しょっつる

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

これはこのページの過去の版です。BanjinS (会話 | 投稿記録) による 2015年10月9日 (金) 08:05個人設定で未設定ならUTC)時点の版 (白塩について(脚注) 白塩が何なのか知らなかったので)であり、現在の版とは大きく異なる場合があります。

ビン入りのしょっつる(左)。右はいしる。

しょっつる秋田県で作られる魚醤塩魚汁とも書く[1]

概要

ハタハタなどの原料魚に塩を加え、1年以上かけて熟成させ作る[2]タンパク質が分解されたアミノ酸ペプチドを主成分とし、うま味と特有の風味を呈する[2]秋田県の伝統的な調味料で、江戸時代初期から製造されている[1]

原料

原料魚としては、かつてはハタハタを主に使っていた[3]。秋田地方で豊富に採れて臭みが少ない事が大きな利点で、特に産卵のため海岸に近づく12月に多く漁獲され、単価の低い雄が好んで材料とされた[2]20世紀後半にはハタハタの資源量が激減したが、全面禁漁などを経て漁獲高が回復し、近年は再びハタハタも用いられている[2]

現代では漁獲量が多く安価な点や鮮度を重視して以下のような魚が使われており、5 - 6ヶ月の短期醸成ではそれぞれ次のような特徴がある[3][4]

  • ハタハタ:味が淡白。12月に採れたものが適している。
  • アジ:くせはないが、味は淡白。
  • イワシ:くせがなく、甘味があり美味。5月に採れたものが適している
  • サバうま味があるが、刺激臭あり。
  • コアミ:特有の臭いや渋味がある。

以上のような特徴から、ハタハタやアジ、サバは長期熟成、イワシは短期熟成にそれぞれ向いているとされる[4]。また、近年では冷凍のハタハタや、コウナゴなども用いられる[2]

また、としてかつては食塩ではなく白塩[5]が使用されていた[4]。塩は、脱水作用により細菌の発育を防ぎ、酸素溶解度を減少させ、細菌に対して塩素イオンが直接作用する、などの働きによってしょっつるの保存性を高める役割を果たしている[4]

製法

原料魚の頭部内臓、尾を取り除き、魚に対して30 - 40%ほどの食塩を直接まぶし、よく混合する[3][2]。内臓などを除かず魚を丸ごと用いたり、大型の魚は切断する場合もある[3][2]。常温で1年以上漬けこみ、自己消化酵素によるタンパク質の分解を進める[2]。この間、定期的に撹拌して塩分濃度の低い部分が生じて腐造する事を防ぐ[2]。また、1970年代の調査では、漬けこみ始めてから3 - 7日経過して食塩水が赤色になったら、生臭さを除くために液相を分離して煮沸・ろ過していた[3]

窒素量などから熟成の終了時期を決定し、おおむね1 - 2年で終了となる[2]など分解されなかった固形物を除き、沸騰させて約10分間加熱する[2]。加熱によってエキスの移行とタンパク質の熱凝固が促進され、この後のろ過が容易になる[6]。加熱後の液体を冷却し、浮いた油脂分を除去してから濾布などを用いてろ過する[2]。清澄な方が商品価値が高いとされるため、かつては複数回ろ過を行っていた[6]。最後に60°C以上に加熱したままビン詰めし、好塩性菌を殺菌する[2]。また、ビンではなくペットボトル入りの商品もある[2]

自家消費用に生産する場合は、魚肉:塩:が8:1:1となるように麹を準備し、塩と魚肉を交互に重ねてなどで2 - 3年かけて熟成させていた[6][7]。麹には風味を良くする効果があるとされていたが、家庭生産でも麹を加えないケースもあった[7]

利用

ハタハタ白菜などの野菜豆腐を入れた「しょっつる鍋」などの鍋物ラーメンうどんの汁にも使われる[2][8]。また、ホタテガイ貝殻を器としたかやきにも用いられる[9]男鹿市ではご当地グルメとしてしょっつるを利用した男鹿しょっつる焼きそばが販売されている[10]

歴史

江戸時代初期(17世紀)から、ハタハタなど近海で多量に採れる魚を利用して秋田の民家でしょっつるが製造されてきた[1]。一方、延長5年(927年)の『延喜式』には鯖醤、鯛醤などの具体的な魚醤が記録されている事などから、しょっつるの起源がさらに古い可能性も指摘されている[1]。販売を目的とした商業的生産は、明治時代初期(19世紀後半)には始まっていた[1]。一方、1894年農商務省がまとめた『日本水産製品誌』では、各地の魚醤の記録がある一方で、なぜかしょっつるに関する記述はない[11]

20世紀前半までは、秋田市周辺の沿岸部の多くの家庭で自家生産が行われていた[11]。しかし1980年代には自家生産する家庭は極めて少なくなっており[11]、秋田市および能代市象潟町(現・にかほ市)の計6か所の工場で生産が行われていた[1]。しょっつるの年間生産量は、1970年代には200kL程度[3]、近年は100トン以下となっている[2]

脚注

  1. ^ a b c d e f 池見元宏 & 小笠原泰 1980, p. 898
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p 水産加工品のいろいろ しょっつる”. 国立研究開発法人水産総合研究センター 中央水産研究所. 2015年10月5日閲覧。
  3. ^ a b c d e f 中野智夫 1973, p. 89
  4. ^ a b c d 池見元宏 & 小笠原泰 1980, p. 899
  5. ^ ウェットタイプ(非乾燥)の低価格な塩で、食塩に比べ精製度が低い。日本塩工業会の定義では、食塩の塩化ナトリウム含有率が99%以上であるのに対し白塩は95%以上と定める。
  6. ^ a b c 池見元宏 & 小笠原泰 1980, p. 900
  7. ^ a b 石毛直道 1986, p. 15
  8. ^ しょっつる鍋”. 国立研究開発法人 水産総合研究センター 日本海区水産研究所. 2015年10月5日閲覧。
  9. ^ 池見元宏 & 小笠原泰 1980, p. 902
  10. ^ 男鹿しょっつる焼きそばとは”. 男鹿のやきそばを広める会. 2015年10月5日閲覧。
  11. ^ a b c 石毛直道 1986, p. 14

参考文献

  • 石毛直道東アジアの魚醤 : 魚の発酵製品の研究 (1)」『国立民族学博物館研究報告』第11巻第1号、国立民族学博物館、1986年、1-41頁、NAID 110004728152 
  • 池見元宏、小笠原泰「しょっつるの味」『日本釀造協會雜誌』第75巻第11号、日本釀造協会、1980年、898-902頁、doi:10.6013/jbrewsocjapan1915.75.898 
  • 中野智夫「魚醤 : ショッツルを中心として」『調理科学』第6巻第2号、日本調理科学会、1973年、88-91頁、NAID 110001176469 

関連項目