ホンダ・C型エンジン
C型エンジン(Cがたエンジン)は、本田技研工業で製造されていた大型車種及びNSX用のV型6気筒ガソリンエンジンである。
機構
SOHC 4Valve
第1世代
- C20A,C25A,C27A
イギリスのブリティッシュ・レイランド(BL)と共同で、レジェンド及びローバー・800に搭載するために開発されたV型6気筒 SOHC 24バルブ クロスフロー エンジンである。回転方向は、当時の同社 他型式エンジンと異なり逆時計回り[1]である。
吸・排気バルブはそれぞれ2個ずつで、吸気バルブはタイミングベルトで駆動されるカムシャフトにより、外側支点のスイングアームを介し開閉され、排気バルブは、内側支点のスイングアームからプッシュロッドを介しバルブ直上のロッカーアームを作動させ、開閉するという機構[2]である。点火プラグがDOHCと同様に燃焼室の天井中央部に取付けられている。シリンダーブロックはアルミ製で、バンク角はV6エンジンでありながら90度であり、そのためクランクシャフトのクランクピンを30度オフセットし等間隔爆発を成立させている。[3]
燃料供給装置はPGM-FI仕様のみで、インテークマニホールドの各気筒のポートにインジェクターが取付けられたマルチポイント式で、インテークマニホールドに可変吸気装置が装備されている。エキゾーストマニホールドは等長で、その後ろに排気ガス浄化のため三元触媒が装備されている。
上級車用のエンジンであるため、ラッシュ・アジャスターやクランク・ダイナミックダンパー等が装着され、静粛性の向上が図られている。
ウィングターボ
- C20A
自社開発したウィングターボが装着されており、タービンハウジング内にある可変ベーンにより過給圧が制御され、ウェイストゲートバルブは装着されていない。吸気温度を下げるためのインタークーラーは、水冷式がシリンダーブロックのバンク内に装着され、吸気管長さを最短にレイアウトされている。それらにより、インターセプトポイント回転数(最大過給圧到達回転数:2,000rpm以下)やターボラグの低減が成されている。
第2世代
- C32A,C35A
FFミッドシップ用の縦置きエンジンとして開発され、オイルパンをドライブシャフトが貫通する特異な構造が採られている。それに対し、吸・排気バルブの駆動は、D型エンジンやF型エンジンと同様の、ロッカーアームのみを介したシンプルな構造に改められた。点火システムは、DOHC VTEC仕様と同様のダイレクトイグニッションである。
DOHC VTEC
- C30A,C32B
第1世代をベースにNSX用に開発され、NAエンジンでの高出力化を実現するために、B型エンジンで開発された可変バルブタイミング・リフト機構であるVTECが装備されている。カムシャフトにハイ/ロー2種類のカム駒を設け、そこに接するスイングアームを切り替え、吸・排気バルブの開閉タイミング(バルブタイミング)とリフト量を変化させ、中・低速域[4]のトルクと高速時の出力を両立させている。バルブ挟み角は60度と当時の市販乗用車用エンジンとしてはかなり大きく、これも高出力化に寄与している。
コネクティングロッドはチタン製で、ピストン及びピストンピンと共に重量管理が行なわれ、8,000rpmもの高回転と鋭いレスポンスを実現している。点火システムも、各気筒にイグニッションコイルを取付けたダイレクトイグニッションが採用され、高回転への対応が成されている。 3.2L仕様では、シリンダーにFRM(Fiber Reinforced Metal)を採用し、シリンダー間隔を広げること無くシリンダーボア径を拡大(90.0mmから93.0mm)し、排気量を増加させた。
- 1990年にNSXに搭載され、NAエンジンでありながら280PS(AT用は265PS)を達成した。ターボチャージャー付きである日産のRB26DETTやトヨタの1JZ-GTEに匹敵するほどのパワーである。
- 1991年・1992年にはアメリカの「IMSAシリーズ」に参戦したアキュラ・スパイスSE90CLに搭載され、キャメル GTP Light クラスにおいてドライバーズ、マニュファクチャラーズの両タイトルを2年連続で獲得している。
- 1997年にはMT用エンジンを、排気量を3.0Lから3.2Lに拡大したC32Bに変更した。
- 2004年・2005年にはターボ化されたC30A又はC32Bが、全日本GT選手権・SUPER GTに参戦するNSXに搭載されたが、戦績は思わしくなく、2005年シーズン途中でC32Bを3.5Lに改造したNAエンジンに戻された。
- GT300に参戦しているヴィーマック・RD320Rも、C32Bを3.4Lに改造し搭載しているが、こちらは戸田レーシングが製作している。
歴史
- 1985年10月22日に発表されたレジェンドに、2,000ccのC20Aと2,500ccのC25Aとが初めて採用された。
- 1988年10月14日にマイナーチェンジされたレジェンドに、ウィングターボを装着したC20Aターボエンジンが初めて採用された。
- 1990年9月13日に発表されたNSXに、DOHC VTECを搭載しNAでありながら280PSを達成した3,000ccのC30Aが採用された。
- 1990年10月24日 に発表された2代目レジェンドに、FFミッドシップに縦置き搭載されたC32Aが採用された。
- 2005年にNSXの生産終了によって、C型エンジンの生産も終了した。
存在したバリエーション
C20A
標準仕様
- 弁機構:SOHC ベルト駆動 吸気2 排気2
- 排気量:1,996cc
- 内径×行程:82.0mm×63.0mm
- 燃料供給装置形式:電子制御燃料噴射式(PGM-FI)
- 参考スペック(KA1 レジェンド)
- 最高出力:107kW(145PS)/6,500rpm
- 最大トルク:167N·m(17.0kgf·m)/5,500rpm
ウィングターボ仕様
- 弁機構:SOHC ベルト駆動 吸気2 排気2
- 排気量:1,996cc
- 内径×行程:82.0mm×63.0mm
- 過給機:可変ノズルターボ(ウィングターボ)
- 燃料供給装置形式:電子制御燃料噴射式(PGM-FI)
- 参考スペック(KA5 レジェンド)
- 最高出力:140kW(190PS)/6,000rpm
- 最大トルク:241N·m(24.6kgf·m)/3,500rpm
C25A
- 弁機構:SOHC ベルト駆動 吸気2 排気2
- 排気量:2,493cc
- 内径×行程:84.0mm×75.0mm
- 燃料供給装置形式:電子制御燃料噴射式(PGM-FI)
- 参考スペック(KA2 レジェンド)
- 最高出力:122kW(165PS)/6,000rpm
- 最大トルク:211N·m(21.5kgf·m)/4,500rpm
C27A
- 弁機構:SOHC ベルト駆動 吸気2 排気2
- 排気量:2,675cc
- 内径×行程:87.0mm×75.0mm
- 燃料供給装置形式:電子制御燃料噴射式(PGM-FI)
- 参考スペック(KA3 レジェンド・2ドアハードトップ)
- 最高出力:132kW(180PS)/6,000rpm
- 最大トルク:226N·m(23.0kgf·m)/4,500rpm
C30A
- 弁機構:DOHC VTEC ベルト駆動 吸気2 排気2
- 排気量:2,977cc
- 内径×行程:90.0mm×78.0mm
- 燃料供給装置形式:電子制御燃料噴射式(PGM-FI)
- 参考スペック(NA1 NSX)
- 最高出力:206kW(280PS)/7,300rpm
- 最大トルク:294N·m(30.0kgf·m)/5,400rpm
C32A
標準仕様
- 弁機構:SOHC ベルト駆動 吸気2 排気2
- 排気量:3,206cc
- 内径×行程:90.0mm×84.0mm
- 燃料供給装置形式:電子制御燃料噴射式(PGM-FI)
- 参考スペック(KA7 レジェンド)
- 最高出力:158kW(215PS)/5,500rpm
- 最大トルク:289N·m(30.5kgf·m)/4,500rpm
Type II仕様
- 弁機構:SOHC ベルト駆動 吸気2 排気2
- 排気量:3,206cc
- 内径×行程:90.0mm×84.0mm
- 燃料供給装置形式:電子制御燃料噴射式(PGM-FI)
- 参考スペック(KA7 レジェンド)
- 最高出力:173kW(235PS)/6,300rpm
- 最大トルク:289N·m(29.5kgf·m)/5,200rpm
C32B
- 弁機構:DOHC VTEC ベルト駆動 吸気2 排気2
- 排気量:3,179cc
- 内径×行程:93.0mm×78.0mm
- 燃料供給装置形式:電子制御燃料噴射式(PGM-FI)
- 参考スペック(NA2 NSX・タイプR)
- 最高出力:206kW(280PS)/7,300rpm
- 最大トルク:304N·m(31.0kgf·m)/5,300rpm
C35A
- 弁機構:SOHC ベルト駆動 吸気2 排気2
- 排気量:3,473cc
- 内径×行程:90.0mm×91.0mm
- 燃料供給装置形式:電子制御燃料噴射式(PGM-FI)
- 参考スペック(KA9 レジェンド)
- 最高出力:158kW(215PS)/5,200rpm
- 最大トルク:312N·m(31.8kgf·m)/2,800rpm
搭載されていた車種
C20A
- レジェンド (KA1/5)
C25A
- レジェンド (KA2)
- ローバー・800 (LA1)
C27A
- レジェンド・2ドアハードトップ (KA3)
- レジェンド (KA3)
- アコード(CE6)
- ローバー・800
C30A
- NSX (NA1)
C32A
C32B
- NSX (NA2)
C35A
- レジェンド (KA9)
脚注
- ^ 出力取出軸端より見た時の回転方向。JIS B 8001による。なお、後継エンジンであるJ型エンジンも逆時計回りで、以降に開発された他型式エンジンも順次逆時計回りに変更されていった。
- ^ SOHCエンジンでプッシュロッドを用いた自動車用エンジンは、1930年代のグランプリカーにも見られる
- ^ 1977年に試作されたCVCC 2.0L V6エンジンは、位相クランクを用いない3スローで、燃焼間隔は不等であった。そのために停車時に1.5次の振動が問題となり、試作車に搭載したエンジンはアイドリングを高くすることで振動領域を外した。これはプジョー、ルノー、ボルボにより共同開発されたPRVエンジンも同様であった。PRVエンジンは燃焼間隔を等間隔とすることでこれを解消し、C型エンジンもそれを参考にした。日高義明『サムライエンジニア』ISBN 978-4-88393-255-9
- ^ エンジン回転数の正式名称はエンジン回転速度。 JIS B 0108-1による。
関連項目
外部リンク
- 本田技研工業(オフィシャル)
- テクノロジー・ダイジェスト C32B(オフィシャル)
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