イーナコス
イーナコス(古希: Ἴναχος, Īnachos)は、ギリシア神話の神で、アルゴリス地方を流れるイーナコス河の河神である。長母音を省略してイナコスとも表記される。
ソポクレースは神話をもとに悲劇『イーナコス』を書いたが散逸した[1]。
神話
系譜伝承
オーケアノスとテーテュースの子で、姉妹の1柱メリアーとの間にポローネウス、アイギアレウスをもうけた[2]。しかしゼウスに愛されたイーオーや[3]、ミュケーナイの名の由来になったミュケーネー[4]、百眼の巨人アルゴスもまたイーナコスの子といわれる[5]。
ヒュギーヌスによれば、イーナコスはポローネウスの娘ニオベーの子アルゴスの子ピラントスの子トリオパースとオレーアスの子で、クサントスと兄弟であり、アルゲイアーとの間にイーオーをもうけたという[6]。しかし他所ではオーケアノスの子で、姉妹のアルゲイアーとの間にポローネウスをもうけたとも述べている[7]。
物語
神話によるとヘーラーとポセイドーンがアルゴリス地方の領有をめぐって争ったとき、イーナコスはこの地の他の河神ケーピーソス、アステリオーンとともにアルゴリスをヘーラーのものと判定した。ポセイドーンは怒って河を干上がらせたので、夏になるとこれらの河から水が消えてしまうとされる[8]。あるいはポセイドーンは怒ってこの地を洪水で沈めてしまったので、ヘーラーはポセイドーンに水を引かせるよう頼まなければならなかったともいう[9]。
またイーナコスはこの地の最初の王で、自分の名にちなんで河をイーナコス河と名付け、ヘーラーを祭祀したとも[10]、イーナコスはエジプトからの植民者であったともいわれる[11]。
イーナコスをイーオーの父とする説では、イーナコスはキュルノスに命じてイーオーを探させたが、キュルノスは発見できなかったのでカーリア地方のケロネーソス地方に移住した[12]。またイーナコスはゼウスを糾弾しようとしたが、イーナコスはゼウスの送ったエリーニュスに苦しめられ、ハリアクモーン河に身を投げた。このためその河はイーナコス河と呼ばれるようになったという[13]。
系譜
オーケアノス | テーテュース | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
イーナコス | メリアー | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ポローネウス | アイギアレウス | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
アーピス | ストリューモーン | ニオベー | ゼウス | アーソーポス | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
エウアドネー | アルゴス | イスメーネー | ペラスゴス | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
エクバソス | ペイラース | エピダウロス | クリアーソス | イーアソス | リュカーオーン | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
アゲーノール | ゼウス | イーオー | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
アルゴス | エパポス | メムピス | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ポセイドーン | リビュエー | リューシアナッサ | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ベーロス | アンキノエー | アゲーノール | テーレパッサ | ブーシーリス | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
アイギュプトス | ダナオス | ケーペウス | ピーネウス | カドモス | キリクス | ポイニクス | エウローペー | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
脚注
- ^ 比較的多くの断片が残されている(岩波書店『ギリシア悲劇全集11 ―ソポクレース断片』、p.95~109)。
- ^ アポロドーロス、2巻1・1。
- ^ 悲劇詩人、カストール(アポロドーロス、2巻1・3による引用)。ヘロドトス、1巻1など。
- ^ パウサニアス、2巻16・4。
- ^ アスクレーピアデース(アポロドーロス、2巻1・3による引用)。
- ^ ヒュギーヌス、145。
- ^ ヒュギーヌス、143。他225、274。
- ^ パウサニアス、2巻15・5。他にアポロドーロス、2巻1・4。
- ^ パウサニアス、2巻22・4。
- ^ パウサニアス、2巻15・4。
- ^ エウセビオス。
- ^ シケリアのディオドロス、5巻60・4~60・5。
- ^ 高津『辞典』53b。