イボテングタケ

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イボテングタケ
イボテングタケ、Amanita ibotengutake
イボテングタケ、Amanita ibotengutake
分類
: 菌界 Fungi
: 担子菌門 Basidiomycota
: 菌じん綱 Hymenomycetes
: ハラタケ目 Agaricales
: テングタケ科 Amanitaceae
: テングタケ属 Amanita
: イボテングタケ ibotengutake
学名
Amanita ibotengutake
T. Oda, C. Tanaka & Tsuda (2002)
和名
イボテングタケ

イボテングタケ(疣天狗茸[1]学名: Amanita ibotengutake)とはハラタケ目テングタケ科の大型のキノコの一種。和名の由来は、テングタケに酷似し、傘の表面のイボが、より立体的についていることから名付けられている[2]

特徴[編集]

北半球温帯以北、アフリカなどに分布する[1]外生菌根菌[1](菌根性[2])。夏から秋にかけて、主にトウヒトドマツなどのマツ科針葉樹林に多く発生する[1]

傘は径4–20センチメートル (cm) 、灰褐色からオリーブ褐色で、縁には条線があり、表面に薄茶色を帯びたイボ状のツボの破片がついている[1][3]。ヒダは白色で、柄に離生して密[1]。柄は白色かクリーム色で、小鱗片がつくかささくれ状になり、下方に向かってやや太く、基部は幾重ものリング状のツボの名残があり球根状の形をしている[1][3]。上部にはとれやすいツバがつく[1]。肉は白色で脆い[1]

かつては、ブナ科広葉樹林に多いテングタケと長い間混同されていたが、2002年に新種として記載された[1]。テングタケと比べるとイボテングタケのほうがより大型で、ツバがとれやすく、柄の基部のツボが幾重にもリング状にめくれ、傘の上のイボが褐色を帯びる傾向がある[2][3]。しかし、肉眼による特徴の違いだけでは、両種の見分けがつきにくいこともある[2][3]。決定的な違いは、顕微鏡でヒダにある担子器の細胞を観察すると、基部にクランプとよばれる構造の有無で確認できる[2]

宮城県仙台市近郊でハエトリモダシと呼ばれていたキノコを、松本彦七郎がイボテングタケと命名[4]1962年竹本常松らによって本種から殺ハエ成分が特定されイボテン酸と名付けられたが、当時はA. strobiliformisとされていた[5]。その後、テングタケではないかというテングタケ説が生じ定着もした[4]。ようやく2002年になって、遺伝子マーカーによる分子生物学的調査から正式に独立種と認められた[6]

毒性[編集]

イボテン酸ムッシモールスチゾロビン酸などを含み、有毒である[1]。イボテン酸は、本種からはじめて抽出された有毒成分である[2][3]。日本では、ハエの捕殺に利用された[1]

テングタケと同様の中毒症状になり[3]、食後30分で、胃腸系(腹痛、嘔吐、下痢など)と神経系(発汗、心拍数増加、精神錯乱、幻覚、けいれんなど)の複雑な症状が現れる[1]。重症化すると、呼吸困難昏睡状態になる[1]

脚注[編集]

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n 吹春俊光 2010, p. 120.
  2. ^ a b c d e f 大作晃一 2015, p. 40.
  3. ^ a b c d e f 長沢栄史監修 2009, p. 29.
  4. ^ a b 草野源次郎「キノコの毒成分」『遺伝』第39巻第9号、1985年9月、p32-36、NAID 40000130647 
  5. ^ 竹本常松、横部哲朗 (1962-05-31). “イボテングタケの殺蠅成分(第14回大会講演要旨)”. 衛生動物 13(2): 174-175. NAID 110003820760. 
  6. ^ Takashi Oda; Tomoko Yamazaki; Chihiro Tanaka; Takao Terashita; Naoki Taniguchi; Mitsuya Tsuda (2002). “Amanita ibotengutake sp. nov., a poisonous fungus from Japan”. Mycological Progress 1: 355-365. doi:10.1007/s11557-006-0032-9. 

参考文献[編集]

関連項目[編集]

  • テングタケダマシ - 類似する毒キノコ。シイやコナラの林に発生し、イボテングタケより小型。
  • テングタケ - 類似する毒キノコ。広葉樹林に発生し、鱗片は白色。
  • ガンタケ - 類似する食用になるキノコ。縁に条線はなく、触れたり傷がつくと赤色に変色するのが特徴。

外部リンク[編集]