スッポン

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スッポン
水から上がったスッポン
保全状況評価
VULNERABLE
(IUCN Red List Ver.2.3 (1994))
 
情報不足(DD)環境省レッドリスト
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 爬虫綱 Reptilia
: カメ目 Testudines
亜目 : 潜頸亜目 Cryptodira
上科 : スッポン上科 Trionychoidea
: スッポン科 Trionychidae
亜科 : スッポン亜科 Trionychinae
: キョクトウスッポン属
Pelodiscus
: ニホンスッポン P. sinensis
学名
Pelodiscus sinensis
(Wiegmann, 1835)
和名
キョクトウスッポン
シナスッポン(支那鼈)
スッポン(鼈)
ニホンスッポン(日本鼈)
英名
soft-shelled turtle

スッポン(鼈・龞・鱉、丸魚、Pelodiscus sinensis)は、爬虫綱カメ目スッポン科キョクトウスッポン属に分類されるカメ。「キョクトウスッポン」「アジアスッポン」「ヒガシアジアスッポン」「シナスッポン」「チュウゴクスッポン」「ニホンスッポン」の名で呼ばれることもある(ニホンスッポンとチュウゴクスッポンに亜種を分ける説もある)。

分布

中国日本台湾韓国北朝鮮ロシア南東部・東南アジア

日本では本州以南に生息するが養殖場から逃亡した個体に由来する個体群と自然個体群の両方が生息するため、正確な自然分布については不明な点が多い。日本国内に生息している個体群は、本州、四国、九州のものは主として在来個体群に起源すると考えられているが、南西諸島の個体群は、過去に中国など海外から人為的に持ちこまれたものが起源と考えられ、その由来の追跡研究も現在行われている。なお、日本国内の個体を亜種P. s. japonicusとする説もある。

形態

スッポンの頭部。下顎の唇の内側にくちばし状の鋭い角質板が見える。

最大甲長は38.5cm。ごくまれに60cmまで成長する個体もいる。他のカメと異なり、甲羅表面は角質化していないので軟らかく、英訳のSoft-shelled turtle(柔らかい甲羅を持つカメ)の由来にもなっている。この甲羅の性質のため、他のカメよりもかなり体重が軽い。幼体は腹甲が赤みがかり、黒い斑紋がある。成体の腹甲は白やクリーム色。

身体に触られると自己防衛のために噛みつこうとする。顎の力が強いことからも、噛みついた後はその状態のまま首を甲の内側に引っ込めようとする。噛まれた場合は10秒程度動かさせなければ噛みを止めるほか、大抵の場合は水に戻せばそのまま泳いで逃げる。

生態

生息環境はクサガメイシガメと似通っているが、水中生活にクサガメなどのカメよりもさらに適応しており、水中で長時間活動でき、普段は水底で自らの体色に似た泥や砂に伏せたり、柔らかい甲羅を活かして岩の隙間に隠れたりしている。これは喉の部分の毛細血管が極度に発達していて、ある程度水中の溶存酸素を取り入れることができるためで、大きく発達した水かきと軽量な甲羅による身軽さ、殺傷力の高い顎とすぐ噛み付く性格ともあわせ、甲羅による防御に頼らない繁栄戦略をとった彼らの特色といえる。 このことに加え、鼻と首が長く鼻先をシュノーケルのように水上へ出すことで呼吸できるため、上陸して歩行することは滅多に無いが、皮膚病に弱いため、あまり頻繁ではないものの護岸などで甲羅干しをしている姿も時折見かける。また水中だけでなく、陸上でも非常に素早い動きを見せる。

食性は動物食の強い雑食で魚類両生類甲殻類貝類、稀に水草等を食べる。

繁殖形態は卵生で、1回に10-50個の卵を産む。

料理

スッポン鍋

すっぽんは日本列島や中国大陸では、古くから食されていたようである。日本列島においては滋賀県に所在する栗津湖底遺跡において縄文時代中期のスッポンが出土しているが、縄文時代にカメ類を含む爬虫類の利用は哺乳類鳥類に比べて少ない[1][2]弥生時代にはスッポンの出土事例が増加する[2]

すっぽんは主に西日本の食文化であったが近世には関東地方へもたらされ、東京都葛飾区青戸葛西城跡から出土した動物遺体には中世末期から近世初頭の多数のスッポンが含まれている[3]

生血の日本酒割

すっぽんからとれる出汁は美味とされ、日本酒とすっぽんで拵えた「スープ」や雑炊、吸い物は日本料理の中では高級料理とされる。甲羅膀胱(俗称「尿袋」)、胆嚢(同「苦玉」)以外はすべて食べられることが特徴である。すっぽんの形状が丸いため「まる」ともよばれる。解体することを専門用語では「四つ解き」などとも言う。専門店では食前酒として、すっぽんの活血を日本酒等のアルコールで割ったものを供す。ワイン等で割った血を供す店もある[要出典]

全体を乾燥して粉末化した健康食品に用いられることも多い。

また、古代中国の書『周礼』によれば、代にはすっぽんを調理する人という官職があり、宮廷で古くからすっぽん料理が食されていたようである。現在も安徽料理のポピュラーな食材として用いられている。

韓国では、サムゲタン(参鶏湯)に高級食材を加えたヨンボンタン(龍鳳湯)の食材に用いられることがある。

滋養強壮の食材とされているが、肉には水分が多い。蛋白質脂質が少なくカロリーは低い。ビタミンAビタミンB1は多い。[要出典]

日本国内で食用とされるのは臭みが無い天然個体で、養殖個体は餌の臭いが強く臭く感じる。食用のカメの養殖のことを、養鼈(ようべつ)という。養鼈は多くの府県でおこなわれている。養殖の手法には、野生のスッポンと同様に冬眠させて行う露地養殖と、工場の排熱や温泉などを利用した加温養殖がある。神経質でかつ日光浴を好むスッポンには静寂で日照のある環境が重要であるため、山間部や一年を通してのビニールハウス養殖は適さない。スッポン科で大型のコブクビスッポンPalea steindachneri )やマルスッポンなどは中国では食用として珍重されていたが、養殖が進まず、絶滅が危惧されている。

甲羅を乾燥させたものを土鼈甲(どべっこう)といい粉末にして精力剤とされるほか、市販の栄養ドリンク健康食品の原材料に用いられることも多い。

文化

タブー

古代中国では、スッポンの肉とヒユを混ぜて放置するとスッポンが生まれるとされ、同時に食べた場合はスッポンが腹を食い破ると伝えられた。そのため日本の養老律でも、天皇の食事にスッポンとヒユを同時に出した者は罰せられると規定された。

伝承

北越奇談』にあるスッポンにまつわる怪談「亀六泥亀の怪を見て僧となる」(葛飾北斎画)[4]

かつて日本ではキツネタヌキといった動物と同様、土地によってはスッポンも妖怪視され、人間の子供をさらったり血を吸ったりするといわれていた[5]。また「食いついて離さない」と喩えられたことから大変執念深い性格で、あまりスッポン料理を食べ過ぎると幽霊になって祟るともいわれた[6]

江戸時代には、ある大繁盛していたスッポン屋の主人が寝床で無数のスッポンの霊に苦しめられる話が北陸地方の奇談集『北越奇談』にある他[4]、名古屋でいつもスッポンを食べていた男がこの霊に取り憑かれ、顔や手足がスッポンのような形になってしまったという話が残されている[6]。また古書『怪談旅之曙』によれば、ある百姓がスッポンを売って生活していたところ、執念深いスッポンの怨霊が身長十丈の妖怪・高入道となって現れ、そればかりかその百姓のもとに生まれた子は、スッポンのように上唇が尖り、目が丸く鋭く、手足に水かきがあり、ミミズを常食したという[7]

近代でも、一度噛みつかれると「が鳴っても離さない」と言い伝えられてきた。

文章表現

スッポン食に関係する諺(ことわざ)として、「鼈人を食わんとして却って人に食わる」がある。物事をしつこく探求する者を「スッポンの何某」と呼ぶこともあった。

前近代の中国人は、漁業で生活する異民族を「魚鼈(ぎょべつ)にまみれる」と表現した。

保護上の位置づけ

他の淡水系の生物と同様、生息地の破壊により野生個体数が減少していると思われるが、もっぱら養殖産業の面だけに注意が向けられ、野生個体についてはほとんど調査が行なわれていない。野生絶滅の危険があるのかも含めて不明であり、環境省のレッドリストでは情報不足に分類されている。一方で、国際自然保護連合 IUCN のレッドリストでは、2016年に絶滅危惧のある危急種として追加された。

脚注

  1. ^ 伊庭, 功 (1990). “粟津湖底遺跡の発掘調査(湖底に沈んだ縄文時代中期の貝塚)”. 滋賀考古 (5): 50〜51. 
  2. ^ a b 新美倫子「鳥獣類相の変遷」『縄文時代の考古学4 人と動物の関わりあい』(同成社、2010年)、pp.146 - 147
  3. ^ 樋泉岳二「漁撈活動の変遷」西本豊弘編『人と動物の日本史1 動物の考古学』(吉川弘文館、2008年)、p.143
  4. ^ a b 京極夏彦他編著『北斎妖怪百景』国書刊行会、2004年、131頁。ISBN 978-4-336-04636-9 
  5. ^ 村上健司編著『妖怪事典』毎日新聞社、2000年、198頁。ISBN 978-4-620-31428-0 
  6. ^ a b 水木しげる妖鬼化』 2巻、Softgarage、2004年、84頁。ISBN 978-4-86133-005-6 
  7. ^ 江馬務『日本妖怪変化史』中央公論新社中公文庫〉、1976年、37頁。ISBN 978-4-12-200349-1 

関連項目

外部リンク