オート・メラーラ 76 mm 砲

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オート・メラーラ 76 mm 砲(Oto Melara 76 mm gun)は、イタリアオート・メラーラ社(現レオナルド社電子機器・防衛&セキュリティシステム部門)が開発した艦砲。その優れた性能から、開発国イタリアはもちろん、日本アメリカ合衆国など世界40ヶ国以上で用いられている。

現在までに3タイプが発表されているが、とくにコンパクトスーパーラピッドは、高い速射力と追尾能力をもち、対空・対水上に使用できる高性能な両用砲でありながら、きわめてコンパクトに設計されている。

MMI[編集]

オート・メラーラ 76 mm 砲 MMI
種類 艦砲
原開発国 イタリアの旗 イタリア
運用史
配備期間 1962年-就役中
配備先  イタリア海軍
開発史
開発者 オート・メラーラ
開発期間 1958年
製造業者 オート・メラーラ
製造期間 1962年
製造数 84基
諸元
重量 12,000kg

砲弾 76 mm×636mmR
口径 76mm口径/62口径長
銃砲身 単装
発射速度 55-65発/分
初速 900m/s
最大射程 18,400m
装填方式 弾倉方式
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オート・メラーラ社が最初に実用化した62口径76ミリ砲はMMIアラーガトMarina Marittimo Italiana Allargato)と呼ばれるものであった[1]。これは先行して試作された連装砲であるSMP3 ソヴラポストSovrapposto)の改良型として、1958年より開発が開始され、1962年から生産に入った[2]。基本的には、スウェーデンボフォース社のベストセラーである56口径40mm機銃を参考としつつ、オート・メラーラ社の独自技術によって開発されたとされている[3]

1960年代から1970年代にかけてイタリア海軍の対空砲として採用されたものの、輸出されることはなく、生産数は84基とされている。現在では、搭載艦の退役に伴って姿を消しつつあり、ごく少数が残るのみとなっている[1]

採用国と搭載クラス (MMI)[編集]

 イタリア海軍

コンパクト(コンパット)砲とスーパー・ラピッド砲[編集]

在来型砲塔(「ちくま」搭載のコンパクト砲)
 
ステルス型砲塔(「フリチョフ・ナンセン」搭載のスーパー・ラピッド砲)

来歴[編集]

MMIの開発で得たノウハウを生かして開発された、オート・メラーラ社第2世代の62口径76ミリ砲がコンパクト砲(イタリア語: Compatto; イタリア語読みで「コンパット」とも)である。開発は1964年より開始され、1967年に完了し、1969年より量産に入った[3][4]

当初、本砲はあまりに精緻で信頼性に欠けるとして敬遠されていたが、ミサイル艇に軸足を移しつつあったイスラエル海軍は興味を示し、当時建造を進めていたサール型ミサイル艇のうち1966年に発注した後期建造分について、70口径40mm単装機銃のかわりに本砲を搭載するように設計を修正した。イスラエル海軍での試験の結果、100項目以上におよぶ改善項目が指摘されたものの、この結果、本砲は極めて完成度の高い武器システムとして、多くの海軍に採用されていくことになった[5]。日本(日本製鋼所)、アメリカ合衆国(FMC社)、スペインでライセンス生産が行われており、アメリカ海軍ではMk.75 3インチ砲として制式化されている[4][6]。2014年の時点で、56ヶ国171クラスの艦艇に搭載され、製造数は、ライセンス生産分も含めると約1,100基に達する[7]

設計[編集]

本砲システムは、小型軽量で追従性に優れた無人砲塔と、高い発射速度を備えた速射砲を組み合わせている[3]

砲盾は球形のガラス繊維強化プラスチック製で、防御用というよりは風雨避けとしての性格が強い[4]。完全気密構造で、通常、内部に砲員は配置されないが、後部には大型の点検ハッチがあり、また、非常時には砲側での射撃指揮も可能なように設定することもできる。旋回・俯仰はアンプリダイン英語版方式である[8]。なお、この球形の砲盾は本砲のトレードマークとして親しまれてきたが、近年になってレーダー反射断面積を抑えることでステルス性を高めた砲盾が開発された[7]。この砲塔に単装に配される砲は、MMIと同じく62口径の長砲身を備えている。先端部には砲身排煙筒、先部に砲口制退機と砲身冷却装置が取り付けられている[8]。なお本砲は、艦砲としては珍しい水冷機構を導入しており、持続発射性能を高めている[3]。またスーパー・ラピッド砲では、散布界は射程1,000メートルで0.3ミリラジアンと、驚異的な集弾率の高さを実現した[6]

発射速度は、オリジナルのコンパクト砲では毎分80発とされていた。その後、1984年に発表されたスーパー・ラピッド砲(イタリア語: Super Rapido)では、給弾方式を変更して発射速度を向上させており、公称で毎分120発、試験では毎分139発も記録された。またスーパー・ラピッド砲では、弾庫からのホイストの途中に人力で給弾することもできるようになった。例えば弾庫の弾薬をもちいて対空射撃を行っている最中、急に対水上射撃を行う必要に迫られた場合、5秒で弾薬の切り替えを行うことができる。人力給弾の場合、発射速度は毎分15発以下となる。なお設計が大きく変更されているため、コンパクト砲をスーパー・ラピッド砲の仕様に改修することはできない。既存のコンパクト砲でもIROF改修を行うことで発射速度を毎分100発まで向上させることができるが[7]、この場合、手動装填には対応しない[4]

砲塔下方の甲板下には、即応弾を収容した複列式の回転給弾機(銃でいうところの弾倉)が設けられており、砲台長1名と給弾手3名の計4名が配置される。この弾倉は二重~三重構造(型式により異なる)で、弾薬が正立状態に人力給弾される。砲塔内に弾薬を移送する揚弾筒や、揚弾された弾薬を装填位置に持ち上げるロッキング・アームなどの経路上にある10発を含めて、一重ならば44発、二重ならば80発、三重なら115発の弾薬を収納できるが、このうち即応弾として使えるのは、二重目までの80発である[8]。またその後、スーパー・ラピッド砲をもとに、砲塔下の弾庫を省いて軽量化したAD(Above-Deck)砲も開発されたが、この場合、即応弾は砲塔内の40発に限られる[7]

使用する砲弾は、銃弾をそのまま大型化したような形である固定弾薬包方式で[8]、従来のアメリカ製50口径76mm速射砲(Mk.33 3インチ砲)と互換性がある[3]。通常弾の射程は16キロメートルだが、射程延伸型のSAPOMER弾であれば20キロメートルに延伸される。更に長射程を狙ったVULCANO弾では、非誘導型で30キロメートル、GPS・赤外線誘導を導入した誘導砲弾では40キロメートルに延伸される予定だが、こちらは開発中である。一方、対空射撃用のDART誘導砲弾は既に実用化されており、スーパー・ラピッド砲から発展したストラレス砲で使用される。これはCIWSとして近接防空に使用することもでき、有効最大射程は8キロメートル、最低目標高度は2メートルとされている[7]

諸元・性能[編集]

護衛艦「さみだれ」搭載砲(コンパクト砲)の射撃

出典: BAE SYSTEMS (2013年1月8日). “Italy 76 mm/62 (3") Compact, SR and USA 76 mm/62 (3") Mark 75” (英語). 2013年8月19日閲覧。
Diehl (2009年). “Cartridges 76mm x 636 for all Types of OTO Melara Guns 76mm L/62” (PDF) (英語). 2013年8月19日閲覧。

諸元

  • 種別: 艦載型後装式ライフル砲
  • 口径: 76mm(3インチ)
  • 砲身: 62口径(4,712mm)
  • 重量:
    総重量:16,400lbs.(7,439kg)
    砲単体:1,686lbs.(765kg)
  • 砲員数:
    砲塔内:無人
    甲板下:砲台長1名、給弾手3名

性能

  • 俯仰角: -15°/+85°
    俯仰速度:35°/s
  • 旋回角: 全周
    旋回速度:60°/s
  • 薬室圧力: 3,600bar(21℃)
  • 初速: 915m/s(21℃:通常弾), 1,200m/s(DART)
  • 有効射程: 16,000m(通常弾), 20,000m(SAPOMER), 40,000m(Vulcano), 5,000m(DART)
  • 最大射程: 18,400m(通常弾)
  • 最大射高: 16,300m(通常弾)
  • 発射速度: コンパクト砲:80発/分(性能向上砲100発/分)
    SR砲:120発/分

砲弾・装薬

  • 弾薬: 完全弾薬筒(76.2×636mm)
  • 砲弾: 榴弾, 調整破片榴弾, SAPOMER(射程延長型半徹甲弾), Vulcano(対地誘導砲弾), DART(対空誘導砲弾)など

運用史

  • 開発国: イタリアの旗 イタリア
  • 生産期間: コンパクト砲:1969年-
    SR砲:1988年-
主な艦砲の比較
アメリカ合衆国の旗AGS 中華人民共和国の旗H/PJ-45 ロシアの旗A-192M アメリカ合衆国の旗Mk45 Mod 4 イタリアの旗127mm/54C イギリスの旗Mk8 Mod 1 フランスの旗Mle.68 イタリアの旗76mm C/SR スウェーデンの旗Mk110
砲身数 単装[9]
口径 155 mm 130 mm 127 mm 113 mm 100 mm 76 mm 57 mm
砲身 62口径 70口径 62口径 54口径 55口径 62口径 70口径
重量 106 t 50 t[9] 24 t 28.924 t 37.5 t[7] 26.4 t 22 t 12 t 7.5 t[10]
要員数 完全自動 不明 3名 6名[注 3] 2-8名[11] 給弾手2名 無人[注 4] 給弾手3名 完全自動
仰俯範囲 +70°/ -5° +75°/ -12° +65°/ -15° +83°/ -15° +55°/ -10° +29° +85°/ -15° +77°/ -10°[10]
旋回範囲 全周 不明 340° 330° 340° 40° 全周
発射速度 10発/分 40発/分[9] 30発/分 16-20発/分 45発/分[7] 25発/分 78発/分 80発[注 5]/分(C)
120発/分(SR)
220発/分[10]
冷却方式 水冷 不明 空冷 水冷 空冷 水冷
最大射程 118,000 m[注 6] 29,500 m[9] 23,000 m[注 7] 37,000 m 23,000 m[注 8][注 9] 21,950 m[注 8] 17,000 m[注 10] 18,400 m[注 8] 21,000 m[注 11]

採用国と搭載クラス[編集]

 アイルランド海軍

 アメリカ海軍

 アメリカ沿岸警備隊

 アラブ首長国連邦海軍

 イスラエル海軍

 イタリア海軍

イランの旗 イラン

 インド海軍

 インド沿岸警備隊

 オーストラリア海軍

 オランダ海軍

 カタール海軍

 カナダ海軍

 大韓民国海軍

 ギリシャ海軍

 サウジアラビア海軍

 シンガポール海軍

 スペイン海軍

 タイ海軍

 中華民国海軍

 チリ海軍

 ドイツ海軍

 トルコ海軍

海上自衛隊

 ノルウェー海軍

 バングラデシュ海軍

 フィリピン海軍

 フランス海軍

 マレーシア海軍

 南アフリカ海軍

 ミャンマー海軍

 メキシコ海軍

 ルーマニア海軍

 オマーン海軍

登場作品[編集]

映画[編集]

ゴジラ×モスラ×メカゴジラ 東京SOS
架空のイージス護衛艦DD-147 あいづ」の搭載兵器として、コンパクト砲が登場。東京に向かって洋上を進むゴジラに対して使用される。
亡国のイージス
架空の護衛艦「うらかぜ」役で登場した、むらさめ型護衛艦いかづち[注 15]に搭載されたものが、架空のイージス護衛艦「いそかぜ[注 16]から発射されたハープーンの迎撃に使用される。

アニメ・漫画[編集]

空母いぶき
航空機搭載型護衛艦いぶき」を旗艦とする第5護衛隊群(架空)に所属する、各あさぎり型護衛艦に搭載されている。
沈黙の艦隊
第2護衛隊群所属の各艦に搭載されたものが、アメリカ海軍が発射したハープーンを迎撃するために使用される。

小説[編集]

『日本北朝鮮戦争 自衛隊武装蜂起』
難民に紛れて攻撃してくる工作船を攻撃するため、はつゆき型護衛艦はまゆき」「まつゆき」に搭載されたものが使用される。
日本国召喚
あさぎり型護衛艦むらさめ型護衛艦はやぶさ型ミサイル艇の主砲として使用される。

ゲーム[編集]

Modern Warships
任意に搭載可能な艦砲としてステルス型砲塔とコンパクト型が登場する。
Wargame Red Dragon
NATO陣営で使用可能な艦船武装として「OTO Melara」の名称で登場する。

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 当初はSMP3を搭載
  2. ^ 後日撤去
  3. ^ 遠隔操作
  4. ^ 必要に応じて2名の砲員による砲側射撃も可能
  5. ^ 性能向上型、IROF改修を行うことで100発
  6. ^ LRLAP弾
  7. ^ 対空で18,000 m
  8. ^ a b c 通常砲弾
  9. ^ 対水上で15,000 m[12]、対空で7,000 m[12]
  10. ^ 対水上で12,000m、対空6,000m
  11. ^ HCER-BB弾[13]
  12. ^ 76mm砲とMk92 火器管制システムの評価のため、Mk 12 5インチ砲と交換で装備される。評価終了後に従前に復された。
  13. ^ a b c 後日装備
  14. ^ TRUMP改修により後日装備
  15. ^ 原作では、たちかぜ型護衛艦
  16. ^ 原作では、はたかぜ型護衛艦

出典[編集]

  1. ^ a b 多田 2015, p. 107.
  2. ^ 野木 2002, p. 99.
  3. ^ a b c d e f 香田 2015, p. 172.
  4. ^ a b c d 野木 1986.
  5. ^ ラビノビッチ 1992, p. 85.
  6. ^ a b Friedman 1997, pp. 436–438.
  7. ^ a b c d e f g 大塚 2014.
  8. ^ a b c d 梅野 2007, pp. 183–186.
  9. ^ a b c d 多田 2015, p. 110.
  10. ^ a b c 多田 2015, p. 109.
  11. ^ 梅野 2007, pp. 177–182.
  12. ^ a b Friedman 1997, p. 436.
  13. ^ Friedman 1997, pp. 450–451.

参考文献[編集]

  • Friedman, Norman (1997). The Naval Institute guide to world naval weapon systems 1997-1998. Naval Institute Press. ISBN 978-1557502681 
  • ラビノビッチ, アブラハム『激突!!ミサイル艇』原書房、1992年。ISBN 978-4562022991 
  • 梅野, 和夫『世界の艦載兵器―砲熕兵器篇』光人社、2007年。ISBN 978-4769813590 
  • 大塚, 好古「従来型中口径砲のエースたち (特集 現代の艦砲)」『世界の艦船』第806号、海人社、2014年11月、NAID 40020216060 
  • 香田, 洋二「国産護衛艦建造の歩み」『世界の艦船』第827号、海人社、2015年12月、NAID 40020655404 
  • 多田, 智彦「世界の艦載兵器」『世界の艦船』第811号、海人社、2015年1月、NAID 40020297435 
  • 野木, 恵一「イタリア製艦載兵器オンパレード」『世界の艦船』第365号、海人社、1986年6月、110-111頁。 
  • 野木, 恵一『艦載兵器ハンドブック 改訂第2版』海人社、2002年。 NCID BB08308703 
  • 自衛隊装備年鑑(朝雲新聞社刊)

関連項目[編集]

外部リンク[編集]