ボランティア

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タンカーからの事故で汚染された海岸の清掃ボランティア
選挙活動のボランティア
ボランティアによる災害現場での土砂除去

ボランティア: volunteer)とは、自らの意志により(公共性の高い活動へ)参加する人のこと、またはその活動のこと。特に日本語としてのボランティアは一般的に、社会への奉仕チャリティ)に際して用いられることもあるが、奉仕活動は何らかの権威に「奉り仕える」活動であり、また戦前の勤労奉仕のように強制性を伴う活動も含まれる点で、自発的でない活動は含めないボランティア活動とは異なる点は注意を要する。ただし、自発的に他者へのサービス提供を行う場合も多く、両者が重なる部分もある[1]。なお文部省の定めるボランティア活動の基本理念は、公共性、自発性、先駆性である [2]

語源・原義

直接の語源は、聖書の副詞形ウォルンターテ「自ら進んで」(動詞「volo(ウォロ、「欲する」「求める」「願う」の意味。ラテン語にはUの文字はなくVを「ウ」と発音した)」)からラテン語ウォルタースを経て英語の volunteer となった[3][4]。英語の volunteer の語の原義は十字軍の際に「神の意思」(voluntas) に従うひとを意味した[5]志願兵であり、現在でも「ボランティアをする(人)」のほか志願兵の意味でも使用されており、徴集兵を意味する forced,drafts とは対義の関係にある。なお、古代ローマ帝国とカルタゴが戦ったポエニ戦争の際、名将ハンニバルに大敗した古代ローマ帝国が奴隷の身分から解放する制度を導入した際に志願した奴隷をvolo(ウォロ)、複数形ではvoluntrii(ウォルンタリー)と呼称した[6]。この点を考慮すると、ボランティアの「義勇兵」「志願兵」を意味する起源は、古代ローマ時代の「奴隷兵」にさかのぼれる。 日本のボランティア活動においては、完全な自己負担もしくは交通費や実費その他活動に必要な実経費のみを実費弁償する「無償ボランティア」、または実費弁償の範囲を超えて低額の報酬を受け取る「有償(非利益化)ボランティア」、完全な営利化を行っている「営利ボランティア」などの呼称例が存在する[7]

世界各国のボランティア

米国

米国での動物園ボランティア

超高齢社会に向かいつつある社会背景の中で、アメリカ合衆国では定年退職者や高齢者の社会参加の一環として、若者の開発途上国でのボランティアを平和部隊として組織した先例に倣って、高齢者が学校や障害者、引きこもりの児童などに社会的なボランティアを展開するのをアメリコーAmeriCorps、アメリカ部隊)と名づけて、アメリカ合衆国連邦政府から経済支援を与えることにした。

アメリカ合衆国では、州によって高校生・大学生の時期に、5,000時間ほどボランティアに従事すると、就職のためのキャリア形成につながるというシステムがある。ボランティアを募集する機関と、ボランティアをしたことを認定する機関や認定資格者が制度的に確立し、一定の活動条件を満たした場合には本人にボランティア認定証が発行される。

ロシア

ロシアで開催された2018 FIFAワールドカップのボランティアの活躍でロシアの印象が前後で一変したと評価されている。現地取材した記者は頼りになるボランティアスタッフの存在の大きさを指摘している。大学生を中心としたロシアのボランティアスタッフがスムーズな英語を話せたこと、スタジアムだけでなく駅や空港、繁華街などで積極的なサービスが印象的だったと述べている[8]

日本

「ボランティア」「NPO」は、2002年1月18日株式会社角川グループホールディングス(当時は、株式会社角川書店)が商標登録出願、2003年4月25日に登録されたが、2005年5月10日に商標登録を取消されている。2012年に厚生労働省が日本国内のボランティア活動者を対象として実施した調べでは、最大のボランティア人材源となっているのは主婦層および高齢者層である[9]

1995年阪神・淡路大震災では、全国から大勢のボランティアが被災地に駆けつけたことから、「ボランティア元年」とも呼ばれる。震災が起きた1月17日を「防災とボランティアの日」としている。東日本大震災で罹災した男性が、恩返しとして災害ボランティア活動に参加するようになり、熊本地震・西日本豪雨・北海道胆振東部地震の復興に助力している。このように、被災した過去のある人々が恩返しとして、他の被災地でボランティア活動や支援活動に参加する動きが、日本に広がっている[10][11][12][13][14][15][16][17][18][19][20][21][22][23][24]

災害ボランティアの概数[25]
災害 人数 集計期間
阪神淡路大震災 138万人 1995年1月 - 1996年1月
新潟県中越地震 008万人 2004年10月23日 - 2005年3月31日
新潟県中越沖地震 003万人 2007年7月 - 12月
東日本大震災 102万人 2011年3月 - 12年3月
広島土砂災害 004万人 2014年8月 - 12月

観光客的ボランティアへの批判

兵庫県西宮市今村岳司市議会議員(当時)は、阪神・淡路大震災での被災体験を振り返り「ボランティアは、被災者が食うべきものを食い、被災者が飲むべき水を飲み、被災者が寝るべきところで寝(た)」と述べ、当時のボランティアのことを「観光気分で来た自分探し」「ただの野次馬観光客」「人から感謝されることを楽しみにやってきただけ」等とし、「要はプロに任せること」「被災地に必要なのは、プロだけで」あり[26]、「部隊の指揮下で日本のために自分を犠牲にできる人だけが、「ボランティア=義勇兵」として現地入りすべき」だと述べた[27]

イギリス

1948年にイギリスで開催されたロンドン五輪オリンピックがオリンピックボランティアの始まりである[28]2012年夏季ロンドンオリンピック・パラリンピックでは開催の2年前である2010年9月から募集が開始され、応募してきた24万人の中から書類選考などを経て最終選考に残った8万6000人に対して面接が行われ、その中から面接審査に合格した約7万人が参加している[28][29]。ラフバラ大学Globalization and Sports修士の川部亮子はイギリス国内でスポーツに関連するボランティアのイメージが大会前より身近になったことを評価した一方で、審査に合格出来なかったために興味を持ってボランティアに応募したのに活かされなかった人々が沢山いたことを指摘している[30]

オーストラリア

2000年夏季シドニーオリンピックでは5万人のボランティアが参加した。自らシドニーの事務局に自己アピールをしてボランティアに選ばれたというオーストラリア国外からのボランティア参加者も少なからずいたと報道されている[29]。大学院在学中に日本から参加した女性はオリンピックボランティアについて非日常空間として、「学校に通ったり、仕事をしたりしている中では味わえない経験が出来た」「1カ月間お祭りをやっている空間に当事者の人としていられるのは、ものすごく刺激的な経験」と述べている。シドニーオリンピックのボランティアの年齢構成については大学生を中心に若年層とリタイア世代の高齢者が多かったと明かしている[31]

脚注

  1. ^ 早瀬 昇 (2017). ボランティアコーディネーション力・第2版. 筒井のり子. Tōkyō: 中央法規出版. ISBN 978-4-8058-5493-8. https://www.worldcat.org/oclc/982489893 
  2. ^ 生涯学習審議会「今後の社会の動向に対応した生涯学習の振興方策について(答申)」の送付について”. 文部科学省. 2018年8月22日閲覧。
  3. ^ 「ボランティア」の源流は聖書が起点である―『石巻かほく』つつじ野 (2017年11月21日付)
  4. ^ 岩村義雄 (1 May 2016). 「キリスト教とボランティア道」 ―水平の<運動>から,垂直の<活動>に― (PDF) (Speech). 東京大学本郷キャンパス. 2018年6月30日閲覧
  5. ^ 八木雄二『神を哲学した中世』新潮選書p.71
  6. ^ 池田浩士 (2019-5-20). 『ボランティアとファシズム』. p. 176. http://www.jimbunshoin.co.jp/book/b451495.html. 
  7. ^ ボランティアについて” (PDF). 厚生労働省 社会・援護局 地域福祉課. 2018年8月22日閲覧。
  8. ^ W杯前後で印象が一変、現地取材記者が経験したロシアのおもてなし
  9. ^ 付属資料4. 高齢者の社会参画についての企業やNPO等の実態に関する既存調査一覧 内閣府共生社会政策統括官
  10. ^ “泥かきやごみ撤去に汗 被災地でボランティア活動本格化” (日本語). 日本経済新聞 電子版. https://www.nikkei.com/article/DGXMZO33010840U8A710C1AC1000/ 2018年9月16日閲覧。 
  11. ^ 茨城・常総から真備へ「恩返し」 15年被災時にボランティア支援」『山陽新聞デジタル|さんデジ』。2018年9月16日閲覧。
  12. ^ 神戸新聞NEXT|総合|「9年前の恩返し」 佐用町民、豪雨被災地に支援のタオル”. www.kobe-np.co.jp. 2018年9月16日閲覧。
  13. ^ 東北や神戸から真備へ「恩返し」 ボランティア2千人が復旧支援」『山陽新聞デジタル|さんデジ』。2018年9月16日閲覧。
  14. ^ “西日本豪雨:「困った時はお互い様」恩返しのボランティア - 毎日新聞” (日本語). 毎日新聞. https://mainichi.jp/articles/20180730/k00/00e/040/219000c 2018年9月16日閲覧。 
  15. ^ “西日本豪雨:被災地へ「恩返し」 住宅無償貸与など 県内で支援広がる /栃木 - 毎日新聞” (日本語). 毎日新聞. https://mainichi.jp/articles/20180712/ddl/k09/040/207000c 2018年9月16日閲覧。 
  16. ^ “「大雪の恩返しを」豪雨被災地へ 舞鶴市に福井県からボランティア | 社会 | 福井のニュース | 福井新聞ONLINE” (日本語). 福井新聞ONLINE. http://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/620935 2018年9月16日閲覧。 
  17. ^ <西日本豪雨>宮城からも続々とボランティア 汗だくで作業、思いは一つ「震災支援の恩返しを」」『河北新報オンラインニュース』。2018年9月16日閲覧。
  18. ^ 梅パワー届け 恩返し」『YOMIURI ONLINE(読売新聞)』、2018年9月13日。2018年9月16日閲覧。
  19. ^ “3連休でボランティア続々 北海道地震の被災地” (日本語). 47NEWS. https://www.47news.jp/news/2769138.html 2018年9月16日閲覧。 
  20. ^ “被災地でボランティア“始動” 広がる“支援の輪” - FNN.jpプライムオンライン” (日本語). FNN.jpプライムオンライン. https://www.fnn.jp/posts/00400674CX 2018年9月16日閲覧。 
  21. ^ “北海道地震:宮城から80歳の恩返し ボランティア続々と - 毎日新聞” (日本語). 毎日新聞. https://mainichi.jp/articles/20180916/k00/00m/040/090000c 2018年9月16日閲覧。 
  22. ^ INC., SANKEI DIGITAL (2018年9月12日). “【北海道震度7地震】列なすボランティア希望者 冷え込む中、被災者の力に” (日本語). 産経ニュース. https://www.sankei.com/affairs/news/180912/afr1809120005-n1.html 2018年9月16日閲覧。 
  23. ^ “受けた恩、他の被災地へ 愛媛県にボラバス運行、土のう袋寄付 - 大分のニュースなら 大分合同新聞プレミアムオンライン Gate”. https://www.oita-press.co.jp/1010000000/2018/09/13/JD0057308948 2018年9月16日閲覧。 
  24. ^ “西日本豪雨:熊本地震で被災のボランティア、汗ぬぐって恩返し - 毎日新聞” (日本語). 毎日新聞. https://mainichi.jp/articles/20180715/ddm/041/040/052000c 2018年9月16日閲覧。 
  25. ^ 「惨禍語り継ぐ 阪神大震災20年=下=」2015年1月15日日本経済新聞朝刊39面
  26. ^ あの恐怖と屈辱は、記憶よりさらに奥に刻みつけられてしまっている。”. 2011年3月13日時点のオリジナルよりアーカイブ。
  27. ^ それでもなにかできることを。~昨日の続編”. 2011年3月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。
  28. ^ a b 世界の人々を迎える五輪ボランティアの仕事とは」『ニコニコニュース』。2018年9月15日閲覧。
  29. ^ a b “五輪ボランティアスタッフに学ぶ、従業員満足度と顧客満足度の連係。(葛山智子)” (日本語). Number Web - ナンバー. https://number.bunshun.jp/articles/-/545535 2018年9月15日閲覧。 
  30. ^ 五輪ボランティア。その経験の活かし方とは?2012ロンドン大会から学ぶこと。~若松千枝加(留学プレス編集長)」『留学プレス(PRESS)|留学・旅・グローバル教育のニュースサイト』、2018年2月16日。2018年9月15日閲覧。
  31. ^ ボランティア体験記 〜ボランティア経験者にインタビュー〜 第1回 | 東京ボランティアナビ―東京2020大会に向けたボランティアウェブサイト―」『東京ボランティアナビ―東京2020大会に向けたボランティアウェブサイト―』。2018年9月15日閲覧。

参考文献

関連項目

外部リンク