エーコー

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アレクサンドル・カバネルによるエーコーの絵画(1887年)

エーコー古典ギリシア語Ἠχώ英語: Echo)は、ギリシア神話に登場する森のニンフである。一般的にはエコーと表記される。ギリシア語で元々木霊の意味で、その擬人化である。パーン神と美青年ナルキッソスとの恋で有名であるが、古典時代にはこのような話はなく、ヘレニズム時代以降の後世の物語である。エコーは文字通り木霊反響などを意味する。

概説

パーンとエーコー

アルカディア地方の神とされるパーンの逸話のなかで、パーンが恋をした多数のニンフの一人のなかにエーコーがいる。エーコーは歌や踊りが上手なニンフだったが、男性の恋を好まなかったのでパーンの求愛を断った。パーンは、かねて音楽の演奏で彼女の歌に嫉妬していたこともあり、配下の羊飼い、山羊飼いたちを狂わせ、彼らはエーコーに襲いかかり、彼女を八つ裂きにした(彼女のうたう「歌」の節をばらばらにした。「節(メレー)」は歌の節と、身体の節々の両義をギリシア語では持つ)。するとガイア(大地)がエーコーの体を隠したが、ばらばらになった「歌の節」は残り、パーンが笛を吹くと、どこからか歌の節が木霊となって聞こえてきて、パーンを怒らせたともされる。

娘イアンベー

エーコーはこのようないきさつで、木霊となって今でも野山において聞こえるのだという。また、別の伝承では、エーコーはパーンとのあいだに一人の娘イアンベー(イアムベー)を持ったともされる。デーメーテール女神が、ハーデースに誘拐された娘のペルセポネーを捜し求めて野山を彷徨いエレウシースに至ったとき、領主ケレオスの館で冗談を言って、女神を笑わせたのが、このイアンベーだともされる。(「エレウシースの秘犠」では、この故に、女たちが笑い声をあげるとされる)。

ナルキッソス

ウォーターハウスによるエーコーとナルキッソス

オウィディウスの『変身物語』によれば、ゼウスの浮気相手となった山のニンフたちを助けるために、エーコーはゼウスの妻ヘーラーを相手に長話をしつづけたことがあった。このためにエーコーはヘーラーの怒りを買い、自分からは話かけることができず、誰かが話した言葉を繰り返すことしかできないようにされた。エーコーはナルキッソスに恋したが、話しかけることができないために相手にしてもらえず、屈辱と恋の悲しみから次第に痩せ衰え、ついには肉体をなくして声だけの存在になった。復讐の女神ネメシスによって、ナルキッソスは水面に映る自分の姿に恋し、終には命を落とす。ナルキッソスの嘆きの声は、そのままエーコーの嘆きとなった。

イーオー

グレイヴズの記すところでは(『ギリシア神話』56章a )、エーコーとパーンのあいだには、娘イユンクスがあったとされる。イユンクスはゼウスに魔法をかけ、河神イーナコスの娘イーオーへの恋心を抱かせたため、ヘーラーの怒りに触れ鳥のアリスイに姿を変えられたという。

参考文献

  • 高津春繁 『ギリシアローマ神話辞典』 岩波書店
  • ロバート・グレイヴズ 『ギリシア神話』 紀伊國屋書店
  • 呉茂一 『ギリシア神話』 新潮社

関連項目