クルミ

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クルミ属
オニグルミ Juglans mandshurica var. sachalinensis
分類APG IV
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 eudicots
階級なし : バラ類 rosids
階級なし : マメ類 fabids
: ブナ目 Fagales
: クルミ科 Juglandaceae
: クルミ属 Juglans
学名
Juglans
L.
和名
クルミ
英名
Black walnut
Walnut
  • 本文参照

クルミ胡桃[1]山胡桃、呉桃、英語: WalnutBlack walnut学名Juglans)は、クルミ科クルミ属落葉高木の総称である。また、その核果種子)を加工した食用のナッツを指す。木材としては、英語を片仮名読みしてウォールナットとよばれる。

原産地はイラン中国日本北米などで[1]、クルミ属の樹木は北半球温帯地域に広く分布する。樹高は8メートルから20メートルに及ぶ。日本列島に自生しているクルミの大半はオニグルミJuglans mandshurica var. sachalinensis)であり、核はゴツゴツとして非常に硬く、種子(仁)が取り出し難い。なお、クルミとして食用に利用される種は、クルミ属の植物の一部に過ぎない。

クルミに含まれる種[編集]

食用とされる
  • カシグルミ(菓子胡桃)Juglans regia L. var. orientis (Dode) Kitam. synonym
  • オニグルミ(鬼胡桃)Juglans mandshurica var. sachalinensis, (Syn. Juglans ailantifolia)
  • ヒメグルミ(姫胡桃)Juglans mandshurica var. cordiformis, (Syn. Juglans ailantifolia var. cordiformis)
  • シナノグルミ(信濃胡桃、テウチグルミ) Juglans regia, (Syn. Juglans regia var. orientis)

実とその食用[編集]

5月から6月にかけて開花し、その後に仮果とよばれる実を付ける。仮果の中に核果が有り、その内側の種子(仁)を食用にする。食材としてのの時期は、10 - 12月とされる[1]。食用としての利用は古く、日本では縄文時代から種実の出土事例があり、オニグルミを中心に食料として利用されていたと考えられている。文献資料においては『延喜式』に貢納物の一つとして記されている他にも、『年料別貢雑物』では甲斐国越前国加賀国においてクルミの貢納が規定されており、平城京の跡から出土した木簡にもクルミの貢進が記されている。

実が食用にされるのはクルミ属の中でも一部の種類だけで、多く出回っているものはカシグルミシナノグルミである[1]。収穫量はアメリカ合衆国カリフォルニア州中華人民共和国が多い。日本では長野県東御市がクルミの収穫量日本一である。日本に自生するオニグルミやヒメグルミは実が小さく殻が割りにくいが、古くから食用にされていて、クルミ和えや菓子にして食べられている[1]

可食部は脂質が全体の70パーセントを占めている[1]。またビタミンEを始め、さまざまなビタミンタンパク質ミネラルが豊富に含まれている[1]。必須脂肪酸のα-リノレン酸(オメガ3脂肪酸)やリノール酸(オメガ6脂肪酸)も含まれていて、コレステロールを下げたり、高血圧糖尿病予防によいとされる[1]。クルミの摂取は認知機能を向上させる可能性が示唆されている[2]

実から採れる油は食用にされる他、乾性油であるため木工製品の仕上げ用や油絵具の成分としても使われる。

クルミの殻は固いが、シナノグルミやカシグルミの殻は薄めで、核果どうしを縦筋に合わせて手の腹で押したり握り潰したりすれば割ることができる[1]。オニグルミは殻がとても固く、ハンマーなどを使わないと割れないが、フライパンで炒るなど加熱すると割りやすくなる[1]。固くて簡単に割れない殻を割るために専用道具のくるみ割り器(クラッカー)もあり、中でもクルミ割り人形は、人形の頭に模したくるみ割り器にクルミを挟ませ、アゴで噛み割るように見せかけた道具である。

アメリカ合衆国では子孫繁栄の意味を込め、結婚式の際にクルミの実を撒く習慣が有る。

健康[編集]

栄養[編集]

ナッツはタンパク質と健康的な脂肪の優れた供給源であり、特にナッツの一種は記憶力を改善する可能性がある。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の2015年の研究では、クルミの消費量の増加と認知テストのスコアの改善が関連付けられた。クルミは、α-リノレン酸(ALA)と呼ばれるオメガ3脂肪酸の一種を多く含んでいる。ALAやその他のオメガ3脂肪酸が豊富な食事は、血圧を下げ、動脈をきれいにすることにつながった。それはヒトの脳心臓の両方にとって良いことである[3]

クルミの栄養価の代表値
クルミ(walnuts, english)
100 gあたりの栄養価
エネルギー 2,738 kJ (654 kcal)
13.71 g
糖類 2.61 g
食物繊維 6.7 g
65.21 g
飽和脂肪酸 6.126 g
一価不飽和 8.933 g
多価不飽和 47.174 g
15.23 g
トリプトファン 0.17 g
トレオニン 0.596 g
イソロイシン 0.625 g
ロイシン 1.17 g
リシン 0.424 g
メチオニン 0.236 g
シスチン 0.208 g
フェニルアラニン 0.711 g
チロシン 0.406 g
バリン 0.753 g
アルギニン 2.278 g
ヒスチジン 0.391 g
アラニン 0.696 g
アスパラギン酸 1.829 g
グルタミン酸 2.816 g
グリシン 0.816 g
プロリン 0.706 g
セリン 0.934 g
ビタミン
ビタミンA相当量
(0%)
12 µg
9 µg
チアミン (B1)
(30%)
0.341 mg
リボフラビン (B2)
(13%)
0.15 mg
ナイアシン (B3)
(8%)
1.125 mg
パントテン酸 (B5)
(11%)
0.57 mg
ビタミンB6
(41%)
0.537 mg
葉酸 (B9)
(25%)
98 µg
ビタミンB12
(0%)
0 µg
コリン
(8%)
39.2 mg
ビタミンC
(2%)
1.3 mg
ビタミンD
(0%)
0 IU
ビタミンE
(5%)
0.7 mg
ビタミンK
(3%)
2.7 µg
ミネラル
ナトリウム
(0%)
2 mg
カリウム
(9%)
441 mg
カルシウム
(10%)
98 mg
マグネシウム
(45%)
158 mg
リン
(49%)
346 mg
鉄分
(22%)
2.91 mg
亜鉛
(33%)
3.09 mg
マンガン
(163%)
3.414 mg
セレン
(7%)
4.9 µg
他の成分
水分 4.07 g
%はアメリカ合衆国における
成人栄養摂取目標 (RDIの割合。
出典: USDA栄養データベース(英語)
クルミ(walnuts) 100 g中の主な脂肪酸の種類[4]
項目 分量(g)
脂肪 65.21
飽和脂肪酸 6.126
1価不飽和脂肪酸 8.933
18:1(オレイン酸 8.799
多価不飽和脂肪酸 47.174
18:2(リノール酸 38.093
18:3(α-リノレン酸 9.08

アレルギー[編集]

クルミでアレルギーを発症する人もおり、日本の消費者庁食品表示法の食品表示基準を改正して、加工食品におけるアレルギー表示にクルミを追加して2025年4月1日に完全実施することを2023年3月9日に発表した[5]

「くるみ餅」とその地域性[編集]

日本の宮城県仙台市などで「くるみ餅」と言えば、クルミので和えたを指す。大阪市堺市などで「くるみ餅」と言えばダイズの餡、または、枝豆の餡で包んだ餅や白玉を指し、植物のクルミではなく、餡で包む(くるむ)事が語源である[6]青森県では、すり鉢で擦ったくるみだれを餅にかけて食べる習慣がある[7]

果樹栽培との関係[編集]

クルミはニセアカシアイタチハギなどと共に植物の病害であるリンゴ炭疽病(人畜に感染する炭疽病と全く無関係)の伝染源になり易く[8][9]、リンゴなど果樹栽培の際には伐採するなど、周辺の植生に注意が必要である。

木材およびその利用[編集]

クルミ材を使用したフローリング

木材としては、日本国内でも「ウォールナット」と言う英語を元にした名称で扱われる[1]。アメリカ合衆国北部やカナダで育ったクルミ材であり、チークマホガニーと共に世界三大銘木の一つに数えられる。1660年から1720年にかけ、ヨーロッパ市場ではイギリスデザインやウォールナット種の製品が大変な人気を博し、ヨーロッパ家具の歴史では「ウォールナットの時代」と呼ばれるほど持て囃された。

木質は重硬で衝撃に強く、強度と粘りを有し、狂いが少なく加工性や着色性も良いという特性を持つ。落ち着いた色合いと重厚な木目から、高級家具材や工芸材に用いられてきた。アメリカ合衆国大統領の指揮台やアメリカ合衆国最高裁判所のベンチに使用される。また、耐衝撃性の強さを活かし、ライフル銃床をはじめ、高級車プレジャーボートの内装にも使用される場合がある。また、チップは燻製を作るの際のスモークチップとしても用いられる。

以上のように、クルミは木材として優秀なために、持続的な伐採が行われた結果、良質なクルミ材を製材できる大木が枯渇気味であり、現代ではクルミ材は高級木材として扱われる。

文学[編集]

  • 北欧神話には、女神イズンがクルミの実へ変えられる話が有る。
  • 今昔物語』には、サナダ虫の嫌いな物として、クルミが挙げられている。
  • クルミの実を「胡桃」と書いて、これを俳句において秋の季語として用いる場合がある[10][注釈 1]。さらに、未熟なクルミの実を「青胡桃あおぐるみ」と書いて、こちらは夏の季語として用いる場合がある[11][注釈 2]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ なお『旺文社 国語辞典』第8版によれば秋の「樹木」の項目にクルミは無く、あくまで「果実・木の実」の項目に「胡桃」が挙げられている。
  2. ^ なお『旺文社 国語辞典』第8版によれば夏の「樹木」の項目にクルミは無く、あくまで「果実・木の実」の項目に「青胡桃」が挙げられている。

出典[編集]

  1. ^ a b c d e f g h i j k 猪股慶子監修 成美堂出版編集部編 2012, p. 195.
  2. ^ クルミが記憶力を向上させる
  3. ^ Foods linked to better brainpower” (英語). Harvard Health (2017年5月30日). 2021年12月9日閲覧。
  4. ^ USDA栄養データベースアメリカ合衆国農務省
  5. ^ クルミもアレルギー表示義務 25年4月から完全施行」『朝日新聞』朝刊2023年3月10日(社会・総合面)同日閲覧
  6. ^ 四代目旭堂南陵『事典にない大阪弁 絶滅危惧種の大阪ことば』(浪花社、2014年)172頁に詳細なレシピがある。
  7. ^ 青森では「くるみだれ」で餅を食べる
  8. ^ 岩波靖彦、近藤賢一、飯島章彦「リンゴ炭疽病の効率的な防除効果試験法」『関東東山病害虫研究会報』2003年 2003巻 50号 pp.65-69, doi:10.11337/ktpps1999.2003.65
  9. ^ 飯島章彦「リンゴ炭そ病のシナノグルミからの伝染」『関東東山病害虫研究会年報』1994年 1994巻 41号 pp.123-125, doi:10.11337/ktpps1954.1994.123
  10. ^ 松村 明・山口 明穂・和田 利政(編)『旺文社 国語辞典』第8版(旺文社 1992年10月25日発行)p.1432 ISBN 4-01-077702-8
  11. ^ 松村 明・山口 明穂・和田 利政(編)『旺文社 国語辞典』第8版(旺文社 1992年10月25日発行)p.1431 ISBN 4-01-077702-8

参考文献[編集]

  • 猪股慶子監修 成美堂出版編集部編『かしこく選ぶ・おいしく食べる 野菜まるごと事典』成美堂出版、2012年7月10日、195頁。ISBN 978-4-415-30997-2 

関連項目[編集]