ビジネスジェット

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ボンバルディア社のビジネスジェット グローバル・エクスプレス

ビジネスジェットbusiness jet, 略してbizjetとも)とは、数人から十数人程度を定員とする小型の航空機で、企業個人が(旅客運送ではなく)公共交通としてではない用途(ゼネラル・アビエーション)を想定して設計製造されているもの。実際にはほとんどが企業の人員輸送で使用されている。カンパニー・ジェット、コーポレート・ジェット、エグゼクティブ・ジェットなどとも呼ばれる。

ビジネスジェットとして最初に運航されたのは1950年代に開発されたノースアメリカン セイバーライナーロッキード ジェットスターで、政府機関向けに納入された傍ら、民間向けにも販売された。最初から民生用途で開発され量産された機種は、1964年引き渡し開始のリアジェット23とされている。

コンセプト

使用目的

企業が所有し経営幹部社員の移動のために使用する(社用機)場合、個人(大企業の創業者など資産家)が個人的な移動に使用(自家用機)する場合、国家要人輸送、報道機関新聞社通信社など)の取材・連絡機などに使われる(もちろん操縦士が所属して機体の管理を行う「航空部」や、お抱え機長が必要である)。アメリカ同時多発テロ以降に空の安全が疑問視されたことを背景に、テロの標的となる可能性の低いビジネスジェット機の需要は増大した。

軍用機としても採用されている事が多く、従来、この場合は要人 (VIP) 輸送機捜索救難機としての任務が多い。最近では電子戦機として改造して使用したり、(前掲のビジネスジェット普及の状況を踏まえて、目立たず、また政府とは無関係であることを装うため)少人数の特殊部隊諜報機関の国外展開(特殊作戦)といった機密性の高い任務に投入される事もある。特に後者は軍用機に多い迷彩塗装を用いず一般的な塗装が施され、空軍国籍マークを描かず機体記号民間機扱いとしたり、民間のそれを付けている事が多い。

2007年金融危機の影響

2007年の金融危機以降、アメリカの自動車産業ビッグスリー幹部への非難が高まり、ビジネスジェット機を使用することへの批判が高まり、シティバンクなど購入を中止する企業も現れた。 これに対して全米ビジネス航空協会全米ゼネラル・エヴィエーション協会は「飛行機なくして得る物なし!」(No Plane No Gain!)というスローガンキャンペーンを展開している(“痛み無くして得る物なし”〜No Pain No Gain〜をもじったもの)。

エンジン

黎明期においては戦闘機用、練習機用などの比較的小型のターボジェットエンジンを流用していた。 その後、ビジネス機にも燃費静粛性が求められるようになり、ギャレット TFE731プラット・アンド・ホイットニー・カナダ JT15Dなど、最初からビジネス・ジェット機において使用されることを前提として開発されたターボファンエンジンが第二世代となる。 さらにビジネスジェット機が細分化されるとともに生産数が増加し、多くのビジネス機用ジェットエンジンが開発され、現在に至っている。 エンジンの装備数については、四発機はロッキード ジェットスターのみ、三発機大洋横断を想定したダッソー ファルコン50シリーズ、同ダッソー ファルコン900シリーズの二機種のみで、圧倒的に双発機が主流である。 自家用用途では運用コストの面から今後単発ジェット機が主流になろうが、ビジネス用途では安全性冗長性)、悪天候時の定時性のため、双発以上が主流。

コミューター機との違い

ビジネスジェットと外観上似ている機体にコミューター航空会社リージョナルジェットや、エアタクシーと呼ばれる小型のジェット旅客機がある。基本骨格となる胴体主翼の多くを共用するなど、構造上の類似性があるが、リージョナルジェットはローカル空港とハブ空港を結ぶなど比較的近距離運用が多いため、燃料搭載量が少ないなどの考え方の違いがある。

所有形態

1980年代後半、ビジネスジェットの新たな所有形態が現れる。航空機の所有権を分割して販売、それを購入した所有者には所有比率に応じた飛行時間が割り当てられ、その飛行時間内であれば何時でも航空機を使用できる権利を保証するというもので、「フラクショナル・オーナーシップ」と呼ばれた。この事業モデルの考案者はエグゼクティブ・ジェット・アビエーション(EJA、現ネットジェッツ)社。1965年設立のEJA社はビジネス機のチャーター運航をしていたが、1984年からフラクショナル・オーナーシップ事業を開始した。この販売方法は当初、1機売れるところが分割所有権分しか売れなくなると考えられ、航空機セールスマンから嫌われたが、実際にはビジネスジェットなど考えてもみなかった新規顧客を開拓することとなり、一挙にビジネスジェット機は普及しはじめた。アメリカ国内ではEJA社のような運航会社が次々と設立され、大量にビジネスジェット機を購入することになった。EJA社の場合、当初6機のセスナ社製ビジネスジェット機でフラクショナル・オーナーシップ事業を始めたが、その後数十機単位で運行機を増加し、数百機で運航する会社も少なくない。アメリカにはこれだけのビジネスジェット機の潜在需要があったということを示す例でもある。また、ビジネス・ジェット機を生産するメーカー各社は、小型から大型機までラインナップをきめ細かく揃えることで、これらの運航会社の需要に応えている。現在ではフラクショナル・オーナーシップは世界各国で最も一般的なビジネスジェット機の所有方法となっている。

中古機および未購入機

現在、世界のビジネスジェット市場はアメリカが最大規模で、ヨーロッパがこれに次いでいるが、アジア中米などでもニーズは高まりつつある。またNARA (National Aircraft Resale Association) などの中古機市場も盛んである。 また「未購入機」の取引市場も形成されている。こういう市場が成立するのは、一般に飛行機は発注してから納品されるまで2、3年かかるので、発注したものの資金が足りなくなる者もあれば、急に活動範囲が広がり、すぐにも入手したい者もあるからである。

日本の実情

セスナ・サイテーション・ソブリン
リアジェット31A

ビジネスジェット機はそのほとんどがN類小型機(最大離陸重量5,670 kg・12,500 lb以下)の枠に収まらず、日本の法律下においては空港への着陸制限、ランプ使用制限など運航に対する規制が多い。航空法自体が大手航空会社を想定して制定されたのが理由ともいわれ、運行コストを引き上げ、柔軟な運航ができない原因となっている。

例として
  1. 空港によっては、事前に許可を取得する必要があり、突然の出発や到着ができない。東京国際空港フライトプランを遅くとも7日前までに提出し、許可を申請するよう義務化している。
  2. 欧米に比べて耐空証明書、予備品証明などの各種書類の手続きが複雑であること。
  3. 施設利用料や着陸料が欧米に比べて高額であること。
  4. 地価を反映してか、格納庫などの使用料が高額。台湾フィリピンタイなどの空港に定置し、必要に応じて日本に呼んで使用する例もある。
  5. 航空法第78条により最大離陸重量5.7 tを超える飛行機は技能検定に合格した運航管理者(ディスパッチャー)を必要とする。

日本の主要都市の空港の多くはビジネス機が自由に利用できる環境になかったため、ビジネス機の導入が欧米諸国と比べ遅れていた。近年では首都圏空港や地方大都市空港においてビジネスジェットを積極的に受け入れる気運が高まっている。

日本では新幹線という高速鉄道網が主要都市を結んでいるため、旅客機と新幹線が競合するという問題も大きい。特に新幹線のは主要都市の中心部にあるか、距離的に近いことが多く、他の交通機関への乗り換えも便利であるのに対し、飛行場は主要都市郊外にあり、乗り換えの利便性と所要時間で劣ると言う問題もある。新幹線と航空機の移動時間差はそれほど大きいとは言えず、前後の地上交通との乗り換えまで考慮すると航空機が不利な場所も多い。また、天候による影響も新幹線の方が圧倒的に小さく、墜落事故の不安や乗車前の検査なども無い新幹線に比べてステータス以外のビジネスジェットのメリットはあまり大きくない。(ただし、新幹線は概ね0時から6時まで運転されていない。)

日本は他国と比較して治安が良いため、航空会社によって運航される旅客機が欧米のようにテロリズムの爆破対象となったり、アメリカ同時多発テロ事件のような破壊活動に使われたりする可能性が低く、ビジネスジェットのセキュリティ面での優位性も希薄である。

メーカー一覧

超軽量ジェット機

外部リンク