さらば愛しきルパンよ
『さらば愛しきルパンよ』(さらばいとしきルパンよ)は、1977年から1980年に放送された『ルパン三世 (TV第2シリーズ)』(以下、『TV第2シリーズ』)第155話(最終話)のサブタイトル。宮崎駿が「照樹務」名義で脚本・演出を担当した。
概要
『TV第2シリーズ』に不満を感じた宮崎が制作し、第145話「死の翼アルバトロス」同様、イメージが違うとして日本テレビのスタッフが没にしようとした経緯を持つ。当初のシナリオ・タイトルは、「ドロボウは平和を愛す」であった。
作品としては、ロボット兵が登場し、ヒロインの声が島本須美であるなど、宮崎の代表作『風の谷のナウシカ』や『天空の城ラピュタ』の原型となる特色が強い。ラストについては、『ルパン三世 カリオストロの城』におけるエンディングや、冒頭のカーチェイスを彷彿させるものとなっている。
2011年に実施された「ルパン三世アニメ40周年記念 マイ・ベストエピソード投票」の「TV第2シリーズ部門」では本作が第1位になり、宮崎作品のルパンでは劇場版・OVA部門の『ルパン三世 カリオストロの城』とともに二冠を達成している。
あらすじ
謎のロボットが突如東京の上空に現れ、宝石店を襲撃。店から宝石を奪い去って行ったロボットが残したのは、ルパンの犯行声明カードであった。
ロボットの正体は、永田重工で開発され輸送中に何者かによって強奪されていた装甲ロボット兵「ラムダ」だった。テレビ局にルパンのメッセージビデオが届くに至り、日本政府は非常事態宣言を発令し、ラムダの破壊を決定。日本に帰国した銭形警部は「ルパンがこんなことをするはずがない、あれは偽者だ」と主張するが、警視総監は聞く耳を持たず、街中には出動した自衛隊の操る戦車部隊が展開される。
そして再び出現したラムダに対し自衛隊は、市民の被害を全く省みない攻撃を展開し、戦車隊の発砲で街は大パニックに陥る。だがその混乱の中、銭形はラムダが逃げ遅れた人々をかばう姿を見た。追跡の末、銭形はルパンのアジトを突き止めるが、ルパン一味に捕らわれてしまう。
拘束された銭形の前に、ラムダを操縦していた娘が姿を見せる。彼女はロボット科学者・小山田博士の娘である小山田真希。永田重工の資金援助で装甲ロボット兵を開発した小山田博士は、その危険性を感じて開発を中止しようとしたが、研究データ全てを永田重工に奪われて、失意の内に亡くなっていた。真希は父の遺志を継ごうとするも、軍事機密の壁に阻まれて明かす事が出来ず、そんな所をルパン一味に唆されてロボットを操り、犯罪を行うことでロボット兵の危険性を世間に訴えようとしていたのだった。
ところがルパン一味は真っ赤な偽者であり、ロボット兵の危険性を訴えるどころか、むしろロボット兵を量産し儲けようと企む永田重工の手の者だった。一連の騒ぎでロボット兵の有効性は十分にデモンストレーションでき、国防会議による量産型ロボット兵の大量発注も決まったとほくそ笑む偽ルパン一味は、用済みになった真希を縛り上げてラムダに乗せ、自衛隊に撃墜させて証拠隠滅を図ろうとする。
しかしアジトが爆破され、ラムダが飛び立った時、脱出した銭形がラムダに飛び乗った。変装を取った顔を見て真希は驚く。なんと銭形に変装していたのは本物のルパンだったのだ。ルパンは、偽ルパン一味と決着をつけるべく、真希の操縦するラムダと共に、黒幕である永田重工社長のいる本社工場へ向かうのだった…。
声の出演
- ルパン三世 - 山田康雄
- 次元大介 - 小林清志
- 峰不二子 - 増山江威子
- 石川五ェ門 - 井上真樹夫
- 銭形警部 - 納谷悟朗
- 小山田 真希 - 島本須美
- 永田重工社長 - 大宮悌二
- 警視総監 - 上田敏也
- 防衛隊員、アナウンサー他 - 長堀芳夫、笹岡繁蔵、広瀬正志、山本敏之
レギュラーキャラクター以外の登場人物
ルパン三世 (TV第2シリーズ)の登場人物#第155話「さらば愛しきルパンよ」を参照。
スタッフ
- 原作 - モンキー・パンチ
- 監修 - 鈴木清順
- 企画 - 吉川斌
- 脚本 - 照樹務(宮崎駿)
- 音楽 - 大野雄二
- 作画監督 - 北原健雄、丹内司
- 美術監督 - 龍池昇
- 美術設定 - 山本二三、松浦裕子
- 撮影監督 - 小林健一、長谷川肇
- 録音監督 - 加藤敏
- 選曲 - 鈴木清司
- 編集 - 鶴渕允寿、高橋和子
- プロデューサー - 高橋靖二、高橋美光
- シリーズ構成 - 大和屋竺
- 文芸担当 - 飯岡順一
- 制作担当 - 仙石鎮彦
- 絵コンテ - 照樹務
- 原画 - 友永和秀、山内昇寿郎、道籏義宣、篠原征子、柏田涼子
- 動画 - 藤村和子、浜畑雅代、大里美和子、小野昌則、道籏真佐美、平間久美子
- 指定 - 近藤浩子
- 仕上 - 八尋清美
- 演出 - 照樹務
- タイトルデザイン - 高具秀雄
- 背景 - 張本源
- 撮影 - 野村隆、首藤真平、金井弘
- 音響効果 - 糸川幸良(宮田音響)
- 録音技術 - 飯塚秀保
- 制作進行 - 川内慎二
- オープニングテーマ - 『ルパン三世'80』
- 作曲・編曲 - 大野雄二
- 演奏 - ユー&エキスプロージョンバンド
- エンディングテーマ - 『ラヴ・イズ・エヴリシング』
- 連載誌 - 週刊Weekly漫画アクション、パワァ・コミックス(双葉社刊)
- 録音 - 東北新社
- 現像 - 東京現像所
- 製作協力 - 東京ムービー
- 製作 - 東京ムービー新社
備考
- ロボット兵ラムダは、ほぼ同じ姿で『天空の城ラピュタ』にも登場している。ただし、ラピュタのロボット兵は無人で(「シグマ」のシステムはそれだが)、推進もプロペラではない。またフライシャー兄弟の『スーパーマン』の1エピソード「メカニカル・モンスターズ」に登場するロボットのデザインに酷似し、ロボットの開発シーンなど、『スーパーマン』でメカニカルモンスターが登場した回のものとほぼ同じレイアウトも存在する。また、それを示唆する銭形のセリフもある。
- クライマックスの展開は、新ルパンに登場しているルパンは実は偽者だったのではなかろうか、という問いかけになっている。放映直後の『アニメージュ』誌のインタビューにおいても宮崎駿がその意図をこめて演出したことを認めているが、公式媒体等では新ルパンの物語はすべて本物であったという扱いになっている。
- ラストシーンでルパンたちの乗る車は、アルファロメオ・グランスポルトやメルセデスベンツSSKではなく、宮崎お気に入りのフィアット・500であった。同車は劇場版『ルパン三世 カリオストロの城』でも活躍している(当時、宮崎が所有していたのはクラリスの乗る2CVで、500は大塚康生が所有していた)。
- ラストシーンは絵コンテ段階では、朝陽に向かい去ってゆくルパンたちを背後からとらえたものであったが、製作時のミスで尺が不足したため急遽現在のものに変更された。没になった当初シーンもフィルムは完成しており、前話の次回予告でのみ使用されている。
- 劇中登場する偽ルパン一味のアジト「葉桜」の看板は、実際に環七通り中央線付近から「黄桜」看板として確認できたが、2000年代に撤去された。ビル自体は現存する。同じく作中で登場する中野病院も早稲田通りに2000年代まで存在したが、現在は違う医院となっている。なお、銭形が電車の窓から降りた場所は新宿東口だが、今とはビルのテナントが全く違っている。
- 2012年11月2日に放送された『ルパン三世 東方見聞録 〜アナザーページ〜』では回想シーンにロボット兵ラムダが登場している。
参考文献
- 『ルパン三世 死の翼アルバトロス・さらば愛しきルパン スタジオジブリ絵コンテ全集〈2〉第2期』
- 徳間書店、2003年、ISBN 978-4198616670