そうや (巡視船)

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PLH-01「そうや」(改装後)
PLH-01「そうや」(改装後)
基本情報
建造所 日本鋼管鶴見工場
運用者  海上保安庁
艦種 ヘリコプター1機搭載型PLH
母港 釧路港
艦歴
計画 昭和52年
起工 1977年9月12日
進水 1978年7月3日
竣工 1978年11月22日
要目
基準排水量 3,562トン
常備排水量 3,700トン
満載排水量 4,089トン
総トン数 3,139トン (旧)
全長 98.60 m
最大幅 15.60 m
深さ 8.00 m
吃水 5.20 m
主機 SEMT 12PC2-5 V400
ディーゼルエンジン×2基
推進 スクリュープロペラ×2軸
出力 定格16,000 bhp / 常用13,260 bhp
速力 21.0ノット
燃料 650トン
航続距離 5,700海里 (18kt巡航時)
乗員 71名
兵装ボフォースL/60 40mm機関砲×1門
エリコンSS 20mm機銃×1門
 ※後日撤去
搭載機 シコルスキーS-76C++救難ヘリコプター×1機
C4ISTAR 船テレ・システム(改装後搭載)
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そうやJCG Souya, PLH 01) は、海上保安庁巡視船。分類上はPLH(Patrol vessel Large with Helicopter)、公称船型はヘリコプター1機搭載型[1]

海上保安庁向けに建造されたものとしては初めてヘリコプター運用能力を有する巡視船(PLH)であり、またPLHとしては唯一砕氷船としての能力を備えている。

来歴

昭和50年代、海上保安庁では、「宗谷」の代替建造が求められるようになっていた。同船は、南極観測任務に充当されていた際にはヘリコプター甲板を設置してベル47シコルスキー S-58の運用を行っていたものの、第一管区海上保安本部に配属されて以降はヘリコプターの運用は行っていなかった。このこともあり、当初は代船としては1,000トン型が想定されていた。しかし、南極観測任務において確認されたヘリコプターによる広域監視・高速進出能力は、200海里の排他的経済水域など新海洋秩序時代を迎えつつある海保の警備・救難能力にとって大いに貢献するものと考えられたことから、ヘリコプター搭載巡視船が構想されるようになった[2][3]

当初は、洋上で運用することから大型双発ヘリコプターの搭載が構想され、常時1機を展開可能とするために2機の搭載が求められた。またヘリコプターの行動支援のため、対空レーダー航法援助装置(TACAN)、さらには強制着船装置の搭載も構想され、この結果として、6,000トン級巡視船として計画された。しかし本計画で建造した場合、船舶建造費(60億円弱)を1隻でオーバーしてしまい、また巡視船でのヘリコプター運用自体がほぼ未知数であったことから、慎重論が強く主張されるようになり、結局、中型ヘリコプター1機搭載の3,000トン級巡視船として設計されることになった。これによって建造されたのが本船である。1976年8月、2年計画として予算要求が行われ、昭和52年度計画において建造が認可された[2]

設計

上記の通り、「宗谷」の代船として建造されたことから、本船は、PLHとしての速力性能(21ノット)とともに砕氷能力(1.5メートル)を備えることが求められた。しかし、砕氷能力を確保しようとすると幅広で中央部の船底が垂れ下がった船型となるが、これは抵抗が大きく高速化が難しいというジレンマが生じた。実際、砕氷船船型で試設計を行ったところ、最大速力は18ノット程度にとどまると試算されていた。このため、吃水線長の延長や船尾の整形(クルーザー・スターン形状)など高速化のための工夫を凝らすことで、これらの両立を実現した[4]。3ノットで1mの連続砕氷能力、最大で約1.5mの砕氷能力を有する[5]

主機関としては、SEMT ピルスティク 12PC2-5 V400ディーゼルエンジン日本鋼管ライセンス生産して搭載した。2基の主機関で両舷それぞれ1軸ずつの推進器を駆動しており、出力は定格8,000 bhp(常用6,630 bhp)、回転数520 rpmであった[6]。 また電源としては520 kWの主発電機2基と120 kWの発電機を1基搭載して、合計出力1,160 kWを確保した[7]

ヘリコプターの離着船にあたっては、ローリング5度、ピッチング2度以内に収めることが求められた。船体の形状・寸法から、ある程度の荒天下でもピッチングは2度以下になると期待されたが、ローリングはかなりの高頻度で5度以上になることが危惧されたことから、従来の減揺水槽と共に、引き込み式のフィンスタビライザーを巡視船では初めて搭載した。また地面効果の影響を軽減するため、ヘリコプターのローター径以上のヘリコプター甲板幅が確保された。これにより、航空法で定められている臨時飛行場としての認可を取得した。なおヘリコプター甲板には発着時の衝撃に耐える強度が求められたが、海保にはそのような設計に関するデータがなかったことから、「宗谷」での発着試験が繰り返された。またヘリコプターの移送装置としてはハンガー内に引き込み用、船尾甲板に引き出し用ウインチを設置したが、ウインチとヘリコプターの間のロープが長くなり、横流れしやすいために人力で制動する必要があるという問題があった[8]

また、排他的経済水域200海里時代にあたって巡視船艇多数を投入しての大規模ミッションの増加が想定されたことから、その指揮船となるPLHには、従来よりも強力な情報収集・解析および指揮・統制能力が求められた。このことから、操舵室の後方にOIC(Operation Information Center)室が設けられ、指揮機能がここに集約された。またその右舷側に航空管制室を配置することで、ヘリコプター運用との緊密な連携が確保された。ただし本船のOIC室は床面積10平方メートル程度であり、また操舵室や航空管制室とも独立しているなど、後の船のOIC室と比して機能は限定的なものであった[8]

兵装としては、当初ボフォース60口径40mm機銃エリコン20mm機銃を船体前方に各1門、単装マウントに配して搭載していたが、後に20mm単装機銃は撤去された。なおレーダーとしては、10センチメートル波(Sバンド)および3センチメートル波(Xバンド)のものを1基ずつ装備した[9]

搭載機は竣工時ベル212救難ヘリコプターを搭載、機体の老朽化に伴い2015年3月2日、シコルスキーS-76C++(元函航空基地所属機)に変更した。

運用

1978年(昭和53年)11月22日日本鋼管鶴見工場で竣工した。当時唯一の砕氷巡視船で、北海道近海における冬季の警備救難に重宝された。冬季には海氷観測を行っている。

設計は後に量産型ヘリコプター搭載巡視船であるつがる型巡視船のベースになった。25年の耐用年数を過ぎた後も第一管区海上保安本部の基幹船でありつづけ、堅牢につくられた船体・機関等についてはまだまだ第一線での任務に耐えると判断されたが、装備の陳腐化が進んでいたため、海上保安庁が建造した大型巡視船としては初めて、2009年(平成21年)度予算で15年程度延命させるための改修工事の予算が計上された。これによってOICを拡大して通信室と統合、船テレ・システム(船陸間のデータ転送システム)搭載や、ヘリコプター移送装置を新鋭PLHと同じレール/台車式に変更するなどの改修が行われ[1]、2010年に改修を終了し任務に復帰した。改修費は約27億円であった。

2011年(平成23年)3月11日に発生した東日本大震災では3月13日岩手県釜石港に入港し、仮庁舎に移るまでの一ヶ月間、津波により指揮機能を失った釜石海上保安部の現地対策本部として運用された。

参考文献

  1. ^ a b 「警備救難業務用船 (海上保安庁船艇の全容)」『世界の艦船』第762号、海人社、2012年7月、39-84頁、NAID 40019332950 
  2. ^ a b 邉見正和「ヘリ巡導入の思い出 (特集 創設50周年を迎えた海上保安庁)」『世界の艦船』第538号、海人社、1998年5月、106-107頁。 
  3. ^ 邉見正和「PLH建造の経緯 (特集2 海上保安庁のPLH)」『世界の艦船』第590号、海人社、2001年12月、141-145頁、NAID 40002156215 
  4. ^ 岡田裕「PLHのメカニズム (特集2 海上保安庁のPLH)」『世界の艦船』第590号、海人社、2001年12月、146-151頁、NAID 40002156216 
  5. ^ 「海上保安庁全船艇史」『世界の艦船』第613号、海人社、2003年7月、1-216頁、NAID 40005855317 
  6. ^ 佐藤一也「4サイクルディーゼル機関の技術系統化調査」『国立科学博物館 技術の系統化調査報告 第12集』2008年3月。 
  7. ^ Eric Wertheim (2013). The Naval Institute Guide to Combat Fleets of the World, 16th Edition. Naval Institute Press. p. 384. ISBN 978-1591149545 
  8. ^ a b 岡田裕「PLHのメカニズム (特集2 海上保安庁のPLH)」『世界の艦船』第590号、海人社、2001年12月、146-151頁、NAID 40002156216 
  9. ^ 徳永陽一郎、大塚至毅『海上保安庁 船艇と航空 (交通ブックス205)』成山堂書店、1995年、123頁。ISBN 4-425-77041-2 

外部リンク