アドレナリン

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(R)-(−)-L-Epinephrine or (R)-(−)-L-adrenaline
IUPAC命名法による物質名
臨床データ
胎児危険度分類
  • AU: A
  • US: C
法的規制
投与経路 点滴静脈注射気管内チューブ
薬物動態データ
生物学的利用能Nil (oral)
代謝シナプス
半減期2分
排泄n/a
識別
CAS番号
51-43-4
ATCコード A01AD01 (WHO) B02BC09 (WHO)C01CA24 (WHO)R01AA14 (WHO)R03AA01 (WHO)S01EA01 (WHO)
PubChem CID: 838
DrugBank APRD00450
KEGG D00095
化学的データ
化学式C9H13NO3
分子量183.204 g/mol
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アドレナリンadrenaline、英名:アドレナリン、米名:エピネフリン、IUPAC組織名:4-[1-ヒドロキシ-2-(メチルアミノ)エチル]ベンゼン-1,2-ジオール)は、副腎髄質より分泌されるホルモンであり、また、神経節や脳神経系における神経伝達物質でもある。分子式はC9H13NO3

ストレス反応の中心的役割を果たし、血中に放出されると心拍数血圧を上げ、瞳孔を開きブドウ糖の血中濃度(血糖値)を上げる作用などがある。

構造と生合成

アドレナリンはカテコールアミン(アドレナリン、ノルアドレナリンおよびドパミン)の一つである。L-チロシンからL-ドーパを経て順にドパミン、ノルアドレナリン(ノルエピネフリン)、アドレナリン(エピネフリン)と生合成される。

発見

アドレナリンは1895年にナポレオン・キブルスキーによって初めて発見された[1]。彼が動物の副腎から抽出したものには血圧を上げる効果が見られたが、これにはアドレナリンとその他のカテコールアミンも含まれていた。彼はこれらの抽出物を"nadnerczyna"と呼んだ。これとは独立に、ニュージャージーの研究所にいた高峰譲吉と助手の上中啓三は1900年にウシ副腎からアドレナリンを発見し[2][3]、1901年に世界で初めて結晶化に成功した[4]。この時、実際に実験に成功したのは上中であった。同時期、副腎から放出されている血圧を上げる物質の抽出研究は世界中で行われており、ドイツのフェルトはブタから分離した物質に「スプラレニン (suprarenin)」、アメリカ合衆国の研究者ジョン・ジェイコブ・エイベルヒツジの副腎から分離した物質に「エピネフリン (epinephrine)」と名付けた。アドレナリンは英語、スプラレニンはラテン語、エピネフリンはギリシア語でそれぞれ副腎を意味する語に由来する。 アドレナリンは1904年にフリードリヒ・シュトルツおよびヘンリー・デーキンらによって独立に合成された[3]

エピネフリンはアドレナリンとは分子式の異なる物質であったが、高峰の死後に、エイベルは高峰の研究は自分の盗作であると主張した。これはアドレナリン発表寸前に高峰がエイベルの研究室を訪問した事実を盾に取った主張であった。それまでの実績が主として発酵学の分野で、こうした分野での実績に乏しい高峰が、研究に大きな役割を果たした上中の功績を強調せず、自己の業績として発表したことも、本当に高峰らの業績だったのかを疑わせる一因であったと指摘する考えもある。しかし、後年、上中の残した実験ノートより反証が示されており、またエイベルの方式では抽出できないことも判明して、高峰と上中のチームが最初のアドレナリンの発見者であったことは確定している。なお、上中が残した実験ノートは兵庫県西宮市の名刹・教行寺に保管されている。

エピネフリンという名称

現在ではアドレナリンもエピネフリンも同じ物質のことを指しているが、ヨーロッパでは高峰らの功績を認めて「アドレナリン」の名称が使われているのに対して、アメリカではエイベルの主張を受けて、副腎髄質ホルモンを「エピネフリン」と呼んでいる。

「生体内で合成される生理活性物質」という捉え方と、「医薬品」という捉え方の違いから、生物学の教科書・論文では世界共通でアドレナリンと呼んでいるのに対して、医学においては世界共通でエピネフリンと呼ばれている。[要出典]。ただし、欧州薬局方では「アドレナリン」が採用されているほか、日本でも医薬品の正式名称を定める日本薬局方2006年4月に改正され、一般名がエピネフリンからアドレナリンに変更されている[5]

作用

交感神経興奮した状態、すなわち「闘争か逃走か (fight-or-flight)」のホルモンと呼ばれる。動物が敵から身を守る、あるいは獲物を捕食する必要にせまられるなどといった状態に相当するストレス応答を、全身の器官に引き起こす。

  • 運動器官への血液供給増大を引き起こす反応
    • 心筋収縮力の上昇
    • 心、肝、骨格筋の血管拡張
    • 皮膚、粘膜の血管収縮
    • 消化管運動低下
  • 呼吸におけるガス交換効率の上昇を引き起こす反応
  • 感覚器官の感度を上げる反応
  • 痛覚の麻痺
  • 勃起不全

興奮すると分泌されるため、例えば喧嘩になった時に分泌され、血まみれや骨折の状態になっても全く痛みを感じないケースもある。

医薬品としてのアドレナリン

アドレナリン(商品名「スプラレニン」)のアンプル

アドレナリンは心停止時に用いたり、アナフィラキシーショック敗血症に対する血管収縮薬や、気管支喘息発作時の気管支拡張薬として用いられる。有害反応には、動悸、心悸亢進、不安頭痛振戦高血圧などがある。

心停止の4つの病態、すなわち心室細動、無脈性心室頻拍、心静止、無脈性電気活動のいずれに対してもアドレナリンは第1選択として長く使用されてきたが、近年ではバソプレシンが救命率、生存退院率が共に上回ることが証明されバソプレシンに第1選択の座を譲りつつある。静脈内投与の場合、初回投与量は1mgである。血中半減期は3分から5分なので、3分から5分おきに1mgを繰り返し投与する。

また局所麻酔剤に10万分の1程度添加して、麻酔時間の延長、局所麻酔剤中毒の予防、手術時出血の抑制を図ることもある。

代謝はまずモノアミン酸化酵素によって酸化(脱アミノ化)され、最終的にはバニリルマンデル酸として尿中に排泄される。

商品名として「エピスタ」「ボスミン」「エピペン」がある。

併用禁忌

  • カフェイン(カフェイン飲料・製剤) - 相互に作用を増強させ、心臓に負荷をかける。突然死の原因につながることもある。
  • タバコ(喫煙) - 相互に作用を増強、精神活動を賦活、錯乱を招く恐れがある。
  • 血管拡張作用のある薬 - 血管収縮作用を減弱させ、相互に効力を弱める。
  • ブチロフェノン系フェノチアジン系薬等(α遮断作用のある薬) - アドレナリンの作用を逆転させ、急激な血圧降下を起こす。

アドレナリンと疾患

褐色細胞腫は副腎腫瘍の一つであり、多量のカテコールアミンが分泌される疾患である。

関連項目

外部リンク

脚注

  1. ^ アドレナリンとエピネフリン
  2. ^ Yamashima T (2003). “Jokichi Takamine (1854–1922), the samurai chemist, and his work on adrenalin”. J Med Biogr 11 (2): 95–102. PMID 12717538. 
  3. ^ a b Bennett M (1999). “One hundred years of adrenaline: the discovery of autoreceptors”. Clin Auton Res 9 (3): 145–59. doi:10.1007/BF02281628. PMID 10454061. 
  4. ^ Takamine J (1901). The isolation of the active principle of the suprarenal gland. Great Britain: Cambridge University Press. pp. xxix-xxx. http://books.google.com/?id=xVEq06Ym6qcC&pg=RA1-PR29#PRA1-PR29,M1 
  5. ^ 愛知県衛生研究所 高峰譲吉発見・命名の「アドレナリン」を日本名として採用、愛知県、2015年12月最終確認