ボールドウィン・ストリート

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ボールドウィン・ストリートの最大勾配部分

ボールドウィン・ストリートBaldwin Street)は、ニュージーランド南部の都市ダニーデン郊外の住宅地にある街路ストリート)。最大勾配は35%で、2019年に更新されるまでギネスブックに「世界一急な街路」(the steepest street in the world)として認定されていた。

地理[編集]

麓側から見たボールドウィン・ストリート全景

ボールドウィン・ストリートは、ダニーデン市の中心部から3.5km東北、ノース・イースト・バレー (North East Valley地区にある。地区の幹線であるノースロードから東南方向に分かれる全長350mの直線道路で、シグナル・ヒル (Signal Hill, New Zealand上のオポホ地区 (Opoho方面へ向かって上っている。

ノースロードに接続する麓側は比較的緩やかであるが、半ばを過ぎたあたりからの頂上側161.2m区間で高低差47.22mの急坂になっている。最大勾配は35%(傾斜角19°)、1:2.86(2.86m進むごとに高さが1m上がる割合)。この最大勾配区間が実に70.6mにわたって続くのがボールドウィン・ストリートの特色である。街路全体でも、ノースロードから分岐する海抜30mの地点から頂上の海抜100m地点まで高低差が70mあり、平均勾配は20%を超えている[1]

ボールドウィン・ストリートの麓側はアスファルトで舗装されているが、頂上側はコンクリート舗装となっている。これは維持管理の都合によるもので、アスファルトでは気温が高い日にタールが急傾斜によって流れてしまうためである。また、冬季の安全性を確保するためでもある。

末端(頂上)は一見クルドサック(袋小路)状になっているが、ブキャナン・ストリートと呼ばれる細い道と交差した丁字路になっている。ボールドウィン・ストリートと並行するコルダー・アベニューとアーノルド・ストリートの末端からはさらに上に未舗装の小道が続いており、ブキャナン・ストリートはこれらの上部を結んでいる。

歴史[編集]

ボールドウィン・ストリートを下る旅行者

ニュージーランドの道路の多くは、実際の地形を考慮せず、地図上で格子状に引かれた。ボールドウィン・ストリートを含むダニーデンの多くの道路も多分に漏れず、19世紀後半にチャールズ・ケトル (Charles Kettleによって設計された。

街路の名は、この土地を住宅地として分譲したウィリアム・ボールドウィン(William Baldwin)にちなんでいる。ウィリアム・ボールドウィンは、オタゴの州議会議員を務め、新聞社の創設者でもあった。

ボールドウィン・ストリートと平行に引かれた、1本北のアーノルド・ストリート(Arnold Street、1:3.6)、1本南のコルダー・アベニュー(Calder Avenue、1:5.4)、2本南のダルメニー・ストリート(Dalmeny Street、1:3.7)は、いずれも急勾配の道路である。

「世界一急な街路」[編集]

ボールドウィン・ストリート沿いの家

ギネスブックに最初に掲載されたとき、この道の傾斜のデータには重大な誤記があった。最大傾斜を 1:1.266 (79%、38°)としていたのである。あまりに異様な数値のためにボールドウィン・ストリートは有名になった。「1:2.66と記そうとして誤った」「38%と38°を誤った」などと諸説が取りざたされている。修正されたギネスブックの認定値は1:2.86(35%、19°)であるが、誤記が判明したのち、「世界一急な街路」の座をめぐるいくらかの論争も引き起こすことにもなった。2019年6月6日の計測の結果、ウェールズフォルズ・ペン・スレフの勾配がボールドウィン・ストリートをしのぐ37.45%であることが確認され、同年7月16日にギネス世界記録が更新された[2][3]

「急な街路」として知られるものには以下のようなものがある。

イベントと事件[編集]

頂上から街路を見下ろす

この街路では毎年夏(通常2月)「ボールドウィン・ストリート・ガットバスター(Baldwin Street Gutbuster)」というイベントが開かれる[1][8]。1998年からはじまったこのイベントは、麓から頂上まで駆け上がり再び麓まで駆け下りていくという、体力とバランスの試されるもので、毎年数百人が参加している。2008年時点での最高記録は、1998年に記録された1分56秒である[9]

2002年からは、さらにチャリティイベントが開かれるようになった。毎年7月に開かれるこのイベントではJaffaと呼ばれる丸いチョコレート菓子を3万個以上転がされる。菓子には一つに一人の出資者があり、集められた金は勝者への賞金と慈善事業の基金となる。このイベントは、1998年から行われていたチャリティを引き継いだものである。2000個のテニスボールを転がして集めた金を慈善団体に寄付するというものであった。

2010年1月2日にはニュージーランド在住でベテランのバイクスタントマン Ian Soanes がウィリー走行で坂を下った。バイクの一輪走行によるボールドウィン・アベニュー下りはこれが初とされる[10]

一方、スリルを求めての「遊び」や「悪ふざけ」から重大な事故も起きている。2001年3月には、車輪つきのゴミ箱 (Wheelie binに乗って坂を下ろうとした2人の学生が停車中のトレーラーに衝突、死傷している[11]。2009年10月には、自動車に結びつけたクーラーボックスに入って坂を下ろうとした3人の男性が危険運転と無秩序行為の罪で起訴された[12]

脚注[編集]

  1. ^ a b Hamel, A. (2008) Dunedin tracks and trails. Dunedin: Silver Peaks Press. pp. 2.08-09
  2. ^ 世界で「最も急な坂道」、英ウェールズでギネス認定」『ロイター通信』、2019年7月17日。2023年2月17日閲覧。
  3. ^ 世界一「急な通り」に認定 英ウェールズの住民、NZの名所から記録奪う」『BBC NEWS JAPAN』、2019年7月16日。2023年2月17日閲覧。
  4. ^ Bob Batz, Jr. (2005年1月30日). “Here: In Beechview”. Pittsburgh Post-Gazette. http://www.post-gazette.com/pg/05030/448976.stm 2007年8月11日閲覧。 
  5. ^ Pittsburgh Hills”. Western Pennsylvania Wheelmen. 2007年5月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2007年8月11日閲覧。
  6. ^ Getting the Slant on L.A.'s Steepest Street - Los Angeles Times, Thursday 21 August 2003
  7. ^ Baldwin St steeped in controversy (pdf) - Otago Experience (Dunedin City Council newsletter), Issue 3, March 2003, page 5
  8. ^ “Pupil wins gutbuster for third year in a row”. Otago Daily Times. (1993年2月17日). pp. 3 
  9. ^ McNeilly, Hamish (2008年3月13日). “Steep task no trouble for Gutbuster winner”. Otago Daily Times. 2008年11月30日閲覧。
  10. ^ “Stuntman conquers Baldwin St”. Otago Daily Times. (2010年1月2日). http://www.odt.co.nz/news/dunedin/87976/stuntman-conquers-baldwin-st 2011年5月8日閲覧。 
  11. ^ Dustbin death - The Guardian, Friday 2 March 2001
  12. ^ 'Chilly bin riders' have no regrets”. 3 News. 2009年11月17日閲覧。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]

座標: 南緯45度50分58秒 東経170度32分05秒 / 南緯45.84944度 東経170.53472度 / -45.84944; 170.53472