オヒルギ

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オヒルギ
オヒルギ
分類
: 植物界 Plantae
: 被子植物門 Magnoliophyta
: 双子葉植物綱 Magnoliopsida
: ヒルギ目 Rhizophorales
: ヒルギ科 Rhizophoraceae
: オヒルギ属 Bruguiera
: オヒルギ B. gymnorhiza
学名
Bruguiera gymnorhiza (L.) Lam.
Bruguiera gymnorrhiza (L.) Lam.
和名
オヒルギ(雄蛭木、雄漂木)
英名
Black mangrove

オヒルギ(雄蛭木、雄漂木、学名Bruguiera gymnorhizaあるいはBruguiera gymnorrhiza)はヒルギ科オヒルギ属マングローブ樹種のひとつ。別名アカバナヒルギ(赤花蛭木、赤花漂木)。

特徴

形態

樹高は最高で25mほどになる常緑高木で、日本国内では樹高10mまで成長する。は直立し、樹皮には皮目ができる。

は対生で、長さ10cm程度の長楕円形で厚みがあり、先端は尖り、基部はくさび型。呼吸根)は屈曲膝根と呼ばれ、湾曲し人ののように見える根がぼこぼこと地中から出ている光景がみられる。大型個体になると根本が板根状となる。

花期は晩春から夏。葉腋に単生し、直径3cm程度の花をつける。この花のうち、よく目立つ部分は(萼筒)であり、形状は筒状、赤色で、厚く、真っ直ぐに突き出し、先端はやや内向きに抱える。また、先端が8~12枚程度に裂け、櫛の歯状になる。このように萼片が赤く色づき目立つことが別名アカバナヒルギの由来となっている。花弁は萼筒の中にあるためあまり目立たなく、淡黄緑色で、先端は萼筒と同様に8~12枚程度に裂ける[1]雄蕊は20個程度で、子房下位。花には甘みの強い蜜がある[2]ことから、小型の鳥類が多く近寄る。

マングローブの特徴の一つでもある胎生種子を作る。果実は赤い萼の内側で成熟し、外見的には確認しがたい。やがて顎筒の内側から根が長く伸び、20cm以上の棒状となり、緑色~淡黄色である。メヒルギのそれより太く、先端に向けて次第に細くなる様子は、まっすぐなバナナといったところ。胎生種子の生産のピークは9月であり[3]、やがて顎の内側から先端の芽ごと抜け落ち、主に海流散布により分布を広げる。

染色体数はn=18。

生態及び生育環境

熱帯および一部の亜熱帯の河口干潟に生育するマングローブ植物。比較的内陸の汽水域を好んで群生する。日本のマングローブの帯状分布ではメヒルギヤエヤマヒルギの内側に群落を作り、もっとも背が高くなる。その内陸側はほぼ陸に接続する。

分類

学名について

文献などに用いられている学名にはB. gymno r hiza小種名にrが1つ)とB. gymno rr hiza(小種名にrが2つ)の2つあり、ゆらぎがあるため論争となっている。歴史的経緯より前者に正当性があり、IPNI(The International Plant Name Index)[4]でもB. gymno r hiza(rが1つ)の方で登録されている[5]。一方、日本の植物の和名学名のリストを提供する「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)においては、B. gymno rr hiza(小種名にrが2つ)が登録されており[6]、日本国内で発行されている図鑑類ではrrが2つのものを使用しているケースが多い[7]

種内分類

  • var. nana Hatusima 1994 チャボオヒルギ(チャボヒルギ) - 初島ら[8]は、沖縄本島に分布し、オヒルギに比べて各部の形態が著しく小さいとしているが、島袋[9]はオヒルギのシノニムとしている。

分布

アフリカから中国南部、東南アジアオーストラリアポリネシアに広く分布する。日本では奄美大島以南の南西諸島(奄美大島、徳之島?、久米島南大東島宮古諸島八重山諸島)に分布する。奄美大島が分布の北限である。

日本における生育地

奄美大島住用村を北限とし、南西諸島の河口干潟に広くマングローブ林を構成する。琉球諸島ではヒルギ科三種(オヒルギメヒルギヤエヤマヒルギ)のうちでもっとも内陸側に生育し、背が高くなる種である [10]

奄美大島では分布地点は少ないが、大きな集団を形成している。

徳之島では過去に記録はあるが、現在では分布を確認できない[11]

沖縄本島では、島北部の東村金武町等の河口干潟に広く分布している。また島南部の漫湖にも植栽されたものが定着し、繁殖している[12]

南大東島では、汽水域の河口干潟ではなく、淡水の閉鎖水域(大池)に生育しており、その貴重さから国の天然記念物に指定されている。

八重山諸島にも多く分布し、石垣島宮良川西表島仲間川などの河川河口部では大規模なマングローブ林となっている。

日本国外における生育地

利用

樹皮はタンニンを多く含み、染料として利用される。また、養蜂の採蜜対象や木炭の原料、建材や杭などに利用される。

保護上の位置づけ

  • 種として
    • 鹿児島県版レッドデータブックに絶滅危惧II類で掲載されている。
  • 地域として

脚注

  1. ^ 右記の写真を拡大すると赤い萼片の中に淡黄色の花弁が包まれていることがわかる。
  2. ^ 亜熱帯総合研究所 平成13年度内閣府委託調査研究マングローブに関する調査研究報告書・マングローブ植物の花蜜分泌機構
  3. ^ 亜熱帯総合研究所 平成13年度内閣府委託調査研究マングローブの植栽技術に関する研究・ヒルギ科樹種の種子生産
  4. ^ The International Plant Name Index
  5. ^ マングローブの古い標本が語るもの日本熱帯生態学会ニュースレター
  6. ^ YList
  7. ^ 参考文献に挙げた図鑑類はrrが2つである。
  8. ^ 初島住彦・天野鉄夫 『増補訂正 琉球植物目録』 沖縄生物学会、148頁、1994年、ISBN 4-900804-02-9
  9. ^ 島袋敬一編著 『琉球列島維管束植物集覧【改訂版】』 九州大学出版会、1997年、366-367頁、ISBN 4-87378-522-7
  10. ^ 日本生態学会誌 1975(vol25) 89-100マングローブに関する研究 II メヒルギ,オヒルギ林の林分構造。
  11. ^ 鹿児島県環境生活部環境保護課編 『鹿児島県の絶滅のおそれのある野生動植物 -鹿児島県レッドデータブック植物編-』 財団法人鹿児島県環境技術協会、2003年、251頁、ISBN 4-9901588-1-4
  12. ^ 亜熱帯総合研究所 平成13年度内閣府委託調査研究漫湖マングローブ林の林分調査

参考文献

  • 大野照好監修・片野田逸郎著 『琉球弧・野山の花 from AMAMI』 株式会社南方新社、1999年、45頁、ISBN 4-931376-21-5
  • 鹿児島県環境生活部環境保護課編 『鹿児島県の絶滅のおそれのある野生動植物 -鹿児島県レッドデータブック植物編-』 財団法人鹿児島県環境技術協会、2003年、251頁、ISBN 4-9901588-1-4
  • 島袋敬一編著 『琉球列島維管束植物集覧【改訂版】』 九州大学出版会、1997年、366-367頁、ISBN 4-87378-522-7
  • 多和田真淳監修・池原直樹著 『沖縄植物野外活用図鑑 第4巻 海辺の植物とシダ植物』 新星図書出版、1979年、86頁。
  • 多和田真淳・高良拓夫共著 『沖縄の山野の花』 風土記社、1975年。
  • 土屋誠・宮城康一編 『南の島の自然観察』 東海大学出版会、1991年、165-171頁、ISBN 4-486-01159-7
  • 初島住彦・天野鉄夫 『増補訂正 琉球植物目録』 沖縄生物学会、148頁、1994年、ISBN 4-900804-02-9
  • 宮城康一 「慶佐次湾のヒルギ林、大池のオヒルギ群落、宮良川のヒルギ林」 『日本の天然記念物』 加藤睦奥雄ら監修、講談社、1995年、526-531頁、ISBN 4-06-180589-4

外部リンク