シーランド公国

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シーランド公国
Principality of Sealand
シーランドの国旗 シーランドの国章
国旗 国章
国の標語:E mare libertas
ラテン語: 海からの自由)
国歌海からの自由
シーランドの位置
公用語 英語
首都 シーランド
最大の都市 シーランド
政府
大公 マイケル・ベーツ
首相等 不明
面積
総計 0.00055km2???位
水面積率 不明
人口
総計(xxxx年 xxx,xxx人(???位)4人
人口密度 xxx人/km2
GDP(自国通貨表示)
合計(xxxx年 xxx,xxxシーランド・ドル
GDP(MER
合計(xxxx年xxx,xxxドル(???位
1人あたり xxxドル
GDP(PPP
合計(xxxx年xxx,xxxドル(???位
1人あたり xxxドル
独立1967年9月2日
通貨 シーランド・ドル???)(アメリカ合衆国ドルと等価)
時間帯 UTC±0 (DST:不明)
ISO 3166-1 不明
ccTLD 不明
国際電話番号 不明

シーランド公国(シーランドこうこく、英語: Principality of Sealand)は、北海の南端、イギリス南東部のサフォーク州の10km沖合いに浮かぶ構造物を領土と主張する自称「国家」。

国連加盟国及びバチカン市国よりも面積が小さいため、世界最小の国家を自称する。ただし、2016年現在、国連に加盟する193か国及びバチカン市国の計194か国の中でシーランド公国を国家承認している国はない。

歴史

建設~独立

シーランド公国

イギリスは第二次世界大戦中、沿岸防衛の拠点として4つの海上要塞と多数の海上トーチカを建設した[1]。これらはマンセル要塞英語版(Maunsell Fort)と呼ばれる。

シーランド公国が領土としているフォート・ラフス(Fort Roughs / U1、ラフス・タワー Roughs Tower とも)は、最も北に位置していた海上要塞であり、1942年から建設された。イギリス沖10kmの北海洋上、ラフ・サンズ(Rough Sands)と呼ばれる砂堆の上に、大きな柱が二本ある巨大な構造物(ポンツーン)を沈め、海上に突き出した柱の上に居住区や対空砲台などが作られていた。戦時中は150から300人ものイギリス海軍兵員が常時駐留していたが、大戦終了後に要塞は放棄された[1]

1967年9月2日に元イギリス陸軍少佐で海賊放送の運営者だったパディ・ロイ・ベーツは、イギリス放送法違反で訴えられた[2]。彼は当時イギリスの領海外に存在したこの要塞に目をつけ、不法占拠した上で「独立宣言」を発表、要塞を「シーランド」と名付け、自らロイ・ベーツ公と名乗った。

イギリスは強制的に立ち退かせようと裁判に訴えたが、1968年11月25日に出された判決では、シーランドがイギリスの領海外に存在し、またイギリスを含めて周辺諸国が領有を主張していなかったことから、イギリス司法の管轄外とされた[2]

クーデターの勃発

1978年に、ロイ・ベーツ公はカジノの運営を計画し、西ドイツ投資家アレクサンダー・アッヘンバッハ(Alexander G. Achenbach)を首相に任命した。ところが、アッヘンバッハらはクーデターを画策し、モーターボートヘリコプターでシーランドを急襲して当時のマイケル・ベーツ公子(現在の公)を人質に取ると、ロイ・ベーツ公を国外へと追放した。英国へと渡ったロイ・ベーツ公は、20名程の同志を募ってヘリコプターを使用しての奪還作戦を行い、これを成功させた[3]

アッヘンバッハは公国のパスポートをもつ同「国」の「国民」であることから、シーランド公国により反逆罪で投獄され、7万5千マルクの罰金を命じられた。西ドイツ政府はイギリス政府に自国民であるアッヘンバッハらの解放を依頼したが、イギリス政府は海上要塞は自国の司法の管轄外にあるとする1968年の判決を理由に断り、やむなく西ドイツはシーランド公国へ駐ロンドン大使館外交官を派遣して解放交渉を行うこととなった。一国から正式に外交官が派遣されるという事態に、ベーツは自国が事実上西ドイツにより承認されたものと喜び、罰金の問題は立ち消えることになった。

西ドイツへと戻ったアッヘンバッハらは、アッヘンバッハを枢密院議長(Chairman of the Privy Council)として擁立し、シーランド公国亡命政府の樹立を宣言、シーランドの正統な権利を主張した[3]1989年にアッヘンバッハ枢密院議長が健康上の理由から引退すると、ヨハネス・ザイガー(Johannes Seiger)が首相兼枢密院議長(Prime Minister and Chairman of the Privy Council)として後を継いだ。1990年には、シーランド公国亡命政府としての独自硬貨の発行も行っている。

近年における問題

火災発生以後のシーランド(2006年9月)

2006年6月23日、老朽化した発電機から火災が発生し公国が半焼。ロイ・ベーツはこのとき国外に住んでいたため無事であったが、国土は壊滅状態に陥った[4]。同6月25日にはベーツ夫妻が国土に戻り、私財を投じて国土の再整備を行い、7月末には発電機や焼失した配線系統の復旧が完了し、公国が存続することができた[4]。国土の再整備には、売りに出した爵位などの売上金が再建の助けになったとも言われている[4]

シーランド公国は、希望があればパスポートを発行するサービスも行っていたが、大量の偽造パスポートが出回っため発行を一時中止して、1997年以前に発行されたパスポートはすべて無効にする事態となっている[4]

2007年1月8日付のイギリスデイリー・テレグラフ紙で、6500万ポンドで国全体が売りに出されていることが報じられた。なお、あくまでも国家の主権は「売り物」ではないため、シーランド公国側では売却(Sale)ではなく、譲渡(Transfer)という言葉が用いられた。これを受けて、スウェーデンにてBitTorrentトラッカーを扱うウェブサイト「パイレート・ベイ」が買収に名乗りを上げたが、シーランド公国側に拒絶され断念する[5]

ロイ・ベーツの死去

マイケル・ベーツ(2015年)

ロイ・ベーツは、2012年10月9日(英国時間)に91歳で死去した[6]。同日、「摂政」を務めていた「公子」のマイケルが父の後を継ぎ、2代目シーランド公に即位した[7]

国家としての成否

シーランド公国を「独立国家」として承認する国・政府が現れることはなかったため、国際的には国家として扱われていない[2]国際法上の国家成立要件には争いがあり(モンテビデオ条約 (1933年)参照)、宣言的効果説に立てば成立の余地もあるが、創設的効果説では成立の余地はない。

国際法上では国家成立の大きな要件のひとつとして領土をあげており、この領土とは島または大陸の全部または一部であると解されている。そして、海の憲法と呼ばれる海洋法に関する国際連合条約では「島とは、自然に形成された陸地であって、水に囲まれ、高潮時においても水面上にあるものをいう」としている。自然に形成された陸地ではないシーランドは「島」ではなく、大陸の一部でもないため、シーランド公国は国際法上でいう領土を持たず、国家成立の大きな要件を欠いているため認められないことになっている[2]

行政区分

領土全体が首都である。首都は公が直接統治していると推測される。

地理

  シーランドから3海里の範囲
  シーランドから12海里の範囲
  イギリスから3海里の範囲
  イギリスから12海里の範囲

シーランド公国は北海上に建設された海上施設を「領土」とする自称「国家」である。海底に設置したアンカー部分、2本の円柱、甲板という3つの部分から構成されている。円柱部分はAからGの7階層のデッキとなっている。発電機の置かれたAデッキとその直下のBデッキが海面上に、CからGデッキが海面下に位置する。BデッキからEデッキは戦時中、食糧貯蔵庫および要員の居室、Fデッキは弾薬庫、Gデッキは資材置き場となっていた。360度のオーシャンビューが売りだが、Aデッキの発電機の振動がすさまじく、住環境はあまりよくないといわれる[2]

国土面積は207m²とされている。国土が極端に狭く、バチカン市国より小さい。

右の地図では、両国の位置とそれぞれの領海との関係を示すためにシーランド公国から3海里(青点線)と12海里(青実線)、イギリスから3海里(黒点線)と12海里(黒実線)の範囲を示した。

イギリスは1987年10月1日、領海を従来の3海里(約5.5km)から12海里(約22km)へと拡大する旨を宣言した[2]。これによりシーランド公国はイギリス領海に含まれるはずだった。しかしその前日の9月30日にシーランド公国も自国の領海を12海里へ拡大すると宣言し、シーランドがイギリス領海に取り囲まれ公海と途絶する事態は回避された。 また、公式ショップサイトで土地の販売も行われている[8]

軍事と警察と騎士団

通常、1名の兵士が1丁のライフルでシーランド領内を巡回している。しかし、有事の際にはロイ・ベーツ公が英陸軍時代の人脈を背景に独自に集めた戦力が加わった事例があるため、必ずしもこの治安力が全てとはいえない。 また、シーランド騎士団も存在する。ただし、インターネットで加入権を販売しているのみで、実態はない。

経済

シーランドの硬貨

下記の「爵位」のほか、切手コインを販売している。2000年から2008年までの間、ヘイブンコー社が設置されデータ・ヘイブンとなるサービスを提供した。

爵位の取得

【Lord,Lady,Baron,Baroness】

シーランド公国のウェブサイト上でロード(Lord)、レディ(Lady)を£29.99、男爵(Baron、女性形Baroness)の「爵位」を、2010年4月現在£44.99で販売しており、購入すれば誰でもや男爵などを名乗ることができる。有効期限はないので、更新手続きなどの必要はない。これらにはシーランド公国の概要・歴史・位置情報が書かれた書面、ロイ・ベーツ公の写真、これらを保存するためのファイルがセットでついてくる。

それぞれの称号に対して、申込時に登録した通りの名称・爵位が書かれた爵位認定証が送付される方式のStandard Noble Title Packと、£15を追加して額縁およびマイケル王子のサインが追加となるセット・Premium Noble Title Packの二通りがある。

選べる称号はロード(Lord)、レディ(Lady)、男爵(Baron、Baroness)のみ。「Lord/Lady/Baron/Baroness ○○ of Sealand」と印刷される。LordとLadyはあくまでも“貴族である”という保証がなされるだけで、貴族の階級を認定するものではない。

【Count,Countess 他】

2011年末頃からCount/Countess Title Packとして新たにCount、Countess、Conte、Contessa、Comte、Comtessa、Conde、Condeesaの称号が£199.99で発売された。いずれもそれぞれ英語、イタリア語、フランス語、スペイン語で「伯爵」を意味する。このパックを購入すると、「シーランド公国の伯爵」を名乗ることができる。こちらも、有効期限はないので、更新手続きの必要はない

額装された爵位認定証(マイケル王子のサイン入り)、ゴールドの身分証明カード、豪華ファイル、シーランド公国の概要・歴史・位置情報が書かれた書面、ロイ・ベーツ公並びに公室の写真、ロイ公、ジョン王女、マイケル摂政皇太子の伝記、ワールドファクトブックのエントリ、政府の構造について書かれた書面がセットとなる。

このCount/Countess Title Packの爵位認定証からは、認定日も明記されるようになった。

【IDカード】

シーランド公国の身分証明書IDカード(2013年6月発行)。

爵位を取得したものには、他に爵位、名前、住所が記載されたIDカードの発行も受け付けている。別途£25.00が必要。

携帯できる身分証明書である。爵位を取得したら必要となるものではなく、あくまで任意のものなので、申請しなくても爵位は失効しない。

こちらは顔写真も印刷されるため、5年の有効期限が付されている。ただしこれはIDカードとしての有効期限であり、爵位そのものとは関係がない。

2013年現在は、『Title』欄が“Mr./Ms./Mrs./Dr.(博士号医師免許等保持者のみ)”等であれば、この身分証明書IDカードのみの発給申請も可能となっている。申請はオンラインで行い、sealandgov.orgから返信されてくるメールに必要事項を記入。その際、IDカードに使用する写真ならびに、求められた各種事項を証明する公書類(パスポートなど)のスキャンデータを添付する必要がある。

【シーランド騎士団(ナイト)】

またシーランド騎士団勲章(Knights of the Sovereign Military Order of Sealand)と呼ばれる勲章も£99.99で販売されている。貴族の身分ではなく、いわゆる「ナイトの称号」に当たる。認定証も爵位のものとはデザインが違う。

ちなみに切手や消印もSealandの物で送られてくる。

爵位を得た日本の有名人

交通

港かヘリポートから海外へ渡航可能。国内の公共交通機関はなく、自家用の乗り物、または徒歩で移動する。

文化

放送

元々は海賊放送局である、事実上のシーランド国営放送局がある。

映画

シーランド公国は、2007年9月14日にロイ・ベーツ公とその家族らを中心に据えた映画「Sealand」の制作決定をWebサイトで公表した[11]。複数の映画情報Webサイトでも取り上げられている[12][13]

スポーツ

サッカーシーランド代表というものが存在する。監督はクリスティアン・オルセン。ただしFIFAUEFAに加盟していないので、公式戦は行えない。主に非承認国家が参加する国際団体NF-Boardには準会員として参加している。

公式キャラクター

日本の漫画ヘタリアに登場するシーランド君をシーランド公国政府及びシーランド大公ベーツ家として公式キャラクターとしており、上記の爵位を購入した際の付属の紙面にて紹介している。

脚注

  1. ^ a b 武田知弘 2008, p. 73.
  2. ^ a b c d e f 武田知弘 2008, p. 74.
  3. ^ a b 武田知弘 2008, p. 75.
  4. ^ a b c d e 武田知弘 2008, p. 76.
  5. ^ 「世界最小国家」買収にBitTorrentサイトが名乗り、IT Media News、2007年1月16日
  6. ^ Prince Roy of Sealand aka Roy Bates (passed away 9th October 2012) Obituary
  7. ^ Sealand Treasury
  8. ^ Buy a Piece of Territory
  9. ^ 爵位Get、後藤寿庵 Visual Workshop
  10. ^ ISBN9784905054、「政治と宗教のしくみがよくわかる本」(林雄介著、マガジンランド)、P152に男爵購入の記載あり。
  11. ^ SEALAND MOVIE DIRECTOR NAMED
  12. ^ Sealand (2010)IMDbWebサイト
  13. ^ Sealand Hollywood.com、Hollywood.comWebサイト

参考文献

  • Frank R.Turner, The Manusell Sea Forts, Part one: The World War Two Naval Sea Forts of the Thames Estuary., ISBN 0-9524303-0-4
  • 雑誌『Title』 2001年3月号 文藝春秋 pp.36 - 41 「インターネット国家 シーランド公国の野望」 文・写真 雪竹祥子
  • 雑誌『COURRiER Japon』2007年1月4日・18日合併号(Vol.27)、p.82、「イギリス東部、幽霊島の知られざる"独立国家"」
  • 武田知弘『教科書には載っていない!ワケありな国境』彩図社、2008年5月15日、73-76頁。ISBN 978-4-88392-637-4 

関連項目

外部リンク

座標: 北緯51度53分40秒 東経1度28分57秒 / 北緯51.89444度 東経1.48250度 / 51.89444; 1.48250