ヒ酸水素鉛(II)

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ヒ酸水素鉛(II)
識別情報
CAS登録番号 7784-40-9 チェック
特性
化学式 PbHAsO4
モル質量 347.1 g/mol
外観 白色結晶
融点

280℃(分解)

への溶解度 冷水に不溶、熱湯に微溶
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

ヒ酸水素鉛(II)(ヒさんすいそなまり に、: lead(II) hydrogenarsenate)はヒ酸塩で、化学式 PbHAsO4 で表される無機化合物

用途[編集]

アメリカ合衆国オーストラリアカナダニュージーランドイングランドフランス北アフリカで、野菜・ゴム・コーヒー・芝生の農場での蛾の駆除、牛舎での蚊の駆除に使用された。アメリカでの生産量は最盛期の1937年が28,700トンで、それ以降は急速に減少した。1930年代に、アメリカでヒ酸水素鉛(II)の使用を制限する動きがあったが、リンゴの生産者団体などによる強い抵抗があり、全面使用禁止となるまでには1988年までかかった。

日本では戦前より農薬として使われており、1948年9月27日には登録制度ができて第1号の農薬登録を受けた[1]。接触毒性を持ち、果樹のハマキムシコガネムシ、野菜のヨトウガシンクイムシに対する殺虫剤として使われた。ミカンに対しては、酸味を抑える減酸剤として違法に使用された[2]1956年には農薬残留許容量が登録された農薬の中で最も早く設定されたほか、1968年には主成分の鉛と砒素の残留基準が食品四品目(リンゴブドウキュウリトマト)において設定[3]。 さらに1971年には作物残留性農薬として散布回数や使用期間に制限を受けた。1978年には農薬登録が失効したが、その後も熊本県などで無登録農薬として販売され、警察の摘発を受けた[2]

合成[編集]

硝酸鉛(II)ヒ酸との反応により生成される。

安全性[編集]

日本の毒物及び劇物取締法では毒物に分類されている。ラットに経口投与した場合の半数致死量 (LD50) は80 mg/kg[4]ヒ素の化合物であり、発癌性の恐れがある。不燃性であるが、加熱により分解し、ヒ素やを含む有毒ガスが生じる[5]

脚注[編集]

  1. ^ ますます注目される食品中の鉛規制”. 食品分析開発センター. 2022年6月15日閲覧。
  2. ^ a b 植村振作・河村宏・辻万千子・冨田重行・前田静夫著『農薬毒性の事典 改訂版』三省堂、2002年。ISBN 978-4385356044 
  3. ^ 残留農薬から食卓守る 四食品に許容量『朝日新聞』1968年(昭和48年)3月21日夕刊 3版 11面
  4. ^ 安全衛生情報センター
  5. ^ 国際化学物質安全性カード