アクティブサスペンション

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

これはこのページの過去の版です。Brakeet (会話 | 投稿記録) による 2015年10月11日 (日) 19:40個人設定で未設定ならUTC)時点の版 (Category:装甲戦闘車両の構成要素)であり、現在の版とは大きく異なる場合があります。

アクティブサスペンション英語:active suspension)は、電子制御によって車体を支えるサスペンションの特性を変化させる機構。車輪から車体への外力の変化の伝達を、従来はスプリングとダンパーの特性で受動的に抑制していたのに対し、主にダンパー油圧を路面状況に対して能動的に制御することで車体(機体)の姿勢や振動を改善するものである。このシステムはどの分野においてもスカイフック理論を基本として開発されている。

鉄道車両のアクティブサスペンション

振動抑制装置付きサスペンションのことである。動力を使用しており、外部からの左右の振動を、車体に取付けられた左右加速度センサーで左右加速度が検知して、それを元に制御器が必要な力の大きさや方向を算出して、台車と車体の間を枕木方向で取付けているアクチュエータに指令を送り、アクチュエータで左右の振動とは逆の力を発生させて、車体の左右振動を効果的に抑制するものであり、動力源は圧縮空気を使用する空気式と電気式のアクチュエーターを使用する電気式があり、フルアクティブサスペンションとも呼ばれている。制振効果は非常に高いものの、サスペンション駆動に専用の動力源を必要とするため消費エネルギーが大きく、システムのサイズも大きくなってしまう。また構造が複雑で維持コストも含めて高価なため、採用はごく一部の系列の車両にとどまっている。

以下の鉄道車両に装着されている。

  • E657系
    • 両先頭車(1・10号車)とグリーン車(5号車)
  • 77系
    • 両先頭車
    • JR九州の寝台列車「ななつ星」に充当[1]

F1のアクティブサスペンション

自動車レースの最高峰と称されることの多いフォーミュラ1(F1)の車両において、アクティブサスペンションの役割はグラウンド・エフェクト・カー時代に失われたサスペンション機能の復権と、その後の空気力学的なダウンフォースと空気抵抗を最適に制御するために用いられた技術であった。

グラウンド・エフェクト・カーの禁止とダウンフォースの獲得

1970年代後半から1980年代にかけて、F1界におけるデザインの主流は、サイドポンツーンの下面形状を翼形状とし地面効果(グラウンドエフェクト)によって強力なダウンフォースを得ていたグラウンド・エフェクト・カーであった。グラウンド・エフェクト・カーはサイドポンツーン底面のウィング形状部の空気の流れを乱さないため、またその側面からの空気の流出入を防ぐブラシもしくはサイドスカートを地面と接し続けさせるため、地上高を一定の範囲に保つ必要があり、サスペンションスプリングは非常に硬く設定され、ドライバーや車体にとっては負担が大きく、かつバンプ(突起乗り越え)時に車体と地面の距離が大きくなると突然ダウンフォースが失われるなど、非常に危険な乗り物となっていた。そこで安定した地上高とドライバーへの負担軽減の観点から、ロータス・88が認められなかったロータスにおいてアクティブサスペンションの開発が始められた。アクティブサスペンションがその効力を発揮しはじめる前に、安全性の問題から車体下面は平面でなければならないとする、通称「フラットボトム規定」が施行されることとなり、サイドポンツーンにより発生していたダウンフォースは失われた。

フラットボトム規制の中、新たな構造を模索してきたコンストラクター達は、風洞によるさまざまな実験においてフラットボトムの規制箇所以外の部分において適切な方法を取ることによって、失われたダウンフォースを獲得することが可能であることが明らかとなってきたのである。地面との距離を一定に保つことが可能であれば、グランドエフェクトカーと同じ効果が期待できるのである。この効果は速度と車高の変化に大変敏感であり、ミリ単位のセッティングの違いにより車体性能が大きく変化する。

当時のレギュレーションではレース中の給油が認められておらず、レース初めと燃料が少なくなるレース後半で車体重量が大きく変化し、さらに加減速時、コーナーリング時の車体の姿勢変化によって、絶えず車体下面と地面との距離が変わっていた。これを解消するため、当初はサスペンションのセッティングを硬くすることでこの変化を最小限に抑えていたが、路面からの衝撃を吸収するという本来の働きが失われてしまい、縁石などで車体が跳ねてしまうという問題を抱えていた(ただし同様のことはグランドエフェクトカー時代においても存在しており、より切実であった)。

そこで車体姿勢および路面と車体下面との隙間を常に一定に保つことで常に強力な地面効果を得ることを目的として本システムは採用された。

実用化と実績

1983年ロータス・92で初めて実戦に投入されたが、このマシン以後しばらくアクティブサスペンションを使用するチームはなく、ロータス自体もマシン搭載を一度断念した。

その後、1987年ロータス・99Tで再び実戦採用された。また、ウィリアムズがシーズン途中のイタリアGPからFW11Bに搭載した。ロータスのシステムはF1部門ではないロータス・カーズ本体の管理にあり、レースに特化したものではなく、乗用車用に開発された複雑なものだった。一方、ウィリアムズのシステムはロータスのものに比べレース用に特化したシンプルな設計であり、当初は商標の問題から「リアクティブライド」と呼んだ。ロータスは、その方式から我々こそが完全なアクティブサスペンションだと言った。[要出典]

ロータス方式
ロータスのアクティブサスペンションは当時のコンピューターの演算速度やアクチュエータ能力では、絶え間ない姿勢変化に対応しきれなかった。また、重量増とシステムを駆動することによるエンジンパワーのロスを克服するほどのメリットもなく、走行中油圧がゼロになってマシンが底突きし、コントロール不能に陥るなどの致命的なトラブルも度々発生したため、1年限りで取りやめになった。
しかし、当時ロータスのシステム開発責任者であったピーター・ライトによると、ロータス式アクティブサスペンションが大きな成功を収めなかった理由はシステムの複雑さにあったのではなく、コンベンショナルなサスペンションに合わせて作られたF1タイヤのバネ特性やダンピング特性がアクティブサスペンション制御に不向きであったことを挙げている。当時のF1タイヤサプライヤであったグッドイヤーにアクティブサスペンションに合わせた専用タイヤの開発を依頼したが断られてしまったと述懐している。
ウイリアムズ方式
ウイリアムズのシステムの基本は、サーキットの走行ライン上のデコボコや縁石を全て事前に調べ上げ、それをなぞるようなサスペンションの動きをあらかじめプログラミングしておき、決められた場所で決められた通りに動かすだけというものであった。当時はGPSを使った位置検出が出来なかったため、走行距離でコース上の位置を推定した。毎周スタート/フィニッシュラインで推定誤差の累積はリセットされる。コースアウト等で距離と位置の関係がずれてしまった場合に備え、次の周回まで一時的にアクティブ作動をキャンセルすることもできた。
すなわち、「路面は常に変化する」公道ではなく「周回のライン取りが同一ならば挙動は変わらない」というサーキットを走行するレースに特化したものであったのだ。路面入力を関知してから高速演算高速作動でサスペンションを動かすというロータス式の本来のアクティブサスペンションとは全く発想を異にするシンプルかつ開発容易なシステムであり、F1におけるアクティブサスペンション普及の基礎を作った。車高をコーナーとストレートで変化させることで空力抵抗とダウンフォースを両立させるセッティングの幅が広がる可能性はあったが、レギュレーション違反である「可動の空力装置」と見なされる危険が高かったため、燃料積載量や路面凹凸による影響をキャンセルする車高一定維持装置として使用された。
ロータス同様、当初はシステム重量やアクチュエータの信頼性に悩まされたため、1987年限りで一旦採用を取りやめたが、1991年、これらを解決して最終戦で再び投入し、翌1992年FW14Bで本格採用されると、圧倒的な速さでダブルタイトルを獲得した。

ウィリアムズの成功により、1993年にはほとんどのマシンがウイリアムズ方式をベースにしたアクティブサスペンションやライドハイトコントロール(最低地上高制御)など何らかの姿勢制御装置を採用した。コース上の位置の推定精度を向上するために4輪全ての車輪速を検出する一方、精度悪化の要因となる走行ラインのバラつき、加速時後輪空転や制動時前輪ロックを排除することが必要不可欠であったため、パワーステアリングトラクションコントロールアンチロックブレーキも合わせて装備された。但し、当時はこれらをドライバーズ・エイド(運転補助)システム、あるいはタイヤ寿命向上策としての採用と捉える向きが多かった。

また、ドライバーのスイッチ操作であればストレートやコーナーで車高を変化させてもレギュレーション違反では無いという解釈により、1993年にはベネトンチームが四輪操舵システムと共に採用していた。

規制

豊富な資金力で開発を進める上位チームと資金力の無い下位チームのラップタイム格差が広がり過ぎてしまった状況から、「可動の空力装置」禁止レギュレーションに違反しているという解釈に変更され、1993年を最後に禁止された。合わせて、アクティブサスペンションがなければ必要不可欠ではなくなるトラクションコントロールやアンチロックブレーキの禁止も合意された。チーム格差を縮小してレースのスペクタル性を高めることを目的としながらも、建前はコーナーリングスピードを下げる事による安全性の確保とされた。しかし、翌1994年シーズン開始早々に悲惨な事故が相次いで発生したことは皮肉な結果となった。

乗用車のアクティブサスペンション

乗用車にも、一時期アクティブサスペンションが盛んに搭載された時期があった。日産、トヨタ、三菱などがアクティブサスペンション搭載車を販売していたが、機構そのものが非常に高価であること(100万円前後高くなる)、重量の増加や耐久性に問題があったことなどから、現在は一部の高級車のみに搭載されている。例えば、メルセデスベンツS600・S550(マジックボディコントロール搭載車)など

軍用車両のアクティブサスペンション

アクティブサスペンションやセミアクティブサスペンションは、その機構からコスト増や質量増を招くため採用がためらわれる。採用例としては、セミアクティブサスペンションがピラーニャIVなど極一部の装輪車両にある程度である。[2][3]

脚注

出典

  1. ^ TR407K / JR九州77系客車|台車近影|鉄道ホビダス”. 鉄道ホビタス (2014年11月14日). 2015年8月2日閲覧。
  2. ^ 防衛技術ジャーナル 2013年10月号 防衛技術基礎講座 陸上装備技術 第2講 車体技術
  3. ^ 技術研究本部60年史

関連項目

外部リンク