もったいない
もったいない(勿体無い)とは、仏教用語の「物体(もったい)」を否定する語で、物の本来あるべき姿がなくなるのを惜しみ、嘆く気持ちを表している。
日本の民族信仰である古神道を源流とする神道においては、「散る桜の花びら」や、「吐息の一つ一つ」にまで命が宿るとされ、森羅万象に対して、慈しみや感謝の念をもって接してきた。その心根が「もったいない」という価値観の根底に流れている。
もともと「不都合である」、「かたじけない」などの意味で使用されていたが、現在では一般的に「物の価値を十分に生かしきれておらず無駄になっている」状態やそのような状態にしてしまう行為を戒める意味で使用される日本語の単語である。
もったいない運動の先駆け
もったいない運動のさきがけとしては、1936年(昭和11年)10月23日のケルンで開かれた「無駄なくせ闘争(Kampf dem Verderb)」と呼ばれる展示会(展示会の正式名は、「15億をめぐる闘争」)の開会式においてヘルベルト・バッケの演説から始まったドイツの啓蒙運動をあげることができる[1][2]。バッケの演説は聴衆に食べ物を粗末にしていないかなどと日常生活の反省を促し、日常のもったいなさ精神を強く喚起させるものであった。運動の主役は各家庭のとくに主婦であるとされ、食品の廃物リサイクルなどを推進し一定の成果を挙げた。日本では、1937年(昭和12年)から始まった国民精神総動員運動によって、物資の節約、廃品、金属等の回収・リサイクル、歓楽街のネオンのライトダウンなどの取り組みが行われている。
MOTTAINAI・もったいない運動
ワンガリ・マータイ
ワンガリ・マータイは、ケニア出身の環境保護活動家である。環境分野で初めてノーベル平和賞を受賞した人物でもある(2004年)。
- 『MOTTAINAI』との出会い(2005年2月)
- 京都議定書関連行事のため、毎日新聞社の招聘により日本を訪問。その時、同社編集局長とのインタビューで「もったいない」という言葉を知る。
- 「もったいない」は"wasteful"と同じ意味であって、両方の言葉は環境問題を考えるに重要な概念と話したという。
- 同年2月17日に、当時の内閣総理大臣・小泉純一郎と会談した際、"wasteful"という言葉を使用したが、「もったいない」という言葉を使ったと報道された。
- 同年3月には国連女性地位委員会で出席者全員に「もったいない」と唱和させたりするなど、世界へこの語を広めようとしている。
- 『MOTTAINAI』を世界共通の言葉とする理由
- 「もったいない」に感銘を受けた後、この意思と概念を世界中に広めるため他の言語で該当するような言葉を探したが、
- そのため、そのまま『MOTTAINAI』を世界共通の言葉として広めているという(『世界一受けたい授業』(日本テレビ系のテレビ番組)などで語った所による)。
- グレンイーグルズ・サミット(2005年7月)
- 歌手のボノやボブ・ゲルドフなどとともに、英首相のトニー・ブレアにアフリカ支援を訴えた(イギリス・スコットランドのパースシャーで開かれた主要国首脳会議)。
- その後、エディンバラのサッカー場で開催されたライブ8(Live 8)コンサートで、6万人の観衆に「もったいない」を紹介。
- その他の活動
- 南アフリカ共和国・ヨハネスブルクでネルソン・マンデラ前大統領の87歳の誕生日を祝う式典にも招かれ、ビル・クリントン前米大統領ら約1,000人の招待者にMOTTAINAIを呼びかけた。
- アメリカ合衆国ハーバード大学やエール大学などの講演でも「日本人の知恵」としてこの言葉を紹介している。
- 再来日(2006年2月)
- 毎日新聞社の招きで再来日し、当時の環境大臣・小池百合子やトヨタ自動車名誉会長・豊田章一郎、歌手・倉木麻衣など、政財界の首脳や著名人と会談する一方で、千葉県松戸市の小学校や早稲田大学、横浜国立大学、北九州市など日本各地で講演し、さまざまなイベントで市民と交流した。
- この際、日本の伝統美である風呂敷を「もったいない精神の象徴」と紹介し、小池と一緒に「Furoshiki」をアピールし、風呂敷ブームを巻き起こした。
- 自叙伝での紹介
- 2006年10月に発刊。タイトルは「Unbowed」(「不屈、へこたれない」の意味)。
- アフリカの緑化活動、「グリーンベルト運動」を軌道に乗せるまでの苦難の半生を描いたものであり、その序文でも「MOTTAINAI」を紹介している。
マータイや山口昭(後述)が唱える「もったいない精神」に共通しているのは、本来、日本人が「もったいない」で感じるネガティブな概念を昇華し、これを人やもの、生物、自然、平和を敬う3R運動や環境保護、平和運動の実践理念としてポジティブにとらえている点である。
小泉純一郎
- マータイの活動を受け、2005年3月24日の2005年日本国際博覧会(愛知万博)開会式で「もったいない」に言及し、この言葉を万博を通じて広めたいと語った。この開会式にはマータイも参加した。
- さらに、同年度版環境白書、循環型社会白書も「もったいない」に言及。「もったいない」は日本の国家キャンペーンとなった。
毎日新聞
- 毎日新聞は、他紙に先駆けて紙面に環境面を設けたり、「科学環境部」という取材セクションを作るなど従前から環境問題に積極的に取り組んできた。
- また、アルピニストの野口健をメインキャラクターに、富士山をきれいにする「富士山再生キャンペーン」などにも社を挙げて取り組んでいる。
- アフリカ問題でも、アフリカ難民キャンペーンなどを展開。マータイを最初に招聘したのも、その一環だった。
- 同社は、2005年3月よりマータイを名誉会長に迎え、社内に事務局を設置して「MOTTAINAIキャンペーン」と銘打ったMOTTAINAIをキーフレーズとする環境キャンペーンを開始し、彼女とともに世界に地球環境保全を訴え続けている。
伊藤忠商事
リサイクル原料などを使ったネクタイや風呂敷、家具、肥料、伝統工芸品、ケニアの女性によるフェアトレード商品の「もったいないサンクスバンド」、「サンクスバッグ」などを世界に販売している。
日本青年会議所
社団法人日本青年会議所(JCI-Japan)発「もったいない」運動は、1994年から1999年まで国際青年会議所(JCI)の公認プログラムとして採用され「グローバルMOTTAINAIムーブメント」としてJCIの海外拠点がある各国で展開された。
滋賀県県知事選
脚注
- ^ Kampf dem Verderb
- ^ 藤原辰史、「もったいなさ」のネットワーク、『ナチス・ドイツの有機農業』 柏書房 2005年、p124-131 ISBN 4760126791
- ^ http://www.itochu.co.jp/main/news/2005/news_050726-2.html
関連図書
- 『もったいない』(プラネット・リンク編、マガジンハウス刊、ISBN 4838716095)
- 『もったいない』(山口昭著、講談社刊)
- 『私の、もったいない』(マガジンハウス刊)
- 『もったいない ばあさん』(真珠まりこ著、講談社刊)
関連楽曲
- 『MOTTAINAI』(さだまさしが2005年9月にリリースしたアルバム「とこしへ」に収録)
- 『MOTTAINAI』(子供5人のユニット「グリーン・グローブ」によるグリーンベルト運動オフィシャルソング)
- 『アキラのもったいない音頭』(小林旭が2006年6月にシングルCDでリリース)
- 『MOTTAINAI 〜もったいない〜』(ルー大柴&仁井山征弘、みんなのうた)
- 『もったいないばあさん音頭」(作詞:真珠まりこ、作曲:中川ひろたか)
- 『もったいない音頭』(東京都北区立中里保育園)
- 『MOTTAINAI 2005』(あずみ&みは)
- 『もったいない』(Syrup16g アルバム「HELL-SEE」に収録)
関連項目
- 3R(Reduce(減量)・Reuse(再使用)・Recycle(再生利用))
- 環境省(もったいないふろしき)
- 毎日新聞(MOTTAINAIキャンペーン)
- もったいないお化け(公共広告機構(現:ACジャパン))
- ルー大柴
- NHK地球エコ2008・MOTTAINAI
- 神道の緑性
- 緑の保守主義
外部リンク
- もったいないふろしき - 環境省