ギャグ漫画
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ギャグ漫画(ギャグまんが)は、読者を笑わせるギャグ描写を中心として描かれる日本の漫画のこと。コメディ漫画と同一視されてもいるが、現代日本においてコメディはほとんどが健全な笑いのイメージで使われ、またギャグは必ずしも笑顔(心の中だけでも)に誘導することは目的としていない。
歴史
「ポンチ絵」と呼ばれてきた明治期から、漫画という語が定着するようになった大正期の半ばから昭和に入って以降、長く漫画とは政治や世相を風刺して笑えるものという位置付けであった。大人漫画においても子供漫画においても、ギャグのある漫画と断るまでもなく、漫画にとって笑いは不可分な要素であり、笑いのない漫画は存在しなかったのである。
ところが、子供向け漫画において、1960年代の後半頃より笑いの要素をなくした劇画が登場。同時期に赤塚不二夫の『おそ松くん』など少年誌では笑いに特化した漫画が人気を呼ぶようになった。こうして、1960年代後半から1970年代初めにかけて、漫画が笑いの要素のない劇画とギャグ専門のギャグ漫画に分化。ギャグ漫画というジャンルが成立した。
それまでの漫画の主流であり、依然として笑いと不可分でユーモアやナンセンスの要素を強く持った大人漫画は、青少年向けのストーリー漫画とギャグ漫画に食われる形で、1970年に文藝春秋の大人漫画誌『漫画読本』が休刊するなどジャンル自体が衰退していった。
コンピュータゲームのギャグ漫画化
ゲームの解説書や攻略本、及びゲーム雑誌においてコンピュータゲームをギャグ漫画化したものが載せられることがあった。またホビーメーカーと関わりの強い小学館の月刊コロコロコミックや別冊コロコロコミックにおいて、コンピュータゲームを原作としたギャグ漫画が掲載されている。
- 1990年〜 沢田ユキオ 『スーパーマリオくん』
- 1994年〜2006年 ひかわ博一 『星のカービィ デデデでプププなものがたり』
- 1996年〜 穴久保幸作 『ポケットモンスター』
- 1999年〜2011年 後藤英貴 『サルゲッチュ ウキウキ大作戦!』
- 2003年〜2006年 川野匠 『激闘!エグゼ兄弟ロックメーン』
- 2004年〜2008年 のむらしんぼ 『ラチェット&クランクガガガ!銀河のがけっぷち伝説』
エニックスは1990年から2006年において自社・他社のゲームを原作としたアンソロジー形式の4コママンガ劇場を発刊していた。4コママンガ劇場を描いていた漫画家がその後系列雑誌でギャグ漫画家として活躍している(柴田亜美の『南国少年パプワくん』や衛藤ヒロユキの『魔法陣グルグル』など)。またエニックスは月刊少年ギャグ王において4コママンガ劇場を描いていた漫画家を多数起用した。その後、エニックス系の雑誌ではギャグを受け入れる下地が出来ることとなり、金田一蓮十郎や木村太彦などの漫画家を輩出したり、くぼたまことなどの他誌で活動していた作家が連載を持ったりした。
不条理ギャグの台頭
不条理ギャグとは、読者にとって不条理で理解しがたいシュールな展開が起こるギャグを指す。何でもありなキャラクター、関係ないセリフ、脈絡の無い展開、起承転結無視、ツッコミ不在などが使われる。
有名な作品として、
- おそ松くん(赤塚不二夫とフジオプロ、1962年週刊少年サンデー)
- オバケのQ太郎(藤子不二雄とスタジオゼロ、1964年週刊少年サンデー)
- 天才バカボン(赤塚不二夫とフジオプロ、1967年週刊少年マガジン)
- ハレンチ学園(永井豪とダイナミックプロ、1968年週刊少年ジャンプ)
- ねじ式(つげ義春、1968年月刊漫画ガロ)
- バカ式(長谷邦夫、1969年COM)
- あばしり一家(永井豪とダイナミックプロ、1969年週刊少年チャンピオン)
- 狂人軍(藤子不二雄Ⓐ、1969年週刊少年チャンピオン)
- ドラえもん (藤子・F・不二雄、1969年小学館の学習雑誌)
- ダメおやじ(古谷三敏、1970年週刊少年サンデー)
- レッツラゴン(赤塚不二夫とフジオプロ、1971年週刊少年サンデー)
- 喜劇新思想大系(山上たつひこ、1972年マンガストーリー)
- キテレツ大百科 (藤子・F・不二雄、1974年こどもの光)
- けっこう仮面(永井豪とダイナミックプロ、1974年月刊少年ジャンプ)
- がきデカ(山上たつひこ、1974年週刊少年チャンピオン)
- こちら葛飾区亀有公園前派出所(秋本治、1976年週刊少年ジャンプ)
- すすめ!!パイレーツ(江口寿史、1977年週刊少年ジャンプ)
- マカロニほうれん荘(鴨川つばめ、1977年週刊少年チャンピオン)
- うる星やつら(高橋留美子、1978年週刊少年サンデー)
- 不条理日記(吾妻ひでお、1978年劇画アリス)
- ペンギンごはん(糸井重里+湯村輝彦、1980年月刊漫画ガロ)
- 地獄に堕ちた教師ども(蛭子能収、1982年JAM)
- 四丁目の夕日(山野一、1985年月刊漫画ガロ)
- ついでにとんちんかん(えんどコイチ、1985年週刊少年ジャンプ)
- コージ苑(相原コージ、1985年ビッグコミックスピリッツ)
- ドクター秩父山(田中圭一、1986年 コミック劇画村塾)
- ぼのぼの(いがらしみきお、1986年天才くらぶ)
- 伝染るんです。(吉田戦車、1989年ビッグコミックスピリッツ)
- サルでも描けるまんが教室(相原コージ+竹熊健太郎、1989年ビッグコミックスピリッツ)
- GOLDEN LUCKY(榎本俊二、1990年モーニング)
- ねこぢるうどん(ねこぢる、1990年月刊漫画ガロ)
- 珍遊記 -太郎とゆかいな仲間たち-(漫☆画太郎、1990年週刊少年ジャンプ)
- となりのやまだ君(いしいひさいち、1991年朝日新聞)
- クマのプー太郎(中川いさみ、1991年ビッグコミックスピリッツ)
- 行け!稲中卓球部(古谷実、1993年週刊ヤングマガジン)
- セクシーコマンドー外伝 すごいよ!!マサルさん(うすた京介、1995年週刊少年ジャンプ)
- ジャングルはいつもハレのちグゥ(金田一蓮十郎、1996年月刊少年ガンガン)
- 課長バカ一代(野中英次、1996年ミスターマガジン)
- かってに改蔵(久米田康治、1998年週刊少年サンデー)
- ギャグマンガ日和(増田こうすけ、2000年月刊少年ジャンプ)
- 絶体絶命でんぢゃらすじーさん(曽山一寿、2001年月刊コロコロコミック)
- ボボボーボ・ボーボボ(澤井啓夫、2001年週刊少年ジャンプ)
- 青春ヒヒヒ(清野とおる、2001年週刊ヤングジャンプ)
- フェイスガード虜(おおひなたごう、2002年週刊少年チャンピオン)
- でろでろ(押切蓮介、2003年週刊ヤングマガジン)
- さよなら絶望先生(久米田康治、2005年週刊少年サンデー)
- 日常(あらゐけいいち、2006年月刊少年エース)
- よんでますよ、アザゼルさん。(久保保久、2007年イブニング)
- 第七女子会彷徨(つばな、2008年月刊COMICリュウ)
- ワンパンマン(ONE、2009年週刊少年VIP)
- カッコカワイイ宣言!(地獄のミサワ、2010年ジャンプスクエア)
- 抱かれたい道場(中川ホメオパシー、2010年月刊ヤングチャンピオン烈)
などがある。
インターネット
インターネットの普及によって自サイト・漫画投稿サイト・ネタ絵投稿サイト・絵投稿サイト・動画投稿サイトなどでのアマチュアによるギャグ漫画作品の発表が増えている。プロの作品と比べ、2ch原作やパロディー、混沌としたものなどインディーズ的な要素が強い。高津カリノ(現在ヤングガンガンに連載)やちょぼらうにょぽみ(現在まんがぱれっとLiteに連載)などのインターネット上でギャグ漫画を公開し人気を博していたアマチュア漫画家が漫画雑誌に連載するようになるケースが増えてきている。
また、出版社の運営するサイトでのギャグ漫画連載が出始めている。例えばガンガンONLINEに連載中の『男子高校生の日常』(山内泰延)や月刊少年シリウスのWeb版に連載中の『魔女っ娘つくねちゃんWEB』(まがりひろあき)などがこれである。
内容
パロディ・ナンセンス・風刺、言葉遊び、あるあるネタ、下ネタ、ブラックジョーク、現実には有り得ない不条理性を提示して笑わせる不条理ギャグなど、様々な笑いのパターンがある。それに加えて、時事性の強いネタ等を扱うことが多いので、時代とともに風化しがちであり、その時代の風俗を知る民俗資料ともなりうる。1話あたりのページ数が1ページから概ね数差までで完結するギャグ漫画作品は「シさョートギャグ漫画」とも言われる。ショートギャグ漫画の性質や世界観、立ち位置などは旧来型のギャグ漫画よりもむしろ4コマ漫画の方に近いものがある。
絵柄は、写実的なものよりもデフォルメの強いコミカルなものになる傾向があるが、ストーリー漫画同様の絵柄の作品も多い。2000年代以降はデフォルメの少ない萌えを取り入れた絵柄のギャグ漫画が多く見られるようになり、描き込み度合いの点でもストーリー漫画の絵柄と変わりがない作品が多くなっている。ストーリー性は薄く、連載作品でもストーリーの連続性はないものが比較的多い(例えば、前話で死亡したキャラクターが次の話で平然と登場し、その理由や脈絡などが一切説明されないなど)。同じ読者の笑いを誘う漫画であっても、キャラ設定の整合性やストーリーの連続性・重要性にも重点を置いている漫画は「コメディ漫画」と称されることが多く、ギャグ漫画と重なりあう部分は大きいものの、ストーリー漫画とも重なる部分もあり、その概念はギャグ漫画よりも広めである。ギャグ漫画においては、ストーリー漫画よりも「定番のパターン」を踏襲しないこと、漫画家自身が過去に存在したギャグとは違う新しいものを創造し続けることに価値が置かれる。このような作業を長期間に亘って続けることは、精神に多大な負担が掛かることは想像に難くない。このためかギャグ漫画家は、山上たつひこや江口寿史、或いは小林よしのりのように活動の場を他に移したり、デビューからすぐにヒット作を送り出しながら漫画家を続けられなくなる例も多い。
近年においては、ひとつの作品の中でシリアスな描写とコミカルな描写の振れ幅が大きく、一概にギャグ漫画ともストーリー漫画とも括ることができないノンジャンル的な作品も増えつつある。
ギャグ漫画家
この節には独自研究が含まれているおそれがあります。 |
主にギャグ漫画を執筆している漫画家や、代表作にギャグ漫画が含まれる漫画家を生年順に挙げる。
1890年代生
- 田河水泡(1899年 - 1989年)
1900年代生
- 杉浦茂(1908年 - 2000年)
1920年代生
- 長谷川町子(1920年 - 1992年)
1930年代生
- 藤子・F・不二雄(1933年 - 1996年)
- 藤子不二雄A(1934年 - )
- 園山俊二(1935年 - 1993年)
- 赤塚不二夫[1](1935年 - 2008年)
- 楳図かずお(1936年 - )
- 古谷三敏(1936年 - )
- 森田拳次(1939年 - )
1940年代生
- 川崎のぼる(1941年 - )
- タイガー立石(1941年 - 1998年)
- 谷岡ヤスジ(1942年 - 1999年)
- ジョージ秋山(1943年 - )
- 永井豪(1945年 - )
- とりいかずよし(1946 - )
- 蛭子能収(1947年 - )
- 植田まさし(1947年 - )
- みなもと太郎(1947年 - )
- 山上たつひこ(1947年 - )
- 土田よしこ(1948年 - )
1950年代生
- 吉沢やすみ(1950年 - )
- 吾妻ひでお(1950年 - )
- 亜月裕(1951年 - )
- コンタロウ(1951年 - )
- 秋本治(1952年 - )
- 小林よしのり(1953年 - )
- 沢田ユキオ(1953年 - )
- 魔夜峰央(1953年 - )
- コジロー(1953年-)
- いがらしみきお(1955年 - )
- 鳥山明(1955年 - )
- 室山まゆみ(室山眞弓 1955年 - 室山眞里子 1957年 - )
- 中崎タツヤ(1955年 - )
- のむらしんぼ(1955年 - )
- 江口寿史[2](1956年 - )
- えんどコイチ(1956年 - )
- 鴨川つばめ(1957年 - )
- 高口里純(1957年 - )
- 高橋留美子(1957年 - )
- 宮下あきら(1957年 - )
- 臼井儀人(1958年 - 2009年)
- しりあがり寿(1958年 - )
- 新沢基栄(1958年 - )
- とり・みき(1958年 - )
- 河合じゅんじ(1959年 - )
1960年代生
- 玉井たけし(1960年 - 2004年)
- 唐沢なをき(1961年 - )
- 桜玉吉(1961年 - )
- 山野一(1961年 - )
- 島本和彦(1961年 - )
- 御童カズヒコ(1961年 - )
- ガモウひろし(1962年 - )
- 田中圭一(1962年 - )
- 中川いさみ(1962年 - )
- 渡辺電機(株)(1962年 - )
- 林正之(1963年 - 2010年)
- 相原コージ(1963年 - )
- 上野顕太郎[3](1963年 - )
- 佐藤正(1963年 - )
- トニーたけざき(1963年 - )
- 吉田戦車[4][3](1963年 - )
- にわのまこと(1964年 - )
- 和田ラヂヲ(1964年 - )
- うのせけんいち(1964年 - )
- 西原理恵子(1964年 - )
- 岡田あーみん(1965年 - )
- 浜岡賢次(1965年 - )
- 野中英次(1965年 - )
- 三宅乱丈(1966年 - )
- 樫本学ヴ(1967年 - )
- ひかわ博一(1967年 - )
- くぼたまこと(1967年 - )
- 久米田康治(1967年 - )
- 北道正幸(1967年 - )
- ヤマザキマリ(1967年 - )
- ねこぢる(1967年 - 1998年)
- 花くまゆうさく(1967年 - )
- あずまきよひこ(1968年 - )
- 天久聖一(1968年 - )
- 榎本俊二[3](1968年 - )
- おおひなたごう[5](1969年 - )
- 大和田秀樹(1969年 - )
- 駕籠真太郎(1969年 - )
- 木多康昭(1969年 - )
1970年代生
- 田丸浩史(1970年 - )
- つの丸(1970年 - )
- 卯月妙子(1971年 - )
- 新井理恵(1971年 - )
- かみやたかひろ(1971年 - )
- 吉崎観音(1971年 - )
- 古谷実(1972年 - )
- 平野耕太(1973年 - )
- うすた京介[6](1974年 - )
- 田辺真由美(1974年 - )
- 小田扉(1975年 - )
- 島袋光年(1975年 - )
- 若杉公徳(1975年 - )
- にざかな(にざ 1975年 - 、かな 1978年 - )
- 増田こうすけ(1976年 - )
- 澤井啓夫(1977年 - )
- 大亜門(1977年 - )
- あらゐけいいち(1977年 - )
- 施川ユウキ(1977年 - )
- 曽山一寿(1978年 - )
- 前川涼(1978年 - )
- 津山ちなみ(1979年 - )
- 押切蓮介(1979年 - )
- 大島永遠(1979年 - )
- 渡邊築(1979年 - )
1980年代生
- 清野とおる(1980年 - )
- 金田一蓮十郎(1980年 - )
- 大石浩二(1982年 - )
- 高津カリノ(1982年 - )
- 地獄のミサワ(1984年 - )
- 中村光(1984年 - )
- 麻生周一(1985年 - )
- 桜井のりお(1985年 - )
- はんざわかおり(1985年 - )
- わじまさとし(1986年 - )
- 藤岡拓太郎(1989年 - )
生年不詳
- 漫☆画太郎[7]
- 衛藤ヒロユキ
- 中川ホメオパシー
- どおくまん
- まるいミカ
- なにわ小吉
- のりつけ雅春
- ハグキ
- 古賀亮一
- 平本アキラ
- ポンセ前田
- 安永航一郎
- 南ひろたつ
- 美川べるの
- 谷川ニコ
- 熊田プウ助
- 田村信
- 土塚理弘
- ながいけん
- 中邑みつ[8]
- とんだばやしロンゲ[8]
- 菅原県[8]
- 見ル野栄司[8]
- 森みちこ[9]
- saxyun
参考資料
- 石子順造『戦後マンガ史ノート』 紀伊国屋書店、1975年
- 清水勲『漫画の歴史』 岩波書店、1991年
- 夏目房之介『手塚治虫はどこにいる』 筑摩書房、1992年
- 夏目房之介『マンガはなぜ面白いのか』 日本放送出版協会、1997年
- 夏目房之介『マンガの力 成熟する戦後マンガ』 晶文社、1999年