神統記

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神統記』(しんとうき、: θεογονία, テオゴニアー: Theogony)は、紀元前700年頃の古代ギリシアの詩人ヘーシオドス作の叙事詩である。ダクテュロスヘクサメトロス(長短短六脚韻)1022行からなる。冒頭の記述からヘーシオドスの処女作とされ、30代前半の作品と推定される。原題の「テオゴニアー」は「神々の誕生系譜」を意味する。

原初の混沌=カオスからの世界の創造、神々の系譜とその三代にわたる政権交代劇を描き、ギリシア神話の宇宙観の原典とされる。

特徴として、ゼウス政権の正統性、無謬性を強調する事(そのためティーターノマキアープロメーテウスの説話に若干矛盾が生じている)、女神ヘカテーを強く賛美している事などがある。

作品中には後世の挿入と見られる箇所もあり、965行から後を、元来は別の作品(『女傑伝』)であったと推定する研究者[誰?]もいる。

神々の系譜[編集]

作者はまず前置きとして詩神ムーサへの賛歌から始め、オリュンポスの諸神と歴史を語り起こす。そしてオリュンポスの始まりと神々の誕生、ウーラノス - クロノス - ゼウスの三代にわたる政権交代劇を説き起こす。

原初の神々[編集]

最初に カオス(混沌)が生じた。その次にガイア(大地)とタルタロス(冥界)、そして エロース(愛)がともに誕生した。カオスからは エレボス(幽冥)と ニュクス(夜)が生まれ、両神が交わってニュクスは ヘーメラー(昼)と アイテール(清明な大気)を産んだ。

これらの原初の神々からは、人間のありようをめぐる概念の擬人化神格化とも言える多数の神々が生まれたと、ヘーシオドスはうたう。ニュクスからは、夜の子供に相応しい、ヒュプノス(眠り)やオネイロス(夢)、またタナトス(死)やネメシス(義憤)、運命の三女神らが生まれている。

ティーターンの誕生[編集]

ガイアは独力でウーラノス(天空)とポントス(海)を生んだ。ガイアはウーラノスを夫とし、数多くの巨人や神々を次々に生んでいく。まずティーターン十二神を生んだ。すなわち、オーケアノス(大洋)、コイオスクレイオスヒュペリーオーン(光明)、イーアペトステイアーレアーテミス(審判)、ムネーモシュネー(記憶)、ポイベーテーテュース、そして末子の狡猾なクロノス(農耕)が生まれた。

またガイアは一つ目の巨人キュクロープスブロンテースステロペースアルゲース)を生んだ。彼らキュクロープスはいずれも雷に関する名を持ち、のちにゼウスに雷を与えたという。そして五十頭百手の巨人ヘカトンケイルコットスブリアレオースギューゲース)を生んだ。

クロノスとその子[編集]

ウーラノスはガイアとの間に生んだティーターン神族を恐れ、大地の体内に押し込めていた。しかしガイアはそれを怨みに思っていた。ガイアは鎌を用意して子供たちに渡し、一矢報いる策略を練った。ある夜、ウーラノスがガイアに覆い被さると、末子のクロノスがウーラノスを鎌で去勢し、切断された男根を放り投げた。ウーラノスの男根からは原初の美の女神アプロディーテーが生まれた。

クロノスはレアーとの間に光り輝く子供たちを生んだ。ヘスティアーデーメーテールヘーラーハーデース、 ゼウスらの兄弟である。しかしクロノスは、父ウーラノスとガイアから、自分の子供に打ち倒されるであろうとの予言を受けており、それを恐れたクロノスは生まれた子供たちを飲み込んでいった。しかし、ゼウスだけはレアーからガイアに渡され、大地に隠されて岩を身代わりとし、難を逃れた。長い隠遁ののちゼウスは成長し、クロノスを打倒して兄弟たちを助け出した。

日本語訳[編集]

参考書籍[編集]

  • ヘシオドス 『神統記』 岩波書店

脚注・出典[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]