ブレス (ケルト神話)

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ブレス (Bres) は、ケルト神話に登場するである。フォモール族のエラッハ(Elatha)を父に、ダーナ神族エリウを母に持つ。

本来の名前は「エオフ」(Eochu)だが、アイルランドのあらゆる美しいものが「ブレスのように」と言われ比べられるだろうという父の予言から、ブレス(美しいもの)と呼ばれるようになった[1]

概要

ダーナ神族の王ヌアザは片腕を切り落とされたことにより王権を喪失する。彼に代わって王となった[2]ブレスはダグザの娘ブリギッドを妻に迎え入れた。しかし彼の支配は圧政であった。ダーナ神族に苛烈な税を課したのみならず、義父であるダグザに城砦を築かせ、オグマに過酷な人足を強いた。 徳や礼儀といった王としての資質が彼には不足していたため、詩人コープル(Cairbre mac Étaíne)によってアイルランドで最初の風刺詩の題材にされてしまった。ブレスは王に値しないという悪評は、この詩により瞬く間に広まったという。

さらに7年後、ヌアザが腕を取り戻し王位に復帰したため、暴君ブレスは追放処分となる。国外へと追いやられたブレスは父であるフォモール族のエラッハを頼り、エラッハはダーナ神族の王に返り咲こうとというブレスの目論みに同調する。フォモール族の長たるバロールインデッハ(Indech mac Dé Domnand)の後ろ盾を得たブレスは大軍勢を率いて、ダーナ神族に戦いを挑んだ。バロールの力によってフォモール族が勝利し、ダーナ神族はフォモール族の支配下に入る。だが第二次マー・トゥーレスの戦いで、ルーによってフォモール族の王バロールが討ち取られ、ブレスたちは敗北を喫する。

ブレスの運命は稿本によって異なる[3]。古い稿本においてはルーに魔法の家畜と農耕の技術を代償として差し出すことで生き長らえる。この技術は元来ダーナ神族が持っていなかったものであり、この時に補われたと解釈されている[4]。一方新しい稿本においてはルーに殺される。

  1. ^ マイヤー 2001, p. 199.
  2. ^ リース (2001, p. 637)によればダーナ神族の女性たちに支持されたため。
  3. ^ マイヤー 2001, p. 222.
  4. ^ 「(トゥアハ・デ・ダナーンは)最も必要な形での第三の機能――農業――を完全に欠いていた。反対に、この欠落を補おうにも、それは敵のフォモールの手にあった。だから、この辺の事情が、農業隆盛の秘密と交換にブレシュが命を助けられた協約の中に要約されているのである。」(マッカーナ 1991, p. 122)
    「面白いことにトゥアハ・デ族は戦争と工作技術には長けていたのに、農耕の技術を持ってはいなかった。そのために彼らは土着のフォモーレ族に頼らざるを得なかったのである。」(グリーン 1997, p. 26)

出典

  • グリーン, ミランダ・J 著、市川裕見子 訳『ケルトの神話』丸善株式会社、1997年。ISBN 4-621-06062-7 
  • マイヤー, ベルンハルト 著、鶴岡真弓 平島直一郎 訳『ケルト事典』創元社、2001年。ISBN 4-422-23004-2 
  • マッカーナ, プロインシァス 著、松田幸雄 訳『ケルト神話』青土社、1991年。ISBN 4-7917-5137-X 
  • リース, ブランリー (2001). イヴ・ボンヌフォワ (ed.). 世界神話大事典. 大修館書店. ISBN 4469012653 {{cite encyclopedia}}: |title=は必須です。 (説明); 引数|ref=harvは不正です。 (説明)