イタチザメ

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イタチザメ
バハマのイタチザメ Galeocerdo cuvier
保全状況評価[1]
NEAR THREATENED
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 軟骨魚綱 Chondrichthyes
亜綱 : 板鰓亜綱 Elasmobranchii
: メジロザメ目 Carcharhiniformes
: メジロザメ科 Carcharhinidae
: イタチザメ属 Galeocerdo
: イタチザメ G. cuvier
学名
Galeocerdo Müller & Henle1837
Galeocerdo cuvier (Péron & LeSueur1822)
英名
Tiger shark
イタチザメの生息域

イタチザメ Galeocerdo cuvier (鼬鮫、英語: Tiger Shark)は、メジロザメ目メジロザメ科に属するサメサバブカ[2]イッチョー沖縄県[3]とも呼ばれる。イタチザメ1種でイタチザメ属を形成する。

名称

属名 Galeocerdo は、ギリシア語の "galeos"(サメ)とラテン語の "cerdus"(の剛毛)に由来している[4]。英名 "Tiger shark" は、若魚に表れるトラのような垂直の縞模様に由来する。また "leopard shark"(Leopard = ヒョウ)、"maneater shark"(人食い鮫)、"spotted shark"とも[4]。ただし、レパード・シャークという名称は、カリフォルニアドチザメTriakis semifasciata)やトラフザメStegostoma fasciatum)にも使われる。

地理的分布・生息環境

地中海など一部の地域を除き、世界中の温帯・熱帯海域に分布する[4]。日本では南は八重山諸島から、北は八丈島[5]相模湾[6]まで報告がある。近年、青森県秋田県からも記録されているようで[6]、日本近海の分布北限としてはこの辺りであろう。

イタチザメは海洋のさまざまな環境に適応しているが、普通、沿岸域の視界が悪い濁ったような場所を好む[4]。川の河口や港、ラグーン、サンゴ礁、島の周囲もその生活場所に含まれる。沿岸性が強いが、沖合、外洋まで出ることもある。海面付近でよく見られ、波打ち際などの非常に浅い場所にも現れる。イタチザメがどれほどの水深まで生息しているかに関してはよく分かっていないが、少なくとも水深約 300 m までは潜行するようである。Clark & Kristof (1990) は、ケイマン島沖水深 305 m で潜水艇から全長 250 cm の雌のイタチザメを観察、撮影している[7]。またFishBaseでは、生息水深帯は 0–371 m とある[8]

形態

イタチザメの頭部(吻)は扁平で尖らない。腹面に見える多数の小さな黒い点はロレンチーニ器官と呼ばれる電気受容器。

メジロザメ目を含め、サメの中で最も大型の部類に入る。FishBaseによれば、最大サイズは全長750 cm、体重 807.4 kg[8]1957年、インドシナ沖で捕獲された巨大な雌は 740 cm、3110 kg と報告されている[9]。未確認だが、9.1 mという報告もある[9]。普通のサイズは 325〜425 cm、体重 385〜635 kg 以上[4]

メジロザメ科ではヨシキリザメと並んで、体の模様などから比較的見分けがつきやすい。体前半は非常に太く、後半は尾部に向かって細くなる。吻は尖らず、平らで四角い。上顎の唇皺は顕著で長い。背側の体色は灰色や薄い褐色、またオリーブがかっていることもある。腹側は白色である。幼魚では明瞭な黒色斑の豹柄模様があるが、成長するにつれてドットパターンと横縞模様の組み合わせへと変化し色も褪せていき、全長2m以上[要出典]になると不鮮明となる。成魚では模様は退色し、灰色地になる。背鰭間隆起線、尾柄部隆起線が存在する。

両顎の歯はほぼ同形。全ての歯が口角側に欠刻をもち、ハート型、トサカ型と形容される特徴的な形状である。縁は顕著な鋸歯状。白亜紀に生息していたスクアリコラックスもイタチザメとよく似た歯をもっていた。上顎に18~26本、下顎に18~25本の歯がある[9]。口角に向かうにつれてサイズは小さくなる。獲物に喰らい付いた後、頭を振ることによって歯列が鋸のように肉を切断するので、クジラなどの大きな動物からも肉片を食い切ることができる。

生態

食性

独特な形状のイタチザメの歯は、ウミガメの甲羅を砕くことも可能である。
中型のイタチザメ。模様は幼魚が最もはっきりしており、成長に従って色あせる。最後には灰色一色となる。

捕食性・腐食性の両方をもつイタチザメは食べるものを選り好みしない機会選択的捕食者で、おそらくサメの中で最もその傾向が強い種である[1][9][4]。Compagno(1984)は、イタチザメがありとあらゆる海洋生物を捕食するだけでなく、死骸や産業廃棄物など普通食べられないものまで何でも飲み込む様子から、「ひれのついたごみ箱」と称している[9]

ここでは餌生物種の詳細については論じないが、非常に多種の硬骨魚類サメエイなどの板鰓類(同種のイタチザメを含む)、無脊椎動物が胃内容物から見つかっている[9][4][1]。イタチザメは他のどの種よりも海産爬虫類を捕食し、とくにウミガメを捕食することはよく知られているが、他にウミヘビイグアナも餌生物に含まれる。鳥類では海鳥や海に落ちた渡り鳥を食べる。哺乳類ではアシカアザラシイルカクジラなど海産のものはもとより、陸生のものも胃に収まっていることがある。また後述のように人も捕食対象の例外ではない。このうち海から遠い場所に住む陸生生物に関しては、川から流されてきたか海に投げ捨てられたなど何らかの理由で漂流しているものの死骸を食べているのであろう[9]。クジラなど巨大な動物は死骸を腐食することがほとんどだが、機会があれば生体も襲うことが報告されている。2006年にはハワイ沖で、25尾ほどのイタチザメが病気で弱ったザトウクジラを攻撃する様子が観察され、写真にも収められた[10]

イタチザメの胃からは生物以外に木やサンゴなどの天然由来の物質や、人の活動によって生じた産業廃棄物、例えばビニール袋、プラスチックボトル、缶、金属片、さまざまなゴミがしばしば見つかることもある。

イタチザメは通常単独で行動し、夜間、海表面や岸近くまで寄ってきて活発に餌を探す[4]。群れをつくることもあるが、単に餌を求めて集まっている場合もある。

繁殖

メジロザメ科では唯一の非胎盤形成型胎生種である。胎仔は胎盤を介して母親から栄養を受け取るのではなく自身の卵黄を消費する方式であるが、それに加えて母体から子宮ミルクを分泌するとも考えられている[4]。他のメジロザメ科のサメは胎盤形成型であることから、イタチザメが原始的であるのか、もともと胎盤形成型だったものが二次的に胎盤を失ったのかは分からないが、メジロザメ科と姉妹群にあたるヒレトガリザメ科は胎盤形成型であることを考えると、後者の説が支持されるようである[9]

妊娠期間は14~16ヶ月[4]。サメとしては多産で、産仔数は10~82尾、平均的には30~35尾である[1]。北半球では、交尾期間は3月から5月の間で、翌年の4月から6月の間に出産する[4][1]。交尾は出産直前の雌も行うため、繁殖周期は2年と考えられる(2年に1度出産する)[1]。南半球では出産は夏、11月~1月の間に行われる[4][1]。出生時のサイズは全長 51~90 cm[1]。成熟サイズは雄が全長 226~290 cm、雌が全長 50~350 cm[1]。寿命は45~50年と推定される[1]

人との関わり

カネオヘ湾(ハワイ)で捕らえられた約4.3m、体重544kgのイタチザメ。

水産・漁業

イタチザメは対象・混獲を問わず、世界中で漁獲されている[1]。肉や鰭、肝油、皮、軟骨が主な利用部位である。肉質はあまり上等ではないが[1]、生、冷凍、乾物、塩蔵、燻製などの形で消費される[9]。一方、鰭、皮、肝油は上等とされ、高値で取引される。とくに鰭はフカヒレに加工され高額となるため、鰭を目的とした漁獲圧を高める原因になることもある。カジキマグロの延縄で混獲される。大型個体は延縄にかかった魚をしばしば食害するため、駆除の対象に挙げられる地域もある。

商業目的の他、スポーツ・フィッシングの対象になる。国際ゲームフィッシュ協会(IGFA)の記録では2004年オーストラリアで釣り上げられた810 kgのイタチザメが最大である[11]

危険性

イタチザメは非常に危険なサメのひとつで、ホホジロザメに次いで人や船の被害が多い[12]。とくに熱帯地方では最も危険なサメとされる[9]。いわゆる「人喰いザメ」のひとつ。沖縄オーストラリアハワイでは被害が顕著である。その性格は好奇心旺盛で攻撃的であり、人にも近づいてくる[9]。イタチザメが危険なのは、あらゆる生物を捕食することに加え、普通餌にしないものでも躊躇せずに食べる習性にあると言える[9]

水中でイタチザメに遭遇した場合、必ずしも攻撃を受けるとは限らないが、最大限の注意を払わなければならない。血の臭いのする餌でサメをおびき寄せる(銛で突いた魚を持っていた場合も含む)、サメに触れるなどして人がサメの攻撃を誘発した場合 (provoked) に限らず、何もしていなくても攻撃される場合 (unprovoked) があり、そのうち少なからず死亡した例もある[12]

2012年3月に日本の鹿児島県奄美大島沖で起きたはえ縄漁船・春日丸転覆事故では、乗員2人がサメに襲われ、鋭利な刃物で切られたような傷を負い、筋肉と骨の一部がそぎ取られている。乗員らを襲ったのはイタチザメの可能性が高いと言われている。乗員の証言では、両脚をかまれながらも、体長1メートルほどのサメ2匹と格闘し、両腕で締め付けるなどして殺したという[13]

駆除

主にクイーンズランドハワイなどの熱帯地方では、しばしば人を襲う危険なサメであること、漁業被害を与えるなどの理由から駆除が行われる[1]。駆除は網目の大きな刺し網や延縄などでイタチザメを捕獲するものである。宮古島石垣島周辺では、夏の台風などの影響で陸地から泥を含む濁った水が海に流れ込み、それに引き寄せられたイタチザメが大量に出現するため、地元の漁師がこの時期だけ駆除を行なっている。しかし駆除活動がイタチザメの生息数に及ぼす影響については明確に分かっておらず、効果が見られないケースも報告されている[1]

出典・脚注

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n Simpfendorfer, C. 2005. Galeocerdo cuvier. In: IUCN 2010. IUCN Red List of Threatened Species. Version 2010.4. <www.iucnredlist.org>. Downloaded on 07 November 2010.
  2. ^ 井田齋松浦啓一 監修・執筆、『小学館の図鑑NEO 魚』、小学館、2003年、p.17
  3. ^ 美ら海生き物図鑑: イタチザメ 沖縄美ら海水族館
  4. ^ a b c d e f g h i j k l Biological profiles: Tiger shark Florida Museum of Natural History Ichthyology Department.
  5. ^ 堀井善弘, 佐伯拓磨, 西村麻理生, 神澤識大, 田中彰, 大泉宏; “漁業被害の現状と駆除活動による板鰓類資源に与えるインパクト”, 日本水産学会誌, Vol. 76, pp.267–268 (2010) .
  6. ^ a b 崎山直夫, 瀬能宏 (2009). “相模湾におけるイタチザメ(メジロザメ目, メジロザメ科)の出現状況”. 神奈川自然誌資料 30: 65-67. 
  7. ^ Clark, E. and Kristof, E. 1990. Deep-sea elasmobranchs observed from submersibles off Bermuda, Grand Cayman, and Freeport, Bahamas. In: H.L. Pratt Jr., S.H. Gruber and T. Taniuchi (eds), Elasmobranchs as living resources: Advances in the biology, ecology, systematics, and the status of the fisheries, pp. 269-284. NOAA Technical Report NMFS.
  8. ^ a b Galeocerdo cuvier Froese, R. and D. Pauly. Editors. 2010. FishBase. World Wide Web electronic publication. www.fishbase.org, version (09/2010).
  9. ^ a b c d e f g h i j k l Compagno, L.J.V. 1984. FAO species catalogue. Vol. 4. Sharks of the world. An annotated and illustrated catalogue of shark species known to date. FAO Fish. Synop. No. 125, vol. 4. pp.540–541.
  10. ^ Humpback Whale Shark Attack: A Natural Phenomenon Caught on Camera National marine sancturaries. News & Events. Downloaded on 4th, October, 2011.
  11. ^ Shark, tiger International game fish association. World record search. Downloaded on 4th, October, 2011.
  12. ^ a b International Shark Attack File Florida Museum of Natural History. Ichthyology Department. Downloaded on 8th, October, 2011.
  13. ^ “「生きるぞ」と励まし合い、サメと闘い救助待つ”. 読売新聞. (2012年3月26日). http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20120326-OYT1T00146.htm 2012年3月26日閲覧。 

参考文献

関連項目

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