アメ女

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アメ女(あめじょ)[1]は、沖縄、特に米軍基地近くの地域で、アメリカ兵(一般に白人)と性的関係を持つ女性を指す軽蔑的な日本語。

概要[編集]

Sheridan Prassoは、アメ女について次のように述べている。

In Asia, the East-West cultural divide, gender divisions, as well as economic disparity make it hard to figure out who is playing whom

in the games of sex and power between Western men and Asian women. Misimpressions, stereotypes, and cultural misunderstandings color the perspectives of both sides, and the spaces where the perspectives meet are blurred.

(日本語訳)アジアでは、東西間の経済格差はもちろんのこと、文化的隔絶やジェンダーの壁があるので、西洋の男性とアジアの女性が繰り広げるSEXとパワーのゲームで誰が誰と戦っているのか理解するのは難しい。誤った印象、ステレオタイプ、そして文化に関する誤解が互いの互いに対するの見方を特徴づける。このような見方が交わる場所があるのかは不明確である。 — Sheridan Prasso、[2]

語源[編集]

沖縄のことばでいう「アメリカじょうぐ」に由来するとされる[3]。沖縄で「じょうぐ(ー)」[4]と言えば、「〇〇じょうぐー」で「〇〇が好きな人」を意味する[5][6]

語源について、「アメリカ女子」の略であるという説明もなされるが[7]、野入直美は明確に否定する。「米兵の男をもっぱらに追いまわす女」「アメリカ人なら誰でも相手にする尻軽女」を含意しており、戦勝者である米兵に婿びを売る女という蔑称である[8][9]。野入は、沖縄以外でも用いられた「パンパン」という蔑称に近いとする[3]。沖縄に駐留するアメリカ軍人の間では、アメ女という単語は「アメリカ人の追っかけ」または「夜更かし」を表すようになった[10]

アメ女が生まれる背景[編集]

日本経済新聞那覇支局長だった大久保潤は「『門中』という男系子孫を重視する血縁集団が存在したり、位牌は長男が引き継ぐなど、男尊女卑文化ともいえる沖縄社会を敬遠して米兵に憧れる女性が多くいる」とする[11]

ノンフィクション作家の中村淳彦によると、現在でも沖縄の日本人男性はアメ女を嫌う[12]というが、アメ女の側も沖縄の日本人男性に魅力を感じない。アメリカ兵と交際する動機として、「パワフルさや自己主張をはっきりとするアメリカ兵に魅かれた」「英語の勉強を兼ねる」などがある[13]

また、日本人男性にモテない日本人女性が米兵に声を掛けられることで恋愛が成立するという議論もある。ライターの今中里枝によるとアメ女たちは「デブ系」「ブス系」「ネクラ系」の3種類に分類される。このようなモテないアメ女は日本人男性と恋愛する機会はない[14]

黒女[編集]

狭義のアメ女は白人アメリカ兵と交際する女性であるが、類語として黒人アメリカ兵と関係を形成する女性もアメ女と見なされる。しばしば黒女(こくじょ)とよばれる[15]。なお、沖縄の米兵にはアジア系はそれほど多く含まれていない[16]

Sheridan Prassoの発言を再度引用する。

These are girls who sit under tanning lights or decline to sit—as most Asians prefer—in the shade at the beach. They cornrow their hair like Snoop Dogg or kink it like Beyoncé; get surgical implants in their buttocks and breasts; learn dance moves by watching MTV; and wear the skimpy hip-hop fashions that they see in specialty magazines dedicated just to them. Some are big girls, heavy-set, and even tomboys, who find that Japanese men—who generally prefer baby-doll cute as their sexual aesthetic—aren’t attracted to them, and vice-versa.

(日本語訳)これらの女の子たちは肌を焼く日差しの下に身を置く。さもなくば多くのアジア人が好むようにビーチの木陰に座ることを避ける。彼女たちはスヌープ・ドッグの様に髪をコーンロウにするか、ビヨンセの様に捩る。お尻とおっぱいを外科的に「盛る」。MTVを視てダンスの動きを学習し、まさに彼女たちのために有るような専門誌で見た露出の多いヒップホップファッションを身に着ける。ある者は背が高くがっしりした体格で、その上お転婆でもある彼女たちは、日本人男性(一般に、彼らの審美眼にかなうかわいこちゃんを好む)に魅力を感じない。そして、その逆も然りなのだ。

— Sheridan Prasso、[2]

その他[編集]

アメ女たちの間では、海兵隊員(車を所有できなかったり兵舎に住んでいたりする)よりも空軍軍人(車が所有できてプライバシーのある寮に住む)の方が人気がある[17]。アメ女と米兵の交際は多くの場合は遊びとしての恋愛・セックスであり、結婚を前提に交際している例は少ないとされる[18]

注釈[編集]

  1. ^ 武田亜沙美 著「米軍占領とコザの発展 ―女性の暮らしぶりから見たコザの街―」、島村恭則, 日高水穂 編『2007年度日本・アジア文化調査実習報告書 沖縄フィールド・リサーチII』秋田大学教育文化学部、2008年3月18日、103-110頁。 
  2. ^ a b Sheridan Prasso (2009-04-29) (英語). The Asian Mystique: Dragon Ladies, Geisha Girls, and Our Fantasies of the Exotic Orient. New York: Public Affairs. pp. 296-297. ISBN 9780786736324. OCLC 903959965 
  3. ^ a b 野入直美「【《UH・UR合同シシポジウム》報告】映像表象における沖縄の「アメラジアン」」『国際琉球沖縄論集』第2号、2013年3月29日、53-75頁。 
  4. ^ 漢字表記:上戸
  5. ^ 国立国語研究所 編『沖繩語辞典』大蔵省印刷局〈国立国語研究所資料集5〉、1980年1月10日、456頁。 
  6. ^ 尚学図書 編『日本方言大辞典』小学館、1989年5月20日、1151頁。ISBN 4-09-508201-1 
  7. ^ 小林リズム (2018年4月13日). “「目的はアメリカ人との結婚」“アメ女”とは? いとうあさこが“沖縄移住女子”を調査”. times.abema.tv. 株式会社AbemaTV. 2019年11月3日閲覧。
  8. ^ 難波 2014, p. 217.
  9. ^ 宮西 2012, p. 143.
  10. ^ Chalmers Johnson (2006). Nemesis: The Last Days of the American Republic. New York: Henry Holt and Company. p. 183. ISBN 0805087281 
  11. ^ 大久保潤、篠原章『沖縄の不都合な真実』新潮社〈新潮新書〉、2015年、65-66頁。ISBN 978-4-10-610601-9 
  12. ^ 中村淳彦 (2018年10月15日). “「貧困を脱した沖縄女性」が語る壮絶なる貧困”. 東洋経済ONLINE. 株式会社東洋経済新報社. 2019年11月3日閲覧。
  13. ^ 難波 2014, p. 239.
  14. ^ 宮西 2012, p. 143-144.
  15. ^ kokujo”. encarta.msn.com. 2009年11月2日閲覧。
  16. ^ 難波 2014, p. 218.
  17. ^ 宮西 2012, p. 146.
  18. ^ 難波 2014, p. 237-238.

参考文献[編集]

  • 難波功士『米軍基地文化』新曜社〈叢書 戦争が生みだす社会 III〉、2014年3月15日。ISBN 978-4788513723 
  • 宮西香穂里『沖縄軍人妻の研究』京都大学学術出版会〈プリミエ・コレクション〉、2012年11月9日。ISBN 978-4876982370 

関連項目[編集]