ダプネー

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ジョヴァンニ・バッティスタ・ティエポロの『アポロンとダフネ』(1743年-1744年)。ルーブル美術館所蔵。
ジャン・ロレンツォ・ベルニーニの彫刻『アポロンとダフネ』。ボルゲーゼ美術館所蔵。

ダプネー古希: Δάφνη, Dáphnē)は、ギリシア神話に登場するニュンペーである[1]テッサリアー地方の河神ペーネイオスの娘[2][3]、あるいはアルカディア地方の河神ラードーンの娘[4][5]

ダプネーはギリシア語月桂樹という意味。欧米では女性の名前として名付けられることもあり(著名な例ではデュ・モーリア)、日本語ではドイツ語フランス語経由でダフネ(英・独:Daphne、仏:Daphné)とも呼ばれる。

アポローンに求愛されたダプネーが自らの身を月桂樹に変える話は、ギリシア神話の物語の中でもポピュラーであり、この物語に由来する芸術作品や風習が数多く存在する。

神話[編集]

ある日アポローンは弓矢で遊んでいたエロースを揶揄する。そのことで激怒したエロースは相手に恋する金の矢をアポローンに、逆に相手を疎む鉛の矢を近くで川遊びをしていたダプネーにそれぞれ放った。

金の矢で射られたアポローンはダプネーに求愛し続ける一方、鉛の矢を射られたダプネーはアポローンを頑なに拒絶した。追うアポローンと逃げるダプネー、ついにアポローンはペーネイオス河畔までダプネーを追いつめたが、ダプネーはアポローンの求愛から逃れるために、父である河の神に自らの身を変える事を強く望んだ。

その望みを聞き届けた父は、ダプネーの体を月桂樹に変えた。あと一歩で手が届くところで月桂樹に変えられてしまったダプネーの姿を見てアポローンはひどく悲しんだ。そしてアポローンは、その愛の永遠の証として月桂樹の枝から月桂冠を作り、永遠に身に着けている[6][注 1]

アルカディア地方やエーリス地方の伝承によると、ピーサ王オイノマオスの息子レウキッポスがダプネーに恋をした。しかしダプネーは男を避けていたので、女装して、自分をオイノマオスの娘だと偽って近づいた。ダプネーは他の女よりも身分が高く、狩りの腕にも秀でていたのですぐにレウキッポスのことを気に入った。しかしアポローン神は腹を立て、ダプネーや他の女たちにラードーン川で泳ぎたいという強い思いを抱かせた。しかしレウキッポスが泳ぎたがらないので、女たちはレウキッポスの衣服をはぎ取り、男であることに気づくと剣で殺した[7]

なお、セレウコス1世アンティオケイア近郊のダプネーの地にアポローンの神殿を造営したが、そこにはダプネーが変身したとされる月桂樹があったという[8]

芸術作品[編集]

ギャラリー[編集]

ロベール・ルフェーブルの絵画『アポロンから逃げるダフネ』(1810年頃)。個人蔵。

その他のダプネ―[編集]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ ヒュギーヌスによれば、彼女の願いを聞き届けたのはガイアである[3]

脚注[編集]

  1. ^ フェリックス・ギラン 『ギリシア神話』邦訳、p.88。
  2. ^ オウィディウス『変身物語』1巻。
  3. ^ a b ヒュギーヌス、203話。
  4. ^ パウサニアス、10巻7・8。
  5. ^ 高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』p.149b。
  6. ^ オウィディウス『変身物語』1巻452行-567行。
  7. ^ パウサニアス、8巻20・2-4。
  8. ^ パウサニアス『ギリシア記』8巻20・2 への飯尾都人による注釈(p.111)。
  9. ^ 山内宏泰 (2017年2月11日). “西洋絵画の洗練・豪奢・官能を体現する テオドール・シャセリオーの大規模個展”. 文藝春秋. 2018年10月2日閲覧。
  10. ^ 『芸術新潮』 2017, p. 150.
  11. ^ シケリアのディオドロス、4巻66・5-66・6。

参考文献[編集]

関連項目[編集]