フェロニッケル

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集積回路から突き出たリードフレーム部に使われている

フェロニッケル(英語:ferronickel)は、合金フェロアロイ)の一種で、鉄とニッケルの合金の事である。製品とされるものの構成比はニッケル20〜40%、鉄80〜60%とされる[1]。その製品の7割がステンレス鋼の原料に使われる[2]

ニッケル銑鉄[編集]

2000年代中期の中国では、低品位のニッケル鉱石から電気炉等によって製造されるニッケル含有銑鉄、通称「ニッケル銑鉄」(英語:Nickel pig iron、略称:NPI)を格安で増産し、ニッケル銑鉄は世界のニッケル需要の4分の1を賄うまでになった[2]。このニッケル銑鉄はステンレス鋼を作る時に使用される純度の高いニッケルの安価な代替として利用されている[3][4]

ロータリーキルン電気炉(Rotary Kiln Electric Furnace)は、8〜15%のニッケルを含んだ高品位ニッケル銑鉄の効率的な生産が可能であることから、中国で盛んに導入されている[4]

ニッケル銑鉄以外の合金例[編集]

Fe-Ni合金例
合金名 主組成(wt%) 特長 用途例
マルエージング鋼 Fe-18〜30Ni(Co,Mo) 強度靱性などに優れる 航空宇宙軍事分野に使われる特殊鋼、輸出規制品
コバール
(フェルニコ)
Fe-29Ni-17Co 室温付近での硬質ガラスの
熱膨張率と近似した性質
蒸着用マスク、集積回路リードフレーム材
インバー
(不変鋼)
Fe-36Ni 熱膨張しにくい 精密機器、センサー[5][6]
エリンバー
(恒弾性合金
または弾性不変鋼)
Fe-38Ni-12Cr 温度で弾性変化しにくい 時計やセンサーのぜんまいばねばねなど
42アロイ Fe-42Ni 室温付近での硬質ガラス、
アルミナ・セラミックの熱膨張率と近似
集積回路リードフレーム材
パーマロイ Fe-80Ni 透磁率が大きい 磁気センサ継電器

その他[編集]

規格[編集]

フェロニッケルスラグ[編集]

成分
利用

ブラスト材として販売する場合、使用後廃棄物処理法を遵守し処理されることを確認しなければならない[15]

  • 宮崎県日向市の山間部(西川内地区、東郷町山陰地区等)の埋立材料に使用されている。
  • 5-0.3mmの粒度範囲より微粉末のフェロニッケルスラグは、多くの場合、使い道がなくストックされているのが現状である[16]
安全性
  • ミンダナオ州立大学イリガン技術研究所の研究者らが、フィリピン イリガン市の工場から出るフェロニッケルスラグをアメリカ合衆国環境保護庁の定める合成降水浸出手順毒性指標浸出法で測定したが、環境保護庁の定める基準値を超える結果は検出されなかった[17]
  • 2012年(平成24年)日向市民が、宮崎県日向市大字富高字山下2003番地のグリーンサンド造成地の沈砂地において採取したと主張する排水の水質が、環境基準を大幅に超過しているとして日向市役所に計量証明書を提出した [注釈 1][18][19]。これを受け、平成24年10月に宮崎県日向市の「グリーンサンド」で土地造成された西川内地区周辺水域の水質検査を行ったが、「水質汚濁に係る環境基準」(人の健康の保護及び生活環境の保全の上で維持されることが望ましい基準)の基準値を超えるものは見られなかった。平成26年8月にも同様の調査が行われたが、基準値を超える結果は検出されていない[20]
  • 国土交通省の資料では、フェロニッケルスラグの有害物質の溶出について、各事業所が実施した溶出試験結果から、有害物質は検出されないか、検出されても環境基準以下の値となっている。なお、フェロニッケルスラグの使用に際しては有害物質の溶出について使用を予定している事業所に詳細を確認し、必要に応じて試験を行うことが望ましいとしている[9]

非鉄スラグ製品の製造・販売管理ガイドライン[編集]

日本鉱業協会では、「非鉄スラグ製品の製造・販売管理ガイドライン」を2016年 2月25日に改正して公開した[15]

これには、フェロニッケル スラグ を取り扱うことができる事業者名が明記された。

脚注[編集]

  1. ^ Extractive Metallurgy of Nickel, Cobalt and Platinum Group Metals, ISBN 0080968090, 49p
  2. ^ a b ニッケル高騰を招いた「鉱石のサウジ」の禁輸(東洋経済オンライン)
  3. ^ Nickel Prices Look Poised to Reboundウォール・ストリート・ジャーナル
  4. ^ a b 中国のステンレス鋼産業とニッケル需給への影響(独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料 著:竹下聡美)
  5. ^ 松下幸雄 『化学大辞典』1、化学大辞典編集委員会(編)、共立、1981年10月、縮刷版第26版、518頁。
  6. ^ 深道和明, 斎藤英夫、不感磁性インバー合金,エリンバー合金Cr基合金を中心にして 『日本金属学会会報』 1976年 15巻 9号 p.553-562, doi:10.2320/materia1962.15.553
  7. ^ 隕石で発見された夢の磁性材料(公益財団法人 高輝度光科学研究センター)
  8. ^ Geoenvironmental Engineering: Geoenvironmental Impact Management, ISBN 0727730339.
  9. ^ a b c 2-80 2.8 非鉄金属スラグ 銅スラグ (PDF)国土交通省
  10. ^ 住友金属鉱山_日向製錬所ホームページ_グリーン・サンド
  11. ^ JIS制定等のプロセス
  12. ^ JIS A 5011-2 コンクリート用スラグ骨材
  13. ^ 5.国際標準化すべき3Rに係る国内規格、規格分野の抽出と方向性の検討(経済産業省)
  14. ^ 日本工業規格:JIS Z 0312
  15. ^ a b 日本鉱業協会ホームページ「非鉄スラグ製品の製造・販売管理ガイドライン」 の改正について
  16. ^ 「土質安定処理材としてのフェロニッケルスラグ微粉末の適用に関する研究」庄嶋芳卓
  17. ^ International Journal of Environmental Science and Development, Vol. 3, No. 5, October 2012 (PDF)
  18. ^ 宮崎地方裁判所延岡支部 平成26年(ワ)第86号、第89号 名誉棄損・損害賠償請求等裁判
  19. ^ 計量証明書 平成24年8月10日付 公益財団法人宮崎県環境科学協会発行
  20. ^ グリーンサンド(フェロニッケルスラグ)に関することについて(宮城県環境森林部 循環社会推進課)

注釈[編集]

  1. ^ 後にグリーンサンド製造業者などが原告となり、ブログなどでグリーンサンドの有害性を強弁していた同市民を被告とした名誉棄損・損害賠償裁判が行われ、批判していた箇所の削除などの命令が下った。宮崎環境研究所が発行した計量証明書は、検出された有害物質がグリーンサンドには含まれていないか、ごく微量含まれる成分であること、被告が採取した場所を証明できないなどの理由で不採用となった。

外部リンク[編集]