、大型化され横長となったテールランプなどが特徴であった。内装も変更され、生産型ルーチェとの違いが大きくなった。同じモーターショーには、やはりジョルジェット・ジウジアーロの作品であるいすゞ・117クーペの最終試作型も展示され[5]、イタリアンデザインの高級パーソナルカーの競作として注目された。なお、この最終試作型までは前輪のみならずリアサスペンションのスプリングはコイルではなく、ラバー・イン・トーションバーであった。これは軽自動車R360クーペキャロルで実績を積んだ方式であった。[6]

1969年

1969年10月15日になってようやく「マツダ・ルーチェロータリークーペ」は発売されたが、この年の10月24日に開始となった第16回東京モーターショーにも、市販モデルとともに「コーンシールド型」が参考出品された。これは運転席から操作できる「コンシールド・ヘットランプ」を備えたモデルで、ライトを閉じた姿は当時のシボレー・カマロなどアメリカ車の影響が感じられる。当時の雑誌[7]には、「正式にカタログに乗れば当然これがシリーズの最高級モデルということになろう。ヘッドライトの形式が異なる他はシャシー、パフォーマンスともベースモデルと同じである」と書かれていたが、結局市販されなかった。[8]

3回の参考出品車の概要をまとめると下記の通りとなる。

開催年(開催回数) 仕様 出典
1967年(第14回) ラジエーター部のグリルの格子がヘットライトに伸びている。三角窓あり 日本のショーカー1 1954~1969年 P.101
1968年(第15回) 市販型とほぼ同じ形状、リアサスペンションが異なる 日本のショーカー1 1954~1969年 P.118
1969年(第16回) 市販型と異なるコンシールド・ヘットランプ型、市販化されず 日本のショーカー1 1954~1969年 P.135

市販型

市販型のボディサイドにも「RX87」のエンブレムが装着され、ショーモデルの直系であることをさり気なくアピールしていた。655cc×2ローターの13A型ロータリーエンジンは126馬力を発揮し、最高速度は190km/hと公表され、カタログでのキャッチコピーは「ハイウェイの貴公子」であった。バリエーションはスーパーデラックス(175万円)[9]と、デラックス(145万円)の二種類があった[10]。120万円前後であったトヨタ・クラウンハードトップなどの上級モデルより一段高価で、まだハンドメイドであったいすゞ・117クーペの172万円に匹敵した。

レシプロエンジン(DOHCではあったが)・後輪駆動・後輪リジッドアクスルなどのオーソドックスな機構を持ち、機構的には他のいすゞ乗用車との互換性が高かった117クーペに対し、意欲的な新機構を満載し、その結果ルーチェセダンはもとより他のロータリーエンジン車との互換性が乏しくなったルーチェロータリークーペは対照的な存在であった。内装も伝統的なウッドパネルと完備した計器類を持つ117クーペに対し特徴に乏しく、ドア内張りなど細部のデザインはイタリアンデザインよりも既存のマツダ乗用車のものに近かった。 なお、セダンと比較すると全長で215mmm、ホイールベースで80mm大きい。機構的にはチェーン駆動式オイルポンプ、水冷式オイルクーラー、ラバー・イン・トーションバーの前輪スプリングが特徴的であった。

同時代の評価

自動車雑誌・カーグラフィック1969年12月号の小林彰太郎の「ロード・インプレッション」によると「何らストレスなしに7,500rpmまで回るエンジン」「すばらしいの一語に尽きる」ブレーキ、「サイレント・スポーツクーペの名にふさわしい」静粛性、「法さえ許せば140km/hが快適な巡航速度」の高速性能、0-400m加速17.1秒の駿足ぶりなどを絶賛されながら、マツダ初のパワーステアリングだけが「せっかくよい車を大いにスポイルしている」「路面の感覚を全くドライバーから奪ってしまう」「直進付近の反応が過敏」で「横風の強い日など修正する細かい操舵にとても気を使うので疲れた」と酷評された。ただし全体的には「前輪駆動の欠点をよく克服し長所を伸ばすのに成功している」と評されていた。

976台での生産中止

しかし、市場に出たルーチェロータリークーペは、オーバーヒート、大きな前輪荷重によるアンダーステア、ドライブシャフトからの異音など、熟成不足や信頼性の面での疑問が指摘された。これらの問題の結果、野心的な設計と美しいスタイリングにも関わらず、117クーペ以上に販売台数は伸びず、1972年9月の生産打ち切りまでに976台が造られたに過ぎない。[11] コスモ・スポーツ同様、価格的にマツダ車の顧客層にはミスマッチであったことも不振の一因であった。

さらに、マツダは補修部品の供給にもあまり熱心ではなかったようで、1970年代後半の自動車雑誌に早くもパーツ難を訴えるユーザーの声が散見されたほどであり、「発売開始以来の10年間にほとんど廃車が出なかった」と言われ今日でも多数が残存する117クーペとは対照的に、現存台数はごく少ない。

脚注

  1. ^ なぜマツダがこの車で前輪駆動に挑戦したかは謎となっている。1967年に発表されてヨーロッパ・カー・オブ・ザ・イヤーを受賞したNSU・Ro80に対抗したのではないかと、自動車評論家・田沼哲は推理している。
  2. ^ 12A・13B・20B型も10Aと同じローター外径とローターハウジング内径を持ち、厚みの違いで排気量を拡大しているので、13A型は他とは孤立した設計となっている。
  3. ^ 日本のショーカー1 1954~1969年 p.101
  4. ^ ベルトーネ(のチーフスタイリストであったジョルジェット・ジウジアーロ)がデザインしたセダンをベースに、マツダ社内でクーペ化が行われた。
  5. ^ 一足早く1968年12月に発売された。
  6. ^ 日本のショーカー1 1954~1969年 P.118
  7. ^ モーターマガジン1969年12月号
  8. ^ 日本のショーカー1 1954~1969年 p.135
  9. ^ デラックスに対し、パワーステアリング、パワーウィンドウ、エアコン、カーステレオ、レザートップが追加装備されていた。
  10. ^ デラックスにもオプションでパワーステアリングが装備可能であった。
  11. ^ 田沼哲は、1970年6月には生産中止されていたと書いている。事実であればその後は在庫車が販売されていたことになる。

関連項目

参考文献