スマイリーと仲間たち

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スマイリーと仲間たち
Smiley's People
著者 ジョン・ル・カレ
訳者 村上博基
発行日 イギリスの旗 1979年[1]
日本の旗 1981年5月
発行元 イギリスの旗 Hodder & Stoughton
日本の旗 早川書房
ジャンル スパイ小説
イギリスの旗 イギリス
言語 英語
形態 ハードカバー
ページ数 384
前作 スクールボーイ閣下 (1977年)
次作 リトル・ドラマー・ガール (1983年)
コード ISBN 0-340-24704-5
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スマイリーと仲間たち』(Smiley's People)は、イギリスの作家、ジョン・ル・カレが1979年に発表したスパイ小説。1982年にテレビドラマ化された。

概要[編集]

ジョージ・スマイリーを主役とする『スクールボーイ閣下』(1977年)の続編である。

ル・カレは当初「カーラ追跡」シリーズを7冊以上と考えていたが、『スクールボーイ閣下』執筆後はシリーズを4部作に縮小し、3作目の舞台を中東にすることを目論んだ。『ニューズウィーク』の中東特派員、デイヴィッド・グリーンウェイとレバノン、シリア、ヨルダン、イスラエルを回り、取材を重ねた。元MI5職員の旧友、ジョン・ミラー[2]ともイスラエルを訪れ、構想を膨らませた。1977年から78年にかけての冬、ル・カレは、ある高官から近々イスラエルがレバノンを攻撃するとの情報が入るという出だしで3章ほど書き進めるが、途中でこれを失敗作とみなし、執筆を中止した。

小説が今の形になったきっかけは、ロシア革命初期にペトログラードから移住してきた男とヒースで出会ったことだった。ル・カレはロシア人老紳士のエストニア人の妻を見て、小さな亡命者グループの哀しみを思った。この人物が将軍と呼ばれるウラジミールのモデルとなった[3]。エストニア出身の軍人で、戦後MI6に加わったアルフォンス・レバネ(Alfons Rebane)もウラジミールのモデルと言われている[4]

アメリカ版が先に発売され、クノップフの初版は15万部発行された。イギリスでは予約販売が79,240部に達し、たちまちベストセラーとなった。『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』のテレビシリーズが1980年1月にカナダとオーストラリアで放映されたことが追い風になったとも言われている。本国のBBC1チャンネルは同年2月から3月にかけて同テレビシリーズを再放送した[5]

あらすじ[編集]

隠語[編集]

  • Baby-sitter - 訳語は「護衛」、「子守り(ベビーシッター)」[6]
And how, pray, do you attach a team of baby-sitters to a long-distance Continental lorry driver?[7]
  • Coat-trailing - 囮を使って敵方の工作員を転向させること[8]
“Obsession, our new masters were pleased to call it in their finding. The old games of coat-trailing—turning and playing back our enemies’ spies—in your day the very meat and drink of counter-intelligence—today, George, in the collective opinion of the Wise Men—today they are ruled obsolete.”[9]
  • Cousins - 訳語は「米情報部(カズンズ)」[10]。特にCIAを指す。
“The landlord. A professor at Berne University, a creep. A while ago the Cousins got alongside him and said they’d like to run a couple of probe mikes into the ground floor, offered him money.”[11]
  • Housekeepers - 訳語は「運営部」[12]
The Circus Housekeepers had a holy terror of weapons, and his illicit revolver was in the bedside locker, where no doubt they had by now found it.[13]
  • Legend - 訳語は「伝説」。「legend」はもともとKGBが使っていた隠語で[14]、「偽装身分」を指す。
'To tell you it concerned the Sandman. That's all. The Sandman is making a legend for a girl. Max will understand.'[15]
  • Moscow Rules - 訳語は「モスクワ・ルール」。西側の諜報員が敵国で従うひとまとまりの原則。また、スパイ活動における技術や道具も指す。
“But by then he was shouting at me down the phone. ‘A meeting or nothing. Tonight or nothing. Moscow Rules. I insist Moscow Rules. Tell this to Max—’”[16]
  • Neighbours - 訳語は「隣人」[17]。ソ連情報部を意味する。
“I asked whether there was anything I could do in the meantime and he said, ‘Find Max. Just find me Max. Tell Max I have been in touch with certain friends, also through friends with neighbours.’ There were a couple of notes on the card about his word code and I saw that ‘neighbour’ meant Soviet Intelligence.”[18]
  • Scalp-hunters - 訳語は「首狩り人(スカルプハンター)」[19]。殺人や誘拐など危険な任務にあたる部隊。
“Pete Lusty, used to be a scalp-hunter. Those guys have been having it very bad, George. No work, no action.”[20]

テレビドラマ[編集]

スマイリーと仲間たち
脚本 ジョン・ホプキンズ
ジョン・ル・カレ
監督 サイモン・ラングトン
出演者 アレック・ギネス
アイリーン・アトキンス
マイケル・バーン
マイケル・ロンズデール
オープニング パトリック・ガワーズ
国・地域 イギリスの旗 イギリス
言語 英語
シーズン数 1
話数 6
各話の長さ 360分
製作
プロデューサー ジョナサン・パウエル
撮影監督 ケネス・マクミラン
製作 BBCワールドワイド
放送
放送チャンネルBBC Two
映像形式4:3
音声形式モノラル
放送期間1982年9月20日 (1982-09-20) - 1982年10月25日 (1982-10-25)
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BBCは『Tinker Tailor Soldier Spy』(1979年)に続いて、再びアレック・ギネスをジョージ・スマイリー役にすえ、全6回のテレビシリーズを制作した。放映開始日は1982年9月20日。ひと月後にはアメリカのPBSでも放送された。

制作が決まったとき『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』を監督したジョン・アーヴィンは別の映画の撮影中であったため、参加できる状況になかった。プロデューサーのジョナサン・パウエルはジョン・マッケンジーを引き入れようとしたが、ギネスが納得せず、サイモン・ラングトンが監督することとなった。ジョン・ホプキンズが書いた脚本は長すぎるなどの問題があり、ル・カレ自身が自ら書き直した[21]

全6話放送の『Smiley's People』はアメリカでは3部門でエミー賞にノミネートされた。イギリスでは英国映画テレビ芸術アカデミーの10部門でノミネートされた。そのうちアレック・ギネスが再び主演男優賞を、ベリル・リードが主演女優賞を獲得、ほか2部門で受賞した。

配役[編集]

日本語訳[編集]

  • ジョン・ル・カレ 著、村上博基 訳『スマイリーと仲間たち』早川書房、1981年5月。 
  • ジョン・ル・カレ 著、村上博基 訳『スマイリーと仲間たち』ハヤカワ文庫、1987年4月10日。ISBN 978-4150404390 

脚注[編集]

  1. ^ Smiley's People by John le Carré - Goodreads
  2. ^ アダム・シズマン 著、加賀山卓朗、鈴木和博 訳『ジョン・ル・カレ伝 <上>』早川書房、2018年5月25日、299頁。 
  3. ^ アダム・シズマン 著、加賀山卓朗、鈴木和博 訳『ジョン・ル・カレ伝 <下>』早川書房、2018年5月25日、123-127頁。 
  4. ^ Lucas, Edward (2012). Deception: The Untold Story of East-West Espionage Today. USA: Bloomsbury Publishing. p. 277. https://books.google.com.au/books?id=Ri7HMsanlAwC&pg=PT277 2019年3月18日閲覧。 
  5. ^ 『ジョン・ル・カレ伝 <下>』 前掲書、155-156頁。
  6. ^ ジョン・ル・カレ 著、村上博基 訳『スマイリーと仲間たち』ハヤカワ文庫、1987年4月10日、212,424頁。 
  7. ^ Carré, John le (2011). Smiley's People. Penguin Books Ltd. Kindle. p. 165 
  8. ^ 『スマイリーと仲間たち』 前掲書、81-82頁。
  9. ^ Carré, John le (2011). Smiley's People. Penguin Books Ltd. Kindle. p. 62 
  10. ^ 『スマイリーと仲間たち』 前掲書、449頁。
  11. ^ Carré, John le (2011). Smiley's People. Penguin Books Ltd. Kindle. p. 353 
  12. ^ 『スマイリーと仲間たち』 前掲書、242頁、394頁。
  13. ^ Carré, John le (2011). Smiley's People. Penguin Books Ltd. Kindle. p. 308 
  14. ^ Le Carré, John; Matthew Joseph Bruccoli; Judith Baughman (2004). Conversations with John le Carré. USA: University Press of Mississippi. pp. 68–69. ISBN 1-57806-669-7. https://books.google.com/books?id=jxPWT_Lo5yQC&pg=PA68&lpg=PA68 
  15. ^ Carré, John le (2011). Smiley's People. Penguin Books Ltd. Kindle. p. 211 
  16. ^ Carré, John le (2011). Smiley's People. Penguin Books Ltd. Kindle. p. 73 
  17. ^ 『スマイリーと仲間たち』 前掲書、96頁。
  18. ^ Carré, John le (2011). Smiley's People. Penguin Books Ltd. Kindle. pp. 71-72 
  19. ^ 『スマイリーと仲間たち』 前掲書、452頁。
  20. ^ Carré, John le (2011). Smiley's People. Penguin Books Ltd. Kindle. pp. 355 
  21. ^ 『ジョン・ル・カレ伝 <下>』 前掲書、170-171頁。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]